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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


リバース・ドール =暗号編=

□■オープニング■□

「――何なんだこの数字は」
『ボクを示す大事な記号だよ。ボクのことをもっと知りたいでしょう?』
「俺は知りたくないし、これ以上関わりたくない」
『でも、”周り”はそうじゃない』
「………………」
『この逆暗号の意味に気づくまで、毎日書き換えてあげよう』
「毎日?!」
『そう、数はいくらでもある。よく考えるんだね――言葉の意味を』



「――というのが2日前の話だ」
 武彦はそう言いながら、集まったメンバーに1枚ずつ紙を配った。それには3つの数字が書いてある。

  14316
  19116
  31704

「俺がカードに気づいてドールから電話が来た時、カードの裏に記されていたのがいちばん上の数字だ。次が昨日、下が今日」
 ドールというのは、リバース・ドールという子どもの奇術師のことだ。武彦を気に入ったのか、こうしてカードを送ってきたり直接電話をしてくるようになったが、その行動の意味は謎に包まれている。
「俺も少し考えてみたんだがお手上げでな。お前たちの力を借りたい。この逆暗号の意味を一緒に考えてくれないか」



□■視点⇒斎・悠也(いつき・ゆうや)■□

 休みの日にお菓子作りをするのが、すっかり日課になっていた。
 事前にしっかりと材料などを準備しておき、俺自身それを作るのを楽しみにしている。しかし作る俺よりも楽しみにしているのは、食べる戒那さんなのであった。
(いい循環なんですけどね)
 お菓子を作り終わったあとは、食べる戒那さんの顔を楽しみにしている。そして食べた戒那さんは、次に俺が作るだろうお菓子(もしくは夕食)を楽しみにする。楽しみにされると作るのもまた楽しくなる。
 料理はもともと好きな趣味だったけれど、こんな循環がそれを加速させた気がする。
(――さてと)
 今日も気合を入れて作りますか。
 戒那さんの嬉しそうな顔を思い浮かべながら、俺は台所に立った。
 と。
(ケイタイが鳴ってる……)
 この曲は戒那さんのケイタイだ。すぐに音がやんだ。
(誰だろう?)
 やましい気持ちはさらさらないのだが、つい耳を澄ましてしまった。電話はすぐに終わり、戒那さんが台所へ顔を出す。
「悠也。ちょっと草間くんの所に行ってくる。ドールからまたカードが届いたらしい」
「またですか?」
「今度は暗号なんだと。どんなやつなんだろうな〜楽しみだ」
 本当に楽しそうに、戒那さんは告げた。その顔が俺の料理を楽しみにする顔を同じだったので、ちょっと複雑な気分になる。
「……見てのとおり、俺はこれからケーキを焼く予定なので、あとで差し入れに行きますよ」
「お、じゃあそれも楽しみにしていよう。大体何時頃になりそうだ?」
 俺は時計を確認してから。
「×時頃ですね」
「了解。じゃあ行ってくる」
 応えるとすぐに、簡単な準備をして戒那さんは出て行った。
(ずいぶんとドールに興味があるようですねぇ)
 それが"大人"としての興味なのか、心理学者としての興味なのか。俺にはわかりようもないことだけれど。
 なんとなく面白くないのは、俺がドールに嫉妬しているせいだろうか。
(そんなこと――)
 戒那さんに知られるわけにはいかない。
 気を取り直して、ケーキ作りに入ることにした。その方が余計なことを考えずにも済む。
 今日のケーキは、砂糖をまぶしたマスカット乗せたマスカットゼリーとホワイトムースのカップケーキだ。
(何人いるかな)
 ホールケーキと違って一人分がはっきりとしているから、人数をおさえておかなければならない。
(草間さんと零さんは確定で……)
 あとはいつも大体5人くらいだから、念のため1個余分に用意して8個くらいでいいだろう。
 慣れているので手早く作り終えると、常時用意しているケーキ用の箱に丁寧に詰め、早速興信所へと向かった。



