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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


リバース・ドール =暗号編=

□■オープニング■□

「――何なんだこの数字は」
『ボクを示す大事な記号だよ。ボクのことをもっと知りたいでしょう?』
「俺は知りたくないし、これ以上関わりたくない」
『でも、”周り”はそうじゃない』
「………………」
『この逆暗号の意味に気づくまで、毎日書き換えてあげよう』
「毎日?!」
『そう、数はいくらでもある。よく考えるんだね――言葉の意味を』



「――というのが2日前の話だ」
 武彦はそう言いながら、集まったメンバーに1枚ずつ紙を配った。それには3つの数字が書いてある。

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「俺がカードに気づいてドールから電話が来た時、カードの裏に記されていたのがいちばん上の数字だ。次が昨日、下が今日」
 ドールというのは、リバース・ドールという子どもの奇術師のことだ。武彦を気に入ったのか、こうしてカードを送ってきたり直接電話をしてくるようになったが、その行動の意味は謎に包まれている。
「俺も少し考えてみたんだがお手上げでな。お前たちの力を借りたい。この逆暗号の意味を一緒に考えてくれないか」



□■視点⇒羽柴・戒那(はしば・かいな)■□

 草間くんから受け取った紙切れに、目を落とした。5桁の数字が3つ並んでいる。
(暗号ねぇ)
 見たものの、特には考えない。俺には暗号よりも、ドールの言葉の方が面白く思えた。
(「でも、"周り"はそうじゃない」、なんて)
 まるで俺を指しているような言葉じゃないか。
 正直俺は仕事抜きで本当に興味があるから、それを聞いた時つい草間くんに謝ってしまった。
(悠也はあまり興味がなさそうだったがな)
 と、マンションにおいてきた斎・悠也(いつき・ゆうや)のことを考える。おいてきたといっても、あとでここへ来ることになっているのだが。
(俺以外に"原因"はいるか?)
 興味のありそうな目を探して、俺は同じテーブルを囲みソファに座る皆を見回してみる。
 俺の隣に座っている海原・みなも(うなばら・みなも)と、向かいに座っている鳴神・時雨(なるかみ・しぐれ)は、2人とも眉間に皺を寄せていた。鳴神の隣に座っているシュライン・エマは2人とは違い、どこか諦めたような表情をしている。
「――どうだ? 何か思いついたことはあるか?」
 考える間をたっぷりとって、草間くんが口を開いた。
「これが逆暗号だってことだけは、確かよね」
 すぐに応えたのはシュライン。
(そうだな)
 これまでのドールの演出からいって、これが普通の暗号であることはあり得ない。それには俺も同意だ。
(問題は、逆暗号の意味)
「逆暗号というのは、この数字、実はドールさんを表していないということですか?」
 みなもが1つの解釈を示した。それに草間くんが感心の声をあげる。
「! なるほど。そういう"逆"もありだな」
 草間くんは他の"逆"を考えていたらしい。それをシュラインが説明した。
「私たちは、この暗号自体が暗号ではないっていう逆を考えていたのよ」
(どちらも)
 逆暗号と呼ぶには相応しい。
 しかし後者には明らかな問題があった。
「この数字がそのまま答えだと?」
「あくまで可能性だがな」
 それを指摘した鳴神に、草間くんは苦笑を浮かべる。
(そう)
 苦笑するしかないのだ。
 たとえこれがそのまま答えだとしても、それがわからないから実は暗号と何も変わらない。
「もう1つ考えられるのは、暗号を解いたあとの答えが逆という可能性ね」
 シュラインがさらにつけ加えた。
(ドール自身を表していないか)
 そもそも暗号ではないか。
 答えが逆なのか。
 解く・解かない以前につまってしまうのは、情報が少ないから?
(そんなはずは、ない)
 きっとドールなら、ちゃんとヒントを残しているのだろう。
「――草間くん」
 そう思って、俺は草間くんに振った。
「俺が興味あるのは、暗号そのものよりもドールの言葉なんだが」
「言葉?」
「『言葉の意味をよく考えろ』と言ったんだろう? その"言葉"はどれのことだと思う?」
「!」
 草間くんから聞いた2日前のドールとの会話は、本当に短いものだった。けれどそのどこかに、ヒントが隠されているはず。
「そうか……そこから考えるのも、1つの手だな」
 草間くんは頷く。
「あたしがいちばん気になるのは、『数はいくらでもある』という所です」
 俺も気になっていた箇所を、みなもが口にした。
(なんか、エラーメッセージみたいだよなぁ)
 皆頷いたところを見ると、どうやら考えることは同じようだ。
「いくらでも作り出せるということなのか? それとも円周率のように、永遠に続いていくもの?」
「もう1つ考えられる。くり返すものだ」
 鳴神に続いて俺も口を開く。
 注目すべきものはわかっても、可能性は広がる一方。
「どれにしても、適当に考えているわけはないんだから、どこかに突破口があるはずなのよね」
 ため息混じりにシュラインが呟いた。

