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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


スーパー猪

 数十キロの弾丸と形容すれば、その恐ろしさを表せるであろうか。流線型の毛並みに包まれた、破壊の神から授かった力………。
 その目には殺意を宿らせて、口は言葉を語らずに、人外の声で終りを謳う。奴の一歩は死の舞踊。台風一過、近寄る事さえ許されない。もしその禁を破れば、地獄の業火なる明かりさえ届かぬ、闇の中の闇へと連れ去られるかもしれない。
 だから人は、そっと遠ざけていた。供に暮らす事は出来なかった。しかし、
 何故降りてきた、そう男が泣いた。
 何故そこに住む、そう女が泣いた。
 何故―――やめてくれ!その場所を奪わないでくれ、頼む、頼む、じゃないと、

 今日のごはんも冷凍物だ!

「もうどうしますのよ奥さんッ!ここ以外買う所無いのに!」
「私もだわぁ、あ、でも佐藤さん、仕方ないからって隣町のデパート行ったんですって」
「お金がある家はいいですわねー、やっぱりうちのダンナはダメよ、ダメ」
「あらぁ、うちの亭主なんか一日中寝てばっかりで、職安にも行きやしない」
 主婦達が話を咲かせるスーパーのドアの向こう、
 店内は壮絶に荒れていた。本日の特売品、トイレットペーパー九十九円は散乱し、実はそんなに安い訳でもない、セールという値札が貼られたカツオは食い散らかされている。二日目、陳列する生物からは、異臭が放ち始めていた。だが取り替える事は出来ない、なぜなら今スーパーの主は、人間ではなくこの猪だからである。人里に下りて来るならまだしも、侵入し、そして居座った獣。勿論警察はでかい網持参で捕獲に乗り出したのだが、成す術も無く敗退した。
 スーパーの店長は、開店以来始めての危機に焦っていた。一日でも休めば売り上げがガクっと落ちる。早期解決が望ましいが、奴は国家権力でさえ及ばない敵、どうすればいいか、趣味の民謡さえ忘れ考えたあげく、割れた自動ドアに張り紙を貼った。
「猪を捕まえた人、当店の買い物券三十万円進呈」
 不況の時代にビッグなサプライズ、沸きあがる通行人達だったが、店長が自動ドア越しに突進をくらって、きらめくガラスの破片と供に空を舞い、アスファルトに激突する様を見て静まり返った。


◇◆◇


「連絡しなかった訳はあるのか」
 携帯の相手へ、爪の先程の苛立ちを交えながら、鳴神時雨は言った。返ってくる言葉、知らせる程の事でもないと。
「今度からはちゃんといれてくれ、少なくとも、敵がそいつなら」
 馴染みの探偵と話を終えると、別れの挨拶も告げず携帯の電源を切り、そして、自分のねぐら男の城、あやかし荘自室の窓から、彼は飛び降りた。重力に従う彼の身、地面に直下する、が、
 時雨の身体をバイクが拾った、遠隔操縦可能な彼の愛車、またがると更に速度が増した。砂煙を上げながら吼える鉄。目指す場所は彼の未来が詰まっている、そう、予言してやる、本日午後七時彼の部屋、机の上は、
「ボタン鍋だ」
 出汁で伸ばした赤味噌の中、ザク(野菜)と供に猪肉を入れて、煮すぎず柔らかさを保って口に放り込めば、野趣溢れる味わいが、と、思えば思うほど口の中で静かに涎が溢れてる事等、彼の外面から察せられる訳が無かった。