 俺はドールには、あまり興味がない。
(ドールが)
 自分の思い通りにならなかった時、駄々をこねるだけの子どもならなおさら。
 そんな俺を戒那さんは不思議そうな目で見ていたけれど、むしろ俺は戒那さんに言いたい。
(俺が本当に興味があるのは、多分きっと)
 あなたのことだけなのだと。
 ただ、実際にそんなこと言えるわけがないのだし、俺がそうだからといって戒那さんに同じ感情を求めることはできない。
(できないから――)
 休日が重なった時ぐらい、一緒に買い物でもしたいと思う。
(けれど今戒那さんは)
 興信所でドールの暗号と向き合っているのだろう。
(俺が行ったらそれに加わるのか?)
 あまり楽しそうではないけど……。
 そこで俺は、ちょっとした"方法"を考えた。



  ――ピンポーンっ

 チャイムを鳴らし、事務所の中に入る。
 草間さんのデスクの方へ行くと、向かいの応接セットには5人がひしめき合っていた。
(俺と草間さん、零さんを入れてちょうど8人だ)
 1つ余分に作ってきたかいがあった。
 草間さんに暗号を書いた紙を渡されたが、やはりあまり興味がなかったので。ちらりと見ただけで俺は冷蔵庫の方へと向かった。
(暗号なんかより大事な)
 言わなければならないセリフがあるのだ。
 ケーキを冷蔵庫にしまうと、皆の所へ戻って口を開いた。
「ちょっと足りないようなので、買いに行ってきますよ」
「あ、俺も行く」
 予想どおりの戒那さんの反応に、心の中で「やっぱり」と呟く。
「いつもすまないな、斎」
「いえ、俺の趣味ですから」
「お茶の用意、しておくわね」
「ええ、お願いします」
「何かわかったら連絡してくれよ」
 戒那さんのセリフを最後に。
 そうして俺と戒那さんは、買い物へと向かったのだった。

     ★

「――で、ケーキはいくつ作ってきたんだ?」
 並んで歩きながら、問ってきた戒那さんに答えた。
「8つですよ」
「8つ?」
 なんでそんなことを訊くんだろう? と思ったけれど、次の言葉で俺は気づく。
「――って、ピッタリじゃないか」
「ああ……さっきのはそういう意味じゃないんですよ。カップケーキなので、1人分が結構小さいんです。だから食べ足りないんじゃないかと思って」
「なるほどな」
(そう)
 小さいのは事実で、足りないだろうと思うのも本当だ。でもそれは、やはり口実にすぎない。
「……まぁそれだけじゃないんですけどね」
 俺が含みを持たせた言葉を続けると、戒那さんは真顔で問ってきた。
「他に何があるんだ?」
 それが何だかおかしくて……
(きっと)
 気づかれないことが少し悔しくて、俺は笑ってかわした。
「目的を果たしたら、教えますよ」
「なんだよそれ……」
 怪訝そうな顔をした戒那さんの、会話の矛先を変える。
「それよりどこに行きますか?」
「へ? あそこのケーキ屋じゃ……ないんだったな」
 思ったとおり、ケーキが足りないのだと思い込んでいた戒那さんは、すぐ近くのケーキ屋へ行くつもりだったようだ。
「戒那さん、何か食べたい物ないんですか?」
「悠也の手料理」
 即答されて、俺は嬉しい苦笑をする。
「それ以外でお願いします。ケーキがありますし」
「んーそうだな……これといって食べたいというものはないが」
「じゃあ行きたい場所は?」
(別に買い物でなくてもいいな)
 そんなふうに考えて問った俺を、戒那さんは突然大きな声で呼んだ。
「――悠也!」
(まさか……)
 考えていることがバレたかな?
「はっ、はい?」
 しかしそれはいらぬ心配だった。
「デパ地下に行こう!」



