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<Cielo>夜桜の樹の下
★前夜〜深海の神殿にて〜
「たまにはお姉様も、桜を見てみてもいいんじゃないでしょうか? 誘われたのですけれど、私よりみそのお姉様の方が良いかと思って。 参加する方々は芸能人の方々らしいですから、きっと面白いと思うの」
妹のみなもが、草間興信所から帰ってくるなりに姉である自分へ言った言葉。
草間とも碇とも確かに面識はあるが、そんなに親しくしているわけでもない……。
深海の奥底に封印されし海の神に仕える巫女、海原・みそのは自分が参加していいものかと悩んでいた。
(確かに面白そうですけれど……草間様からのお誘いは、妹のみなもが受けたものですし、自分自身が出ても良いものでしょうか……)
いくら考えても答えが見つからない時、みそのの頭の中に声が響く。
【……行って来なさい。 時には外の世界に出て、色々な者達と出会い交流を広げるのも立派な事だ】
彼女が仕える海の神の声である。
何度も神の夢の中で逢っているみそのだからこそ、この声が海の神の声であるのはすぐに分かる。
そして海の神の声は、いつもと違いとても慈愛に満ちている声である。
「しかし……私には、神様の話し相手になる義務があります」
【それならば……私に夜桜見物の土産話を持って来てくれれば良い。 みそのよ……時にはお前も楽しむという事をするべきだと私は思う。 私に仕える巫女であろうと、みそのはまだ13歳だ。 他の同じ年の者達のように笑ったりする事を、私は望む……】
そう言って、海の神からの言葉は途絶えた。
少し考えた後に、みそのは海の神に向けて念ずる。
「……分かりました。海神様に、たくさんの土産話、持ち帰ってさしあげます」
そして内心には。
(……テレビに出ている方々ならば、殿方の誘い方も御知りになられそうですね……ご教授してもらいましょうか……)
と、純粋に楽しむだけではなく、しっかりした狙いをその中に秘めていた。
☆花見会場〜再会〜
そして、夜桜見物の会場。
「あ、草間さん達だ、こっちですよ〜♪」
大きく手を振るMARIAこと平賀・真理。そして零がそれに対して大きく手を振る。
草間たちが到着すると、すでに宴会は始まっているようだ。
「お久しぶり、真理ちゃん。 元気になったようで良かったわ」
シュライン・エマが真理に笑顔で話しかける。その隣には社長の平川・静穂も立っていた。
「ええ、あの節にはとてもお世話になりました。 もう大丈夫ですよ、私。私はもう一人じゃない、そう自分に言い聞かせて頑張ってます」
その笑顔を見て、シュラインは安堵する。
「えっと……貴方は?」
真理は、武彦達の中に見覚えの無い影を見つける。みそのである。
「海原・みそのです。 武彦様に誘われてやって参りました。今日一日、どうぞ宜しくお願いいたします」
深々と頭を下げるみそのに、真理はちょっと汗を掻く。
「えっと……そんなにかしこまらなくていいわよ、今日は私はMARIAじゃなくて、ただの平賀・真理だから。芸能人じゃなくて、一人の女の子って思って、気軽に真理って呼んでくれて構わないわよ♪」
さりげなく、みそのの緊張を解こうとするその姿勢は、さすが芸能人と言った所か。
「さてと、それじゃ皆そろったし、宴会を始めましょうか♪ さぁさぁ、客人の武彦さん達は中中♪」
静穂と一緒になって、武彦達をその輪の中に入れる真理。
武彦達の周りには、テレビで一目見たことのある顔ぶれが揃っていた。
……宴会の、開始である……
☆勧め上手?
