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<東京怪談・PCゲームノベル>


タイムカプセル

●みんなで埋めよう
タイムカプセルの中身は空だった。まぁ普通は掘り起こして思い出す物なので中身が入ったまま来るというのはおかしい。入っていたとしても取り扱い説明書ぐらいだ。
『あなたの思い出を未来に運んで差し上げます。タイムカプセルは地面でずっと未来を待ち続ける便利な物です』
とか、ありふれたキャッチフレーズである。
恵美と嬉璃は誰かと一緒にタイムカプセルの中に何かを入れて埋めようと言う事にした。
「そう言うのって楽しみぢゃ」
嬉璃もやる気満々である。

いち早く参加したのは風野・時音だった。あのエルハンドの恋人である女神降臨事件以来記憶が曖昧らしい(時間矛盾による記憶喪失というのが正しい)。前に、タイムカプセルを埋めた記憶があるらしく懐かしんでいるようだ。
次にどこから湧いてきたのか、中学生の水野・想司だった。彼は同級生の森里しのぶと一緒に来ているが…、大きな棺桶を引きずって参加している。ちなみにタイムカプセルは、直径1mの球体で特殊金属である。棺桶はゆうに2.1mはある。たまにゴトゴトと動くのが不気味だ。
最後に現れたのは、シュライン・エマと草間・零だった。楽しそうと言うことと、零にこういった思い出を作る機会を与えるのは大事と言うことで連れてきたそうだ。
あとは、三下やら柚葉、綾、あやかし荘のメンバーがいる。


●風野時音の入れる物
彼は…正確には耳に付けているピアスの青い宝石に封印されている「彼」は過去の事を思い出した。過去の時音は「未来の四大退魔剣士」だった。未来からやって来た人物なのである(本来は現代から未来で育って現代に戻ってきたというくそ難しい存在である)。そのときに彼の命を庇って無くなった少女のことを思い出し、「今」の彼を通じて涙が出てきたのだ。
「どうしました?」
恵美が訊ねると、
「いえ何でもないです」
といい、埋める物を探してきますといって自室に戻って行く。
過去の時音が封印されているのは、今の天空剣師範エルハンドの手によって完全消失から救われた。当の本人は知るよしもない。しかし、絆や縁があると其れさえも越えることがあるようだ。部屋の中を探してみると一つ見つかった。ボロボロになった人形。かなり損傷が激しかったが、何度も手に針を刺し絆創膏まみれになりながらも、自分で修繕したのだ。この人形を持っていたのは「過去の時音」の師であり退魔剣士の弓原詩織の物だった。
「現在の時音」にしては何処でどうなったのか知るよしもないが…この人形が何かを失った物の手がかりだろうと考えた。それは未来で起こること…。庇ったのが事実なので有れば…と言う思いからか、ピアスから「光る球」を生み出した。丸い宝石。しかも光も当てずとも自ら光っていた。
「これにしよう」
彼は、この球体を綺麗に箱に閉まって、「未来の僕を救ってくれた人へ」と書いたカードを挟み下に下りていった。

●水野想司の入れる物?
言わずとも、分かるだろうが…棺桶らしい。しかも大きなスコップを持っている。
「其れを埋めるの?何が目的で?」
しのぶとシュラインが恐る恐る訊いてみた。
彼は、ニカっと笑って、Vサインをしつつこう答えた。
「え?その物体は何かって?言い質問だね、しのぶっ☆話は突然変わるけど…99年七の月!空から恐怖の大王が降ってこなくて残念だった人、はーい!」
と言って、想司は手を挙げた。
「あのシチュエーションは本当に残念だったよ!数百年単位で皆を期待させといて、何にも起きないなんて大失望の極みさっ☆だから、これの登場となるわけだよっ♪(はあと)」
季節はずれの冬の風が、あやかし荘に静寂を与えた。
とにかく良く分からないが、例の大予言が当たらないから、「其れ」を未来に埋めておこうと考えたのだろう。
「しかし…棺桶をあやかし荘に埋めるのは良くないわ」
とシュラインが想司に言うが、彼自身、其れで納得するわけもないのは承知だった。
シュラインは耳が良いので、この不気味な棺桶から何か聞こえてくる。聞き慣れた声だった。
『ぬおお!着替えの最中に後頭部を鈍器で一撃!おのれ暴走する14才め!嗚呼…バニー衣装故に中が汗で蒸して、吾輩大ピンチ!』

