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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:捕らわれた座敷童子
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 稚拙な文字列が、草間零の眼前でのたうっている。
 手紙だ。
 差出人は、富山県のとある小学校の生徒。
 一応、依頼である。
 だがむろん、小学生に探偵を雇えるほどの資金力があるはずもない。
 依頼というよりは「お願い」に近いだろう。
「困りましたねぇ」
 零が呟く。
 エアコンディショニングの風にくすぐられる髪も、困ったように揺れていた。
 このことを義兄に話しても、おそらくは一笑に付されるだけだ。
 怪奇探偵という異称を取る男は、けっして悪い人間ではないが、ボランティアはしない。
 それは、プロフェッショナルとしてはむしろ当然のことである。
「でも、私が勝手にやるなら、かまわないですよね?」
 決心したように顔を上げる零。
 報酬どころか、必要経費すら払ってもらえないだろうに。
 だが、
「座敷童子が捕らえられているなど、にわかには信じられません。でも事実だとすれば、放っておくわけにはいかないですから」
 地図を調べ、旅装を整える。
 まずは手紙を出してきた小学生に会って、話を聞かなくてはならないだろう。
 どうしてその子は、捕らわれているのが座敷童子だと知ったのか。
 どこに捕らわれているのか。
 そのあとで、どういう手段で捕らわれているとか、どうやって救出かとか、具体的な案を練らなくてならない。
「私一人の手には余るでしょうか‥‥?」
 いささか自信なく考え込む。
 彼女は、戦闘能力では義兄の草間を大きく凌いでいるものの、推理力や判断力ではやはり見劣りしてしまう。
 これは、経験の差という部分もあるだろう。
「やっぱり皆さんの助力を仰いだ方が‥‥私の貯金をはたいても交通費くらいしか支払えませんが‥‥」
 白く繊細な指が、受話器に伸びていった。







※5月8日午後8時からの募集開始です。
※このお話を最後に、5月はちょっと通常依頼をお休みして、シチュエーションノベルとシナリオノベルに集中いたします。
 そちらの方でも、よろしくお願いします。


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捕らわれた座敷童子

「今回は、女ばかりねぇ」
 蒼い瞳に微笑をたゆたわせ、シュライン・エマが言った。
「こういうのも悪くはないだろ?」
 見事な赤毛をかきあげつつ、羽柴戒那が応える。
 早朝。
 新宿区にある古ぼけたビルの前に参集したメンバーは五人。
 草間興信所所長の妹である草間零。
 事務員を務めているシュライン。
 大学助教授の戒那。
 高校生の巫聖羅。
 小学生の海原みあお。
 どういうものか、全員が生物学上の女性だ。
「たいていは、混合パーティーになるのにねぇ」
 しきりに聖羅が感心する。
「遠足みたい☆」
 お菓子の詰まった袋を抱えたみあおが笑った。
「ふふ‥‥ただの旅行だからね」
「まったくだね」
 事務員と大学助教授が、含みのある笑みを交わす。
 恐縮したように零が頷いた。
 怪奇探偵の本家たる草間は、今回は同行しない。調査ではないからだ。
 正式な依頼も受けていないし、経費だって計上されていない。
 シュラインが言明した通り、ただの旅行なのだ。
 たとえ、旅行先でやることが普段と変わらぬ怪奇事件の調査であろうと。
「本当に、ありがとうございます。皆さん」
 零が頭をさげる。
 報酬どころか必要経費すらまともに捻出できないような事に、良く集まってくれたものだ。
 怪奇探偵はボランティア団体や公務員ではない。
 金銭にならないこと動く理由はない。
 だが、今回、手紙を出してきたのは小学生だ。謝礼など期待できないし要求もできないだろう。
 にもかかわらず、皆が集まってくれた。
 感謝の気持ちでいっぱいだった。
「たまには旅行くらいしないとね」
 零の髪をシュラインが撫でる。
「あたしが零ちゃんと一緒に行かないわけないじゃん☆」
「みあおは、日本海の美味しいものが食べたいな〜☆」
 聖羅とみあおが笑う。
「ただの退屈しのぎ、さ」
 戒那一人だけは、なんとなく表現が複雑骨折しているようだ。
 全員分の交通費を出したのは、彼女なのだが。
 優しいくせに、唇にのぼる言葉は皮肉なものになってしまう。なかなかに損な性分ともいえるが、まあ、これはいまさらどうにもならないだろう。
 戒那らしい、と、シュラインは思った。
 ぶっきらぼうで、皮肉屋で、その実、けっこうな人情家で。
「国民のためとか言って搾取する政治家より、暇つぶしだと言って人助けする一般人の方が、ずっと良いよね」
 聖羅が分別くさい事を言った。
 仕送りなしで一人暮らしをしている彼女にとっては、安易な増税をおこなう政治家は、きっと邪神より憎いのだろう。
「言うじゃないか。聖羅くん」
 苦笑する助教授。
 真意はともかくとして、まったく女子高生の言うとおりだ。
 本当にここの連中は、真理というものを鋭く突く。
 年齢に似合わず。
 おそらくは、経験などから肌で学んだことなのだろう。
 尋常ならざる能力を持って生まれ、それゆえにこそ、尋常ならざる人生行路を歩んできた。
 苦労、と、一口に言うのは簡単だが。
 むろん、それを追求したり忖度するのは、怪奇探偵の流儀ではない。
「そろそろ行かないと乗り遅れるよー?」
 すでに走り出しかけているみあおが手を振った。
 まことに、賢者の弁というべきだろう。
「本当に、あの子の言うことはいつも正しいわね」
「まったくだね」
「じゃあ、あたしたちも正しさにしたがおう」
「はい」
 口々に勝手なことを言った年長者たちも歩き始める。
 夏の匂いを含んだ風が、五人の髪を揺らしていた。
 目指すは富山県。
 座敷童子が捕らわれているという話の真偽を確かめ、もし事実であるならばそれを救出する。
 一円の得にもならぬが、あるいはそれは、特殊能力を持ったものたちにとって必然だったのかもしれない。
 見送るように開いた窓からひとすじの紫煙がもれ、大気に溶けていった。


