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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Kidnap

:オープニング:

「ここに変な男がいるでしょう!?」
突然ノックもせずに飛び込んできた女は、噛みつきそうな勢いで言った。
「変な男……」
と言われても、ここはしょっちゅう人が出入りするのだ。
それがまた、妙な能力や趣味を持った人ばかりだから特定するのはとても難しい。
零が返答に困っていると、女は苛々したようにヒールをガンガン踏みならす。
「髪がちょっとツンツンしてて、眼鏡を掛けた痩せた男よ!アタシ、確かに見たわよ、ここによく出入りしてる男!」
よく出入りする男と言えば、やはり草間だろうか。
「今、不在ですが……」
と言いかけたのを、女は遮る。
「アタシの子供を返して頂戴!ここの男がアタシの可愛い娘を誘拐したのよっ!」
「ゆっ誘拐!?」
草間が?
まさか……??


:::::

「草間さんは誘拐なんて絶対しません!」
呆然とする雫の後ろから声を上げたのは海原みなも。
ね!と、同意を求めるように横のシュライン・エマを見る。
「うちの娘があんまり可愛いから魔が差したんじゃないの。あの変態男!」
変態男とは随分な言われようだ。
「たとえ、帳簿ごまかしてタバコ買ったり、道で拾ったタバコを拾い吸いしたりはしても、そんな高等技術が必要なことはできません!」
みなもは怒ったように頬を膨らませて訴える。
「ちょっと、それって褒めてるのかしら、貶してるのかしら?」
シュラインは少し頭を抱えた。
道端で煙草を拾い吸いするのか……。
「草間さんを弁護してるんです!」
みなもは益々頬を膨らませた。
「そう、あの変態男、草間って言うの。じゃ、早く草間をここに呼んで頂戴」
女はみなもに迫り、青い髪を引っ張る。
「痛いですっ」
「早く呼びなさいってば。いますぐここに!呼ばないんなら、その窓から連呼するわよっ!」
「まぁ、落ち着いてください」
言いながら、シュラインは雫に草間の写真を持って来させる。
「自分の娘が誘拐されたのよ!落ち着いていられる訳ないでしょうっ!」
ビームでも放ちそうな鋭い目でシュラインを睨み上げて、女は更にみなもの髪を引っ張る。
「誤解ですーっ!落ち着いて下さいーっ!」
傷みに顔を歪めるみなも。
「…確認させて頂いても宜しいかしら。先ずこの所長の草間の写真を見て下さい。」
と、シュラインは雫の持ってきた草間の写真を差し出す。
女は漸くみなもから手を離して差し出された写真を覗き込んだ。
「この男で間違いない…もしくはとても似てる…と?」
「似てるなんてもんじゃないわ。絶対間違いない。いやらしそうな顔をしてるじゃないの!」
女はギリギリと歯ぎしりして憎らしそうに写真の草間を睨め付ける。
「冷静に、順序立ててお話して貰えませんか?」
と言うみなもの髪を再び引っ張って、女はシュラインに草間の写真を投げつけた。
「話しなんてしなくても、今すぐその男をここに呼べば良いのよ。アタシの娘に何かあったらどうしてくれるのっ!?」
「無理矢理に娘さんを連れてる姿を、どんな風に目撃したのか、状況を詳しく教えて頂けるかしら。」
シュラインは女にソファを勧めて、雫にはお茶を煎れるように頼む。
「お子さんの容姿や性格も教えて下さい」
まだ髪を掴まれたまま、みなもは女と一緒にソファに座った。
「大通りの向こうの公園があるでしょう。アタシと娘はそこにいたの。ちょっと、知り合いの奥さんと話しをして、娘から目を離したの。ほんの2〜3分の事よ。そうしたら、あの変態がアタシの娘を抱いて西口から公園を出て行く処だったわ。アタシは慌てて追い掛けたけど、丁度信号に引っかかってしまったのよ。見失って、途方に暮れたわね」
たったそれだけで、本当に草間が犯人だと班別出来たのだろうか。
みなもがそう言いかけたところに雫がお茶を運んできた。
女はそれに手を付けず、続ける。
「言っておくけど、うちの娘はまだ3歳よ。右も左も分からないような可愛い子なの。ちょっと体が弱くてね。何かあったら、末代まで祟ってやるから」
3歳の小さな少女。
シュラインはお茶を一口飲んで、口を開く。
「失礼ですが、娘さんはあなたに似ていらっしゃる?」
「似てないわね。あの子は旦那に似たのよ」
「あ、ご主人に連絡されたんですか?」
また髪を引っ張られないよう、女から離れたシュラインの横に腰掛けてみなもが問う。
と、女は首を振った。
「旦那って言っても、一緒に住んでる訳じゃないわ。今、どこに居るかも知らないもの。連絡なんてしないわよ」
その言葉に、シュラインは思い描いていたシュチュエーションを一つ、頭から消す。
離婚で親権が取れなかった母親、つまり目の前のこの女が、子供を連れだしていたのであって、草間はそれを父親の元に連れて帰る所だったのではないか、と。
「ご主人、どんな方なんですか?まさか、娘さんと逢いたがっていたりしません?」
逆のシュチュエーションも確認してみる。
「そんな訳ないわね。子供が産まれてる事も知らない筈よ」
「…………」
シュラインは雫を呼び、最近子供関連の依頼がなかったかを小声で確認した。
別れた女性に子供、しかも自分にそっくり。どうにかして手元に置けないものか………などと言うパターンではないのか。
しかし雫からの返事はNO、子供に関する依頼は、雫の知る限りでは、ないと言う。
人外かもしれず、連れてる意識すらないと言う状況も思い描いていたのだが、抱いていた、と言うから連れている意識はちゃんとあったのだろう。
「どうしましょう、草間さんに連絡を取った方が良いですよね?でも、根無し草な人だから何処にいるんだか……」
みなもはシュラインの耳元に小声で囁く。
「彼女、興奮しているから目の前で連絡を取るのは辞めた方が良いでしょ。私が武彦さんの携帯に連絡を入れてみるから、暫く相手をしていて貰える?」
みなもは頷いて、女を見る。
シュラインは失礼、と言い置いて部屋を出た。


