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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■『悪魔の指紋』〜その願いはただ切なく通り過ぎる〜■

「神様の指紋、っていうのあんた知ってるか?」
 草間はそう切り出した。
『神様の指紋』――― 確か、どこかで聞いたことがある。
「どっかの学者が書いたそうなんだが、な」
 草間は煙草をくゆらせ、ゆっくりと窓辺へと立つ。外を見ていたが、ぽつりと言った。
「一人の女の子が攫われちまってな。朝両親がその子の部屋に行ったら、空っぽのベッドだけがあったそうだ。――― いや、」
 振り向き、草間は書類の一番上にあった紙切れを取り出す。
「これだけが残されていた」
 見ると、そこには達筆で『悪魔の指紋を我は集め挑む』と書いてある。
「ヒントまで与えてくれちゃってまあ。その犯人は俺で遊んでるらしいな」
 本当に、ヒントらしきものが書いてある。

   1.『戸丸公園の桜並木』
   2.『黒い血痕』
   3.『神様の指紋』

 なんのことやらさっぱりだが、という顔をすると、草間は微笑した。
「俺も極力努力するからそんな顔するな。どうだ? この依頼、引き受けてくれるか?」

「子供の誘拐なんて、」
 と海原みなもは口を開いた。
「……助けてあげたいです、あたし」
「そうか」
 草間は煙草の煙をすうっと吐き、改めてみなもを見つめた。
「その発言は、依頼を引き受けてくれると見なした。明日、またここへ来てくれ」
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 草間から依頼を引き受けたみなもは、『神様の指紋』を、まずネットや辞典で調べてみた。
 そこから引き出されたのは、大体にして『星』そのものということだった。昔、アメリカの文学者だかが発言したものらしい。
「じゃ、悪魔の指紋って……?」
 謎解きだろうか。いや、そんなものとは少し違う気がする。
 草間の元へ行くと、草間は上着を着るところだった。聞くと、家族にまず当時の状況を聞きに行くという。当然、みなももついていくことにした。
「ああ、どうやらまともな事件そうじゃないからな、」
 草間が煙草をもみ消しながら言う。
「霊水とか持ってたら、持っていったほうがいいぜ」
「それなら、もう持ってきました」
 みなもがそう答えると、草間は「用意がいいな」、と笑った。
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『美土栄次郎』と表札のある家の前で、草間は足を止めた。
「みづちえいじろう……ここだな」
 メモ帳を見ながら、草間は言う。ごく普通の家で、特に金持ちとか神秘的な感じもしない。
 いくらインターホンを鳴らしても誰も出ないので、草間が扉の取っ手に手をかけると、カギが開いていた。草間の表情が厳しいものになる。
「海原さん、用心しろよ」
「はい」
 言われなくても、だ。まだ13歳のみなもにも、この状況が普通ではないことは感じ取れた。
 ゆっくりと、家の中に入る。荒らされた様子は特にない。例の『攫われた女の子』の部屋でさえ。
「女の子の名前はなんていうんですか?」
 みなもが聞くと、
「美土星菜(みづちせいな)、だ」
 と返ってきた。草間はベッドや勉強机を熱心に調べていたが、「おかしすぎる」と呟いた。
「わたしもそう思います」
 みなもも、気付いた点を言う。
「どうして家の中をあちこちくまなく調べたのに、家族の写真がひとつも出てこないんですか?」
「それに玄関に家族分の靴がきちんと並べてあったのもヘンだ。……まあ、両親からの依頼はメールで届いたんだが、それに添付されていた星菜ちゃんの写真もプリントアウトして……、」
 そこでメモ帳に挟んであった筈の小さなそれを取り出した草間は眉間にシワを寄せた。
 覗いたみなもは、「消えてます、か? これ……」と呟く。
「っざけやがって……」
 疲れたように煙草をくわえる草間に、みなもが霊水を差し出す。
「ためしに、これをかけてみてはどうでしょう? 無駄かもしれないですけど……」
 草間が黙って差し出した紙切れに、みなもは霊水を数滴たらしてみる。すると―――。

