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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


アイドルをおびやかす影【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『アイドルをおびやかす影』――。
 特撮ドラマ『魔法少女バニライム』の監督、内海良司に紹介され草間興信所にやってきた2人。それは天然キャラとして売られている17歳のアイドル・大倉美奈子と、マネージャーの山城健吉だった。
 山城によると、何でも美奈子がストーカーに付け回されているのだという。美奈子もすっかり怯えている様子。そこで、美奈子を守ってストーカーを捕まえてほしいという話だった。
 依頼を引き受けた草間は、一同にその調査を任せた。各々自分なりの方法で、事件を調べてゆく一同だったが、ストーカーの影がどうにも見えてこない。
 ところが美奈子がマンションの自室に帰った時に、それは起きた。ベランダの窓ガラスが破られてしまったのである。
 しかし、外を見回っていた者によると、怪しい人影も車も見当たらなかったとのこと。けれどもこんな目撃情報を口にする者も居た。ベランダに、黒いもやもやっとした物が見えていたような気がすると。
 果たして、美奈子に付きまとうストーカーの正体とは?

●験担ぎ【2G】
 都内某所にそのテレビ局はある。昔なら刑事ドラマ『あぶれる刑事』、今は特撮ドラマ『魔法少女バニライム』の放送で知られる局だ。
 朝――その局内の制作部の応接用ソファに、和服姿の女性の姿があった。向かいにはプロデューサーなのだろうか、スーツ姿の中年男性の姿もある。
「いやいやいや、いつぞやはどうもどうもおおきに。おかげさんで『MUSIC KING』、高視聴率で頑張ってますわ。今日もこれから、島公園スタジオで収録ですねん」
 ほくほく顔のプロデューサー。それを聞いた女性――天薙撫子はにっこりと笑みを浮かべた。
 さて、どうして撫子がここに居るのか。それは草間武彦から、美奈子のストーカー事件の話を聞き、撫子も調査に乗り出したからである。
 ここに来る前に撫子は、草間から事件の詳細を一通り聞いていた。が、直接スタジオに向かう前にもう少し調べておこうと思い、ここへやってきたのだ。
 では、撫子と目の前のプロデューサーの関係は何なのか。それは、テレビ局関係者に『験』を担ぐ者が少なくないことにある。プロデューサーは、番組開始前に祈祷を撫子の実家の神社で行ってもらっていたのだ。
 その縁もあって、こうして会うことが出来たという訳である。ちなみに今日の美奈子の仕事が『MUSIC KING』へのゲスト出演だ。
「それで、聞きたいことがあるって何ですやろ?」
「大倉美奈子さんと、その所属事務所のことで少しお尋ねしたいことが」
 静かに口を開く撫子。するとプロデューサーは納得するかのように大きく頷いた。
「あー、何や歌担当のプロデューサーが言うとったなあ。歌収録の途中で美奈子ちゃんが歌を中断して、『変な人が居る』と何や言うたとか。それに他の局のトーク収録でも、いきなり叫んだらしいからなあ。今日の収録、大丈夫やろか?」
 一瞬不安そうな表情を見せるプロデューサー。だがすぐに、けろっとした表情でこう言い放った。
「ま、どないかなるやろ。あと、何やったかな?」
「所属事務所のことを」
「んー、そう大きいとことちゃうけど、きっちりタレントを育ててるんちゃうかな? けど上を目指すんやったら、大手に移籍した方が便利やろな。ま、タレントだけ違うてマネージャーなんかにも言えることやけどな」
「そうですか。マネージャーさんにも……」
 とつぶやいて、思案する撫子。するとプロデューサーが腰を浮かせた。
「ほなそろそろ、スタジオ行かなあかんから」
「あ、どうもありがとうございました」
 撫子は深々と頭を下げた。

●対峙【5C】
 テレビ局を辞した撫子は、その足で『片山内科』を訪れていた。1ヶ月も治っていない、美奈子の風邪がどうも気になっていたのだ。
 玄関の前に立つと、『本日休診』という札がかかっていた。
(休診でしたか)
 仕方がないと諦めて、撫子が戻ろうとしたその時だった。病院の中から、物音が聞こえてきたのである。
 物音が気にかかった撫子は、裏口に回ってみることにした。そして裏口の扉にそっと手をかけた。鍵はかかっていない、開いている。
 静かに扉を開くと、今度ははっきりと物音が聞こえてきた。誰かが争っているような音だ。
(これは……!?)