:::::

みなもと女から離れた別室で、シュラインは雫に草間の行方を尋ねる。
しかし、昨日の夜出掛けてから戻っていない、行く先も知らないと言う。
「こんな時に限っていないんだから」
シュラインはそう文句を言って、携帯に草間の携帯番号を呼び出す。
あの草間に限って、幼女を誘拐などと想像出来ないが、もし何らかの理由があって連れ出したとしても、危害はないと思う。
シュラインは少し溜息をついて発信ボタンを押した。
「出掛ける前に、何か言ってなかった?」
呼び出しを待ちながら、シュラインは雫に尋ねる。
「大事な用があるとか、面倒な依頼があるとか、帰りは何時になるとか?」
プップップ…と電子音。その後に、呼び出し音が来るはずなのだが。
暫し空白があって、雫がシュラインの問いに首を振った所で漸く声が聞こえた。
呼び出し音ではなく女性の声。
「デンゲンガハイッテイナイカ、デンパノトドカナイトコロニイルタメ、オツナギデキマセン」
耳から離した携帯を虚しく見つめて、シュラインは頭を抱える。
「まったく、こんな時に限って!」
さて、どうしたものか。
公園に行って目撃者から話しを聞いてみようと言うみなもの声が、隣室から聞こえた。
みなもが女を連れだしている間に、何が何でも草間に連絡を取らなくてはならない。
「電源が入っていないのかしら、電波の届かない所にいるのかしら」
電源を切っているのであれば、病院や電車、公衆の場に居ると言う可能性がある。
電波が届かない場所にいるのであれば、地下や建物の中。
公園の西口から出たと言う女の言葉からすれば、地下ではないかも知れない。
西口から出た先にあるのは、商店街と住宅地。
「って事は、電源を切ってる線が強いかしらね」
そこから電車やバスに乗って移動したのでなければ、近辺にいるかも知れない。
3歳の女の子を連れて行く、電源を切るべき場所。
「って、一体何処よ……」
電話が繋がらないのならば、自分の足で探すしかない。
先に公園に向かったみなもと女を追うように、シュラインは興信所を後にした。


:::::

