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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Sleeping Friend

:オープニング:

「人を捜して欲しいんです」
と言う少女の年の頃は16,7。
地図らしい紙を手に、不安げな面持ちで訪ねてくると、散々躊躇った後に漸く小さな声で言った。
「誰をです?」
草間が聞くと少女は何故か俯き、癖なのだろうか、指先で服の裾をいじる。
「名前は分かりません……、私と同じ年頃の女の子で……」
少女は困ったように首を傾げ、チラリと上目遣いに草間を見る。
「いつも、夢で会うんです」
草間は椅子からずり落ちそうになった体を辛うじて腕で支えた。
夢に出てくる名も知らぬ少女。
そんな現実に存在するかどうか分からない少女を探せとは一体どう言う事だ?
「ごめんなさい、本気なんです」
夢に少女が現れ始めたのは去年の4月。
丁度、高校に入学した頃だったと言う。
殆ど毎日のように夢に現れる少女とは、不思議な程に気が合い、意気投合する。
「私の想像の産物かもしれない……でももし、本当に存在するなら、会って話しがしてみたいんです」
少女は子供の頃から溜めているのだと言う貯金通帳を3冊、草間に差し出す。
「こういう所に来るのは初めてなので、よく分からなくて……。足りなければ、バイトしてお支払いします。だからどうか、お願いします」
少女は頬を掻く草間に、ちょこんと頭を下げた。


