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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


宇宙人VS白装束

【オープニング】
 「誰だ」
 少し部屋を空けただけで、これだ。草間は大仰に溜め息を吐きながら、それでも冷静に自分の椅子へと腰掛ける。
 興信所のソファに、黒いスーツを来た青年が座っていた。もちろん、ちゃんと鍵を掛けて出て行ったはずだった。それなのに何故。問いただす前に青年の方が口を開いた。
 「こんにちは。浅野龍平です。ヨロシク」
 「不法侵入」
 人懐っこい笑顔で自己紹介する青年に、しかし草間は無愛想に言った。そもそもどうやって入ったんだ。
 「あ、でもこれは偽名で」
 「偽名?」
 見た目は茶髪で眼鏡を掛けた、普通っぽい若者だ。それが偽名を使うなど。
 「僕、宇宙人なんで。まあ、この姿は仮の姿っていうか。本名はこの声帯じゃ発声できないんですよ」
 草間は怒る以前に、呆れてしまった。からかいにしてもレベルがあまりにも低い。
 「俺は暇人じゃないんだ。常識をわきまえろ。遊ぶなら別の所に行ってくれ」
 再び出た溜め息と共にそう言って積もった書類の整理を始めると青年が立ち上がって近付いてきた。
 「地球の常識はよくわかりません。すみません。でも、ホント助けて欲しいんですよ!」
 仕方なく顔を上げるとそこには必死な顔の青年。これだから俺は、、、。草間は自分自身に辟易しながらも言ってしまっていた。
 「、、、支払いはちゃんとしてもらうからな」
 「もちろんです!僕、変な宗教団体に追われてて、助けて下さいよぉ!!」
 草間は、本日三回目の盛大な溜め息を吐いていた。

*宇宙人とお茶を*

 なんだか、奇妙な光景だった。夕闇も迫ったこの時間、街中の某有名喫茶店の一角に3人の男女。見た感じ、彼らのどこに接点があるのかまるでわからない。
 「ご注文は?」
 そこへ可愛らしい制服を身に付けたウェイトレスがやってくる。
 「コーヒーを。ブラックで」
 なれた調子で注文したのは胸元の開いたシャツを着た、切れ長の目を持つ女性だった。
 「あたしはミルクティーを」
 少し遠慮したように間を開けて言ったのは、青い髪に青い目の可愛いと言うよりは綺麗な少女だった。
 「僕は緑茶」
 何の躊躇もなくそう言い放ったのは、茶髪でちょっとオシャレな黒縁眼鏡を掛けた若者だった。2人の女性の目線が彼に集中し、オーダーを紙に書き込んでいたウェイトレスは困ったように曖昧な笑みを浮かべる。
 「申し訳ございません。当店では緑茶を扱っておりませんので、、、」
 黒縁眼鏡の男は驚いたような顔をした。
 「喫『茶』店なのにお茶がないなんて、、、!」
 「いえ、でも紅茶はありますし、、、」
 「言うなればカフェね」
 奇妙な会話だ。噛み合っているのか噛み合っていないのかわからない。ウェイトレスは曖昧な笑みを浮かべたままもう一度注文を訊ねた。
 「じゃあコーヒーでいいや」
 ウェイトレスは少し安堵したような顔で戻って行く。
 その背を何となく見送っている3人の接点。それは草間興信所にあった。何やら変な集団に追われていると助けを求めた浅野龍平=黒縁眼鏡の男。その少し後にやってきた海原みなも=青髪の少女とシュライン・エマ=切れ長の瞳の女。草間はだいたいの事を2人に話して龍平の護衛(?)を任せ、自分はその集団の素性調査をすると言って逃げた。そして、今に至る。
「で?どんな理由で、どんな連中に追われてるの、宇宙人サン」
 シュラインがさらりと訊いた。自称宇宙人の龍平は辺りを見回し、少し声を潜めて返す。
 「白装束の新興宗教団体ですよ。僕はその頭に素性を知られてしまって、狙われてるんです」
 「それは神様として、ってことですか?」
 みなもが訊ねると、龍平は首を振った。
 「それはそれでイヤですけどね。どうやら実験体として、らしいです。知ってますか?宇宙人ってそのテの人に見つかると解剖されちゃうんですよ!」
 「そ、そうなんですか、、、それは怖いですね」
 本気で怯える龍平に、みなもは少し引きつつ返した。
 「怖いなんてもんじゃないですよ!生命の危機ですよ!、、、ぎゃー!!!」
 目を見開きつつ振り向かれ、ウェイトレスは持ってきたコーヒーを危うくぶちまけてしまう所だった。
 「奇声は発しないで頂戴。耳が痛いわ」
 音感に優れたシュラインが顔をしかめながら言い、ウェイトレスに小さく謝罪する。ウェイトレスは急いで注文された品をテーブルに並べると、足早に去って行った。
 「スミマセン、、、あービックリした。いただきます」
 龍平は何事もなかったかのようにコーヒーカップを口に運ぶ。
 「にがっ!!」
 そしてカップをテーブルの端に追いやってしまう。『飲めないなら注文するなよ、、、』と同席する2人は思った。
 「あんたホントに宇宙人?病院から逃げてきたとか、そういうオチはゴメンよ?」
 シュラインは冗談ぽくも、そう言った。龍平は苦笑する。
 「さすがに病院に厄介になったりはしてませんよ。それに僕が宇宙人か、なんてねぇ」
 「あたしもその辺、ちょっと気になってたり、、、」
 みなももつい声を上げる。
 「僕だってずっと信じてなかったんですよ?小さいときから両親に言われてて、からかわれているんだと思ってました。でも、どうにも人と噛み合わないし、<能力>なんかもチラホラあったりして。そういうものは隠すよりも上手く付き合って行く方が良い、と思った訳ですね」
 「ご両親が宇宙人ですか。浅野さんは地球出身なんですね、、、」
 ここまで来ると感慨深げに、みなもが呟く。
 「地球の常識はわからないんじゃなかったの?」
 シュラインは草間に聞いた話を思い出して指摘した。
 「それは、、、僕は元来、家のせいか一般論とかが理解できていないようで。だからこう、ね?」
 龍平はバツが悪そうに愛想笑いをした。
 「そもそも、宗教ったって一体どんなーーー」
 シュラインが言いかけた時だ。少々乱暴に喫茶店の入り口の扉が開く音がして、龍平は反射的にそちらを向き、次の瞬間凍り付く。
 「宇宙人サンはいますかぁ〜?」
 白衣とも違った白い服の男を筆頭に、ゾロゾロと白装束集団が店内に侵入し始めていた。

