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<東京怪談・PCゲームノベル>


Please HELP me!

高校の教室。
大きな歓声と絶え間ない拍手にミスティ藤野は紅潮させた顔を上げ嬉しくて笑いたいのか、緊張で泣きたいのか、潤んだ目を教室の一番後ろにたつ人物たちへ向けた。
皆、笑顔で頷いている。
優しく肩を叩かれ振り返ると、満面の笑顔の少女にお疲れ様と言われ、藤野はもう一度深くお辞儀をしたのだった。


「しかし、上手いもんだなぁ」
のんびりと感心している忌引弔爾の横で同じく、藤野の腕に感心し頷くのは真名神慶悟。
「それだけの腕を持っているんだ。勿体無い……もっと自信を持っても良いだろう?」
「そうですよーこんなに上手だから、大丈夫ですよ!」
うんうんと大きく頷きながら、志神みかねはにっこりと笑顔を向けるが、藤野の顔は晴れない。
「そう……知り合いにも言われるんですが、どうにも……」
ボソボソと今にも消え入りそうな声にイライラと嬉璃が言った。
「こういう根暗な奴には何を言っても無駄なのぢゃ」
「そんな事ないですよ。誰だってやればできます!」
拳に力を込め、みかねは嬉璃にそう言うと藤野の手を握り締めた。
「私、お手伝いします!」
「あ、有難うございます」
微かに頬を赤くし、藤野はみかねに微笑んだ。
「でもよぉ、なんでそんなに緊張するんだ?過去に何かややこしい事でもあったか?」
弔爾の問いに同じ事を考えていた慶悟は藤野を見た。
藤野は眉を寄せ、不安そうな顔で俯きもごもごと口の中で何やら言っているのをみかねが促す。
「何かあったんですか?」
「……その、特にこれといったものは……子供の頃に、失敗して姉に笑われた位です」
「じゃあ、それが原因か?」
その言葉に藤野は首を振った。
「いえ、むしろ……それで完璧に出来るまで誰にも見せないぞって練習したのは良いんですけど、いざ誰かに見せようとすると……怖くて」
「……成る程ね」
弔爾と慶悟は顔を見合わせ、どうやら互いに同じような事を考えていることに微笑した。
「数をこなすしか、無いだろ。場数を踏んで精神的にたたき上げていく事位しか俺には思いつかねぇな」
そう、言いながらポケットから取り出したタバコに火を付けた弔爾の頭の中で、声が響く。
その声は先ほどからブツブツと藤野のマジックに感嘆の声を上げたり、力が出し切れぬとは歯痒いなどと思案していたが、身体の主である弔爾の言葉に、取憑いている弔丸は珍しく彼の意見に乗った。
『街角で披露してはどうだ?恥ずかしいのであれば遠出でもしてやってみれば良い』
「……街角でやるってのはどうだ?恥しけりゃ遠出すればいい」
弔丸の言葉をそのまま伝えると、慶悟は大きく頷いた。
「それは良い。精神的な克服は結局の所…自分自身が成し遂げるものだ」
「で、でもですね!いきなり……街角でなんて……」
顔中不安の色で一杯の藤野にみかねはにっこりと笑んで胸を張ってみせた。
「私がお手伝いしますって言ったじゃないですか。アシスタントは任せてください!」
一人より二人、って言うじゃないですかと、付け加えたみかねの横から、慶悟は藤野に一枚の札を差し出し神妙な顔つきで言う。
「奇術師を前に胡散臭いかもしれないが、これは【正気鎮心符】という札……まぁ一種のまじないだ。これは妄想や落ち着かない心を落ち着かせ、真っ当な判断を促す効き目がある。これを所持していれば大丈夫だ」
「あ…りがとうございます」
「旅の恥は掻き捨てっていうからな……ま、頑張って来い」
タバコを吹かしながら、他人事のように言った弔爾にも藤野は頭を下げた。
どうやら、真面目な気質で完璧を求めるのが彼の失敗を恐れる原因でもあるようだ。
「成功しないという強迫観念が度重なる失敗を生む。一度の成功が、それを治す場合もある……」
ぽつり、と呟いた慶悟。
みかねは立ち上がり明るい声で言った。
「さぁ、じゃあ早速練習しましょ♪」