     くろいもの ち さくらへかえる のぞみうる ただ……

 文字が浮き上がった。まるで黒くなった血で書いたような達筆で。
「……戸丸公園に行ってみるぞ」
「はい」
 二人は駆け足で戸丸公園へ向かった。
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 戸丸公園は、ここら一体ではそこそこ大きな公園だ。噴水も図書館もあり、もちろん桜並木もある。
 だが、もう夕方すぎだとはいえ、人気がほとんどなかった。みなもはそっと、何気なく霊水の器を握りしめる。
 桜並木に入ったとたん、ごうっと風が吹き、何かがぴしゃぴしゃと二人に当たった。
「!」
「これは……」
 黒い、血。咲き誇っていた桜の花弁が一斉にそれとなって二人に襲いかかったのだった。草間がくわえていた煙草を殴るように捨てたとたん、ぼうっと夕闇にパジャマ姿のおさげの女の子が現れた。年のころは5〜6歳だろうか。
「星菜、ちゃんか?」
 写真を見ていた草間には分かるのだろう。その言葉に反応したように、女の子は閉じていた瞳を開き、だが草間ではなく、みなものほうを見た。
「おねえちゃん、それ、もってきちゃったんだ」
 響く言葉が、哀しげなものになる。
「せっかく、お父さんもお母さんの命もすいとったのに……そのおみず、もってきたら、あたしのおねがいごと……」
「どういうことなのですか?」
 相手が年下でも、みなもの口調は変わらない。無論『そのおみず=霊水』も離しはしない。
「かみさまのしもんは、ほし。かがやくほし。あくまのしもんは、ひと。このほしにいきるいちばんみにくいたましい」
 抑揚のない、台本を棒読みするように星菜は言う。
 星菜は、生まれつき病気を持っていて、とうとう「あと1年ももたないだろう」と医者に宣告された。
 それを知った両親は哀しみ、前々から親族から疎外されていた、とある怪奇の研究をしている親戚のひとりに助けを求めた。
「悪魔の指紋」を集めれば、それはいずれ「神様の指紋」となって星菜は一度死ぬが蘇るだろう、と。そして「悪魔の指紋」とはこの世で最も醜い人間たちなのだ、と。
「イカれてんぜ、それ吹き込んだヤツ。要するに元凶はその親戚ってわけか……しかし、星菜に魂を吸い取る術を与えるなんて、どういうヤツなんだ?」
 草間は呆れたように言ったが、みなもはふっと微笑した。草間が怪訝そうにみなもを見るがお構いなしだ。
「星菜さん、でもあなたがやったことはいけないことなのですよ」
「どうして? いきたいっておもうの、いけないことなの?」
「いいえ。でも、どんな時でも従わなくてはならない宿命というものが、きっとあるんです」
 ちらり、とそこで初めてみなもは草間を見る。草間は分かったように、わずかに頷いたのみだった。
『許可』を得たみなもは、星菜に近付いていく。星菜は不思議そうに、長身のみなもを見上げる。
「星菜さん、あたしはこの依頼を引き受けた以上、それに従います―――なによりもあなたのために」
 ざっ、と一気に霊水を星菜の頭からかける。
 星菜はきょとんとしていたが、その身体はどんどん薄れていく。
「くるしいの、とれてく……おねえちゃん、どんなまほうつかったの……?」
 声がかすれていく。答える前に、星菜は砂となって散った。
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「俺、今回全然働かなくてすんだな」
 草間が新しい煙草をくわえ、火をつけながら星空になりかけている天を仰ぐ。みなもはふと、星菜の残骸のひとつを見つけた。
 ひとつの、小さな、星の形をした砂だった。
「…………」
「公園にいつもより人気がなかったのも、星菜ちゃんが魂吸い取っちまったからだろうな……まあ、星菜ちゃんは結果まずいことしちまったわけだけど、」
 ぽん、としゃがみこんで砂を見つめているみなもの頭に草間は手を置く。ひとつ、そうして髪の毛をくしゃりとやった。
「星菜ちゃんはきっと、今度は幸せに生まれてくるさ」
 みなもは、きゅっと星砂を握りしめた。


 それは、叶わなかったただひとつのかなしい願いのあかし―――


《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:1252 / PC名 :海原・みなも/ 性別:女 / 年齢:13 / 職業:中学生】




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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真緩(とうりゅう まひろ)です。
今回、ライターとして書かせていただきました。
行動内容がきちんと記されてありましたので、物語を進めやすくもあり、逆だったりもありましたが、みなもさんの『悪魔の指紋』依頼はこのような結末になりました。
これからも魂をこめて精一杯頑張らせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>