*宇宙人とランデブー*

 席にも着かずに店内をうろつき始めた白装束集団に、店長らしき男が交渉しようと近付いて行く。しかし、店長が何か言う前に白装束のリーダーの方が口を開いた。
 「お騒がせしてすみません。私は<神意代理啓発研究会>会長の加藤です。すぐに出て行きますので、お気になさらず」
 怪しすぎる自己紹介に、店長が抗議でもしようと一歩前に出たが、加藤はそれを無視して一つのテーブルへとまっすぐに向かった。そこには2人の女性、すなわち、みなもとシュラインが腰掛けている。
 「あの、、、何かご用でしょうか?」
 みなもは少し引きつった笑顔で訊ねた。シュラインは落ち着いた様子でコーヒーを口に運んでいる。加藤は残り少ない髪に軽く手を触れながら微笑んだ。
 「ここに宇宙人が居ませんでしたか?」
 「宇宙人?一体何の話?」
 シュラインは不審そうな目で加藤を見上げた。
 「本当に居なかったんですね?」
 みなももシュラインも首肯しようとした。しかし。
 「居ませんよぉ、、、本当に居ませんよぉ、、、」
 ふいにそんな声が聞こえ出して仰天した。
 「、、、痛!痛ァ!」
 更にそんな声がーーー
 「テーブルの下、ですか」 
 加藤は屈んでテーブルの下を覗き込む。次の瞬間。
 「ぎゃぁーーーーー!!!!何で見つかったんですか?!って言うか、蹴られたよ!何で蹴るんですかっ?!」
 テーブルの下から這い出た龍平はそれだけ言ったかと思うと、再び奇声を発しながらわき目も振らずに店の出入り口へダッシュした。彼を足蹴にした2人はまだ動かない。
 「ヒィ!」
 だがその疾風の如き走りはすぐに中断されてしまう。龍平の向かう先、出入り口を20人近い白装束達が塞いでいたのだ。更に、彼の後ろからは加藤が迫っている。
 「ヤメテー!!解剖はイヤだぁぁぁぁ!!!!」
加藤に腕を掴まれて、龍平はもがいていた。しかしそれはすぐにおさまる。加藤の腕は龍平から離れ、宙に静止していた。
 「荒事はあまり好きじゃないんです。話し合いをしませんか?」
 みなもだった。彼女はテーブルに乗っていたコップの水を床に流し、それを糸のようにして加藤を拘束している。白装束達に衝撃が奔った。ざわめきが広がる。
 「き、、、君も宇宙人か?!」
 加藤が首だけでみなもを振り向き、目を輝かせて言った。
 「、、、はぁ?!」
 さすがに言葉が、出なかった。
 「私達は神の意志である、人間の能力の拡大について研究しているのです。未知の能力が私たちの研究対象なのです!もしや、あなたも?!」
 加藤は勝手な事を言いながら、みなもの隣に立つシュラインにまでその矛先を向けた。しかしシュラインは自分のポケットから携帯電話を取り出して、たった今受信したメールを読んでいた。
 「草間さんからですか?」
 みなもが彼女の手元を横目で見ながら訊く。シュラインは携帯電話を再びポケットにしまい、不吉にもにやりと笑った。
 「みなもちゃん、もう拘束しなくて大丈夫よ。ここじゃ何だからどこか別の場所で話しましょうか、教授?」
 「な、、、!?」
 加藤は、あまりの驚愕に顔を引きつらせて呻いた。

