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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


反魂と龍


さて……ここに来てくれたということは、アンタは自分の力に自信があるんだよな?
まぁ別に話を聞いてからでも遅くないが……これは正直、オレも手を焼いているんだ。

調べてもらいたいのは、「反魂の術」についてだ。

通常、死者を蘇らせるなんてのは無茶だが…だが、この無茶をやらかそうって馬鹿がいやがる。
大元の依頼はそいつを止めたいってヤツなんだが、その「反魂の術」の方法がわからなけりゃ、それを阻止する方法だってわからねぇ。
そこでアンタには、「反魂の術」なんてものが実現可能なのか、それはどういった手順を踏まえて行うのか、この二点を調べてもらいたい。
ただ一つだけ言っておく。

-------これは、おそらくとても危険だ。

依頼人が言うからに、術者はもはや正気ではないらしい。
捜査中に襲ってくることだって十分に考えられるし、しかも相手はあの最強と詠われる【龍】だからな……。
無理強いはしない。最悪の場合、怪我だけじゃすまされないかもしれない。
そのぶん報酬は破格だと思ってくれていい。
失敗成功に関わらず、前払いで------そう、これくらいだな(ゼロが並んだ電卓を見せて)
今回の手がかりは【龍】と【反魂】の二つしかない。
殆ど無理を言っているのは百も承知だが、人間であるオレは【龍】なんてものに対抗できる術が無いんだ……。

この依頼、受けてもらえないだろうか?



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 何処かへ行きたかったのです。
 ここではない、どこかへ。

 どこに行きたいのか、明確な理由があるわけでは無いというのに。
 深い海は無音の闇が広がっております。ごぽり、と気泡がゆるやかに浮上していく音ですら感じられないほどの、完全な静寂。
 見通しの悪い深海はそれだけで暗鬱に、生命を包み込むのです。それでも強大な水圧に耐え、鬱がれたこの世界にすら、生きる生物が在ります。それらは外見が醜悪でありこそすれ、なんと穢れ無き生命を持つことか。進化を重ねた生命の強さは、それだけで誉れ高いのですから。
 ああ、だからかもしれません。
 わたくしは、進化したかったのかもしれません。
 お役目が嫌なわけでは無く、神が嫌いなわけではなく、むしろ焦がれるほどに愛おしいはずなのに、それでも何処かへ行きたいと願ってしまう。それは、この世界に在る者ならば当然持ち得る願望なのかもしれないと、そう思ったのはいつだったでしょう。
 深い海に閉ざされた世界、神の腕の中に眠る小さな楽園、ここから逃れたいと、何故思ったのか。
 答えはとても身近にありました。
 それは、彼方は知り得ないたった一つの言葉。
 些細だったけれど、大切だった気持ち。
 海の果ては空と繋がっている、言葉に隠された真実。
 人は------生物は、飛び立つ力を持っているのだと。
 飛躍する命の、その輝きに憧れるからこそ、わたくしはどこかへ行きたかったのです。
 わたくしは輝いていますか?神さまのお膝元で輝ける程の生命を、持っておりますか?
 海の果てに行けば、きっと答えはあるだろうけれど、もしも答えがあるのなら、わたくしは何処かへ行きたいと思わないのでしょう。見えない翼を欲したりはしないでしょう。
 海と空は繋がっております。境界線には扉があり、わたくしは鍵を持っております。神さまという、わたくしだけの特別な鍵を。
 だから扉を探すために、わたくしは今日も神さまの御許へ夜伽に参ります。わたくしは神さまの光になれるのでしょうか----俗物的な感情はわたくしだけの秘密にしましょう。
 海の果てを見つけられるのは、自分自身だけなのですから。
 愛している、大好き、最も大切、そんな言葉すら陳腐に思える感情を胸に抱いて、わたくしは海の果てを探すことにいたします。
 それは昔々の、伝え聞くお伽噺。
 