◇◆◇


「やっぱり、私の歌で猪さんを落ち着かせて」
 魔女っ子の能力を使う―――楠木茉莉奈はそう囁けど、、
「ひ、人がいるのに、おおっぴらにそんな事したらダメですよ」
 異能者という同じ身として―――海原みなもは忠告する。
 自分の意が通らない事に、ほんの少しの不快感。しかし彼女の言葉は的を得ているから、茉莉奈はきちんと黙る。従うしかないだろう、状況が状況だ、本来なら原付と自転車で溢れる駐車場は、見事に祭りである。
 幾つかの露店が立ち並び、ある一角では、亥の文字をプリントしただけのTシャツが、千円で売られていたり。今朝はローカル局が取材にも来たらしい。川にアザラシ現れれば、遠い国の戦争と供に取り上げる国民性、みなもは溜息をついた。その隣の、愛猫のマールを抱きかかえて、茉莉奈、「みんな呑気だねー」とみなもに同調するが、
「………手にりんご飴握ってたら、説得力ありませんよ」
 えへへと笑う彼女には、冷や汗交じりの苦笑しかなかった。あはは、と。
「ともかく、」気を取り直して、みなも、「なんとか中に侵入しましょう。幸いこのスーパー、ガラスの入り口が一つだけで、あとはどこからも中が見えませんしね。入りさえすれば、気兼ねなく茉莉奈さんも歌えます」
 そして魔女のもう一つの力、動物との会話能力を使い、スーパーから立ち退くようお願いする………。
 何度も唱えている予定行動だ、しかし、未だ実行されないのは、
「どうやって入ればいいんだろうね………」
 茉莉奈の一言が、全てを表していた。今の今まで、三十万円の買い物券につられ、何人もの夢狩人達が特攻をしかけたのだが、その全てが店長と同じ末路をとった。入り口に立とうものなら次の瞬間、疾風の勢いで猪は突進してきて、敷居すらまたぐ事すら許さない。まさにその一線を越えるかどうかが分かれ目で、もす踏み込めば全治一ヶ月骨折コースへとご案内である。
 ウィッチの血を継ごうが人魚の末裔であろうが、手をこまねかざるを得なかった。人前では力を使わないと決めているから、入り口までは唯の人。だが諦める訳にもいかない。茉莉奈は純粋にその猪を助けたいし、みなもにとっては、三十万円の買い物券は魅力的だ。二人で分けても十五万円、一月分の食費であり、おかずに刺身を加えても罰があたらない金額だ。
 だから二人で、「どうするのみなもちゃん」言葉を、「裏口を使うのも手ですけど」交わして、「同じように追い出されちゃうよね」ると、
「ど、どいてどいてっ!」
「「え」」
 津波のようにやってきた声、二人の耳へとやってきて、そちらへ振り向けば、、
 買い物のカート、ジンジャーの如く乗る男性が、
 ブレーキをかけようとするが出来ずにカートは二人にぶつか「「るぅ!?」」
 追突事故の凄惨な運命ッ!どうやってもかわせない運命に思わず目を伏せる二人、が、カートと二人が重なった瞬間、上海雑技団もびっくりな妙技を無意識に繰り出し、茉莉奈は猫と供にカゴ、みなもはその下にすっぽり収まって。危機は回避したかにみえたが、
「止まらないっ!?」「ふえぇ!?」
 カートはその重量を、下では無く前に生かして、その侭スーパーへと突入し「きゃあぁっぁぁ!?」
 ドンガラガッシャァン!
 ………レジにぶつかり三人は、叫び声と供に散った。間一髪、ひらりと飛び着地した黒猫マール、友達の茉莉奈の横顔に、一声鳴く。しかし答えは返らない。三人は暫く死んでいた、が、やがて、邦彦、
「な、なんでこんな事に………」「貴方のせいでしょう!」
 生まれた最初の声に、怒りもあってかつっこむみなも、その指の先で、男、内場邦彦は、肩から零れたカバンを拾いつつ、バツが悪そうに笑った。
「いい作戦だと思ったんだけどなぁ、カートをキックボードみたいにすれば、猪が来る前に入れるかなって」
 そう言って、余りにも無邪気な笑みを見せられると、みなも、「今度は前を見てくださいね………」と小学校高学年にするような注意しか出来なかった。何も知らないような男の子、その仕草をみると、毒気が抜かれてしまうのである。実年齢は二十才であるが。というか、
「邦彦さんも」座り、マールを抱えて、「猪さんを捕まえに来たんですかぁ?」
 彼と同じような純粋な瞳で語りかければ、
「違うよ、お母さんに頼まれてトイレットペーパー買いにきたんだ。一旦帰ろうと思ったんだけど、怒られちゃうから」
「………あのう、邦彦さん」
「どうしたのみなもクン?」
「猪がいるのに、スーパーはやってると思ったんですか?」
「あ」
 言われる前に気付くはずの、この店の現在。
 邦彦は、これ以上ないくらい間抜けな顔を浮かべた。そしてしまったぁと言いながら苦笑い。釣られて二人も笑う。結果的にはスーパーに入れた訳で、………って、
「入ってる?」
 改めてその事実を、言葉にして確認した所で、
 ブフゥゥゥという轟き(鼻息)が、一つ鳴り、そして、
 突進してくる茶色の獣、一閃の放物線から間一髪身を翻す、紙一重、背筋が凍る。
「猪さん、お話―――」ドゴォッ!「きゃあっ!?き、聞いてくれないよぉっ!」
 すっかり興奮してる獣は、聞く耳持たずに彼女の足場、キノコ売り場を粉砕した。少し周りをみればスーパーはほとんどが壊滅している。みなも、商品券の出し渋りを防ぐためにも、なるべく被害を悪化させぬつもりだったが、最早手遅れっぽい、この店の事はリフォームの匠にでも任し、猪を捕まえる事のみに神経を集中した方が得策か、って、
「なんで帰ろうとしてるんですかぁー!」
「だ、だって僕、トイレットペーパー買いにきただけだし………」
片手にその包みを、そして床に律儀にも、104円を置いて立ち去ろうとする邦彦、「そんな、手伝ってくださいよ」「勘弁してよ、僕は平和主義者なんだよ!」「へ、平和主義者だったら、今の状況をなんとか」
 みなもちゃん!―――茉莉奈の声、で、
「きゃっ!?」
 猪の猛攻を辛うじてかわし、そしてその矛先は邦彦にも向けられ、哀れ、彼は手からトイレットペーパーを捨てて、再び逃げ始める。今の注意はあちらに言ってるが、
「茉莉奈さん、歌」
「う、歌いたいけど、」息切れが激しくて、「今は無理だよう、ごめん」
 今の彼女にそれは望めない、となると、自力で奴をおとなしくさせるしかない。予め考えていたトラップを作る為、みなもは家庭雑貨コーナーに走った。