名目上は夜桜の花見という宴会が開始されて数時間。
黒のウェディングドレスを着たみそのは、はっきり目立つ服装である為、色々な人から呼ばれる結果となっていた。
対してみそのは、嫌な顔一つせず呼ばれた席を回り、零と一緒にお酌に回っている。
「はい、どうぞ……良いのみっぷりですわね」
ニコニコと妖艶な笑みを湛えているみそのに導かれるまま、お酒を更にたくさん飲み続ける結果。みそのがお酌に回った後の席は、酔い潰れた者がたくさん生まれていく結果となっていた。
最後にみその達は、この宴会の企画者である静穂の席へとやってくる。もちろんその席には草間達もいて、真理のような女性芸能人達も数名お酒を飲んでいた。
「えっと……貴方とは逢った事は無いわよね? 一応、この芸能プロダクションの社長をしている平川静穂よ、宜しくね」
優しい微笑で握手をする静穂。同じように真理達テレビで一度は見たことのある顔ぶれがみそのへと挨拶をしていく。
しかし、いつもテレビで聞く状態とは大違いで、誰もがみそのに対してとても親しそうに話してきた。
静穂はみその達を座らせて、お酌をする。もちろんみそのは未成年だからとお酌を断るが、「ちょっとだけなら大丈夫よ」と強引に勧めてきた。
「海原・みそのです。テレビに出ている方々が一杯でどきどきしていますわ」
「ふふ、別にどきどきしなくても。 芸能人と言っても、それは別に特殊な能力があるわけじゃない。ただ、人より僅かに優れている点を売りに出して、それを売っているだけだから。私が思うに、きっとみそのさんも芸能界にでたら売れそうな気がするの。私の目は正しいはずよ、私に掛けてみない?」
みその達とほぼ同年代の芸能人も、静穂のプロダクションにはたくさん在籍している。だからこそ、静穂は確信を持って言ってくる。……ただお酒に少し酔っている為という事も無い事は無い。
みそのは賢く、苦笑いでその話をかわす。そして……打ち解けた頃合を見計らって。
「あの、一つ聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ええ、私達が分かる事なら構わないわよ〜、何でも聞いて〜♪」
どうやら、芸能人一行達にも既に酒が回っているようである。大丈夫かなと思いながら、心の奥に秘めていた質問を投げかける。
「殿方の誘い方を、出来ればご教授いただけませんか? きっと芸能人の方なら、そのやり方も知っておられそうなので、聞いてみたいのです」
「殿方〜? ああ、男性の誘い方? んー、そうねぇ、やっぱり一に色気、二にいじらしさ、三に可愛らしさといった所かしらね♪」
「え〜、そんな事無いよ〜、私、気が強そうな女で売ってるけど、結構熱狂的に追いかけてくる人いるよ〜」
酒が口を軽くしている為か、その後は更に赤裸々な話へとエスカレートしていく。その場に座っているのが武彦を除き全員女性であったというのもそれをエスカレートさせる一つの要因だったりする。
みそのは彼女達芸能人の発する雰囲気に、次第に飲み込まれていった。
☆過去の記憶、通じて
「武彦さん……あまりお酒飲んじゃ駄目よ?」
シュラインが、武彦のお酒を取り上げる。ごねてくるかと思ったが、意外にも武彦はそんな事も無く……。
「……そうだな、今日はあまり酔いたくない気分だしな」
(……やっぱり、いつもと雰囲気が違う。それに、碇さんもまだ着てないみたいだし……)
と、シュラインが心配している最中。静穂がシュラインに耳打ちする。
「どうしたの? 何だか草間さん、いつもより元気が無いような気がするけど」
「そうね。 花見に来ると言ってから、万事がこんな感じで……いったい、どうしちゃったのかな」
「……きっと、恋煩いね。 いえ、間違いないわ、恋煩いよ」
どこにその根拠があるのか不明だが、静穂は確信を持ってシュラインに耳打ちする。
「そ、そんな……恋煩いなんて……」
少なからずショックを受けるシュライン。それを遮るかのように、携帯電話の着信音が鳴る。
「ん……? ……ああ、俺だ。 ……到着したか、分かった」
と言って電話を切る。
「碇が着たみたいだから、迎えに行ってくる。 みそのと零をよろしく頼むな」
武彦はそう言うと、そのまま大きな桜樹の方へと歩いていった。
「……武彦さん」
シュラインがその姿を目で追う。すると静穂が肩を叩き。
「大丈夫よ、この場は私に任せてくれても♪ 気になるんでしょう? 武彦さんの事が。 我慢せずにいってきなさいな」
「……ありがとう。 それじゃ、行ってくるわ」
シュラインは、武彦に見つからないように後を追いかけた。
大きな桜樹の下。
碇はその樹に寄り掛かりながら武彦を待っていた。
「待たせたな、碇」
「いえ、別にそんなに待ってないわよ。お気にせずに」
武彦は、そのまま碇と真裏の所で寄り掛かり、タバコに火を付ける。