「どう言う事なんでしょう?」
「アタシに聞かれたって困るわ」
溜息を付いて尋ねるみなもに、女は鼻を鳴らして答えた。
女と共に公園へやって来て、草間の写真を見せつつ目撃情報を得ようと走り回ったのだが、見事に目撃者がいない。
偶然、見かけた人が既に帰ってしまったのか、やはり草間ではなかったのか。
みなもとしては後者を信じているが、女は前者を主張する。
「本当の本当の本当に、草間さんだったんですか?」
「アンタも大概しつこいわね。アタシはこの目でちゃんと見たの。言っとくけど視力に自信はあるわよ」
「娘さん、草間さんに連れていかれながら嫌がる様子とか、なかったですか?」
「泣いて暴れてたわよ。可哀想に、ビックリして怯えてたわ」
泣いて暴れる3歳の少女を連れ去る男。
やはり、目撃者がいないのはおかしい。
みなもは泣いて暴れる少女を抱きかかえて公園を出る草間の姿を想像しようとしたが、どうしても出来ない。
草間がそんな事をするとは思えない。
「それを見ていた人たちの様子は、どうだったんですか?」
何故誰も騒がなかったのだろう。
「薄情よね、皆、気付いていても見て見ぬ振りだったわ」
男が幼女を連れ去る。それを追い掛ける母親がいる。
それを、普通見て見ぬ振りで済ます人がいるだろうか?
何だかおかしい、絶対におかしい。
ベンチに腰掛けて、辺りの様子を伺っていると、西口から入ってくるシュラインの姿が見えた。
「あ、シュラインさん」
みなもが手を振って呼びかける。
シュラインは僅かに微笑んでそれに応え、みなもと女の座ったベンチに近付いた。
「どう、何か分かった?」
問われて、みなもはこれまでの経緯を説明する。
つまり、目撃者がなく全く何の情報も得られていないと言う事を。
「シュラインさんは?」
シュラインは首を振る。
携帯は電波が届かないか電源が入っていない全く連絡が取れず、西口から公園を出たと言う話しを元に、商店街や住宅地を探してみたが姿はない。写真を持って何人か声を掛けてもみたのだが、目撃した人もいない。
「可哀想な娘!あのまんま、変態の餌食になっちゃうんだわ。だから知らない人には近付いちゃいけませんって、何時も教えていたのに!」
突然、ワッと女が泣き始めた。
どんなに高飛車な態度でいても、やはり子供を誘拐された母親。
不安で心配でどうしようもないのだろう。
「泣かないでください、私達、出来る限りの事をします。草間さんも娘さんも、必ず見つけだしますから」
「もう一度携帯に連絡を取ってみるわ」
シュラインは慌てて携帯を取り出す。
「きっと何か事情があったのだと理解してください。絶対、草間は娘さんを悪いようにはしませんから」
履歴に残った草間の番号を呼び出し、発信。
プップップ……と回線を繋ぐ音。
そして。
「呼び出してるわ」
さっきまで何度掛けても駄目だった電話が、今はきちんと呼び出されている。
3度目のコールで、草間が電話を取った。
「はい」
短い、飄々とした返事に、シュラインは何処か気が抜けたような感じがした。
「もしもし、武彦さん?あなた今、どこにいるの?」
『うん?シュライン君?』
携帯から聞こえる草間の声に、みなもと女も耳を澄ませる。
『今?大通りの向こうの公園だけど』
と言われて、3人はキョロキョロと辺りを見回した。
シュラインが入ってきた西口。みなもと女が入って来た北口。
南口の砂場近くには、犬を連れた老人とウォーキングに励むおばさん。
3人は殆ど同時に東口に目をやった。
そこに。
「あーっ!!」
何やら箱を抱えて歩いてくる草間の姿が。
「草間さんっ!」
「武彦さんっ!」
「変態男っ!」
突如3人に駆け寄られた草間は驚いて落としそうになった箱を慌てて胸に抱いた。
「一体何事だい?そちらの女性は?」
「あんたっ!アタシの娘をどこにやったのよっ!」
「草間さん、誘拐なんてしてないですよねっ!?」
「武彦さん、この人のお嬢さんを知ってるの?」
3人が同時に喋るので草間には何が何だかサッパリ分からない。
しかし、誘拐の疑いを掛けられている事は理解したらしい。
「誘拐?誰が?」
「あんたよっ!」
女は突然草間の胸ぐらを掴んだ。
草間は再び落としそうになった箱を手で支える。
