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<東京怪談ノベル(シングル)>


優しい誰か・・・

白い空間に、鮮やかな青い閃光が瞬いては消え・・・を繰り返している。
ここは、研究所の一室。
逃亡防止用のガラス管の中に一人の少女がいた。

 彼女の名前は海原みあお。
ここへ、拉致され、監禁・・・
そして「幸せの青い鳥」に改造されてしまった。
「幸せの青い鳥」がまさか、幼い13歳の女の子だと・・・
誰が想像するだろう。
美しい銀髪のショートヘア、瞳も同じく輝くような銀。
外見は小学生にしか見えない小さな体、
それに反比例するような、好奇心旺盛で、活発な可愛い少女は、
今、完璧な「幸せの青い鳥」となるべく、過酷な訓練を受けていた。
しかし、そんな幼い少女からは思いも寄らない程、
我慢強く訓練に耐えている。
上手くできなければ、それ相応の処罰という名の
体罰が待っているというのに・・・。
そしてその処罰はときに死を意味する。

(私がみあおを守らなきゃ)

何処からか声が聞こえた・・・。
また、青い閃光が瞬く。
光の中で、影を落としているのは、13歳の少女ではなく、
影を歪めながら、体が変形していっている。
うすっぺらなはずの胸は、豊かな膨らみを。
子どもらしさを残す、足や腕はすらりと美しく伸びてゆく。
可愛らしい丸みを帯びた瞳は妖艶な女
性のように、美しく睫毛が影を落とす。
輝くような銀色はそのままに。
消え去った閃光の中から出てきたのは、どう見ても20代後半。
妖艶・・・その言葉がしっくりくるような美しい女性。
彼女の唇からは、訓練の疲労、変身時の激痛から、
何度も吐息がこぼれる。
白く、きめの細かい肌は薄く桜色に染まっていた。
その姿さえ、美しく、背には艶やかな青い羽。
青い羽はまるで彼女を守るように優しく包み込もうと、
ゆっくり円を描くように柔らかく閉じる。
そしてまた・・・閃光が走った。

 小さな女の子は「ふぅ・・・」と大きなため息をつきベッドに横になった。
白い天井を見上げ、今日の訓練の終了に安堵する。

「終ったぁ!それにしても、いつまでこんなことが続くの?」

そんなこと、分かるはずもないのに、思わず独り言がこぼれた。

「いつになったら、みあお・・・ここから出してもらえるかなぁ?
おかあさんも心配してるだろうなぁ」

「・・・まぁ!考えたって仕方ないけどね!」

「早くここから出て学校行きたいなぁ〜。
そして甘いものいっぱい食べるの!」

元気な性格のおかげで、今までやってこれた。
そして、みあおは気付かない。
そんなかわいい考え事をどうして厳しい訓練の後にしていられるか。
みあおの中には、別のみあおが存在している。
監禁されているのを実感しているのも、
処罰という名の体罰を受けていることも、
どんなことにでも平気なみあおがもう一人。
みあおの中にいた。
13歳という幼さが現実の受け入れを拒否したとき、
別のみあおが現れた。
そんなことはつゆ知らず、みあおは独り言を続けた。

「甘いもの食べた〜〜い!
それなら、みあおがみあおを幸せにできるもんね!
「幸せの青い鳥」の力は自分に使えないっていうのが、
不満なんだよね〜。
別の「幸せの青い鳥」の子と仲良くなって、
幸せにしてもらうのも一つの手だよね!」

「幸せの青い鳥」が人を幸せにすると、
身心ともに疲労することをすっかり忘れている。
先ほどまで、訓練していたというのに。
それもそのはず、辛い事はもう一人のみあおの管轄だから。

「せっかく、「幸せの青い鳥」になったんだから、
みあおにも一回くらいご利益あって欲しいんだけどなぁ・・・。」

呑気に、足をバタバタとばたつかせて天井をそのまま見つめた。
ふと、しゃべり続けていたみあおに沈黙が訪れる。
しゃべることに飽きた・・・というわけではなく、何か考えているようだ。

 (みあおってどこにいたらいいのかなぁ?
だってあの人たちが必要なのって変身したみあおだもんね。
みあおはみあおなんだけど・・・なんとなく、居場所が無いな・・・。
「幸せの青い鳥」って何?
みあおはその力で幸せになれないのに・・・。
他の人を幸せにするためだけに、練習してるわけでしょ?
みあおには何も・・・得はない?
う〜んでも・・・。
もし、みあおが人を幸せにできて、
その人が笑ってくれたら嬉しいかも・・・。
うん!嬉しいや!
その気持ちがきっとみあおを幸せにしてくれるのかな?
でも、変身したみあおは感謝されるけど、みあおは感謝されないのか・・・。
なんか、変身したみあおってみあおじゃないみたいなんだもん。
記憶もなんかぼやけてるし・・・。
でも、きっと幸せな気持ちって残ってるよね?
おかあさん、びっくりするだろうなぁ。
でも、みあおのこと大好きだし、大丈夫だよね・・・。
あ!おかあさんは、みあおを見ると嬉しそうにしてくれるなぁ。
学校であったこととか話すと楽しそうに聞いてくれるし。
みあおを見てくれる。
みあおはおかあさん・・・。
そして、みあおの大好きな人たちのためにいるんじゃないかな?
だって、みあお、ここにいても、つまんないもん。
おかあさんや、皆といると楽しいもん。
早く、みあおの場所に帰りたい・・・)

うとうとと瞼が重力に逆らえず、閉じていく。
みあおは、うたた寝してしまった。

 すると、その機会を狙っていたかのように、青い閃光が瞬く。
かすかに、骨の軋む音、そして背中を突き破り、
美しい青い羽が現われる。
そこには、美しい女性がいた。
変身に体力を使ったのにも関わらず、
もう一人のみあおは優しげな表情を浮かべている。
いとおしそうに、自分の体を撫でる。

「小さな・・・可愛いみあお。いつまでも、そのままで。
あなたを苦しめるものは、私が変わってあげる。
だから、あなたは今のままで。」

青い羽はその妖艶な体を隠すように、
優しくもう一人のみあおの体を包み込む。
変身時激痛をもたらす要因となっている羽が、
それを詫びるように温かく・・・。

 (かわいそうなみあお。私が現われなかったらきっとあなたは・・・。
壊れてしまっていた。
この痛みに。この現実に。この辛さに・・・。
あなたは賢い。私を作ってくれた。
私は、あなたに作られたもう一人のあなた。
だけど・・・そんなこと気にならないくらい、あなたが可愛い。
いつまでも、純真で、活発で、ちょっとわがままだけど、
人を愛することができるあなたでいて?
私はきっとあなたしか愛せない。
任務と受け取り、人を幸せにするでしょう。
感謝され、向けられた笑顔はあなたのもの。
私は、それだけはあなたに伝えるわ・・・。
あなたには笑って欲しいもの。
愛しいみあお。私はあなたのためだけに・・・。
今はゆっくり休んで?安心して・・・。私があなたを守るから・・・。
そのために私はいるんだと今は実感しているのよ・・・)

羽の中で、もう一人のみあおは、みあおを抱きしめる。
すらりと伸びた腕が、豊かな胸を、
白くさらりとして美しい肌に包まれた体を・・・。
また、青い閃光が走り、羽がもう一人のみあおを包む。
優しく労わるように。

そして、ベッドの上には、安心しきって眠っているような、みあお・・・。