  ――ピンポーンっ

 間合いを縫うようにチャイムが鳴る。
 まだ悠也が来る予定の時刻ではないから、ドールが来たのかとちょっと期待した。
「遅れてごめんなさい」
 しかし入ってきたのは広瀬・祥子(ひろせ・しょうこ)だった。草間くんが呼んでいたのだろう。
(ドールをいちばんよく知る彼女なら)
 何かわかるかもしれないから。
 皆が期待を込めた目で見つめる。
 しかし、草間くんからあの紙を受け取った祥子は、すぐに首を傾げた。
「これが……ドールを示す暗号?」
「暗号ではないかもしれないし、暗号かもしれない」
「あ、そっか。"逆暗号"だからですね」
 草間くんの曖昧な答えにもすぐに理解を示した祥子だったが、やがて降参というように両手を上げた。
「ぜーんぜんっ、わかりません!」
 空間にため息が広がる。
「私がドールの口からちゃんと聞いたことって、よく考えるとあの人形のことだけかも……」
 祥子が何気なく告げた言葉に、皆の動きがとまった。
(人形?)
「あの逆さまのピエロのことか……?」
 興味を持って問いかける。
「あれ……言ってませんでしたっけ?」
「広瀬〜〜〜」
「あはは。私すっかり言った気になってました」
 頭を抱える草間くんを前に、祥子は笑った。
「リバース・ドールって、ドールが人形を逆さまに持ってるからついたあだ名らしいんですよ」
「そうだろうとは思っていたがな」
「で、私が『じゃあなんで逆さまに持ってるの?』って訊いたら、あの子『それが正しいから』って答えたんです」
「正しい?」
 皆の声がハモった。
「そう! 私もそう訊き返したら、『ボクは人形じゃないから』って」
「面白いな」
 つい呟いた。
(いつも持っているから)
 当然何か深い理由があるのだろうとは思っていたけれど。
(ドールは、自分を客観的に観察したがっているのか?)
 何のために?
 答えを知っても疑問は尽きることがない。
「何だか、禅問答みたいよね」
 シュラインが呟いた。
「つまりあの人形はドール自身を表している、ということなのか?」
「もっと深読みすれば、ドールと呼ばれているものは最初からあの人形だった、とか」
 鳴神に続けた草間くんは、自分の発言に自分でつっこむ。
「……だとしても状況は何も変わらないんだな。話がややこしくなるだけだ」
 皆考えすぎて、どこへ向かおうとしているのかわからなくなっていた。