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「まあ、料金は後の話しにしよう」
と、草間は差し出された貯金通帳を押し返す。
困ったように肩を竦めながらも、少女はそれをバッグに仕舞った。
「もう少し詳しく話して貰えるかな?」
「あー、でもやっぱり想像の産物なのかも」
草間の言葉に少女は頭を上げて、少し笑った。
「今まで色んな友達がいたけど、何時も心の何処かに1人だけ取り残されてるような寂しさがあって、楽しいけどちょっと退屈だったりして。親友って呼べる本当の友達が欲しいなぁなんて思ってたから、そんな思いが理想の友達を作りだしたのかも」
少女は服の裾をいじりながら言う。
「夢の中とは言え、いると感じたからにはいるんだと思います」
と、声を掛けたのは海原みなも。
「お手伝いしたいです。その、夢の中のお友達、一緒に探しましょう」
少女は自分より幼いみなもの登場に少し驚いたようだ。
「高校入学ねぇ…。あ、はい、どうぞ」
みなもの後かやって来たのはシュライン・エマ。
紅茶とケーキを差し出して、入口を振り返る。
扉の前では、1人の男が工具を持ち出して何やらノブを取り外している。
「あんたも一休みしなさいよ」
その言葉に、男が顔を上げる。
銀色の髪に赤い目と言った、少々風変わりな雰囲気を持った渋い青年の名は、鳴神時雨。
どうも具合の悪い扉の鍵を直して欲しいと言われて興信所を訪ねていたのだが、少女と草間の会話はしかと耳に届いていたらしい。
無言で頷いて手早く工具を片付けると少女の隣に座ってシュラインの差し出す紅茶を受け取った。
「夢について詳しく教えて下さい」
みなもに促されて、少女は口を開く。
「えっと、詳しくって言うと…?」
「正確に、その夢を見始めた時期だな」
「殆ど毎日って言うけれど、詳しく見ていない日を教えてもらえるかしら?学校に行ってない日、って事はない?」
「夢の状況や会話内容、風景や容姿なども、教えて下さい」
3人から次々発せられる質問に、少女は紅茶を一口飲んで咳払いをして答え始めた。
「夢を見始めたのは、さっきもお話した通り高校に入学した頃……、入学してから1週間程の頃だったと思います。見てない日と言われると、ちょっと困りますね。何時も夢の内容をちゃんと覚えている訳ではないので…。」
「さしあたって、この1週間はどう?夢では決まった場所にいるとか、そう言う事は?」
「あ、昨日と一昨日は見ましたよ。その前はどうだったかなぁ。場所は、色々です。私の好きな場所が多いかな」
少女は一生懸命夢の記憶の糸をたぐり寄せるように、時折目を閉じて話す。
シュラインは続けて訪ねた。
「お気に入りの話題や嗜好なんかも、夢に出てくるのかしら?」
「好きな食べ物とか、結構その友達と似てるみたいで、同じ物を食べてます。アイスクリームとかね。話す事は、私の一方的な事ばかりなんですけど、友達がそれにアドバイスしてくれたり、黙って聞いてくれたりです。」
少女が話しを終えた所で、みなもが訪ねる。
「夢に関して、何か力を持っていたりしませんか?例えば、夢の中を自由に渡り歩けるとか、夢を見たいときに見えるとか」
少女は笑って首を振った。
「その、友達の出てくる夢を見始めたのは高校入学の頃だと言ったが、それ以前に見た記憶は全くないのか?」
無骨な手で器用にケーキの上の小さなブルーベリーをすくって時雨が問う。
「ないです。私、夢の中でその子に自己紹介したんですよ」
ケーキの甘さを押し流すように紅茶を飲んで、時雨は頷いた。
「学校に行き、入学者リストを見れないだろうか?予定者も分かれば良いが……、その顔写真を見て該当人物が居ないか確認出来るんじゃないか?」
入学寸前に意識不明の重態になってICUで昏睡を続けている少女、と言う可能性を時雨は考えている。
「入学者リストですかー、そう言うのって、何処にあるんでしょう。事務室かしら……、でも、多分同じ学校じゃないと思うんですけど…」
少女は申し訳なさそうに首を竦める。
「何故だ」
「制服が違うんです」
少女が通うのは、都内で中程度の女子校だ。制服は有名デザイナーの手による物で、制服目当てに入学する生徒も多いと言う。
「夢に出てくる子の制服は、普通の黒いブレザーなんですよ。胸に細い緑のリボンで」
「昔の制服って事はないの?」
シュラインが言葉を挟むと、少女は首を振った。
「えーっと、それじゃ、お友達の容姿とか、教えて貰えますか?」
みなもに問われて、少女は再び記憶を辿るように目を閉じる。
「ボブの黒髪で、ちょっと色白で、目が大きい感じ。身長は……、」
と、目を開けてみなもを見る。
「あなたくらいかな?」
みなもの身長は少女よりやや低いが、13にしては高い方だ。
「名前は?夢で自己紹介をして、相手のは聞かなかったの?」
シュラインに言われて、少女は困ったように首を傾げる。
「それが、聞いた筈なんだけど……」
「忘れたのか?」
興信所に頼んでまで探そうと言う友達の名を忘れるのか、と言いたげな時雨の視線に、少女は恥ずかしそうに俯く。
「夢の中ではちゃんと覚えていて、呼びかけるんです。でも、目を覚ますとどうしても思い出せなくて」
「あの……」
と、みなもが何やら考え込むように頬に手を当てて声を上げた。
「その夢って、あなたが見たい時に見るんですか?ほら、眠る前に今日はどんな夢が見たいとか考えていたら、その夢を見るって言うでしょう?友達の夢を見たいなって思って、眠りに就くんですか?」
「そんな事はないです、むしろ逆かしら。どんな夢を見たいなと思って眠りについても、その子が出て来るような気がします」
その返答に、みなもはゆっくりと口を開く。
「もしかして、相手の方に何かしら能力があるのかも知れませんね。偶然あなたと波長が合って、夢に現れる事が出来るとか……」
「私の夢じゃないって事ですか?」
「うーん、あなたの夢は夢なんですけど……」
みなもは困ったように首を傾げる。
「つまり、人の夢に自在に入り込む能力を持っているのかも、と言う事よ」
「はぁ……」
少女は今ひとつ理解出来ていないようだ。
「直観ですが、病院かな……」
みなもが言った。
「多分、あなたと同じ年頃で、眠ったままの人……」
「人の心は物理法則では在り得ない現象を起こすからな。俺は幾つかそう言う現象を観てきたが……」
と、時雨が立ち上がりポケットをあさって100円玉を取り出すと、シュラインに差し出した。
「何?」
「10円玉に替えてくれ」
言われるままにシュラインは財布から10円玉を取り出す。
「ひとっ走り病院を回ってきてやろう」
「ひとっ走りって言っても、都内に病院なんて数え切れないくらいありますよ」
苦笑を浮かべる少女の目の前で、突然時雨は姿を変える。
「案ずるな。貴様等が近所の病院を探している間に済む。何か分かったら話をしよう」
と、少女の目ではどう表現して良いのか分からない姿で時雨は言い、ポカンと口を開いた少女の前から颯爽と姿を消した。
「……あ、分かった」
時雨が姿を消して数十秒後、漸く少女が口を開く。
「何が?」
カップと皿を片付けながらシュラインが問うと、少女はにこりと笑った。
「さっきの人。仮面ライダーに似てるんですね。格好良い、正義の味方。素敵……」
「…………」
みなもとシュラインは目を見合わせる。
時雨が格好悪いとは決して思わない。
変身前は渋いし、変身後は確かに格好良い。
しかし。
今の状況を考えると、どうしても溜息を付かずにはいられなかった。