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 はじめに空と大地があり、風が生まれました。
 空と風とひとつになったが、大地は独りぼっちになってしまいました。
 風と空は大地に会うことができず、大地は空と風をを知りませんでした。
 空と風は嘆き哀しみ、その涙が雨となって大地に降り注ぎました。
 大地は雨によって空と風を知り、自分が孤独ではないことを知りました。
 やがて雨は海となり、海は大地とひとつになることができました。
 空と風はそれを祝福し、風は海と抱き合って喜びました。
 風と海が抱き合うと、海に波が現れ、世界は驚きました。
 やがて海に生物が現れ、海は生物に提案しました。
 私の半身である大地に行ってはどうですか。
 生物は興味を持りました。大地とは何なのでしょうか。
 大地は海と同じくらいに広く、豊かでありました。
 生物は大地に根を張り、歩きました。やがて大地が言いました。
 空へ行ってはどうでしょうか。
 生物は空が何かを聞きました。
 大地は優しく笑って言いました。
 空は私が独りでは無いことを教えてくれました。
 生物は空へと飛び立ちました。そこには風が在り、空が在りました。
 だが生物は、風が在るために空へ留まることが出来ませんでした。
 風と空はただ二つでそこに在ることを望みました。
 生物は諦めて、海に相談しました。
 どうすれば空へ在ることができるのでしょう。
 海は悩んだすえに、こう言いました。

 私の果てを探してください。そこは、空へと続くひとつの扉になるでしょう。
 空の果てを探してください。そこは、私へと続くひとつの鍵になるでしょう。

 生物は祈り続ける。
 空へ在ありたいと、ゆえに、海の最果てを見つけたいと。
 自分にとっての海の果てを----------



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 海は広く、夢は深い。神さまの封印が解けぬよう、神が退屈せぬよう、夜伽のおつとめにもだいぶ慣れてきた。人はそれを怠惰だと言うかもしれないが、それでも手を抜いているつもりも無ければ感情を殺しているわけでもない。自分の心ですら重荷に感じる感情を抑える努力はしているものの、神のお声を聞くだけで心が穏やかになるのも、また真実だった。
 この気持ちを愛情と呼ぶのか、それとももっと別の何かなのか、自分にとって永遠に溶けぬ課題だけが突き付けられているような気がしている。それでも永遠に溶けぬ氷など無いように、いつか別の形で答えが見つかるだろうと、そうあってほしいと願っていた。祈りとは届かないものだと、理解はしていても。
 夢想世界を漂うようような心地よい浮遊感は、逆らうという感情を根こそぎ奪っていく。神の腕の中に抱かれると、感情の大半を吸い取られていくような気がした。
 それが安堵感であると----------気付いたのは、ずいぶん前になる。
 それはまるで、母親のお腹の中にいる胎児のような、身も心も委ねられる感覚。自分を煩わせる全てのことが一切合切切り払われ、後に残るのは両手でも有り余る程の確かな愛情だけ。
 優しく髪を梳かれる、その仕草が心地よく、睡魔に身を委ねようとしたその刹那、
《ほぅ……珍しいな》
 心臓に甘くのし掛かるような声音で、神が面白そうに呟いた。
 靄がかかっていた思考回路のままに、みそのは頭を巡らせた。
 何を、と問いかけるよりも早く、鋭く神が囁く。
《迷い子か……久しく見なかったが》
(迷い子?)
 疑問符が飛び交った。だが神はクツクツと喉で笑うと、すっと何かを示した。突然に意識の奔流の中で浮かび上がる淡い発光体に、みそのははっと魅入ってしまった。何かを言おうとして口を開きかけ、結局何も出てこずに口を閉ざす。
 実際に見えたわけではないが、意識の上で、それは人の形をしていた。だが同時に、赤い龍の姿をしていた。まるで騙し絵のように、魂が溶け合っている。それは水のように流動しながらも、光のようにとりとめが無く、かと思えば鉄のように確かでみそのを混乱させた。魂に明確な形というものがあるとすれば-----これこそがまさに、そうであるというような。
《罪の鎖が見えるか?……ずいぶんと重い咎のようだな、からみとられて身動きすらとれず、ゆくこともできず、漂っている最中に紛れ込んだのだろう》
 鎖、とは概念的なもので、それは黒い靄のようだった。靄は不安定な人の手のかたちをとり、少女とも龍ともとれぬ魂を撫で回している。頭を、貌を、首を、腕を、腹を、腰を、足を、爪先を、その皮膚の一片に至るまで浸食せんとでもいうかのようだった。かと思えばそれらは一瞬で消え去り、瞬きする間も無く、少女を覆い隠すのだった。
『……だれ…』
 じっと耳をすませなければ聞き取れない程か細い声だった。衰弱し、疲弊し、弱り切っているというのが一目で分かる。その魂は世界に色濃く残しているのに、あと二日三日もすれば消滅してしまいそうでもあった。
 少女を縛り付けて離さないものは、後悔の念と何者かの強い咎のせいだと知れる。
《名はなんという》
 神の重厚な威圧感に、少女の気配が揺れた。
 やがて躊躇いがちに、その名を口にする。
『クレ……クレシア…』
(クレシア……ここは海神様の御許ですわ、貴方は迷い込まれたようです)
 思念でもなく言葉でもなく、単純な意思の流れに、クレシアと名乗った少女が身体を強張らせた。それはおそらく、神の名を出された畏れでもあるだろう。
『お願いします。どうか……どうか私に時間をください』
《ほぅ?》
 みそのは驚いた。まさか御神に対して懇願するなどと、到底あり得ないことなのだ。神は全能にして無能でなければ成らない。零能でありながら万能でなけれな成らない。理屈ではなく、神はそれゆえに神と呼ばれるのだから。
 だが神は怒る様子も見せず、むしろ愉快であるというのうに微笑んだ。
《代償に何を差し出す》
 そう問われて、少女はしばし考え込み--------
『私の魂を』
 そう断言した。しかしそれは魂が転生しなくなることを意味し、本当の意味での消滅を指す。自信の消滅は、意識在るものがもっとも畏れることであるというのに。それほどまでにして時間が欲しい理由を、みそのは感じ取っていた。眼が不自由だからこそ感じる第六感が囁く。これは、妹が相談してきたあの件に深く関わっていると。
《穢れた魂の何の価値があろうか》
『それでも…私にはこれしかありません』
 クレシアのきっぱりとした言葉に、みそのは胸中で微笑んだ。神も、意地悪なことをなさる。
《良かろう。みその》
 名を呼ばれて、みそのは頷いた。
「…貴方の魂の流れを少し変えて差し上げます。時間があまりありません、最後にしたいことをなさい。最後の力を振り絞って、貴方のやるべきことをなさいませ」
 みそのの肉声が、凛と響いた。