 はっとした撫子は、すぐさま病院の中に飛び込んでいった。そのまままっすぐに、物音の聞こえた所へと向かう撫子。
 すると、だ。3人の見るからに堅気でない男たちが、白衣をまとった細身の男を取り囲んでいたではないか。しかも男たちの手には、ナイフや紐やらがしっかと握られていた。
「誰だ! いや、誰でもいい! 見られた以上、ついでにやっちまえ!!」
 話し合う余地もなく、撫子に襲いかかってくる3人の男たち。撫子は懐に忍ばせていた妖斬鋼糸を取り出すと、襲いかかってくる男たちへと繰り出していった。
 こうなると、男たちは撫子の敵ではない。瞬く間に男たちは、妖斬鋼糸に絡め取られてしまったのだった。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「あ……はい。ありがとうございますっ!」 白衣の男は撫子に向かって土下座をした。撫子が顔を上げるよう促している隙に、男の1人がこの場から逃げ出そうと試みた。
 部屋の外に出られそうになった男。だがそれは叶わなかった。何故ならば、部屋の外から蹴りを入れられてしまったからである。草間によって――。
「草間さん?」
 驚く撫子。どうしてここに、といった表情だ。
「皆まで言うな。俺がここに居る理由だろ? シュラインから連絡があったんだ、この病院を調べてくれって。で、今着いてみたらこの調子だ。つい足が出たが……これはどういうことだ?」
 草間が撫子に説明を求めた。が、撫子にそれが答えられるはずもない。すると、白衣の男が口を開いた。
「すみません! 借金を棒引きにするという甘い言葉に騙された私が馬鹿だったんです! 言われた通り、大倉さんの薬に幻覚剤やら何やら混ぜ物をしていたんですが……今日になって突然用済みだって、こいつらが」
 白衣の男の言葉に、草間と撫子が顔を見合わせた。
「そいつ連れて、島公園に行ってこい! こいつらのことは俺に任せておけ! ちょっと心配だ……」
「は、はい!」
 草間の指示に頷く撫子。そして白衣の男――片山を促し、病院の外へと出ていった。

●追い詰められし者【8】
 島公園スタジオの裏手。山城は1人、人気のないこんな所で電話をかけていた。
「山城です。収録始まりました。今頃美奈子は飲み物に仕込まれた薬を飲んで……芸能生活の終わりを迎えてることでしょう。こっちは約束を守ったんです、今度はそちらが守る番ですよ。私は今回の責任を取って辞表を出す。そこを拾ってもらう……そういう筋書きでしたよね。ええ、ええ。小さな事務所のマネージャーで終わりたくないんですよ。力を存分に振るうには、大手でないと……。では今から首尾を確認してきますから、またすぐに連絡します。ではまた」
 電話を切ると山城は、スタジオの中へと戻ろうとした。その瞬間、木の陰から姿を見せた者が居た。真名神慶悟だ。
「そういうことか……私利私欲のために、担当するアイドルを売った訳か」
 慶悟はそう言って、山城に哀れを含む視線を向けていた。
「な……何のことです? 美奈子ちゃんの様子を見に行かないといけないんで、失礼しますよ……」
「おっと、行かせないぜ」
 山城の頭上から声が聞こえてきたかと思うと、すたっと山城の前に降り立つ者が居た。守崎北斗である。
「大手の芸能プロダクションに電話してたんだろ? 何なら、電話番号言おうか?」
 得意げな表情の北斗。山城の表情は引きつっていた。
「……か、関係ないでしょう! 人がどこに電話してようと」
「いや、関係あるでしょう。そことの関係が、事件を起こした原因なのだから」
 水城司が姿を現した。その背後には、守崎啓斗の姿もある。
「たく、マネージャーが聞いて呆れるぜ。風邪薬に、変なもん混ぜさせるなんて」
 心底呆れたように言い放つ啓斗。それに山城が反論した。
「なっ、何を言い掛かりを!」
「言い掛かりではないですわ」
 そんな言葉とともに姿を見せたのは、御影瑠璃花だった。そばにはシュライン・エマと、メイドのファルファに支えられているファルナ・新宮の姿もある。
「例の薬を飲んで、気分を害した人が居るのよ、ここに」
「はい〜……とっても気分が悪かったです〜」
