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<東京怪談ノベル(シングル)>


復讐のグラ釣り大作戦

 ■対戦のお約束v■

「また、アンタなの?」
 店員は生暖かい視線をあたしに向ける。
 あ〜…あたしは月見里・千里。『つきみさと』じゃないわよ、『やまなし』よ。関係ないけど担任変わる度に間違えられるのよね。やんなっちゃう。

「店、来たら相手するって言ったじゃないのよ」
 あたしは可愛らしい口唇を尖らせて言った。
「お子ちゃまはあっち行って頂戴」
「あたしは高校生よ!」

 花の現役高校生の唇はプリップリなのよ、二十歳越して○年経った貴女とはち・が・う・の! 十歳は若いわよ、多分。
 高校生の十年と二十歳過ぎの十年の差は大きいの。
 そこんとこ、よろしく。

「対戦しなさいよぅ」
「忙しい金曜の夕方に、しかもこんなにお客様が来てるのに、どうやって対戦せいっちゅーのよ!! あんた、ちょっと考えなさいよね!」
 指差した先には、新シリーズ『テンプルム』のパックを抱えたお客様がずらり。本日発売日だったようで。あたしは予約済みだから関係ないモンね。
「だから、こうして待ってんじゃないの」
「レジ前に立たないで頂戴。後ろにお客様が立って待ってるじゃないの」
 それはそう。あたしは素直にレジから離れた。
「よろしい……」
 そう云うと、TCG対戦場の入り口付近に顔を向けて、大きな声を出す。
「入り口付近でたむろわなーい! そこ! 対戦用のテーブルで御菓子食べないの!」
「お菓子はやめてくださいね〜☆」
 のんびりとやり取りを聞いていた新店長が、のへへんとした声で注意を促す。…が、誰も聞いてない。 
 ジロリと睨んで、マスターは言った。
「お客様が聞いてくれるように言ってくださいよぉ」
「それを俺に求めないで。…ってか、お客様に求めてよ」
 店長は眉を寄せる。
「そんなの、いいから対戦してよ〜☆」
「わかったわよ、閉店するまで待ってなさいよ。でも、一回だけよ」
「わ〜いvv」
「まったく……」
 あたしは店の外で閉店時間まで待った。


 ■漢女の闘い■

「お待たせ。さて、今日もララエなの?」
「ま〜さ〜か〜ぁvv」
 あたしはくふふっと笑った。嫌そーな目で相手はあたしを見る。
「気持ち悪いわね」
 言いながら席を引き、座ると、マスターはデッキを超高速で構築しはじめる。箱を開けてから一分しない間に構築デッキが出来上がる。多分、レシピは頭の中に出来てるんだろうけど。
 相手は今回もグラファリト。あたしは……
「今回はローズマリーちゃんで〜すvv」
「嫌な属性持ってきたわね」
「だって、別にゴーレムニストなわけじゃないもん」

 ローズマリーは銀(月)属性。嫌なカードが一杯な属性なのだぁ。破壊力が無い代わりにカウンターと手札破壊が特徴的。

 今回のレシピは熟考x4、先読みx3、フリーズトラップx4、ダイアモンドダストx4、氷の蔦x2、美しき雪原x1、流転x1、フリーズフィールドx1、リヴァイアサンx1、フロストウルフx1、山田さんx1、ブルークラーケンx1、ブリザードドラゴンx1、デンダンx1、ミスティドラゴンx1、リシーブメモリーx3、眠気x4、三日月の弓x3、インヴァイトヘルx4、銀の囁きx3、召集x4、竹鎧x2、価値あるガラクタx4、身代わりの指輪x1。

 サイドボードはまとわりつく雫x1、雪女x1、溶鉱炉x1、阻害x2、異空の扉x1、エディx3、銀の獣x3、玄武のお守りx1、瞑想の指輪x1、魔法の鳥かごx1。

「完璧だわ……」
 云ったあたしを見て、相手は「なんなのよ、この子」という顔をする。それが何だって〜の、今回はリベンジよ!
 敵も然る者、ふふふっと笑って対戦モード。ふと見ると、キャラカードが新しい。じぃっと見て、あたしは思わず叫んだ。
「何よこれ!」
「盆栽」
「…………」

― こ……こンの、お腐れ様がぁ!

 マスターのカードは『壊した盆栽のお仕置きをヴァインドにした、グラファリト』。略して、盆栽。
 滲み出るは煩悩と不敵な笑み。それは最強だと云わんばかり。
「さあ、行くわよ!」
 相手のペースに乗ったまま始まり、先攻後攻を決める。何だか、前回と同じようなパターンだなあ。
 ぶつぶつ云いながらも、あたしはジャンケンをし、先攻に回った。こうなったら、さっさかやっつけよう。
「溶鉱炉、玄武のお守りを出して……はい、あたしはこれで終り」
「ふ〜ん……札からすると、釣って凍らせようってわけね」
「む!」
 いちいち頭に来る発言を無視して相手を待つ。
「グラファリトを釣るなら、ヴァインドが居ないと……」
「何云ってるのよ!」
「じゃぁ、『お仕置き』を開始しようか……」
 ふと低めの声で云って、ニタリと笑い、カードを捲る。
「『タックル』で押し倒して」
「は?」
「『パンチ』でちょいと頬に平手打ち」
「ちょっとぉ!」
 腐女子限定グラファリトモード全開でカードを捲れば、脳内に展開されてゆくのは『ティエラ』の大地で、美少女を押し倒して平手打ちするグラファリトの姿。
「どうだ、お嬢ちゃん。まだ懲りないか?……う〜ん。いまいち、男相手じゃないとノリが悪いわ」
「ぎゃーッ!馬鹿言わないでよ!」
 あたしはぶんむくれてカードを引く。仕返しするにもダメージが低い。おまけにエディーが出てこない。あたしが受けたダメージを返せるカードが無かった。
「ムカツクぅ!」
「ではでは……『粉砕の矢』で溶鉱炉を破壊」
「クッ……」
 やっとこさ、カードが来ても何処か嬉しくない。とりあえず、『価値あるガラクタ』と『ダイヤモンドダスト』でGO!こっちが終わって、次は相手側の攻撃。
「『なぎ倒し』て……手が無いなぁ。いいわ、これで行こう。『安らぎの竪琴』で耳元で囁いて膝を割り……」
「へ?」
「『通背掌』で気絶させてフィニッシュ!」
 云って、マスターはピシッとカードを置く。
 マスター特製盆栽カードによって、あたしのローズマリーちゃんは完全お仕置き状態。
「転ばして、囁いて、気絶させて何する気よ!」
「決まってるじゃないの、ヤルことは一つよ」
「いやぁあああああああああああああああッ!!」
 テーブルに突っ伏し、あたしは叫ぶ。
「今日も元気だねぇ……」
 ほやや〜と、店長が茶を啜った。そんなあたしたちに、お客様の生暖かい傍観の目が向けられる。通り過ぎる常連さんは「いつものことだから」と微笑んで、あたしたちを置き去りにして帰ってゆく。
 終わった頃にはへろへろになり、勝ったものの、何だか疲れて勝った気がしない。勝利の後の開放感が無くて、かえって負けこんだ気がした。
「まったねぇ〜♪」
 手を振って、マスターは去っていく。
「悔しいぃッ!」
 あたしは地面を踏み鳴らした。


 あぁ…ニ日月が笑ってる……

 あたしの未来は何処なんだろう?

 ■END■