 座敷童子は、日本の妖怪の中で最も有名な部類に入る。
 古い家に憑く物怪で、多くの場合、その家に富と幸福をもたらすという。
 守り神というわけだ。
 見た目は子供で、おかっぱ髪に着物。
 今の世の中では、ちょっと珍しい恰好であろう。
 基本的に子供同士で遊ぶのが好きで、子供たちが遊んでいるとき、いつの間にか一人増えているなどという現象は、座敷童子の仕業らしい。
「なんだか仮定の連続で、申し訳ないけどねぇ」
 説明しているのは、もちろんシュラインだ。
 まあ、座敷童子を直接に見たことがあるわけではないので、このあたりは仕方ないだろう。
「哀しいというか悲惨な話も残ってるよ。座敷童子には」
 戒那が継ぐ。
 座敷童子と称される妖怪は、じつは死んだ子供の霊である。
 それも、事故や病ではなく、間引きされたり捨てられて死んだりした霊だ。
 普通はそういう霊体は悪霊と化してしまうものなのだが、昇華して座敷童子となるのだ。
 むろん、すべてではないが。
「お金持ちを妬んで、ていう可能性もあると思うよー」
 とは、みあおの弁である。
 最年少の彼女だが、その知力は大人におさおさ劣るものではない。
 座敷童子とは、主に閉鎖された地方都市に存在する伝説である。
 日本に限らぬが、そのような場所では貧富の差が非常に大きい。地主と小作人、という関係である。
「アイツの家が金持ちなのは、座敷童子が住んでいるからだ」などと考える人間はどこにでもいるだろう。
 それが積もって、差別や偏見に繋がってゆく。
 ヨーロッパの歴史に当てはめれば、魔女狩りというやつだ。
 このあたり、人間社会というもののやりきれなさだろう。
「でも、今回のケースはちょっと違うかも」
 聖羅が腕を組む。
 助けを求めてきたのは小学生だ。打算に基づいて行動しているとは考えにくい。
「あり得るとしたら、悪戯の方が可能性たかそうよね」
「でもまあ、信じないことには大前提が崩れるから。しかたないさ」
 シュラインの言葉に苦笑を返す戒那だった。