 シュラインの言葉を受け、ファルナがぐったりとした様子で言った。つまり、飲んだのはファルナだということだ。
「そ、そんなの個人の体調のせいかもしれないじゃないですか!」
 なおもしらを切ろうとする山城。だが、山城のその言葉を否定しようという者がさらに現れた。
「あいにくだが、この薬のせいだ」
 と言って出てきたのは、レイベル・ラブだった。
「悪いが分析させてもらった。幻覚剤やら何やら色々と、混ぜたものだな」
「何を口からでまかせを! あんたみたいな人が言うようなことが信じられるはずないでしょう!」
 顔を真っ赤にし、山城がレイベルに向かって叫んだ。
「そうですか? 同じ成分分析の結果が出ているんですけどね」
「わたくしも今、成分分析をお願いしている所ですわ。直に結果は出ると思いますが?」
 司と瑠璃花が口々に言った。山城の顔が、ますます真っ赤になる。
「そんなに人を犯人に仕立てたいのか! だったら決定的な証拠を出せ! 証拠を!」
「証拠たァ、例えばこンなのかァ?」
 その声に反応した山城は、視線の先に現れた者の姿を見てとても驚いた。何故ならば、自分と全く同じ姿の人間がそこに居たのだから。
「メモ書く時はよォ、筆圧に気をつけにゃいかンよなァ。おい? へっ、丸分かりだぜ」
 ニヤッと笑ってみせるもう1人の山城。手には鉛筆で黒く塗られたメモ用紙が握られていた。
「イエース、Mr渡橋の言う通りデス」
 すっと姿を見せるプリンキア・アルフヘイム。実はもう1人の山城は、プリンキアがメイクを施した渡橋十三であった。
「デモ本当の証拠、アソコにありマスネ☆」
 すっと建物の角を指差すプリンキア。すると、白衣をまとった細身の男を連れた和服の女性が姿を現した。天薙撫子である。
 山城の表情が、白衣の男を見た瞬間に変わっていた。
「この方……片山さんが全て話してくださいました。借金を盾に今回の計画に参加させられたと」
「山城さん! もう全部ばれてるんだよ! それに私は殺されそうになった……一緒に警察に行こう。そして罪を償おう」
 申し訳なさそうに言う白衣の男、片山。だが山城は聞く耳を持たなかった。
「うるさい!! そいつの言ってることはでたらめだ!! 今、電話して確かめてやる……」
 電話をかけ始める山城。恐らく相手は大手芸能プロダクションだろう。しかし――電話はむなしく呼び出し音を繰り返すだけだった。
「畜生! 何で出ないんだよ!! 約束通り、美奈子の芸能生命を断ってやったのに!!」
「……あいにくだが、それは無理だ」
「その通り!」
 ぼそりと慶悟がつぶやいたのと同時に、大きな声が響き渡った。その声に振り返ると、征城大悟の姿がそこにあった。大悟の後ろから、サイデル・ウェルヴァも姿を見せる。
「スタジオで、飲み物用意してた奴が白状したぜ……『山城に頼まれた』ってよ!」
「なっ……!!」
 大悟の言葉を聞いて絶句する山城。よほど予想外であったのだろう。
「やれやれ、見苦しいねぇ。今日日のドラマの犯人の方が、まだ素直にお縄につくってもんさ」
 山城の態度に呆れ気味のサイデル。山城はしばし呆然としていたが、突然叫び出した。
「うっ……うっ……うわぁぁぁぁぁっ!!!」
 混乱の極みに達したのだろう、山城は叫びながら皆が居ない方へと走り出していた。大悟がそんな山城を足止めしようと、ベアリングを放つ準備に入った。
 と――山城が逃げている先に、だ。不意に美奈子が姿を見せたのである。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 そのまま美奈子に突撃してゆく山城。次の瞬間、山城と美奈子が交錯し……山城が地面に崩れ落ちた。鼻から大量に血を流しながら。
 交錯した瞬間、美奈子の正拳突きが山城の顔面にクリーンヒットしていたのだ。
「ベリーグッ! さすがMr鳴神デスネー☆」
 拍手するプリンキア。驚きの視線が美奈子に集まった。実はこの美奈子も、プリンキアのメイクが施された鳴神時雨だったのである――。

●恐らくは蛇足【9】
「本当にすまなかった!」
 大量の菓子折を手に、内海が草間興信所を訪れたのは、事件解決後1週間経ってのことだった。無論、今回の事件を回してしまった詫びだ。
