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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>



反魂と龍


さて……ここに来てくれたということは、アンタは自分の力に自信があるんだよな?
まぁ別に話を聞いてからでも遅くないが……これは正直、オレも手を焼いているんだ。

調べてもらいたいのは、「反魂の術」についてだ。

通常、死者を蘇らせるなんてのは無茶だが…だが、この無茶をやらかそうって馬鹿がいやがる。
大元の依頼はそいつを止めたいってヤツなんだが、その「反魂の術」の方法がわからなけりゃ、それを阻止する方法だってわからねぇ。
そこでアンタには、「反魂の術」なんてものが実現可能なのか、それはどういった手順を踏まえて行うのか、この二点を調べてもらいたい。
ただ一つだけ言っておく。

-------これは、おそらくとても危険だ。

依頼人が言うからに、術者はもはや正気ではないらしい。
捜査中に襲ってくることだって十分に考えられるし、しかも相手はあの最強と詠われる【龍】だからな……。
無理強いはしない。最悪の場合、怪我だけじゃすまされないかもしれない。
そのぶん報酬は破格だと思ってくれていい。
失敗成功に関わらず、前払いで------そう、これくらいだな(ゼロが並んだ電卓を見せて)
今回の手がかりは【龍】と【反魂】の二つしかない。
殆ど無理を言っているのは百も承知だが、人間であるオレは【龍】なんてものに対抗できる術が無いんだ……。

この依頼、受けてもらえないだろうか?




。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。





  草間は全ての元凶である。それはエディヒソイが嫌と言うほど思い知っている事実だ。
 こいつと関わり合うとロクな目に合わない。前回はお気に入りのシャツがぼろぼろになり、まだ小さい龍の子守を押しつけられた。龍----リュウノスケは可愛いのでまだ許せるが、問題はシャツだ。高かったのに、と嘆く暇もあればこそ、草間はにやりと笑ってこう宣ったのだ。
 つまり、「そいつ(リュウノスケ)のせいだからな」と。
 確かに破いたのはリュウノスケなのだが、ともにょってしまったために、このことは有耶無耶になってしまっている。弁償してもらえないのだろうか、と浮かんだ疑問はすぐに確信にかわった。
 まったく、本当にツイていない。
 そして高校の期末テストも控えているこの時期に、また意味不明の依頼ときた。赤点になったら今度こそ草間のせいだな、と心に堅く誓って、エディヒソイはてくてくと歩き出した。
 空は梅雨時とあり、どんよりと曇っている。灰色だが重圧感の感じさせない、透き通った空気だった。今にも雨が降り出しそうだが、ずっと曇り空が続きそうでもある。薄い雨雲の上にさんさんと輝く太陽が連想できる、そういった晴れやかな空だった。
 時刻は夕刻の少し前といったところか、人通りは無い。閑静な団地である。横目に見える公園では、まだ幼稚園にも入れないような少年少女が、母親と楽しそうに遊んでいた。
「おまえも母親がおんねんなぁ?」
 隣でトグロを巻く小さい龍に問いかけると、くるぅっと答えが返ってくる。
 それが肯定なのか否定なのかは分からなかったが、エディヒソイはそれだけで満足した。
 一人と一匹は、また無言で歩きはじめる。
 リュウノスケは重くなかった。というよりも、いっそ存在感というものが感じられないのだ。常に傍にいるにもかかわらず、どこか空気のように全てを超越している気がする。食事の時も睡眠の時も、音というものを知らないかのように、無音なのだ。ただひとつ、鳴く時だけが、唯一リュウノスケが音を立てる時だった。草間に言われせれば「まだ存在の認識が薄いんだ」らしい。時間が経てばそれはそれは立派な龍になるぞ、と脅されて、リュウノスケの今後について真剣に悩んだ。住まいのことや食事のこと、友人達にどうやって隠すかといったその他諸々。父親ってこんな気分なのかな、などと思いながら。
 そうとう親馬鹿な自分を自覚して、苦笑した。
 そうこうしているうちに、視界が開けてくる。住宅街を抜ければ、荒川に面した土手が広がっている。
 土手の斜面を駆け上がり川を見下ろすと、大きなグラウンドがあった。サッカーコートが二つに、野球のグラウンドが二つ、日曜日は親子のクラブでごったがえすのだろうが、今は人っ子一人いない。そこだけ隔絶されているような閉塞感を味わいながら、エディヒソイは下へと降りていった。
 しん、と周囲は静まりかえっている。森の奧深くにひっそりとある、ガラスのような湖面を夢想させる静寂だった。すぐ近くに国道の橋がかかっているにも関わらず、車の音ですらしない。深夜ですら、車の流れは途絶えない場所であるというのに。異様、と、表現するに相応しい静寂であった。隣で浮遊するリュウノスケも異変を感じとったのか、緊張を隠そうともせず周囲を警戒している。
 エディヒソイは唇に手を添えて、不敵に微笑んだ。
 そして。
「……何や、この依頼もはやく解決できそうやなぁ」
「いつから気付いてた」
 唐突に、あまりにも不自然に響いてきた声に、エディヒソイは動揺することなく振り向いた。
 顎をしゃくるようにして、考えるフリをする。しばし沈黙を噛み締めるようにして味わい、微笑を崩すことなく言った。
「草間興信所を出たあたりや」
「なるほど」
 少年はそれきり黙ってしまう。
 美貌を持つ少年であった。青白い髪に煌々と燃える瞳。きめ細かい肌は陶磁のように白く、細い。だがしかしどこか諦めにも似た雰囲気を持っていた。それは人生に疲れ切った中年が見せる、無気力---------絶望のそれである。
 死にたくても死にきれず、かといって生きる理由も無く、生と死の狭間で揺れる死に神がいるのであれば、こういう雰囲気を纏うのであろう。絶対的な境界線の上で、人に等しく死をもたらす冥界の使いである。
 ぎらぎらと燃える眼に狂気を見つけて、エディヒソイはぞっとして身を引いた。
「……僕はね、姉さんを助けたかったんだよ。本当だよ?大好きだったんだ」
 く、と赤い唇が三日月を作る。血に塗れたように裂ける唇から、薄笑いが洩れていた。
 その笑みに剣呑なものを感じ取り、エディヒソイはさっと身構える。右肩を軽く引き、左足を一歩踏み出す。本来、拳法において構えというのは必要が無いものだ。受けて、流し、打つ。それだけだ。
「龍をたくさん殺せば、生き返るんだと思ってた。だからたくさんたくさん殺そうと思ったんだよ。ビデオっていうのは良い媒体だと想わない?人の愚かな想像力が、汚らわしい龍を生む。途中までは完璧だったんだけど」
「それが無意味やっちゅーことに、やっと気付いたわけやな」
 そうだね、と少年の瞳が陰り、それも一瞬のこと。ぱっと仮面の笑顔を貼り付けるそれは、大人の術だった。
「永久に流れる滴を絶とう。等しく死へ向かう絶望に、その龍を捧げるよ。僕の過ち、僕の罪、姉さんの想い、拗くれたのは運命の拠処。還してほしいな、僕の許へ」
 流々と、まるで詩を詠むように少年が続ける。