  ――ピンポーンっ

 再びチャイム。
 時計に目をやると、"そろそろ"な時間だった。
「きっと悠也だ」
 口に出す。
 案の定入ってきたのは悠也で、いつものように差し入れのケーキ(の箱)を手に持っていた。
(今日は何ケーキだろ)
 それは今俺の中で、ドールの次に興味のある問題だ。
 草間くんに暗号を書いた紙を渡された悠也だったが、一瞥しただけで奥へと歩いていった。ケーキを冷蔵庫にしまうためだろう。
 そして戻ってくると座りもせず。
「ちょっと足りないようなので、買いに行ってきますよ」
「あ、俺も行く」
 俺は反射的に立ち上がった。
(考えているだけじゃ、疲れるしな)
 ドールの言葉を転がしながら、悠也とブラブラ歩くのも悪くない。
「いつもすまないな、斎」
「いえ、俺の趣味ですから」
「お茶の用意、しておくわね」
「ええ、お願いします」
 短い言葉を交わして、最後に俺が告げた。
「何かわかったら連絡してくれよ」
 そうして悠也と2人、近くのケーキ屋へと向かった。

     ★

「――で、ケーキはいくつ作ってきたんだ?」
 並んで歩きながら、俺は悠也に問いかける。悠也が人数を間違えるなんて珍しいと思ったからだ。
「8つですよ」
「8つ?」
(えーとっ)
 いるのは俺、悠也、シュライン、鳴神、みなも、草間くん、零、祥子……
「――って、ピッタリじゃないか」
「ああ……さっきのはそういう意味じゃないんですよ。カップケーキなので、1人分が結構小さいんです。だから食べ足りないんじゃないかと思って」
「なるほどな」
(そういえば)
 昨日台所で見かけた"カップ"は、結構小さい物だった記憶がある。
「……まぁそれだけじゃないんですけどね」
 納得しかけた俺は、付け足されたその言葉に首を傾げた。
「他に何があるんだ?」
 真顔で尋ねた俺を、悠也は笑顔でかわす。
「目的を果たしたら、教えますよ」
「なんだよそれ……」
「それよりどこに行きますか?」
「へ? あそこのケーキ屋じゃ……ないんだったな」
 俺はケーキを買いに出たつもりだったが、実はケーキは足りていた。そして買い足す物は、ケーキである必要はない。
「戒那さん、何か食べたい物ないんですか?」
「悠也の手料理」
 即答すると、悠也は苦笑した。
「それ以外でお願いします。ケーキがありますし」
「んーそうだな……これといって食べたいというものはないが」
「じゃあ行きたい場所は?」
 そう問われて、俺は不意にとてもいい場所を思いついた。そこへ行けば絶対食べたいものがあるだろう。
「――悠也!」
「はっ、はい?」
「デパ地下に行こう!」



 実は俺の趣味はデパ地下散策だ。自慢じゃないが、その辺の主婦に負けないくらいデパ地下には詳しい。
 悠也を引き連れてあちこち回りながら、俺はそれぞれの店について解説していった。
 といっても。
「あの店はな、先月まで向こうにあったんだ」
 とか。
「ここの桜餅は凄く美味いんだぞ」
 とかそんな程度のものなのだが。
 下手に色々知っているとつい教えたくなってしまうのは、よくある人間の心理なのだ。
 と自分で頷いてみる。
(もっとも)
 俺がデパ地下に興味があるのは食べ物のせいだけではなく。店の並びや商品の並べ方、色使いなど、心理学的な面白さもあるからだ。
 ただ今日はあくまで食べ物を探しにきたので(ここがいちばん重要だ)、そういう知識は省いて説明した。
 悠也は悠也でとても聞き上手なので、俺は結局全部の店を説明し終わるまで話し続けてしまった。説明しただけでまだ何も買っていないのだが……。
「戒那さん、少し休みませんか。話しっぱなしで疲れたでしょう?」
 皆が待っているのはもちろんわかっているのだが、本当に疲れているので言葉に甘えることにする。
 最近のデパ地下には、買った物を店内で食べられるイートインコーナーが併設されている店が多い。そこで俺たちも、そんな店の1つに入った。
 事務所に帰れば悠也のケーキが待っているので、食べ物は我慢して飲み物だけ頼む。
「――それにしても戒那さん、本当に詳しいですね」
 グラスを片手に、悠也が笑いながら告げた。どこかからかわれているような気がして、俺は短く返す。
「悪いか」
「いえいえ。詳しいだけじゃなくとても楽しそうだったので……本当に好きなんだなぁと思っただけですよ」
 まだ笑っている。
(やっぱりからかっているんじゃないか)
 まぁ悪い気はしないが。
「――ところで悠也、目的は果たされたのか?」
「え?」
 ふと思い出して、俺はその話を振った。
「目的を果たしたら教えるって言ったじゃないか」
「ああ」
 悠也は本当に忘れていたようで、パーをグーでぽんと叩く。
 そして。
「興信所で暗号を考えるより、戒那さんと買い物をしていた方が楽しいと思ったからなんです」
「……は?」
「現に楽しかったので、俺はもう満足ですよ。そろそろ興味をドールに戻しても構いません」