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時雨は遠くから調べるだろうと判断し、みなも達は近場の病院へ向かうべく興信所を後にした。
5月の清々しい空の下、風がスカートの裾をはためかせる。
みなもはそれを手で押さえながら、先を歩くシュラインと依頼人の後を追う。
「今まで色んな友達がいたけど、何時も心の何処かに1人だけ取り残されてるような寂しさがあって、」
依頼人の言葉を思い出し、みなもの胸が少し風を受けたように震えた。
みなもに友達は多い。親しい、親友と呼べる友達。
大切な友達に囲まれている幸せな時間。
「でも、寂しいのは何でだろう?」
同じ時を共有する友達のなかに居て、時々ふと感じる寂しさ。
そんなものを、どうして感じるのか不思議でしようがない。
風に乱れた髪を直しながら、みなもは振り返る。
雑踏の中にこの寂しさを分かってくれる人が、友達が、いるんじゃないかと期待して。
少女は、探したのかも知れない。
夢と言う手段を使って。
同じ気持ちを持つ、同じ寂しさを持つ友達を。


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時雨からの連絡はなく、近場の病院を3件ばかし周り終えたみなもとシュライン、そして依頼人が4件目に向かおうとした時、少女がふと立ち止まった。
「どうかした?」
振り返るシュライン。
少女は僅かに俯いて、困ったような顔をした。
「具合でも悪いんですか?疲れたなら、少し休みます?」
みなもが少女の顔を覗き込む。
しかし、具合が悪いと言うのではなさそうだ。
「ちょっと待って」
少女は短く言って、首を傾げる。
風に揺れる服の裾を指先でいじりながら、少女は何かを思いだしたように瞬きを繰り返す。
「変な事、言った…」
「え?」
言葉の意味が分からず、みなもとシュラインは顔を見合わせる。
「名前を聞いた時……、どうして?って…」
「どうして?」
「夢の中で、友達がそう言ったんですか?」
少女はゆっくりと頷く。
「それで、寂しそうに笑った……。教えてくれたけど、私、忘れちゃったけど、懐かしい感じがした……」
「それじゃ、知ってる人……、」
眉を寄せて、シュラインが何か訪ねようとした時、携帯電話が鳴った。
公衆電話からだ。
「時雨さんですか?」
みなもが訪ね、シュラインは頷く。
「はい」
と電話を受けると、向こうから無骨な声が「俺だ」と返す。
「見つけたぞ、これから来られるか?住所は……、」
決して大声で話しているわけではないが、時雨の声はみなもと少女の耳にも届く。
シュラインは時雨の告げる住所をメモ帳を取り出して控え、少女を見る。
「記憶よりも先に現実が到達したみたいね。行く?」
少女はゆっくりと頷いた。


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時雨が探し出して伝えてきた病院は、何と少女の高校のすぐ側にあった。
正面玄関を入ってすぐ横のソファに、変身を解いた時雨が深く腰掛けている。
その隣には髪の長い女性が座っている。
「お待たせ」
3人が近付くと、時雨は隣の女性を促して立ち上がる。
「あ」
女性の顔を見た少女が、声を上げた。
「知り合いなの?」
訪ねるシュラインに、少女は頷く。
「久し振りね……、大きくなった。懐かしいわ」
少女に微笑みかけて、女性は笑った。
「妹が、待ってるの。病室へ案内するわね」
女性は手を差し出して、エレベーターへと導く。
少女共々付いて行きながら、時雨は簡単に経緯を説明した。
時雨は4件目でこの病院にたどり着いたらしい。
売店で花を買う女性に、ここに入院している昏睡状態の患者の事をそれとなく尋ねると、何と女性の妹がそうだと言う。
依頼人から聞いた特徴を告げると、女性は驚き不審そうな目で時雨を見たが、事情を説明すると訝しみながらも納得してくれたらしい。
そこでシュラインに電話を入れ、待つ間に依頼人と依頼内容を詳しく説明した。
夢に現れる少女を探す依頼人。
依頼人の名を告げると、女性は妹の友達を思い出したらしい。
「さあ、どうぞ」
女性に促されて、少女は病室へ入る。
シュラインとみなも、時雨は遠慮して少女の背中を見送る。
パタンと閉まった扉の前で、みなもは首を傾げた。
「どうします?ここで待ちますか、それとも、帰ります?」
「帰りましょ。待ってたって仕方がないものね。依頼人の探してた友達に間違いはないんでしょうし」
と、シュラインは答える。
「ああ、俺はまだドアの修理が残っているからな」
依頼人と夢の友達の経緯は、後日聞くことが出来るだろう。
今は、漸く会えた友達同士水入らず。
何を話しているのだろう、扉の向こうの依頼人に手を振って、3人は病院を後にした。