「その龍は、生きてはいけないものだから」

 その奇襲を避けられたのは、まさに奇跡であった。
 気が付いたら前方へと身を投げ出しており、頭上を何かが掠めていく。髪の毛数本をもぎ取って、それは土手の土へと突き刺さった。ぞん、と鈍い音がして、土が弾ける。
 何だ、と思考する間も置かずに、前方の空気が圧縮されるのを感じ、続けざま横へと飛び退いた。先程髪の毛数本を奪っていった不可視の何かが凄まじいスピードで眼前を横切り、右手にあった木々を薙ぎ倒して四散する。
 エディヒソイと入れ違いのようにして、リュウノスケが突っ込んだ。巨木ですらいとも容易く破壊できる体当たりは、少年の手の一振りによってはじかれた。
「-----------キュァ!」
 躯をしならすようにして、リュウノスケは数メートルほど吹っ飛ぶ。鉄すら切り裂くはずの鱗がずたずたに破壊され、血を流しながらも、リュウノスケはすぐさま起きあがり少年を睨め付けた。
「カマイタチか!!」
 空気を超圧縮して放つ術は、オーソドックスなものだ。だがそれゆえに避けにくく、応用も利く。
 ありていにいえば---------
「ありがちやけど、厄介やな」
 ぺろり、と親指を舐め、空気にかざした。
 カマイタチは基本的に風を操っている。ゆえに、風向きが重要になってくる。風下にいればカマイタチの威力もスピードも増大するが、風上にいればその威力は激減する。
 今は、風上だった。
「風はこういう使い方もあるんだよ」
 ふと、少年が右手を差し上げた。その右手の周囲を、風が渦を巻く。
 竜巻-------否。
「竜巻の剣!?」
「掠るだけで、ミンチになれるよ!」
 音もなく、少年の剣が、
 踊る。
 受けることはせずに、そのまま受け流す。突っ込んでくる剣先の軌道を読みながら、右に左にとかわしていく。やがてひやりと背筋に流れる汗にも慣れた頃、突然予想しなかった方向から少年の腕が飛んできた。間合いを詰めすぎたために、左右に避けることができない。大きく後方へと跳躍する。
(ちょい卑怯なテやけどな……)
 飛び退きながら、ポケットに入っていたサイフを、狙いも付けずに放り投げる。
「なんのつもりだ」
 少年が、無造作に腕で払った、刹那。
「リュウノスケェ!!!!」
 右脇を龍が横切っていく。はっとした少年の顔を真正面から見据えた。
「……ほな、さいなら」
 龍の口腔から迸る音に、エディヒソイの能力が合わさる。
 一人と一匹で生み出す数十倍、数百倍の重力が、一瞬で少年の上に叩き落とされた。
 ………………
 ………………………………
「終わ……っ!?」
 膝が折れた。身体から力が抜け、口に錆び鉄の味が混ざる。腹部に視線を移すと、血だらけになった少年の右腕が、自分の脇腹に突き刺さっていた。激痛に息が漏れそうになるのを堪えて、左手で少年の腕を力任せに掴む。
 自分とエディヒソイの鮮血に染まった顔を向けて、少年は嗤った。
「逃げなくていいの?僕はあんたにとどめをさせるのに」
 エディヒソイも、嗤っていった。
「奇遇やな、うちもや」
 カチャ、と少年の頭上に、黒光りする鉄を突き付ける。拳銃、人が創り出した、破壊のために創られた最小の武器。常に暴発するという危険と隣り合わせであることを代償に、鉄の鉛を誰かの肉体へ突き付ける権利を与える、英知の塊だ。
「あんたが強いのはようわかった……けど、これは避けられへんな?」
 リュウノスケが、いつでも重力波を放てるように横手で待機していた。
 いくた少年が風の能力を行使したとしても、横から重力で押さえつけられ鉛球をくらえば、生きていけはしないだろう。
「……そうだね---------僕の負けだ…よ……」
 少年が、ふと意識を手放した。
 つられるようにして、意識が急速に閉ざされていく。
 完全に昏倒する刹那に聞こえた言葉は、誰の言葉だったのだろうか。

