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<東京怪談ノベル(シングル)>


二人の守護神

「幸せの青い鳥」という生き物が、人間が人間(海原みあおという少女)を
改造することによって作られた。
人間を幸せにするために。
しかし、「幸せの青い鳥」が最初から人を幸せにできると思ったら大間違いである。
それは過酷としか表しようがない訓練の賜物によって成立する。
そして、その訓練が順調に進んでいるかと言われれば・・・、
それはNOという答が返ってきてしまうのである。

 そう、この実験ははっきり言って上手く行っていなかった。
研究者たちが業を煮やす程に。
そこで彼らは考えた。
あらゆる場合に対応したタイプを作ってはどうか・・・と。
作られたタイプは4種類。
みあおの通常である、子ども姿。「隠密型」、
そして、パーピー姿。(鳥の姿に女の顔と豊満な胸。
鷲のような強靭な翼と爪を持つ)「戦闘型」、
小鳥姿。「偵察型」、
もっとも幸運を発揮できる天使姿。「支援型」・・・。
この4つが別々の人間によって補われている・・・のではなく。
すべて、みあお一人なのだ。
この4つを必要に応じ、間違わずに変身しなければならない。
それは、過酷を極めた。
色々な場合を想定し、パターンによって変身順序が違う。
それを何回も繰り返し繰り返し訓練しなければならないからだ。

 そんな過酷な訓練の中でみあおの中に生まれた人たちがいた。
みあおの中には、オリジナルのみあおの人格以外に二人いる。
6歳くらいの幼いみあお。通称は「みあおちゃん」
この子は、みあおの精神崩壊の最後の砦として作り出された。
もう一人は27歳くらいのみあお通称は「みあおさん」
こちらは、能力獲得と制御のために作り出された。
二人に共通するのは、みあおの心を守るためにいるということ。
みあおは気付いていないが、何かが自分を守ってくれているという安心感はあった。
二人のみあおは自分たちの存在をみあおにばらすことなく、
必要な情報だけをみあおの記憶の中に潜り込ませていた。
そして、その目的を果たすために二人はお互い協力しあうことにしていた。
小鳥姿と子ども姿は小さなみあおの管轄。
ハーピー姿と天使姿は大人のみあおの管轄。
これは当然の配役だった。
小さなみあおは頭の回転がよく、偵察に向いている。
状況判断能力が優れており、大人なみあおと同等くらいの知識を持っていた。
大人なみあおの方は、落ち着きがあり、忍耐力があった。
戦闘型の場合、人を傷つけ、殺す役目がまわってきてしまう。
いくら、頭の回転がいいといえども小さな子供。それは酷すぎる。
天使姿の場合落ち着きと冷静さが必要になってくる。
支援型は冷静なまでの任務遂行力の必要を迫られていたからだ。
対象を哀れんで、指令以上の幸福を与えようと考えてしまうのは厳禁であり、
因果律に作用して、幸福にするのだから、できる度合いが決まっている。
それ以上を望み、そして失望してはいけないからだ。
小さなみあおは判断力があるわりに、情にもろく、冷静さに欠ける部分があるのだ。
二人はお互い、名前を呼びあっては、励ましあってきた。
「ちゃん」「さん」の区別だけだが、それで充分、分別するには事足りている。
オリジナルは「みあお」と呼び捨てだ。
みあおは、二人に訓練を任せ、自分の柔らかい殻の中で、脱出の機会を窺っていた。
研究者たちは、幼いみあおに無理な指示を出す。
みあおは、何十時間という訓練に疲労し、意識が朦朧としていた。
そんな中で変身したのが、変身しなければならない小鳥姿ではなく、天使姿だった。
みあおに厳しい声がマイク越しで飛んでくる。
小さな呟きが唇から途切れ途切れに零れる。

「早く・・・しなきゃ・・・、処罰が・・・。変身速度を早めるのは、私のためでもあるのだから・・・」

息を乱しながら、みおあは小鳥姿になるべく、青い閃光を放った。
頭上にあった青く輝いた輪は消滅し、波打つようにゆるやかに流れていた髪は短く、
美しく伸びた手足とともに空を飛ぶための羽に姿を変えた。
背中からはえた羽がどんどん小さくなる。

「みあおさんお疲れ様。次はあたしの番だから・・・」

現われたのは、小さな青い鳥。数回羽ばたき、床に着地しようとしたとき、赤いランプが点滅し、次の変身を促した。
消え入りそうなまでに高い声で「ピィ・・・」と悲しげに鳴き、また変身が始まる。

「みあおさん・・・がんばって・・・」

きつく目を瞑ると、小さなみあおは意識を一瞬集中して、
想像の中で大人なみあおに柔らかく手を繋ぐように、入れ替わる。
そうして、また変身が行われた。
顔は天使姿のように美しく、髪も銀色の波打つ緩やかな海のように揺らめいた。
豊かな胸も同じように。ちがうのは、腕と羽が一体化し、体は鳥のように青い羽が包み、
足の爪は鷲のように鋭く・・・、美しいはずの足は、鷲によく酷似していた。
もう・・・嫌だ!と言わんばかりに、壁を鋭い爪でひっかく。
ギィィィィ―!!と耳を塞ぎたくなるような音が辺りに響いた。
みあおのそんな様子を気にとめることもなく、無常にもまた、ランプは点滅した。
まるでそんなことして、どうする?と嘲笑うかのように。
青い閃光の中、羽と一体化していた腕は綺麗に、美しい肌を見せる。
体も同様に。鷲のような足は、適度に肉がつき、骨格が変わり、人のそれになる。
鋭い爪は短く・・・羽は背中を突き破り、羽化するように静かに現われた。
天使姿になったみあおは苦しげな吐息を漏らす。
息継ぎもままならず、時々、咳き込んでいる。
その様子を見た研究者たちは、これ以上の訓練の継続は無理だと判断し、
終了の旨を青いランプの点滅に告げさせ去って行った。
そうして、青い閃光の中、小さなみあおが姿を現す。

「ねぇ、みあおさん、珍しいね。いつも冷静なのに、あんなことするなんて」

頭の中で大人なみあおに話しかける。

「ちょっとね。どれくらいハーピーの時に力が出せるか試してみたの。
あと、少し抗議の意味も込めたのだけど・・・。
私、だいぶ能力を獲得したわ。うまく制御できるようにも」

小さなみあおは満面の笑みを浮かべる。

「本当?!よかった。変身するとき大変でしょ?
いつもみあおさんに任せきりだからなぁ。あたし」

「いいのよ。そんなこと・・・。気にしないで?
それより・・・私たちのみあおの様子はどう?」

「今は少しだけ眠ってるかな。
さっきまでは、私たちが羽のあるときに窓から見える隣の研究室の間取り、
ボタン操作なんかをみあおの記憶に入れておいたから、脱出の作戦練ってたよ」

「そう・・・。みあおが脱出を強く願っているのは分かっている。
だから早く、能力を全て獲得し、制御できるようにならないと・・・。
脱出のとき、きっと皮肉にも力に頼らざる得ないだろうから・・・」

「うん。そうだね。がんばっていこうね。みあお・・・後、もう少しだけ待ってて?」

 聞こえるはずのないみあおに二人は優しく話しかける。
みあおを包む柔らかい殻は、小さなみあおと大人なみあおが協力して、
創りあげたシールドのようなもの。
その中で、静かに・・・静かに脱出の機会を窺っているみあおの様子を確かめながら、
早急に「幸せの青い鳥」の完成を二人は推し進めた。
全ては、かわいい主・・・みあおのために。