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依頼人は翌日の午後、花束と小さな箱を持って現れた。
「昨日は挨拶もしなくてすみません」
と、箱をみなもに差し出す。
「ケーキです、皆さんでどうぞ」
シュラインに勧められるままソファに座って、少女は晴れ晴れとした顔で笑った。
「私、自分の記憶力のなさが嫌になっちゃう。夢の友達なんかじゃなくて、現実の友達だったんですよ」
今日少女が現れるだろうと考えて興信所を訪ねていた時雨が少女の前に腰掛けて話しを促す。
「あの子とは、半月だけのクラスメイトだったんです」
「半月、ですか?」
差し入れのケーキを皿に並べながらみなもは首を傾げる。
「そう。私、小学5年の時に転校してるんです。転校先にいたのが、あの子。でも、あの子は私と入れ替わりで転校しちゃったんですね。すっごく仲が良かったって訳じゃないんです。ただ、あの子のお姉さんが私の今の高校に通ってた。一度、家に遊びに行った時に制服を見て、可愛いって話しで盛り上がったんです」
シュラインの入れた紅茶を受け取って、少女は続ける。
それは、たった一度の約束だった。
転校して離れてしまうけれど、同じ高校に入学してもう一度会おう。
可愛い制服に袖を通し、3年間を同じ学校で過ごそう。
「バカだなぁ、私。すっかり忘れてしまってたんですよ。でも、あの子は覚えていた」
「約束を守ったんだな。夢の中で」
少女は頷く。
「中3の、受験の目前に交通事故に遭って眠ったままになってしまったんだそうです。同じ高校を受験する気だったって、お姉さんが」
「だから、高校入学の頃に夢を見始めたのね」
夢の中で着ている制服は、中学校のものらしい。
現実の世界で着られなかった高校の制服を、夢の中で着る事は出来なかったのか。
「夢を、見ました。昨日の夜。私が病院に行った事、ちゃんと分かってました。やっと思い出してくれたのねって、笑ってた」
「目覚める様子は、ないの?」
シュラインの言葉に、少女は寂しそうに頷く。
「でも、構わないんです。夢の中で会えるから。これからは現実でも会える。会話は出来ないけれど、私の言葉はちゃんと届いてるから」
「これから、行くのか?」
ソファの脇に置いた花束を見て、時雨が問う。
少女はにこりと笑って頷いた。
「あ、えっと。草間さんは?」
「草間さんなら、今出掛けてますよ。どうかしたんですか?」
みなもの言葉に、少女はバッグから昨日一旦返された貯金通帳を取り出す。
「料金、払わないと」
「俺は要らんぞ、夢を探しただけで金は貰えん」
時雨が答えると、シュラインとみなもも頷く。
「それはもっと大事な時にでも取って置くんだな」
時雨の無骨な手が、そっと通帳を押し返す。
「でも……、」
「構わないわよ。仕舞いなさい」
「ケーキ、頂きましたし」
少女は暫く迷ったようだが、笑みを浮かべて通帳をバッグに仕舞った。
「ありがとうございます。私、これから毎日あの子に花を届けます」
「そうね。折角見つけた友達なんだから、現実でも夢の中でも大切になさいよ」
シュラインの言葉に、少女は頷く。
「昨日のあなたを見て、正義の味方みたいだと思ったけど」
と、少女は時雨を見る。
「ここにいる皆さんが正義の味方だったんですね。あなた方と、草間さんと、あと1人誰かがいたら、ゴレンジャーだわ。素敵……」
時雨とみなも、そしてシュラインは顔を合わせる。
「そりゃどうも」
時雨は苦笑し、シュラインとみなもはそっと溜息を付いた。



end



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】 
1252/海原・みなも/女/13/中学生  
0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1323/鳴神・時雨/男/32/あやかし荘無償補修員(野良改造人間)
  
  

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■         ライター通信          ■
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GWです。釣りに行く予定(何故だ)の佳楽季生です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
この頃、暖かい所為かどうもボンヤリしていけません。
ボンヤリしていて一瞬生命の危機さえ感じてしまいました。
運転中に信号待ちで停車した時、自分の現在地が分からなかったり、
信号無視してしまったり。
ボンヤリするって、恐ろしいですね。
皆様もどうかお気を付け下さい。
ボンヤリしても交通法規は守りましょう。
また、お目にかかれたら幸いです。