シュラインは、そこからまた少し離れた所で二人の姿を見ている。
「……もう、数年になるな。あいつが死んでから」
「そうね。 性格にはちょうど5年になるわね……長いようで、5年って短いものね」
「もう5年になるのか……あいつ、もう成仏したのだろうか」
「知らないわ。でも……こうやって、毎年彼の思いに浸るのが、きっと一番の供養になるわ。 ……故人を忘れることなく、ずっと覚えていてあげる事、それが一番大事だもの」
「そうだな……碇、あいつの為にも、一杯挙げないか?」
「いいわね、その話のったわ」
草間の内ポケットの中に、缶ビールが三本入っていた。一本を碇に渡し、そしてもう一本は二人の間の所に置く。
「それじゃ……咲に対して、乾杯」
「乾杯」
缶ビールを、無言で飲んでいく二人。
そう、二人の隠していた事は、二人の間にいたとても仲の良かった友人の咲の話であった。
咲は二人の大学時代の後輩であり、仲の悪かった二人をどうにかくっつけようと頑張っていたようである。
しかし、5年前のこの日。咲は交通事故により死亡。少しは気持ちが近づいていた武彦と碇は、それを境に二人は微妙な関係を続けているのであった。
「……武彦さんと、碇さんにこんな関係があったなんて……知らなかったわ」
シュラインは、その場に立ち尽くすのみしかできなかった。
そして、この事はずっと心の内に秘めておこう。誰にもこの事は話さないようにしよう、と心に決めた。
☆閉会
花見も終わりになり、片付け始める頃。
酔い潰れている者もいれば、まだまだ飲み足りないと言う者もいる。
「う〜……もう飲めませんですぅ〜」
みそのに抱かかえられて、目を回している零。
飲まないようにしていたらしいのだが、どうやら誰かが零のコップにお酒を入れたらしい。
「……誰? 零ちゃんのコップにお酒を入れたのは」
シュラインは戻ってくるなりに、周りの人を問い詰める。しかし出てくるわけも無い。
「全く……零ちゃんも、こんなになるまで飲んじゃって……」
優しい声になるシュラインの所に、武彦が一人戻ってくる。
「あ、武彦様、お帰りなさいませ」
「……零、どうかしたのか?」
「ええ……どうやら、誰かが零様のコップにお酒を入れてしまったらしく……酔い潰れてしまったようですわ」
「……シュライン、お前、見てなかったのか?」
武彦が心配で見に行ったとシュラインが言えるはずも無く。
「え、ええ……ちょっと目を離した隙に、飲ませられちゃったらしいわ」
「そうか……ま、仕方ないか」
と言って武彦は、零を抱える。
「あれ? ……碇さんは?」
「ああ、あいつはまだ仕事が残ってるって言って、早々に帰って行ったよ」
「そう……大変ね、碇さん」
シュラインは、武彦の顔を見る。
武彦は、いつもの感じの武彦に戻ったようにシュラインは感じた。
「ん……どうかしたのか? シュライン」
「な……何でもないわよ。さ、早く帰りましょう。みそのさんもいる事だし、あまり夜遅くまで居ちゃいけないから」
「そうか……そうだな。それじゃ、世話になったな、静穂」
「ええ、またいろいろ頼むかもしれないけど宜しくたのむわね?」
「ああ……心霊関係以外だったら、喜んで引き受けさせてもらう」
「それでは……帰りましょうか」
みそのが深く頭を下げ、草間達はその場を去っていく。
帰り道。みそのはシュラインに耳打ちをする。
「……シュライン様は、武彦様のこと、好きなのですか?」
その言葉に、シュラインは顔を赤くして何も答えられなかった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【 0086 / シュライン・エマ / 女 /
26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 1388 / 海原・みその / 女 / 13歳 / 深淵の巫女 】
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました、燕です。
<Cielo>夜桜の樹の下、お届けします。
今回は、碇と武彦の間の関係を書いてみました。
あくまでも私の想像上となるので、それだけはご了承下さいませ。
>みその様
PLとしては二度目のご参加、どうもありがとうございます。
みなもさんとは違い、神秘的・謙虚な雰囲気を持つ少女という風に書かせていただきました。
男性の誘い方に関しては、芸能人の人達のエスカレートしていく話にきっと飲み込まれたでしょう。
実践するもしないもそれはご自由に。ただ私は責任持てません。(汗汗)
何故なら殿方の誘い方は、あくまでも私の考え上で惹かれる部分なので、多分間違ってると思います。(汗)
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