 つまり悠也は、俺を連れ出すためにわざと一度事務所に顔を出したのだった。
「それなら興信所行く前に、一緒に買い物に行けばよかったんじゃないのか?」
 適当なお菓子を見繕って帰途についた俺たち。俺がそう告げると、悠也は苦笑する。
「草間さんから連絡がきたあと、すぐにでも行きたそうだったのはどなたでしたっけ?」
「――俺だな」
「ドールが何をしたのか、楽しみで仕方がなかったんでしょう? だからそれを知った後ならいいだろうと思って」
「うむ……言われてみれば正しい意見だ」
 確かに楽しみだった。そしてドールの言葉を知ったあとだったから、悠也に付き合った。
(それだけ)
 悠也は俺をよくわかっている。
 そう考えると、どこかむず痒い気持ちになった。
 悠也はまた、笑っている。
「――あ、ちょっと待ってろ」
 俺は自分がどういう表情をしているのかわからなくて、行きは通り過ぎた興信所近くのケーキ屋へと飛び込んだ。
 ケーキの並んでいるウィンドウに、自分の顔を映して確認する。
(よかった……)
 赤くなったりはしていない。
「戒那さん……?」
 不思議そうな声をかけながら、悠也が遅れて入ってくる。
「どれになさいますか?」
 店員が笑顔で訊いた。
(買わないで出るのは、さすがに思い切りあやしいか……)
 仕方がない……とケースの中を見渡して、俺は隅に1つだけ残っているカップケーキに目をとめた。
(……そうだ)
 どうせなら、ドールに買ってあげよう。
 それはまったくの思いつきだったけれど、悪くない"方法"だ。
(自分を知ってほしいと)
 カードに数字を残してゆくドール。
 つまり俺たちがそれを知るまで、監視し続けているということだ。
(ケーキをテーブルに置いて)
「これはドールの分だよ」
 そう言葉にすれば、ドールにはきっと聞こえるんじゃないか?
 聞こえたら、ドールはきっと応えるんじゃないか?
 そしたらあの暗号の意味を、ドール自身に聞けばいいのだ。
 そう考えて、俺は最後のカップケーキを買った。悠也も俺の考えがわかったようで、何も言わなかった。
 そうして興信所へと戻ってきた俺たちだったけれど――
「! ドール……?!」
 作戦は実行する前に破られた。
 ドールが興信所のドアの前に立っていたのだ。
 入ろうか入るまいかずっと悩んでいたようで、俺たちが驚きの声をあげるまでこちらに気づかなかった。
「あ……」
 そして気づいたあとは、悪戯を見つかった子どものような顔をした。
(叱られるのを)
 怖がるような。
 けれどドールは、逃げ出したりはしなかった。
 これまででいちばんドールに近づいて、俺は言葉をかける。
「――いらっしゃい。遊びに来たんだろう?」
「………………」
 ドールは俯くだけで、何も応えない。けれど塞がれていない耳から、俺の声はしっかりと届いているはずだ。
「美味しいケーキがあるよ。もちろんキミの分も」
 その言葉に、ドールは反応し顔を上げた。俺はその視界の中に、買ってきた袋を引き入れる。
 すると――
「どう…して……?」
 呟いたドールの顔が、赤く染まっていった。