「はじめまして。よろしくお願いします」
 頭をさげる依頼人「たち」は、彼女らが想像していたより、ずっと礼儀正しかった。
 小学校三年生の一学級が、まるまる依頼人らしい。
「一応、みんなでお金を集めました」
 そういって、代表者らしき子供が、シュラインに小さな封筒を手渡そうとする。
 もちろん怪奇探偵たちは、小学生から搾取するつもりなどない。 
 笑って謝絶したのみである。
 現実的に言っても、封筒の中身がたいして金額でないことは一見して判る。おそらく一人分の移動費も賄えまい。
 であれば、無理に受け取る必要はないのだ。
 少し恰好をつければ、子供たちの笑顔と誠意だけで充分な報酬である。
「じゃ、詳しい話を訊かせてもらおうか?」
 助教授が促す。
 休日の校庭に、話の輪ができていた。
 座敷童子と子供たちが出逢ったのは、半年ほど前のことだ。
 彼らがいつも遊び場にしている場所に、ひょっこり現れたのだという。
 それは、白皙の美少女で、美鶴(みつる)と名乗った。
 最初は警戒した子供たちだったが、時間の経過とともに親和力を高め、学年が変わっても付き合いは滞りなく続いた。
 と、ここまでなら普通の友情物語である。
「どうして座敷童子って判ったの?」
 やや性急に聖羅が問う。
「いろんな不思議なことがおこったから‥‥」
 子供たちの一人が説明した。
 傷ついた小鳥を不思議な力で治したり、なくしたボールを見つけたり。
 奇跡としか思えないようなことをやってのけたらしい。
「でも、座敷童子の能力にそんなのあったっけ‥‥?」
 声に出さず呟いて、小首をかしげるみあお。
 幽霊でも妖怪でも悪魔でも同じだが、彼らはべつに万能の存在ではない。
 能力は当然限定されるし、力の及ばぬところでは失敗もする。
 そういうものなのだ。
 まして、座敷童子は有名でこそあるものの、力の格としてはさほど強くない。むしろ弱い部類に入るだろう。
 癒しの力やディテクトの技術をもっているとは、少し考えづらい。
 軽く目配せを交わす戒那とシュライン。
 子供たちの話は続いている。
 ある頃から、遊び場に大人の姿が時々あらわれるようになった。
 それは地元でも有名な富豪で、じっと美鶴を見つめていたという。
 そして先月、ついに美鶴が消えた。
 子供たちは必死に行方を捜したが、結局は見つからなかった。
 なにしろ、苗字も住所も学年も判らない。
 警察も相手にしてくれなかった。
 藁にもすがる気持ちで、有名な怪奇探偵に手紙を出したのだ。
「ふむ‥‥」
 聖羅が考え込む。
 たしかに、このような状況で警察が動くことはない。草間興信所を頼ったのはある意味で正解である。
 とはいえ、手掛かりが少なすぎるのも事実だ。
 せめて美鶴の背後関係が判れば、もう少し動きようもあるのだが。
「君たちは、その富豪が美鶴くんを攫ったと考えているのかい?」
 確認するように問う戒那。
 大きく頷く子供たち。
 状況的な判断としては、けっして突飛なものではないだろう。
「でも、決定的な証拠がない‥‥」
 シュラインの呟き。
 美鶴と富豪の繋がりを示すものが、いまだ見つからない。
「直接仕掛けるしかないかもね」
「だったら、みあおが偵察にいってもいいよ」
 年少組の二人は、すでにやる気満々だ。
 アテが外れたときのことは、どうも考えていないらしい。
「あのねぇ‥‥」
 なにか言いかける事務を制して、
「そいつを尻尾とみなして思いっきり引っ張れば、なにかしらのリアクションがあるかもしれない」
 助教授が言った。
 冷静な戒那までアクティブ派に転向してしまっている。
 むろん、理由があった。
 美鶴がいなくなってから今日まで、時間が経ちすぎているのだ。
 通常の誘拐事件なら致命的なほどに。
 これ以上、無駄に時間を費やすことはできない。
 その富豪とやらが事件に関わっている仮定した場合、座敷童子を捕らえて何をしようとしているのか。
 世界全人類の平和を願って、などという事を考えているはずがない。
 独占しようととしているのだから。
 力を。
 もし富豪が誘拐犯でなくとも、遊び場に来ていた以上まったくの無関係ということもないはずだ。
 はずとべきで動くのは戒那の好むところではないが、この場合は趣向より行動が大切だろう。
「んじゃ、いきますかー」
 腕を回す聖羅。
 みあおと零が無言で頷く。
 シュラインも頷いたが、青い瞳には賛同より留保の色が強かった。