彼を…止めたいけど、やめておいた方が良いわね…これはこの世の中の平和のため…とシュラインは判断した。
「しのぶちゃんと零ちゃん…、世の中には知っては良いことと行けないことがあるから、あの棺桶は気にしないでおきましょう…」
冷や汗をかきながら、自分たちが入れる物を準備することを促した。
当の想司は、鼻歌を歌いながらすでに棺桶を埋める穴を掘っている。
「棺桶」が永遠に開いて欲しくないと思うのは誰しもが願う。そうあって欲しい。

●シュライン・エマの入れる物
シュライン・エマは零と共に来ている。ポラロイドカメラに習字セット、テープレコーダ等々持ってきているようだ。
「どれが良いかしらね〜♪」
約一名除いて、管理人室で参加者と考えていた。除く一名というのは…言うまでもなく棺桶を埋めている中学生である。
「記念撮影ということでカメラを持ってきたけど…嬉璃ちゃんダメだったよね…」
「いや儂は別に構わぬぞ」
「え?」
嬉璃は言うには、ある人のお陰かすでにカメラ恐怖症を克服したらしい。
「記念撮影とっちゃおう」
「うむ☆」
「シュラインさん、記念撮影は今回参加している人全員撮ることに異論はないはずです」
「そうよね」
シュライン自身が入れる物は、「皆で共有できる思い出」ということ…。零にも其れを経験して欲しいという。零には其れがどんなことなのか今のところピンと来ないようだ。

記念撮影を撮るため、あやかし荘にある大きな桜の木の下に集まり、全員の記念撮影を撮った。


●未来に向けて
恵美はある人とのデートの写真を恥ずかしげに持ってくる。嬉璃は、几帳面だったのか『三下いぢめ計画表結果ファイル』らしい。柚葉は遊園地に行った時のフリーチケットパスポートと、自分が書いた落書き帳。三下は皆の案で強引に「没原稿の草稿」となった。剣客エルハンドは、『多元宇宙論』という研究書物。歌姫は、質素な宝石箱のようだ。中に何が入っていると訊くのは野暮だろう。

想司はやっと目立たない所に「例の物」を埋めたようだ。清々しい汗を拭いながらさわやかな笑顔で戻ってくる。
「皆用意できたの?」
と、訊ねてきた。
「抜かりはないぞ」
と、嬉璃。
それぞれが準備万端と言う顔をする。
徐々に草間零もわくわくしていて、
「数年後にみんなで、『こんなことがあったのですね』とか『恥ずかしい!』とか笑ったり懐かしんだりするんですよね♪」
タイムカプセルについて分かったようだ。
そのはしゃぎ様は、シュラインは勿論のことその場にいる参加者も楽しんでいるとおもったに違いない。
皆が用意してきた物品はカプセルに十分に入った。その6割を三下の原稿というのは仕方ないだろうか。

そして、皆で穴を掘り、ゆっくりとそのカプセルを埋めていった。



●未来に向けて
無事に埋められたタイムカプセル。
その場に一人の剣客がいた。
彼は未来が見える。父親ほど鮮明にないせよ…この後どうなるか分かる。
中身に気になるものがあったためだ。
其れを考えてしまった。…別の意味で世界は大ピンチになる未来が見えた。そのころには彼もこの世界には居ないので気にしなくても良いのだが。
「其れはイヤだな…しかし、私自身も関わりたくないし、昔の未来よりましかも知れない」
と呟いた。
せめて、多元宇宙論に記載した「時間界」について少しでも役に立てばと思うだけにした。
他については、未来にどうなるか知るのは失礼と言うことで、何も考えずにその場を離れた。


彼以外の参加者はこのタイムカプセルがいつ開けられるか楽しみである。
あける時…自分はどうなっているのだろう?と胸のうちに秘め、それぞれの毎日を過ごす。
さて、皆はどう反応するのだろうか…。
其れがタイムカプセルの醍醐味なのだろう。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0424 / 水野・想司 / 男 / 14 /吸血鬼ハンター(棺桶屋)】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】


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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『タイムカプセル』に参加していただきありがとうございます。
私は実経験ではタイムカプセルを埋めたことはなく、少しあこがれていました。でも性格上待ちきれないこともあり私には性に合わない行事かも知れません。埋めたのは埋めたで、すぐ忘れて開封の時を待つ方が理想なんだろうなぁとおもいました。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