◇◆◇


 一方外でも、中の様子は音として伝わってる訳で。女子供(一人は二十歳だが)が巻き込まれた非常事態、盛り上がりとも言えるがそれはお祭りのような楽しさではない。助けなければと思うが、勇気ある一般市民は、先日までに屠られていたので再び警察に出動を願う事になって。一秒が千秋の勢いで通り過ぎる周り、破壊音のアンサンブルが、否応に焦りを生み出し、その量が阿蘇山くらいに達しそうになった時、やっとサイレンが聞こえてきた。沸きあがる一同、全員がそちらを向き、青の戦士たちを出迎えていると、
 ガシャンッ!
 唯一の侵入口、スーパーのシャッターが物凄い勢いで閉まった。理不尽を前にして声を失う人々、警官の一人が駆け寄り、シャッターをあげようとしたが、開かない。文字通りびくともしないのだ。現代のセキュリティーはここまで来たのかとがびーんと驚く群れの中の一人に、残念ながら、とつっこむ影一つ。
「唯の人に手が負える相手じゃなし」
 でかい布で身体を隠した奇人、だがそれを見向きもしない喧騒を通り過ぎて、スーパーの裏、
「万が一捕まえたら、俺の取り分が無くなるからな」
 勝手口を通り抜けマントを剥ぎ、
「ボタン鍋」
 改造人間―――というか仮面ライダーの姿を闇の中で自由にすると、今使ったドアを、シャッターと同じく重力制御で固く閉ざして、そして焦る事無く、一歩ずつ現場へと向かった。