 すっかり長くなった陽が落ちると、怖ろしいまでの静寂が周囲を支配する。
 眠らない東京とは違う、というところだろうか。
 深夜と呼ぶには早すぎる時間だが、住民たちは眠りの園へと旅だったのだろう。
「ここだね」
 赤い髪の助教授が、淡々と言った。
 目前には洋館。
 大正期のものだろうか。
「あんまり、座敷童子とは結びつかない家だねー」
 もっともな感想を漏らすのは、みあおだ。
 なんとなくこの妖怪には純日本風の家屋が似合う。
「準備おっけー? いくよ」
 聖羅の言葉には、ピクニックに出掛ける以上の緊張感は含まれていない。
 不法侵入を敢行しようとしているにもかかわらず。
 多くの選択肢の中から、彼女らが潜入という方法を採ったのには、むろん理由がある。 一つには、正面きって訪ねてみても、おそらく無益だからだ。
 しょせんは小学生の戯言としてかわされたら、こちらとしては手の打ちようがない。
 だからこそ、先に証拠を手に入れなくてはならなかった。
 悟られぬように潜入し、気づかれることなく撤収する。
 それが作戦の大前提だ。
 その上で、翌日にでも正式に面会を申し込めばよかろう。
 シュラインやみあおなどは隠密行動を得意としているし、戒那の特殊能力は捜査系技能の最高峰だ。
 いざとなれば、聖羅と零で現場を攪乱することもできる。
「最強パーティー☆」
 みあおの飛ばす与太も、あながち間違いではなかろう。

「‥‥セキュリティーは薄いわね」
 慎重に屋敷を探索しつつ、シュラインが呟く。
 ここまでは特に問題なく進んでいる。
 嫌味なほどに広い洋館の中には、ほとんど人の気配がなく、まるで死の眠りついているようだ。
 警報装置などもほとんどなく、彼女らの歩みを見とがめる者もいない。
 それが、かえって不気味でもある。
「ちゃんと掃除されてるって事は、人は住んでいるのよね‥‥」
 聖羅の言葉。
 静まりかえった屋敷に、さすがの彼女もうそ寒さを禁じ得ないようだった。
「地下には何もなかったな。となると正解は上か」
 ごく冷静に戒那が告げる。
 誰かを捕らえておくなら、最下層か最上階しかない。出入り口から最も遠い場所でなくては意味がないからだ。
 音もなく移動する一行。
 みあおの特殊能力を使えば先行偵察も可能だが、この場合、ばらばらに行動しては思わぬ危険な晒されることもある。
 力は一点に集中してこその力なのだ。
 他の階層には目もくれず、最上階を目指す。
 やがて、彼女らは一つの部屋の前に到達する。
「子供部屋‥‥?」
 小首をかしげるみあお。
 銀の瞳に、可愛らしいプレートが映っていた。
「みつる‥‥座敷童子の名だね」
「ええ。やっぱり、そうだったみたいね」
「やっぱりって? シュラインさん」
「みんなが考えたことを、ちょっと先に進めて考えてみただけ」
 黒髪の事務員が、ぽつりぽつりと説明を始める。
 今回の調査に参加したメンバーは、一つの疑問を胸中に抱いていた。
「どうやって座敷童子を監禁するのか」と。
 いまさら確認するまでもなく、座敷童子は妖の類である。
 したがって、通常の方法で捕らえておけるはずがない。
 封印結界か、あるいは霊的防壁か。
 いずれにしても、なんらかの魔的な要素が介在する事になるだろう。
 となれば、霊感のないシュラインはともかくとして、聖羅や零が気づかぬはずがない。
「じゃあ‥‥座敷童子は自分の意志でここにいるってこと?」
「座敷童子って前提で考えるから、わからなくなるのかもしれないな」
 みあおの問いには、戒那が応えた。
「でも、普通の人間ってわけじゃないわよね‥‥」
 思考の軌跡を辿るように呟く聖羅。
 依頼者たる子供たちが証言している。美鶴は不思議な力を持っていた、と。
「あたしたちと同じ、特殊能力者‥‥?」
「そうじゃないわ‥‥答えは、これよ」
 言って、シュラインが扉を押し開く。
 暗い室内。
 視界に入る額の中の写真。黒いリボンのかかった。
「な‥‥!?」
 息を飲むみあお。
 美鶴は、既に亡くなっているというのか。
「そういうことです。怪奇探偵の方々」
 廊下の奥から聞こえる声。
 接近を察知していたシュラインを除いた四人が、慌てたように振り返った。
 中年にさしかかった紳士が、寂しげな微笑を浮かべてたたずんでいた。