*宇宙人不信任案*
 
 シュラインとみなもの説得(脅し)で、白装束の集団は解散しようとしていた。彼らは新興宗教団体を装った、この近くの大学のオカルト研究会の会員だったのだ。それを指導(?)していた教授=加藤は、学校側に知られる事を危惧した会員達に裏切られ、薄暗い公園に取り残されている。
 彼らは、<宇宙人>を興味本位に追っていただけで、解剖なんて気はもちろん更々なかったのだ。それを聞いて恐怖から解き放たれた龍平が加藤に呪いを掛けるかの如くに、
 「あなたはこれから不幸に見舞われますよ。絶対、です」
 などと黒いオーラを漂わせ、眼鏡の奥の目を光らせつつ言い放つ。その言葉が終るか終らないかの内に加藤は必死の形相で公園から姿を消してしまった。

 「結局、それはどういう事だ?」
 シュラインが事の顛末を話し終えると同時に草間がこめかみに指を当てながら言った。もちろん彼は理解している。しかしーーー
 「変人同士の勘違い、、、じゃない?」
  理解し難い。草間は、こともなげに言ったシュラインを横目で見ながら、また溜め息を吐きそうになってうんざりしていた。
 「、、、ところで浅野の素性はわかったのか?」
 「どうやら、彼の両親がかなりの変わり者らしいわね。宇宙人を名乗るのも両親の影響が大きいみたい。彼自身は、ちょっと常識外れってだけで悪い子じゃないと思うけど」
 草間は適当に頷きながら次の言葉を待つ。だが彼女の口からは何も出て来ず、仕方なく自分から訊ねてみる。
 「浅野の家の住所は?電話番号は?振り込みはどうやってーーー」
 草間はシュラインの顔を見て言葉を切った。嫌な予感だ。
 「そういう事は、依頼を受ける前にするべきでしょ、、、」
 シュラインはそう言いながらもどこか罪悪感を感じてしまっている。まぁ、草間の顔を見れば誰でもそうなるだろうが。
 「悪気はないのよ、多分。多分ね、、、」
 シュラインの声が興信所に虚しく響いた。

 数日後。新聞の隅の方に小さく『大学教授カラスに襲われ入院』の記事を見つけたシュラインは、
 「悪い子じゃない、、、ねぇ?」
 一人呟いて苦笑した。
 
 ヲワリ

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)    ■
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1252/海原・みなも/女/13/中学生
0089/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

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■         ライター通信            ■
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 こんにちは、ハジメマシテ。佐々木洋燈です。 いやぁ妙な話ですよね〜。果たしてこれはギャグと呼べるのか否か。しかも今回出てきた龍平なんて、私の個人的趣味全開という、、、(汗。 でも楽しませていただきましたよ。また出したい(やめろ。 これに懲りずに是非仲良くしてあげて下さいね☆あ、みなもちゃんサイドも読んでいただけると、呪いを掛けるまでの経緯がわかるかもしれませんよ、、、。とにかくシュラインさん素敵です!ありがとうございましたー!!