 戒那さんの趣味が、デパ地下散策だということは知っていた。しかし”これほど”とは、まったく知らなかった。
 戒那さんは俺を引き連れて、色々な店を回りながら解説をしてくれる。
 解説といっても。
「あの店はな、先月まで向こうにあったんだ」
 とか。
「ここの桜餅は凄く美味いんだぞ」
 とかそんな類いだけれど。
 それだけのことなのに酷く楽しそうな戒那さんが面白くて。そんな面も知れて嬉しくて、俺はその解説を永遠聞いていた。内容も面白かったしためになる(?)ので、全然苦ではなかった。
 とうとうそのデパ地下のすべての店を回り終わったけれど、話に夢中になっていた俺たちは当然何も買っていない。
(――まぁいいか)
 それより少し疲れた。
「戒那さん、少し休みませんか。話しっぱなしで疲れたでしょう?」
 俺もこれだけ疲れているのだから、ずっと説明していた戒那さんはもっと疲れていることだろう。
 案の定頷いた戒那さんと、店内でも商品が飲み食いできるお店に入る。
 事務所に帰ればケーキがあるのだからと、2人とも飲み物だけ頼んだ。
「――それにしても戒那さん、本当に詳しいですね」
 こうして落ち着いて、改めて俺はしみじみと告げた。やっぱり嬉しいので、自然と笑顔になる。
 戒那さんは俺がからかっているとでも思ったのか、じろりとこちらを睨んだ。
「悪いか」
「いえいえ。詳しいだけじゃなくとても楽しそうだったので……本当に好きなんだなぁと思っただけですよ」
 顔がもとには戻らない。
(これじゃあ)
 からかっていると思われても仕方ないな。
 心の中で苦笑した。
「――ところで悠也、目的は果たされたのか?」
 ふと振ってきた戒那さんの問いに、俺は素で返す。
「え?」
(何のことだろう?)
「目的を果たしたら教えるって言ったじゃないか」
「ああ」
 言われて思い出した。
(楽しかったから)
 忘れていたのだ。
 それが望みだったから。
「興信所で暗号を考えるより、戒那さんと買い物をしていた方が楽しいと思ったからなんです」
 「ありがとう」という意味を込めて、俺は正直に答えた。
「……は?」
「現に楽しかったので、俺はもう満足ですよ。そろそろ興味をドールに戻しても構いません」



「それなら興信所行く前に、一緒に買い物に行けばよかったんじゃないのか?」
 適当なお菓子を見繕って帰途についた俺たち。戒那さんが告げた言葉に、俺は苦笑する。
「草間さんから連絡がきたあと、すぐにでも行きたそうだったのはどなたでしたっけ?」
「――俺だな」
「ドールが何をしたのか、楽しみで仕方がなかったんでしょう? だからそれを知った後ならいいだろうと思って」
「うむ……言われてみれば正しい意見だ」
 正直に答えた俺に応えるように、戒那さんも実に正直に応えてくれた。ただその言い方がおかしくて、俺は笑う。
(俺の予想が)
 少しも外れていなかったことが嬉しくて。
「――あ、ちょっと待ってろ」
 すると不意に、戒那さんはケーキ屋に飛び込んだ。そこは最初に戒那さんが行こうとしていたケーキ屋さんで、行く時は通り過ぎたお店だ。
(何か買いたい物があったのかな?)
「戒那さん……?」
 追いかけて入っていくと、戒那さんは熱心にケーキに見入っていた。
「どれになさいますか?」
 店員が笑顔で訊ねる。
 ふと、戒那さんが1つだけ残っているカップケーキに目をとめたのがわかった。
(買うつもりなのか?)
 考えて、気づく。
(ドールの分――?)
 きっとそれで、ドールを呼び寄せようというのだろう。
(考えてみれば)
 ドールはいつも自分から、俺たちに関わろうとしていた。カードを送りつけて、何かを予告して。
 俺たちはそれに付き合い、ドールに対し様々な疑問や感情を持ってはいたけれど、はっきりと歩み寄ろうとはしていなかった。
(ドールはちゃんと見ている)
 方法などわからないけれど、ドールは俺たちを監視している。
 それなら俺たちが声に出して呼びかけさえすれば、ドールに届くのではないか?
 そして届きさえすれば、ドールならきっと応えるだろう。
 おそらく戒那さんはそれをやろうというのだ。
 俺のその予想を肯定するように、戒那さんは最後のカップケーキを買った。
 そうして興信所へと戻ってきた俺たちだったけれど――
「! ドール……?!」
 その作戦は、実行する前に破られた。
 ドールが興信所のドアの前に立っていたのだ。
 入ろうか入るまいかずっと悩んでいたようで、俺たちが驚きの声をあげるまでこちらに気づかなかった。
「あ……」
 そして気づいたあとは、悪戯を見つかった子どものような顔をした。
(叱られるのを)
 怖がるような。
 けれどドールは、逃げ出したりはしなかった。
 戒那さんがゆっくりと、ドールに近づいてゆく。そして多分、これまででいちばん近い距離に立った。
「――いらっしゃい。遊びに来たんだろう?」
「………………」
 まるで"いつも"であるかのように、普通に声をかける戒那さん。しかしドールは俯くだけで、何も応えない。
 戒那さんは諦めず、新しい言葉を紡いだ。
「美味しいケーキがあるよ。もちろんキミの分も」
 その言葉に、何故か反応したドールが顔を上げる。買ってきたケーキの袋を、「これだよ」というように見せた。
 すると――
「どう…して……?」
 呟いたドールの顔が、赤く染まっていった。