「あんた、アタシの娘を何処にやったの!?怪我でもさせてたら承知しないわよ」
「娘?怪我?ちょ、ちょっと待ってくださいよ、一体何の話しです?」
純粋に驚いている草間。
「アンタが連れ出したのはアタシの娘だった言ってんのよ、しらばっくれるんじゃないわ!祟るわよっ」
噛みつくような女を、シュラインとみなもは二人がかりで押さえる。
「武彦さんがこの人のお嬢さんを連れ出したんだって、興信所に来たのよ。武彦さん、本当にそうなの?」
「一体何の事だか、サッパリ分からないが……」
草間がまだ驚いた様子で口を開くと、箱の中からゴソゴソと音がする。
「ああ、騒がしいから起きてしまったか。もう少し寝てた方が良かったのに」
「何ですか、それ?」
みなもが箱を覗き込む。
草間は蓋を開いて中をみなもに見せた。
「かっわいぃ!」
「何、何なのよ?」
女とシュラインも覗き込む。
「随分衰弱してたんで今、病院に連れて行ってたんだ」
箱の中に手を入れて、目を覚ました中身を取り出しながら草間は言う。
公園を通りかかった際に見つけて、近場の病院に連れて行ったら休診日。仕方がないので電車に乗って、少し離れた病院まで行って来たのだそうだ。
「ほらご覧なさい!やっぱりアンタが犯人じゃないのっ!」
草間が胸に抱いた中身をひったくって、女が草間を睨み付ける。
「……え……」
みなもとシュラインが同時に声を発する。
「犯人?誰が?」
「だからアンタだって言ってんのよ!ああ、可哀想に恐かったでしょう!」
「はいぃぃ?」
呆然と女を見る草間。
その草間と、みなもとシュラインの目の前で、女は突然その体を縮めて姿を変える。
「何なのよ、一体……」
シュラインはポカンと口を開いて呟く。
3人の目の前で1匹の三毛猫が、小さな黒猫を口に銜えてスタコラサッサと公園を走り去っていった。
「うーん………」
虚しく胸に空箱を抱いて、草間が唸る。
「そう言えば昔、感謝知らずの女、なんて歌があったかな……」
「武彦さん、それ、古すぎるわ」
シュラインは溜息を付く。
ひたすら疲れただけで終わってしまった。
「私、信じてました。草間さんが誘拐なんてする訳ないですよね」
にっこりとみなもが笑う。
「そうそう、帳簿ごまかしてタバコ買ったり、道で拾ったタバコを拾い吸いしたりはしても、そんな高等技術が必要な事は出来ないのよね」
「な、何だいそれは」
あまりの言われように草間がみなもを見る。
「やだ、あれは草間さんの身の潔白を証明する為に言ったんですよ」
「分かってるわよ」
シュラインも笑う。
「ま、何だかよくわからんが一件落着って事で?」
草間がポケットから取り出した煙草に火を付け、シュラインは胸に抱いたままの空箱を受け取った。
「帰りましょうか。ゆっくりお茶でも飲みましょう」
「そうね、武彦さんの奢りでケーキでも買って」
無駄な労働の報酬に、それくらい貰う権利があるはずだ、と主張されて仕方なく草間も頷く。
どの洋菓子店で購入するか、と話しながら3人は公園を後にした。



end



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】 
0086/シュライン・エマ /女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1252 /海原・みなも  /女/13/中学生  

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■         ライター通信          ■
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GWに予定通り釣りに行き、その疲れからか熱を出してる佳楽季生です、こんにちは。
皆様、GWは楽しく過ごされましたでしょうか。
既にお気づきかと思いますが、タイトル間違っていました(涙)
「Kisnap」になっていたんですねー。言われるまで気付かなかったのです。
こっそり直しておきました(涙)「Kidnap」が正しいですー。
馬鹿な奴で申し訳ありません(涙)
でも、ご利用頂けて本当に嬉しいです。有り難う御座います。
またお目にかかれたら幸いです。