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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『のるちゃんの怪』〜ぬいぐるみバンバンザイ〜


《「ぬいぐるみショップのる」って知ってる? あそこにあるぬいぐるみたちが、昨夜から街を歩き回って人々の魂吸っちゃってるんだって! 店長の名前も、そういえば「のる」とかいう名前だったよね。なんかカンケイあるのかな? 以上、オモシロ情報でした!》

「ほへー、こりゃまたオモシロそーな怪事件っv」
 回ってきたメールを見て、瀬名雫は小躍りした。
『ぬいぐるみショップのる』。
 検索してみると、つい最近開店したばかりの、カワイイぬいぐるみばかり置いてある人気ショップらしい。店長はなんと、中学を卒業したての15歳の女の子らしい。

「調査してみる価値ありとみたっ。カキコカキコっと……」
 かたかた、と雫は慣れた手つきで掲示板に『協力者募集』の書き込みを入れる―――。


「ふわぁ、やっぱりじっくり見るとかっわいいショップ!」
 雫の掲示板を見て真っ先に「ぬいぐるみショップのる」にやってきたのは、海原みあおだった。いつも小学校の帰り道に見てはいたのだが、掲示板にあったような噂をきいたのは初めてだったので、正直『調査』より『好奇心』が先立ってやってきたのだった。
「魂吸ってるっていう噂のわりには、人通りが多いなあ」
 きょろきょろと、ショップの周りを見渡す、みあお。その銀色の瞳に映るのは、そこそこの数の人間達である。
「まあいいか、さっそく黒幕っぽい店長さんに聞き込み聞き込みっ」
 好奇心旺盛な性格から、コワさよりドキドキワクワクのほうが先立っていた。みあおがショップの白い扉を開けると、彼女と同じ色の銀の小さな鈴が、しゃららん、と扉の上のほうで鳴った。
「いらっしゃいませ」
 清涼な空気と共に、涼やかで穏やかな声が流れてくる。黒髪を背中の半ばほどまでのばした、真っ黒な瞳の、清楚な美少女がぬいぐるみをたくさん抱えて棚に陳列しながら、こちらを振り向いてにっこり微笑したところだった。
「こんにちはっ!」
 みあおはそして、率直に聞いてみた。
「ねえねえ、魂吸って、なにに使うの? なんかの役に立つの?」
 ……率直すぎる。
 だが、店長らしきその美少女は、ちょっときょとんとして、苦笑した。
「ああ、あの掲示板に書いてあった噂のことですね。ですが、わたしにはよくわかりませんの。まあ、ショップの店長が黒幕だという結論に達するのは無理ないですけれど……」
(あっやし〜)
 みあおは、ジト目で店長、のるを見る。
 黒幕が、そんなにカンタンに自分のことを明かすはずがないし。みあおはベツの質問に変えてみた。
「どうして15歳とかでこんなお店開いてるの? おうちがよっぽどお金持ちなの?」
 のるは、またも苦笑した。よく聞かれる質問なのだろう。
「ええ、確かにわたしの実家はお金に不自由はしておりません。このお店は、わたしの趣味です」
「わざわざ高校にいかないでお店ひらくなんて、変わってるね!」
 みあおはそう言って、ぬいぐるみのひとつを取り上げる。
 ショップには実にたくさんの種類と数のぬいぐるみがある。彼女が抱き上げたのは、イルカのぬいぐるみだった。おなかを押すと、きゅぅっと鳴いて見た目と総じてめちゃくちゃにカワイイ。
「あら?」
 のるが、ふと棚のぬいぐるみのひとつを見て、呟いた。
「なに?」
「いえ……なんでもありませんわ」
 のるはすぐに視線をみあおに戻し、
「美しい髪と瞳をしておりますわね、お客様。魂もきっとお綺麗なのでしょうね」
 と、微笑して言う。
「? なにが言いたいの? のるさん」
「深読みなさらないでくださいね。そのままのとおりの意味ですわ」
 かららん、と鈴の音がして、みあお同様に学校が終わったらしい女の子達が入ってくる。この子達は、あの噂を知らないのだろうか。いや、よく耳をすませてみると―――
「ねえねえ、ここの噂、知ってる?」
「うんうん、だからこそおもしろそーじゃん! ひとつゼッタイ買って帰ろう!」
 というような会話があちこちから聞こえてくる。みんなみあおと同じで、好奇心旺盛な年頃らしい。
「そのぬいぐるみ、差し上げますわ」
 のるが、みあおに言う。
「初めてのお客様には、ひとつぬいぐるみをプレゼントしておりますの」
「ホント!? ヤッター!」
 素直に喜ぶ、みあお。そしてイルカのぬいぐるみに「みゃあ」と早速名付け、抱きしめてふかふかの感触を楽しんでいたとき、ふとあることを思いついた。
「じゃ、みあお、今日は帰るね! ばいばーい!」
 のるが、ほかのお客の応対に忙しい頃合を見計らって、そう手を振る。ちょうどレジの順番待ちが多くて、みあおの姿はのるからは死角だ。それでも、のるの、「はい、これからもごひいきに」、という応対だけは聞こえた。