 この1週間の出来事を簡単に説明しておこう。山城と片山は警察に逮捕され、片山を襲った男たちの線から暴力団がバックに居る芸能事務所の社長まで逮捕に至っていた。ちなみに例の薬は、どの成分分析の結果を見ても、クロの判定がなされていた。
 社長曰く、売れているタレントを潰して、そこに自分の事務所のタレントを押し込もうと考えていたそうだ。大手芸能プロダクションの名前を使ったのは、ヘッドハンティングをちらつかせて協力させる、偽装工作の一環だったとのことである。
 捜査の結果、名前が使われた芸能プロダクションは全くの無関係だということが分かった。つまり山城は、架空のヘッドハンティングに引っかかり、全てを失ってしまったという訳だ。もし山城が現状で満足していたのであれば、今回の事件は起こらなかったのかもしれない。
 さて、ここまで事件が広がってしまうと、マスコミに知られぬようにすることは無理となってしまった。美奈子も事件の真実を知り、ショックを受けてしまっていた。
 ただ不幸中の幸いなのは、美奈子は被害者ゆえにマスコミが皆同情的に見ていてくれたことだろうか。イメージダウンの心配は少なく、後はもう美奈子が上手くショックから立ち直れるかどうかという点に絞られる。
 美奈子が見た黒い靄に関しては、このような仮説が立てられた。例の薬を飲んだ美奈子の感受性がとても強く、いつしか幻覚を具現化するようになってきていたのでは、と。
 だとすれば、完全に幻覚を具現化させてしまう前に事件を解決出来たのはよかったのだろう。
 だが、それでも分からないことがいくつかある。まず、どうして美奈子だったのか。それから、山城が電話をかけていた相手の携帯電話はどこにあるのか。この辺り、取り調べが進んでも曖昧なままとなっていた。
 さてはて、真実は闇の中――。

【アイドルをおびやかす影【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0024 / サイデル・ウェルヴァ(さいでる・うぇるう゛ぁ)
                    / 女 / 24 / 女優 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0662 / 征城・大悟(まさき・だいご)
            / 男 / 23 / 長距離トラック運転手 】
【 0818 / プリンキア・アルフヘイム(ぷりんきあ・あるふへいむ)
          / 女 / 35 / メイクアップアーティスト 】
【 0922 / 水城・司(みなしろ・つかさ)
          / 男 / 23 / トラブル・コンサルタント 】
【 1316 / 御影・瑠璃花(みかげ・るりか)
               / 女 / 11 / お嬢様・モデル 】
【 1323 / 鳴神・時雨(なるかみ・しぐれ)
    / 男 / 32 / あやかし荘無償補修員(野良改造人間) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全23場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、アイドルをおびやかす何かのお話の後編をお届けいたします。かなりややこしいお話となってしまったような気がしますが……さてどう思われたでしょうか。
・今回はですね、自分の取った行動が、他の人の所に影響しているということが若干強めかもしれません。総勢14人、影響し合ってますね、本当に。
・ちなみに、もしも美奈子本人が収録に参加していたならば……展開は思いっきり変わっていたと思います、はい。
・天薙撫子さん、14度目のご参加ありがとうございます。また面白い方角から責めてきましたね。『片山内科』も回りましたから、悪くない行動だったと思います。もし回ってなかったら……さて、片山はどうなっていたことやら。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。