◇◆◇


 猪はストーカーと違い浮気性なのか、同じ相手だけをしつこく追いまわそうとはしない。しかし他者を追いかけてる時が休憩時間になる事は無く、むしろ、やっと呼吸が整った時、茉莉奈で言えば歌えるようになる時になって、何十キロの弾丸はすっとんでくるのだ。あのスピードとコーナリング、峠の走り屋に勝てるかもしれない、などと、冷静に分析するはずもなく、茉莉奈は小さい身で右へと左へ踊っていた。死をパートナーにした踊りは、アフロのダンサーも舌を巻く程機敏である。だが、
「きゃあっ!?」
 果物売り場でいちじくを踏んで、ぬるっと滑ってころんだ。どうせ滑るならバナナが良かったと、いやそれもベタすぎてどうかと、もっと意外なのでスイカいやあれは滑りそうもない、などと、冷静に妄想するはずもない茉莉奈、尻餅ついて目の前の、
「お、落ち着いて、ね、私あなたとお話に」
 なんとか説得を試みようと、彼に伝わる言葉で話しかけるが、やはり何も返さず、
「やあぁぁっ!」
 突っ込んでくる猪っ!マールを抱きしめながら声を上げる茉莉奈を、
 捉えず、彼は通り過ぎた。えっと疑問を浮かべて振り向けば、答えは、
 邦彦が、赤いタオルでマタドール。 なんで猪相手にっ!?とかつっこむ前、逃亡を開始し始める邦彦、プロレスご用達のそのタオルを、首に巻きつけ風になびかせ、逃げる貴方はまるで忍者。視界から消えたのを、呆然と眺めてると、突然ロープの端が目の前にころがった。辿っていけば、みなもがそのロープを掴んでいて、
「邦彦さんが、ここをもう一度通り過ぎますから、転ばせます!」
「っ!うん!」
 行動をするのは早い、茉莉奈はすぐロープを掴むと、みなもの反対側の影に隠れた。その途端舞い戻ってくる邦彦、どうやら入り口まで戻ってきたのか、再びカートを操って逃げ、て、
「猪さんに押されてるよっ!?」
「ええっ!?」
 猪という天然エンジンを使用したカート、ブレーキの存在しない運転席で邦彦は、ジェットコースターに乗った時と同じ、いやそれ以上のおたけびをあげている。そして二人はロープの位置まで迫る、「ど、どうするのみなもちゃんっ!このままじゃ」
 巻き込んでしまうと、掴んだロープをはなそうとする茉莉奈、に、
「やりましょう!」
「ええっ!?」
「このままでも、邦彦さん壁にぶつかってしまいますよっ!それなら」
 苦渋の決断をみなもはくだした。壁にぶつかると、空中にほうりだされるという選択なら、まだ後者に救いはあるかもしれない。本人の承諾を得ずに心苦しいが、ここは、
「今ですっ!」
 声を合図にしてロープを引く、ピンと貼られた直線がカートに絡む、よし、これで、女子二人がそう確信した、が、
 グイッ「え」
 ずるるるるるるるぅ!
「きゃあ!?」「ええっ!?」
 猪は転ぶ事無く、ロープをひっかけた侭爆走した。女子二人、水上スキーから転落した人よろしく、はらばいになりながら暴走する。嫌な結婚式のオープンカーだ。難を逃れたマールが後ろで茉莉奈の名を呼ぶが、カートの勢いは止まらない。というか、
「手を」放せば済む問題だったと、みなもと茉莉奈がそうしようとした時、「あ、」
 邦彦、「トイレットペーパー」
 特売のそれの置き場に向かって死への片道切符っ!嘘だとか嫌だとか、過酷な運命への罵詈雑言を一言に集約し、三人揃って叫んだ、が、
 突然、止まった。
 何もかもが静止した。自分の身も、そして、あの猪も、
「え、っと」
 茉莉奈、余りに予想外の事に、助かった感謝も抱けず混乱してると、「全く」
 声が、「これほど店を荒らしたら、貰える物も貰えないぞ」その人は、
「時雨さんっ」
 鈍いシルバーメタルを、身体の各所に武具として施したボディスーツ、そしてのあの特撮ヒーローを思わせる仮面、その姿をみて、みなもは全て理解した。
「今回は、重力制御しか使わなかったな」
 そう言って、潰れた猪を見下ろす。「負荷をかけて戦う予定だったが、走り回って疲弊していたという事か」
 三人の鬼ごっこも、まんざら無駄ではなかったらしい。未だカートの後ろに足をかけていた邦彦は、そっと降りて、時雨をまじまじと見る。それに気付き、返事、
「何だ?」
「いや、あの」
 毒気の無い顔で首にかけていた赤タオルを取り、
「これ似合うかもしれないかなって」
 かもしれないじゃなく絶対似合うと思う。今日このごろ。返答に困る時雨に、
「助けてくれてありがとうございました」
 みなもがぺこりと頭を下げる。時雨は言葉を返した。
「礼はいらないな、自分の為にやった事だ」
「やっぱり、買い物券なんですか?」
 邦彦そう言ったが、時雨は首を振る。それじゃなんだろうと一同の視線が彼に集中する中、時雨は再び猪をみつめ、
「ボタン鍋」
「だめぇぇぇぇぇっ!?」
 叫ぶ茉莉奈、猪かばう。獣も今までの殺意を忘れ、少女にプギーッと助けを求めた。