昼の商店街は買い物の主婦や学校帰りの小学生たちの往来で通りには結構の人がある。
それを路地裏からこっそり覗く藤野はもう既に緊張でガチガチになり、一言も何も言えないでいる。
そんな藤野の後ろからみかねが小声で言う。
「ほら、藤野さん。お店の人も場所を貸してくれたんですから練習しなきゃ!」
それでも藤野の目は通りに釘付けになり、動けない。
堪りかねたみかねは、軽く藤野の背を押すがびくともしない。
更に力を入れるが動かない。両手を当てて、今度は思いっきり押すと今度は力が強すぎたらしい。
「あ……」
「わあっ?!」
通りに現れたマジシャンの格好をした明らかに商店街とは不釣合いな男に、周りの目が集中する。
「あ……う……」
まるで蛇に睨まれた蛙。
顔を真っ赤にして動けない藤野にまだ自分より大きなランドセルを背負った子供達がたかる。
「わぁ、なんだ〜?」
「何々。なんかすんのー?」
「うわ、ダッセーかっこ。何?マジックすんの?」
きゃらきゃらと口々に藤野を質問攻めにするが、それに答えられる余裕が彼にあるはずがない。
「何だよーなんか言えよ〜」
何も言わない藤野に不機嫌になって行く子供たちの間にひらり、と白い人型に切り抜かれた紙が風に舞うように浮かび、一度子供たちの目の前に止まるとまたひらり、と流れた。
突然現れた紙人形に子供たちの関心は一気にそれに移ると、呆気に取られている藤野を尻目にひらひら舞って行く紙人形の後を追いかけて行ってしまった。
「大丈夫ですか?藤野さん!」
路地裏から駆け寄るみかねの後、遠くから見ていた慶悟と弔爾も藤野の側へとやって来る。
「やれやれ……なんとかガキ共はアレにつられたが」
子供たちの去って行った方向を見て、弔爾は息を吐いた。
慶悟も息を吐くと、やれやれと頭を掻いた。
先ほどの紙人形は慶悟の作り出した式神、【小子神】。
本当なら、失敗のフォローをさせようと作り出したのだが、思わぬ事で役に立ったと慶悟は心の中で呟いた。
「だ、ダメです〜!やっぱり、出来ません!!」
いまだガチガチの藤野の姿に哀れそうな眼差しを向けるみかねが今度は三人に言った。
「……今度は私に任せてください。藤野さん!今度こそ頑張りましょう!!」
がっしと藤野の両手を握り締め、熱くそう言ったみかねに、藤野は戸惑いながらも頷いた。

場所は変わって、休日の私立高校の教室前。
黒のシルクハットに同じく黒の燕尾服といった格好でがちがちに固まっている男が一人。
ミスティ藤野はみかねの高校に練習をしに来ていた。
「まずは、少人数の前でやるのが一番です」
とはみかねの言で、一人教室の前に藤野を残したみかねは教室に来てもらった友人たちに声を潜めて言った。
「お願いだから、失敗しても大騒ぎしないでね」
「分ってるわよ。それより、似合ってる〜その衣装」
「そう?」
少し恥しそうに照れるみかねの衣装は裾の大きく広がった薄ピンクのワンピースドレス。
この日の為に貸衣装屋で借りて来てもらったのだ。
はしゃぐ少女たちを後ろの方で見ながら、弔爾はげんなりと溜息をついた。
「……誰が借りてきたと思ってるんだよ。ったく……」
そう。借りて来たのは弔爾。
四人の中で一番暇、と言う事でお使いに行かされた彼が仏頂面で帰ってきたのは言うまでもない。
その隣で苦笑しながら、慶悟は弔爾の肩を叩いた。
「ま、何事も経験だ。持ちつ持たれつ、人は協力しながら生きて行くものだからな」
そう言った慶悟を横目で睨み、何か言い出そうとした弔爾より先に慶悟は手を鳴らした。
「さぁ、お嬢さん方。お喋りはそれくらいにして、ショーを見ようじゃないか」
「あ、そうですね」
立ち上がったみかねは舞台代わりの教壇の上に立ち、しばらく空を見ながら口の中で手順を呟くと、頬を叩き、気合を入れた。
慶悟も小子神を藤野の周りにスタンバイさせ、みかねに目で合図をした。
「レディ〜スエンドジェントルマ〜ン!これより、楽しいマジックショーの始まりでーす!!」
みかねの言葉に合わせ、扉が開き藤野が入ってくる。
まるで機械仕掛けの人形のように歩く藤野と同じリズムで彩り鮮やかな小子神が浮かぶ。
それに歓声を上げ、拍手する少女たちにやっと、自分の周りに小さな紙人形たちが浮いている事に気がついた藤野は弱弱しいながらも慶悟に笑顔を向けた。
「大丈夫かよ……あいつ」
「駄目だったら、また練習すればいいさ」
「……そうだな」
懐からタバコを取り出し、咥えた弔爾の前に手が差し出される。
それに唇を片端持ち上げ、弔爾は一本慶悟に渡した。
「……利子つきで返せよ」
「覚えてたらな」
長く煙を吐き出し、ギクシャクとしながらもなんとか成長しようとする青年を二人は見守るのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神慶悟(マナガミ・ケイゴ)/男/20歳/陰陽師】
【0249/志神みかね(シガミ・ミカネ)/女/15歳/学生】
【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
壬生ナギサです。

お届けが遅くなり、申し訳ありません。
OMCのトラブルもありましたが、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

今までの書き方と少し構成の仕方を変えてみましたが、如何でしたでしょうか?
分りやすく、想像しやすく、読みやすい。
を目指して書いて行こうと思い始めた今日この頃。
日々精進で頑張って行きます。

それでは、またご機会とご縁がありましたらお会いしましょう。