 秋吉美鶴は、この家の一人娘だった。
 富豪の家に生まれたのだから、他人はうらやむかもしれない。
 しかし、彼女には幸運の天使は微笑まなかった。
 生まれつき、心臓に欠陥を持っていたのだ。
 美鶴の八年間の人生は、そのまま闘病の人生だった。
 もしも彼女が貧困な家庭に生まれていたなら、あるいは八年間も苦しまずに済んだかもしれない。
 経済力は、ときとして残酷な剣となる。
 美鶴は生命を薄めた粥のように引き延ばし、生きていた。
 病院と屋敷。この二つが、彼女の知っている世界のすべてだった。
 むろん、学校に通うことなどできるはずもない。
 外に出ることすら、思いもよらぬ。
 だが、美鶴は外で子供たちと遊び、楽しんでいた。
「‥‥幽体離脱‥‥」
 聖羅が呟く。
 それが、一連の出来事の答えだった。
 友達を作りたい、みんなと遊びたい。
 美鶴の思いは、肉体という軛を逃れ、子供たちの遊び場へとでかけるようになる。
「その頃から、娘の顔色は良くなり、夢で見たことを、楽しげに話してくれるようになりました」
 秋吉氏は話す。
 最初は、本当に夢物語を語っているのかと思った。
 だが、秋吉氏が知っている子供の名前が出たとき、彼は疑いを持つことになる。
 娘には同世代の友達などいない。
 にもかかわらず、たくさんの子供たちの名前が、話にのぼる。
 彼はある時、子供たちの遊び場を訪れてみた。
 霊感のない秋吉氏だが、そのときは娘の姿を見ることができた。
 楽しそうに遊ぶ美鶴。
 自分でも判らない理由で、秋吉氏は涙が溢れるのを止められなかったという。
 それから、彼は足繁く遊び場を訪ねるようになった。
 もちろん声をかけるわけでもない。遊びを止めようとも思わない。
 ただ、本来ならけっして見ることのできない娘の元気な姿を見たかった。
 それだけだ。
「‥‥訓練も積んでない人間が幽体離脱をして、しかも霊力なんか使ったら‥‥」
 沈痛な声を絞り出すみあお。
 そう。
 そんなことをすれば、かえって命を縮めてしまう。
 心は元気になったとしても、身体には大きな負担がかかるのだ。
「‥‥夏は、迎えられませんでした」
 言って、秋吉氏が一冊のノートを取り出す。
 日記だった。
 夏になったら、友達と一緒に海に行って遊ぶ。
 泳いだり、潮干狩りをしたり。
「そうか‥‥」
 ページを繰る戒那の声も、重い。
 だが、
「だが、あえてこう言おう。最後に幸せな夢が見れて良かった、と」
 感傷を振り切るように告げる。
 精一杯に生きた美鶴のためにも、彼女が不幸だったなどと思ってはいけない。
 金の瞳が毅い光を放つ。
「はい‥‥」
 うなだれるように、秋吉氏が頷く。
 壁の一角に設えられた時計が、ただ無言で時を刻んでいた。
 止まってしまった少女の時間を受け継ぐかのように。


  エピローグ

「どうしようかしらね、これ」
 シュラインが溜息をつく。
 目前には、秋吉氏から預かったノートがある。
 美鶴の友達に渡して欲しいと頼まれたのだ。
「気が進まないよねぇ」
「そうですね」
 聖羅と零も嘆息した。
 事情を説明して、さらにこんなもの見せたら、まず間違いなく子供たちは泣くだろう。
 むろん、意に沿わないからといってやらないわけにはいかない。
 だからこそ、より一層に気が重いのだが。
「悩んでるより、ご飯にしようよ。せっかく日本海まで来たんだし」
 微笑したみあおが、さらに続ける。
「おなかがすいたら、戦も仕事もできないよ☆」
 顔を見合わせる仲間たち。
「まったく、みあおはいつも正しいな。俺たちも見習うとしよう」
 微苦笑を浮かべ、戒那がメニューを取り上げた。
 シュラインと聖羅が顔を見合わせて笑う。
 哀しい事件の結末を笑顔で迎えられるのは、あるいは素晴らしいことなのかもしれない。
 そんなことを考えながら。












                           終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0121/ 羽柴・戒那    /女  / 35 / 大学助教授
  (はしば・かいな)
1415/ 海原・みあお   /女  / 13 / 小学生
  (うなばら・みあお)
1087/ 巫・聖羅     /女  / 17 / 高校生 反魂屋
  (かんなぎ・せいら)

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■         ライター通信          ■
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大変お待たせいたしました。
「捕らわれた座敷童子」お届けいたします。
みなさま、なかなかに鋭いところを突いてきますねー
惜しかったですー
それにしても、完全に女性キャラのみの編成は珍しかったですねぇ。
いかがだったでしょう。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。