◇◆◇


 んで、結局、
 ボタン鍋大好き改造人間を退け、やっとの事会話を始められた茉莉奈、この猪は一昔前の現代っ子であった。
「ていうかー、親が超うるさくて下界は怖いところだぞーってうざくてーホワイトキックていうかー」
 なんというか、流行が遅れてやってくる田舎の子みたいだ。実際そうなんだろうけど。
「けどそれ、当たってる気もするよ、………東京って、優しい人ばかりじゃないから」
「でもでも、ダチトモなんかー、芋畑行ってんだよー、それ以上の所いかないとバリヤバっていうかー」
「だからってここはまずいと思うよ」
「えー超刺激的じゃーん、食べ物たくさんだしー」
「いつか食べ物もなくなっちゃうよー、それに、私山の方が好きだなぁ」
「え、マジ?チョベリグ?」
「うん、チョベリグ。だって今、田舎に暮らしたい人の方が多いもん」
「うわマジ!?マジッ!?マンモスうれぴー!」
 茉莉奈は猪との交渉に成功、食卓に並ぶ事なきよう、一先ず近くの公園に潜伏し、夜の闇にまぎれこっそり帰還する事を約束。ただし明日の新聞で、彼女による交通事故が掲載される事になるのだが。というかここからどこまであるんだ山は。
 一方海原みなもは、報酬である買い物券をもらうとさっさと帰った。有難い報酬なのは確かだが、この店が再開するのはかなり遠そうである。あれだけ破壊しないよう心がけたのに、世の中侭どおりにならぬと深い溜息をつきながら去っていった訳で。だが一方、未だ立ち去らぬ人、
「トイレットペーパー買わないと帰れないんですよ〜」
「いやぁ、そんな事言われてもこれ一応商品でね」「だから買うって言ってるじゃないですか」
 そう詰め寄るが、にべもなく店員(見た目は)幼い男の子に、
「今日は経営していないんですよ、またのご来店をお待ちしています」
 営業口調で阻まれても、母のお叱りが怖い彼。融通の利かない店員も店員であるが、こっそり失敬するという悪さもない邦彦も邦彦であるか。少なくとも、


◇◆◇


 コンロに鎮座した鍋の中、味噌のいい香りが腹の虫をぐぅっと鳴らす。先に野菜をいれてそれからもスープに甘みをとり、そしてスライスした肉、固くならないように気をつけながら、絶妙のタイミングで箸で引き上げ、小鉢にとった後、味噌ダレをしたらせた肉を一口でほうばる。一言、うまい。
「………まぁ、本物には及ばないが」
 代用品の国産豚肉、猪肉のように身体がポカポカ温かくなる事はないが、美味しさはそれなりだ。今回の成果を喰らいながら、小さな幸せを噛み締める時雨。
 後日同じ屋根の下の男、その鍋全てが廃棄品により作られた、超人専用料理と知らずつまみ食いをし、一日寝床をトイレ室に変えたのはお決まりの話である。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0264 / 内場・邦彦   / 男 / 20 /大学生
1252 / 海原・みなも  / 女 / 13 / 中学生
1323 / 鳴神・時雨   / 男 / 32 /あやかし荘無償補修員(野良改造人間)
1421 / 楠木・茉莉奈 / 女 / 16 /高校生(魔女っ子)

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■         ライター通信          ■
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 御初め申しまして、エイひとと申します。今回は参加ありがとうございました。
 初仕事という事で気合を入れて書かせていただきました。空回りです(こら)ギャグを目指したのですが、中途半端な感じになって;
 できるだけ皆様の行動を反映したつもりです。それで思ったのですが、予想していたよりも、ボタン鍋の選択が少なかった事に驚きました(え)あんなにうまいのにと(話が変わってます)ただ全員が同じ行動をとる訳でなく、それぞれ個性溢れる内容だったので、書く方としては嬉しかったです。生かしきれたかは別として(をい

 皆様が楽しめる小説を送り届ける為に、日々精進の心積もりでがんばります。
 最後に、改めまして今回の参加ありがとうございました。ほなまたです。

 エイひと