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 翌日、海の中を漂いながら、妹と話すみそのの姿があった。
 同じ青い髪を持ち、青い瞳を持ちながらも、まったく正反対の美しさを持つ彼女たちのまわりと、リュウグウノツカイが優雅に漂っている。
 みなもが太陽の下で咲き誇る花束であれば、みそのは月の許で輝く一輪の花だ。ひっそりと、それでいて見る者の心を奪う美貌だが、神は二物をお与えにはならなかった。神の手で作られた至高の美しさに、聡明な頭脳と観察力にも関わらず、運動神経は決定的に欠けていた。
 よたよたと泳ぐみそのを横から支えるようにして、みなもはお里の上を泳いでいる。
「それで…協力をお願いに来たんです」
 申し訳ない、というようにみなもが言うと、みそのは優雅に微笑んだ。水姫と名付けられた龍がみなもの髪の毛にじゃれ合っているのを微笑ましく思いながらも、言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですよ。神が、お力を貸してくださいましたから」
 え、と彼女が聞き返した。何かを言おうとする前に、素早く断定した。
「大丈夫。海上に上がって、貴方は下の世界へお帰りなさい」
 全て上手く行くはずですから。
 そう言ったみそのの表情は、どこまでも穏やかだった。




 その後、【ドラゴンズ・フロウ】の噂を聞くことは、一度として無い……





END or To be COMTINUED?
 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1388/海原・みその/女/13/深淵の巫女】
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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。大鷹カズイです。
この度はご依頼のほう、まことにありがとうございました。
再納品などと色々ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません。
規定の締め切りを大幅に過ぎてしまいました…二度とこのようなことが無いよう、お約束致します。

えー今回は、再納品前の作品のほうが絶対に良かった、と一部噂が流れておりますが、こういうオチ(?も良いのではないかなぁと思っております。
海原みなも嬢と合わせて読んで頂けると嬉しいですw
自分の鈍筆っぷりをこれほどまでに恨もうとは。。。

今回はご迷惑おかけしました。
本当に申し訳ありません。

またいつか、お会い出来る日を願っております。


   大鷹カズイ 拝