 ----------- あ り が と う -----------



。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。。o。




 眼が醒めた時、見慣れぬ天井が目に入った。
 そういう小説があったことを思い出して、安堵した。
 どうやら自分は生きているらしい。
 腹部にある鈍痛を意識して、また苦い気持ちで呟く。視神経に異常は無い-----こんなに痛いのだから。
 どうやらここは病院のようだった。白い壁に白い床、白いカーテンに鼻を突く医薬品の匂い。馴染みは無いが、一生のうち必ずお世話になる場所である。
 布団の上に、リュウノスケが寄り添って眠っていた。
 時刻は夜----だいたい八時頃だろう。流れているテレビ番組を見て、そう判断する。
(テレビ番組……!?)
 はっとして起きあがれば。
「草まぐのびぎゃば!!!!」
「ああ、起きたか。あんまり急に動くと傷が開くぞ」
「大丈夫ですか?僕のチカラじゃ内臓まで治癒できないので」
 激痛に喉元まで迫り上がってきた嘔吐感を無理矢理押し込んで、エディヒソイはうめいた。
「ど、どういうこっちゃ…」
「つまり、だ。あの後、一部始終を見守っていたこいつ-----」
「犀刃リノックです」
「そうそう。サイファ・リノック氏がエディの傷を塞いで、病院まで運んでいってくれたというわけだ」
 となると、あの少年はどうなったのだろうか。
 エディヒソイが訪ねると、草間は肩を竦めて「知らない」とだけ言った。ということは、どうやら死んでいるわけでは無いらしい。
 その場に居たというリノックに聞けば、何か含みのある声で首を振られた。
 気になったが、問いつめる気力も無い。
 そして、唐突に気が付く。
「そうや…うち、明日期末試験なんや!」
「全治二週間ですよ」
 と、これは素晴らしい笑顔でリノック。
「草間…うち期末試験……」
「リノック、明日は晴れそうだなぁ」
「そうですね。きっと良い天気です」
「だから…明日期末試験……」
「明後日も晴れるだろうな」
「天気予報では雨と言っていましたよ」
「だから期末……」
「そうか、それは残念だ。洗濯物が乾かないのは困るものだぞ」
「そうですね。やはり清潔な服を着たいですし」
「だから…………」
「零が困るだろうなぁ」
「零というと、あの綺麗な妹さんですか?」
「…うぅ…………」
「やらないぞ?」
「わかってますよ」

 しくしくと泣き出したエディヒソイを、リュウノスケは優しく慰めた。



 その後、ドラゴンズ・フロウの名前が話題に出ることは、一度として無い--------
 


 

END or To be COMTINUED?
 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【1565】犀刃・リノック
 男/18歳/ 魔導学生

 【1207】淡兎・エディヒソイ
 男/17歳/高校生

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。大鷹カズイです。
この度は誠に…まことに申し訳ありませんでした。
納品が大幅に遅れてしまい、お詫びの言葉もございません。
今後、二度とこのようなことが無いよう、お金をいただいているという自覚をきちんと持ち、頑張りたいと思います。
本当に申し訳ありませんでした。

今回もやはり戦闘してしまいました。
重力という技はやはりカッコヨイ……リュウノスケもまた重力属性なので、念願のダブルG!
数十倍数百倍の重力って、普通ならプレスされたようにペシャンコになるんじゃぁ、と思ったのですが、あの少年Aの耐久力が尋常じゃ無かったんだろうと思います。
(最初はペシャンコだったのですが、見直してみるとあまりにもグロテスクなので、やめました)
エディ、期末試験はどうなったのでしょうか……(心配)

それでは、今回はご迷惑おかけいたしました。
またいつか、お会いできる日を願って。


   大鷹カズイ 拝