     ★

 ドールの残した逆暗号は、社交数という数の集まりだったのだという。
「社交という言葉に、意味はないんだ」
 皆にカップケーキとお茶が振る舞われ、落ち着いたところでドールはそう切り出した。
「ただボクの本質は、"くり返す"こと。それを知ってほしかっただけ」
「どういう意味だ?」
 テーブルもソファもいっぱいなので、1人だけ自分のデスクでケーキを突付いている草間くんが遠慮なく問いかけた。
 ドールは口に出さずに笑い、問いには答えない。
「――リバース・ドールは、アイテムの名前でもあるよ。それを持っていれば、死んでも生き返ることができる。リバース・ドールが代わりに死ぬから」
「?!」
「命を"くり返す"ためのアイテム。ボクはそのループから、抜け出せなくなっていた」
 何かを吹っ切るかのように、今日のドールの口はよく動いた。俺たちはただそれを邪魔しないように。ドールを理解したいと思って。最小限の言葉だけを挟む。
「……なっていた、ということは、今は抜け出せたのか?」
 だったらいいと思いながら、問いかけた。
 ドールは何故か諦めるような表情をつくって。
「賭けに負けたからね。抜け出さなければならない時が来たんだ。――本当は。ボクは最初からその方法を知っていたよ。ただ僕自身、そうなりたくなかったから。目を瞑って見えない振りをしていた。なんて子どもなんだろうね?」
 ひとり笑うドール。
 言葉の意味を理解できない俺たちは笑えなかった。
(その顔が寂しそうで)
 とても笑えなかった。
「全部話そう」
 そしてドールの、辛い昔話が始まった――。



「昔のボクはね、こんな子どもじゃなかったんだ。できないことはない自分に恐怖を感じていたけれど、それで人の役に立てるのなら、いいと思っていた」
「一生懸命だったよ。ボクが自分だけでなく他人からも恐怖の対象とされた時、何が起こるのかわかっていたから。自分のためには何もせず、ただ人のために尽くした」
「尽くしたのに――その時は訪れてしまった」
「ボクがしてきたすべてのことを、仇で返されたよ。誰一人かばってはくれなかった」
「その時のボクの気持ちがわかる?」
「ボクは無償のコウイを信じられなくなった。――いや、さっきも言ったけれど、本当は信じる方法を知っていたんだ。でも信じたくなかった」
「もうあんな思い、したくなかったから」
「"何か"と引き換えに願いを叶えていったよ。たとえそれが犯罪であっても構わなかった。ただ力を使いたかったんだ。使っていないと、あふれ出しそうで怖かった」
「そうして犯罪に手を貸すようになったボクが、ここの存在を知ったのは実は偶然だった」
「真井(さない)氏を憶えているかな? 彼がここを選ばなかったら、ボクがこうして自分のことを話すなんてこと永遠になかっただろう」
「ここに集まる人たちは、皆不思議な力を持っていた。だからボクは興味を持った。怪奇探偵と呼ばれるアナタに、興味を持ったんだ」
「ボクをどう思っているのかな?」
「ボクはやっぱり、恐怖の対象だろうか」
「素直にコンタクトなんて、取れなかったよ。だから無理やりの交換条件を求めた。その時点でボクにできるのは、それしかなかったんだ」
「――ボクが祥子さんを手伝ったのは、自分と似ていたからだよ」
「方法はわかっている。素直な気持ちを言葉にすればいいだけなのに。どうしてもそれができなかった」
「ボクは祥子さんを助けることと引き換えに、祥子さんを使って自分を助けようとしたんだ」
「そしてただ遊ぶために、ここに爆弾を仕掛けた」
「怖がらず、ボクを追ってくれる?」
「捜してくれる?」
「本当は意地を張っただけの子どもだということに、気づいてくれるだろうか」
「それは一種の賭けだったよ」
「ボクはもうボクからは、決してこのループを破れない所まできていた」
「誰かがボクの願いを叶え、ボクが誰かの願いを叶える」
「それをくり返していなければ、ボクは自分自身すら信じることができない」
「誰かがそんなボクに気づいて、それを断ち切ってくれなければ――」
「自分でも気づかないまま、ボクは皆にそれを求めていたんだ。あの社交数のカードは衝動的に送ったもの」
「遊んでくれたから。ボクを怖がっていないことがわかった。わかったら、早く知ってほしかった」
「おかしいね。そんな感情はとっくに封じたはずだったのに、どんどんわがままになっていくんだよ」
「カードの意味もわからぬままボクを捜している2人に気づいたボクは、それに応えた」
「捜してくれてるから、前へ出ることができたんだ。まだ信じれていなかった」
「ここへ来ればいいと言われても、その先に何らかの望みが待っていることを疑った」
「何もなければいいと願う。けれど信じることはできない。裏切られたくないから」
「そんなボクに、祥子さんが賭けを持ちかけた」
「もし2人がボクの分までケーキを用意してくれていたら、いい加減自分たちを信じろと」
「ボクはそれを呑んだ。だってそんなこと、あるはずがなかったから。それを確かめるために、こうしてここに来たんだ」
「でも……どうしてだろうね?」
「ボクの前にはちゃんとあるよ。本当はケーキが足りていたことを、ボクは知っているのに」
「ちゃんとあるんだ」