     ★

 ドールの残した逆暗号は、社交数という数の集まりだったのだという。
「社交という言葉に、意味はないんだ」
 皆にカップケーキとお茶が振る舞われ、落ち着いたところでドールはそう切り出した。
「ただボクの本質は、"くり返す"こと。それを知ってほしかっただけ」
「どういう意味だ?」
 テーブルもソファもいっぱいなので、1人だけ自分のデスクでケーキを突付いている草間さんが遠慮なく問いかけた。
 ドールは口に出さずに笑い、問いには答えない。
「――リバース・ドールは、アイテムの名前でもあるよ。それを持っていれば、死んでも生き返ることができる。リバース・ドールが代わりに死ぬから」
「?!」
「命を"くり返す"ためのアイテム。ボクはそのループから、抜け出せなくなっていた」
 何かを吹っ切るかのように、今日のドールの口はよく動いた。俺はそれを邪魔しないように、ただ聞いていた。
「……なっていた、ということは、今は抜け出せたのか?」
 戒那さんが優しく先を促す。
 それに対しドールは、何故か諦めるような表情をつくって。
「賭けに負けたからね。抜け出さなければならない時が来たんだ。――本当は。ボクは最初からその方法を知っていたよ。ただ僕自身、そうなりたくなかったから。目を瞑って見えない振りをしていた。なんて子どもなんだろうね?」
 ひとり笑うドール。
 言葉の意味を理解できない俺たちは笑えなかった。
(その顔が寂しそうで)
 とても笑えなかった。
「全部話そう」
 そしてドールの、辛い昔話が始まった――。



「昔のボクはね、こんな子どもじゃなかったんだ。できないことはない自分に恐怖を感じていたけれど、それで人の役に立てるのなら、いいと思っていた」
「一生懸命だったよ。ボクが自分だけでなく他人からも恐怖の対象とされた時、何が起こるのかわかっていたから。自分のためには何もせず、ただ人のために尽くした」
「尽くしたのに――その時は訪れてしまった」
「ボクがしてきたすべてのことを、仇で返されたよ。誰一人かばってはくれなかった」
「その時のボクの気持ちがわかる?」
「ボクは無償のコウイを信じられなくなった。――いや、さっきも言ったけれど、本当は信じる方法を知っていたんだ。でも信じたくなかった」
「もうあんな思い、したくなかったから」
「"何か"と引き換えに願いを叶えていったよ。たとえそれが犯罪であっても構わなかった。ただ力を使いたかったんだ。使っていないと、あふれ出しそうで怖かった」
「そうして犯罪に手を貸すようになったボクが、ここの存在を知ったのは実は偶然だった」
「真井(さない)氏を憶えているかな? 彼がここを選ばなかったら、ボクがこうして自分のことを話すなんてこと永遠になかっただろう」
「ここに集まる人たちは、皆不思議な力を持っていた。だからボクは興味を持った。怪奇探偵と呼ばれるアナタに、興味を持ったんだ」
「ボクをどう思っているのかな?」
「ボクはやっぱり、恐怖の対象だろうか」
「素直にコンタクトなんて、取れなかったよ。だから無理やりの交換条件を求めた。その時点でボクにできるのは、それしかなかったんだ」
「――ボクが祥子さんを手伝ったのは、自分と似ていたからだよ」
「方法はわかっている。素直な気持ちを言葉にすればいいだけなのに。どうしてもそれができなかった」
「ボクは祥子さんを助けることと引き換えに、祥子さんを使って自分を助けようとしたんだ」
「そしてただ遊ぶために、ここに爆弾を仕掛けた」
「怖がらず、ボクを追ってくれる?」
「捜してくれる?」
「本当は意地を張っただけの子どもだということに、気づいてくれるだろうか」
「それは一種の賭けだったよ」
「ボクはもうボクからは、決してこのループを破れない所まできていた」
「誰かがボクの願いを叶え、ボクが誰かの願いを叶える」
「それをくり返していなければ、ボクは自分自身すら信じることができない」
「誰かがそんなボクに気づいて、それを断ち切ってくれなければ――」
「自分でも気づかないまま、ボクは皆にそれを求めていたんだ。あの社交数のカードは衝動的に送ったもの」
「遊んでくれたから。ボクを怖がっていないことがわかった。わかったら、早く知ってほしかった」
「おかしいね。そんな感情はとっくに封じたはずだったのに、どんどんわがままになっていくんだよ」
「カードの意味もわからぬままボクを捜している2人に気づいたボクは、それに応えた」
「捜してくれてるから、前へ出ることができたんだ。まだ信じれていなかった」
「ここへ来ればいいと言われても、その先に何らかの望みが待っていることを疑った」
「何もなければいいと願う。けれど信じることはできない。裏切られたくないから」
「そんなボクに、祥子さんが賭けを持ちかけた」
「もし2人がボクの分までケーキを用意してくれていたら、いい加減自分たちを信じろと」
「ボクはそれを呑んだ。だってそんなこと、あるはずがなかったから。それを確かめるために、こうしてここに来たんだ」
「でも……どうしてだろうね?」
「ボクの前にはちゃんとあるよ。本当はケーキが足りていたことを、ボクは知っているのに」
「ちゃんとあるんだ」