 ―――夜、一般人なら就寝している時刻に。
 レジの後ろの入り口、そこにこっそりと忍び寄る影があった。
 ほかでもない、みあおである。
 あのあと、店を出るフリをしてから棚の影に必死に隠れて、この時間まで待っていたのだった。
「たっましい吸われちゃうかもしれないけどねぇ」
 調査はめんどくさいけれど、すっきりしないのも好きではない。
 お腹がすくのも我慢して、この時間までこぎつけたみあおは、音を立てずにレジの後ろの扉を開けた。恐らくここがのるの私室につながっていると踏んだのだが、ビンゴだった。
 部屋は真っ暗で、もうのるは眠っているらしい。
(みあおもねむい〜)
 でも、なによりも好奇心好奇心(さきほどからそればかりだが)。食事はあとで山ほど食べればいい。今はこのチャンスを逃す手はない。
(どこかに隠れて、店長が動き出すの、まとうっと)
 やはりここは、王道でベッドの下だろうか。小柄なベッドだったが、こちらも小柄なみあおの身体には充分すぎる隙間だった。
 身体をねじこんだとたん、ギシ、とベッドの上で音がした。
(うわ、早速?)
 だが、足音がしない。キイ、と扉の音だけがして、それきりしーんとなった。焦れたみあおが、ベッドの下から這い出て再び店内へ戻ると―――
「民族大移動!」
 思わずきらきらと目を輝かせてしまった。薄暗い店内のぬいぐるみ全部が、なぜか少しだけ宙に浮いているのるが開けた扉からどんどん外に出て行く。
 最後にのるが出ると、みあおもあとを追った。


 行き着いたところは、児童公園だった。
 それはもうたくさんのぬいぐるみ達が、なにか宙に浮きながら這いまわっている。
「てーんちょうさん、なにしてんのかなっ?」
 ぽん、とこちらに背を向けているのるの肩に手を乗せようとしたみあおの手が、すかっと空振りした。
「んなーっ!? ま、まさかのるってゆ、ゆうれ、……っ」
 のるは昼間とは打って変わった無表情で一度みあおを振り向き、みあおが持ったままだったイルカのぬいぐるみを指差した。
 とたん、
「くっ、くるし……っ!」
 金縛りにあったように身体が動かず、心臓の辺りから『なぜか』食道をとおり、口から何かが出て行こうとする。
「もう充分に魂を吸ったからぬいぐるみ達は『それ』が出来るのに―――こんなところにくるからあなたまでこうして魂を吸われることになるのですわ」
 のるの声が遠くなりかけたとき、ふっと身体が楽になった。
「!」
 のるの、驚く気配。みあおの前に、青い小鳥のぬいぐるみが立ちはだかって青白い美しい光を放っていた―――まるで、みあおの魂を守るかのように。
「やはり……その青い小鳥のぬいぐるみ、あなたがお店に来てからあなたのことを気にかけていたもの……そう、『裏切る』のね」
 青い小鳥のぬいぐるみのくちばしから、ぴぃ、と可愛らしい声が漏れる。―――ぬいぐるみに、『みあおのこと』が分かるのだろうか?
 力を取り戻して体勢を立て直したとき、背後から「待ってください、待ちなさい、『わたし』!」と、『のるの声がした』。
「え? え? のるって双子だったりしたの?」
 混乱する、みあお。
 そこには確かに、宙には浮いてはいなかったけれど―――のるの姿がある。
「だって……あなただって欲しがってたのではないの」
 と、宙に浮いたのる。
「そんなの、子供の頃の話だわ! やっと身体が動かせるようになったから来てみたものの……まだ、『世界一大きなぬいぐるみ』を欲しがっているなんて。作ろうとしていたなんて」
「はぁっ!?」
 みあおは完全にパニックに陥った。なにがどうしてどうなっているのやら、である。
「……わたし、幽体離脱のようなものが小さい頃からできたのです。その『分身』が、そこにいるわたしですわ」
 と、花柄模様のお嬢様系パジャマを着た、のる。
 のるはぬいぐるみが大好きで、物心ついたときからずっと「世界一大きなぬいぐるみがほしい」と思い続けていた。だが、どんなに大きなぬいぐるみを両親が与えても「もっと大きなの」が欲しくて、たまらなかった。
「わたしの家系は不思議な力をもっておりまして」
 と、のるは続ける。
 のるには、ぬいぐるみを操って人間の魂を吸い取る力と、幽体離脱のようなものができる力があったのだという。
「人間の魂は、ぬいぐるみに強い力を与えます。それこそ、この数ならば、本当にわたしがほしかった大きなぬいぐるみが作れますわ」
 つまり、とみあおは考えてみる。
「二重人格っポイ?」
「え?」
「だって、幽体のほうはまだでっかいぬいぐるみが欲しくて、本体ののるは、それを止めようとしてんだもん」
 のるはうつむきながら、白状した。
「そうですわね―――実は、メールを雫さんのところに送ったのもわたし自身ですもの」
「えっ!?」
「自分ではなんとかできなくて―――どうにかしてほしくて、……申し訳ございません」
「はぁ……」
 一気に力が抜けて、座り込んだみあおだった。


 後日談、ではあるが。
 ぬいぐるみ達が吸った魂はそれぞれの人間達に戻され、みあおは意志もあって時折動く「青い小鳥」と「イルカ」のぬいぐるみの二つをお土産にもらった。
 それでもたまに真夜中頃、戯れにショップの扉に耳を近づけると、『ふたりののる』の言い争いが聴こえてくるのだった。


《完》





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
☆1415/海原・みあお/女/13/小学生☆




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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真緩(とうりゅう まひろ)です。
今回、ライターとして書かせていただきました。
みあおさんはとても動かしやすく、書いていて楽しかったです。しかし、世界一大きなぬいぐるみなんて、上を見るときりがないような。
解決する気はないのに、結局解決に向かってしまいました、すみません;
みあおさんの設定背景をちょこっと拝借して青い小鳥のぬいぐるみを出してみましたが、少しでも気に入って頂けると幸いです。

それでは、また……☆