「――ねぇ。泣いてもいい?」

     ★

 伝え足りなかったのは、俺たちも一緒だった。
(もっと早くに)
 声に出して呼びかければよかったんだ。
(そんなことしなくていいから)
 遊びにおいでと。
 俺たちは言葉じゃなく、互いを探り合っていた。だからこそわかり合うまでに、これだけの時間がかかってしまったのだ。
(言葉じゃないものでわかり合うには)
 それだけの時間と、近い距離が必要。
 俺と悠也のように。
 そしてそれは結局、言葉でしか理解の正しさをはかれない。
(それがわかるまで)
 信じるしかないんだ。
(ドールと俺たちの間には)
 どこか歪んだ信頼関係しか存在しなかった。だからこそ最初から、必要だったのは”言葉”だったんだ。
(やっと気づいたから)
 何度でも告げよう。
 飽きるくらい。
(言葉にしよう)
「また遊びにくればいい」
 いつでも待っているよ――









                             (了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/   PC名    / 性別 / 年齢 /  職業   】
【 1252 / 海原・みなも   / 女  / 13 /  中学生  】
【 0086 / シュライン・エマ / 女  / 26  /
            翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【 1323 / 鳴神・時雨    / 男  / 32 /
              あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
【 0121 / 羽柴・戒那    / 女  / 35 / 大学助教授 】
【 0164 / 斎・悠也     / 男  / 21 /
                     大学生・バイトでホスト】



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■         ライター通信          ■
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 こんにちは^^ 伊塚和水です。
 ドールシリーズ第4弾、ご参加ありがとうございます_(_^_)_
 今回で一応、ドールとの不和が完全に解消されましたので、≪リバース・ドール≫というタイトルを持ったシリーズはこれで終了となります。ここまでお付き合い下さりまして本当にありがとうございました!
 今後ドールがどうなるのかはまだ全然決めていないのですが、いずれまたドールを利用した作品を書きたいという気持ちはあるので、再びお目にかかることがあるかと思います。その時はまた可愛がってやって下さると嬉しいです^^
 最後に、ほんとに色んな意味で好き放題してしまったことをお詫びします(笑)。何か使えそうな設定はないかと探していたら、趣味がデパ地下散策ということだったので思い切り弾けさせていただきましたー。これはありなんでしょうか……(どきどき)。
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