「――ねぇ。泣いてもいい?」

     ★

 駄々をこねるだけの子どもじゃなかった。
(ドールは)
 深い傷を抱えていた。
 その傷を広げないために、わがままでなければならなかったのだ。
「――戒那さん」
 そのドールに、常に優しく語りかけていた戒那さんを呼ぶ。
 ドールはもういない。許されてどこかへと帰った。
(いずれまた)
 あそこへくるだろうけれど。
「……なぁに?」
 俺たちももうそこにはいなかった。"どこか"ではなく、2人の住むマンションへと向かって、歩いている。
「どうしてあんなに、ドールに興味を持っていたんですか?」
 訊ねた俺に、戒那さんは声に出さず笑った。
 しばらくは2人の足音だけが響く。
「――何でかな。俺もよくわからないけれど、ドールの存在はとても面白かった」
「面白い?」
 そう言えば戒那さんは、確かに面白そうでもあった。
「そう、何故か面白い」
 くり返した戒那さんに、それ以上訊けなかった。
(大きな傷を抱えていたドール)
 それと同じような何かを、俺は戒那さんに感じることがある。
(極たまに)
 ふと見せる表情や。何気ない仕草から。
(同じだから)
 ドールに興味を持ったの?
 俺からは、決して聞くことはできない。
 いつか戒那さんがすべてを話してくれる日まで。
(俺は待ち続ける)
 信じて待ち続けるしかない。

 ――もしそれが、真実だったら……?

(傷を)
 広げないために。
「――もっと、わがままになってもいいですよ?」
「なんだ、急に」
 戒那さんにしてみれば脈絡のない言葉。当然のように戒那さんは笑った。
 そして。
「心配しなくても、俺は十分わがままだぞ? こうして同じ場所に、帰ることですらな」









                             (了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/   PC名    / 性別 / 年齢 /  職業   】
【 1252 / 海原・みなも   / 女  / 13 /  中学生  】
【 0086 / シュライン・エマ / 女  / 26  /
            翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【 1323 / 鳴神・時雨    / 男  / 32 /
              あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
【 0121 / 羽柴・戒那    / 女  / 35 / 大学助教授 】
【 0164 / 斎・悠也     / 男  / 21 /
                     大学生・バイトでホスト】



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■         ライター通信          ■
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 こんにちは^^ 伊塚和水です。
 ドールシリーズ第4弾、ご参加ありがとうございます_(_^_)_
 今回で一応、ドールとの不和が完全に解消されましたので、≪リバース・ドール≫というタイトルを持ったシリーズはこれで終了となります。ここまでお付き合い下さりまして本当にありがとうございました!
 今後ドールがどうなるのかはまだ全然決めていないのですが、いずれまたドールを利用した作品を書きたいという気持ちはあるので、再びお目にかかることがあるかと思います。その時はまた可愛がってやって下さると嬉しいです^^
 今回なんだか1人だけタイトルとはまったく関係ないような内容になってしまって……これでよろしかったのかちょっと心配です(>_<) 暗号うんぬんがまるっきりないのでその代わりある部分に特化した形になりました(笑)。どの部分かは……言わずもがな、ですよね。お気に召しませんでしたら本当に平謝りです_(_^_)_
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