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幸せになろう
今日もガラス管の中。たくさんのみあお"たち"がいる。
(身体はひとつ)
だけど、心だけはたくさん。
最初はそれに気づかなかった。みあおは辛さから逃げるために、もう1人の人格を作り出してはいたけれど。自分自身そのことに気づいていなかった。
(気づいていたのは)
作り出されたもう1人のみあおの方。
戦闘型鳥娘担当のみあお。
そのみあおがすべてを知っても冷静でいられたのは。みあおを守ろうと思えたのは、27歳という年齢のおかげだったのかもしれない。
その時は2人だった人格も、今ではさらに増えていた。そして皆が皆の存在を、理解していた。
オリジナルのみあおは13歳。そのみあおを守ろうとする27歳のみあお。そして"子供"であることを最大限に利用するための隠密型子供担当のみあおは6歳。どこでも入りこめる偵察型小鳥担当のみあおは0歳で、支援型天使担当のみあおは生まれたばかり。
人格がその5つに分裂してから、既に十数日が経過していた。
(でも――)
どのみあおも、もう1人の"みあお"が何人も存在するという事実に、自分の存在が何であるのか信じられなくなっていた。
自分が本当のみあおであるなんて言うことができず、それぞれの意志力は弱まるばかり。
(このままじゃ……どのみあおも消えてしまう!)
そう悟った27歳のみあおは、"みあお"のために全員に呼びかけた。
(人格統合しましょう! みあおたち全員が、生きていくために)
それぞれが弱いのなら、1つにまとめてしまえばいい。まとめてしまえば、どうして自分が何人もいるんだろうなんて、悩むこともない。
それに賛成したのは、消滅しかけていたオリジナルのみあおだった。
(ねぇ皆、そうしようよ。みあおはもともと1人だったんだもん。きっとうまくいくわ)
心のない入れ物には、なりたくない。
しかし6歳のみあおが反対する。
(みあおは嫌〜っ。だって痛いもん……)
身体であれば麻酔をかければいい。でも心に麻酔なんかないから。切ったり繋げたりしたら、痛いなんてもんじゃないだろう。
0歳のみあおはどうでもいいようで、口を挟まなかった。生まれたばかりのみあおはまだ自分で決めることはできない。
そこで、6歳のみあおを2人で説得することにした。
(みあお、みあお。きっと痛くないよ。痛みはみあおが引き受けてあげる)
(そんなの無理だよ〜。統合って皆がひとつに混ざり合うんでしょ? 痛みを肩代わりするなんてできっこないよ!)
(みあお。でも痛みの先に待っているのは、きっと自由だよ。みあおたち全員が抱えているこの何とも言えない不安から、解放されるよ)
(でも……でも――! みあお怖いよっ。だって皆がくっついて新しく生まれるみあおは、どんなみあおなのかわかんないもん! それに……みあおが消えるのも嫌だよぉ……)
6歳のみあおがいちばん恐れていたのは、実は自分が消えてしまうことだった。そして新しく生まれるみあおへの不安。
(一体どんなみあおが生まれてくるのか)
それは誰にもわからない。もしかしたら、この5人が誰も望まない恐ろしいみあおが生まれてしまうかもしれないのだ。
(確かに、怖いけど……でもっ。このままじゃみあおたち全員が消えちゃうんだよ?!)
オリジナルが呼びかける。こういう状況を作り出してしまった張本人だから、みあおが責任をとらなければならない。
(でも……でも本当は、みあおだって嫌でしょ? 自分が消えちゃうの……)
確かに嫌だ。でもみあおの中から"みあお"という存在が消えてしまうのは、もっと嫌。
すると、しばらくは聞いているだけだった天使みあおが口を挟んできた。
(人格統合じゃなくて、人格適合にしたらいいんじゃない?)
(適合?)
(そうか……1人の人格を基準として、形態に応じた人格が補佐を行うという形ね)
それは確かに有効な方法だった。皆それぞれの姿や用途を持っているし、それならば6歳の人格を残すことができる。他のみあおたちも、新しく生まれるみあおの性格なんて気にする必要はない。
(じゃあ……みあお消えなくていいの?)
(うん、いいよ。みあおは残ればいい。その代わり、ちゃんと幸せになってね)
(みあおたちを幸せにしてね)
(――うんっ)
そうしてみあおたちは、ゆっくりとゆっくりと。
6歳のみあおの中へと溶けていった。
痛みはある。
溶けようとするみあおをとどめようとする痛み。でも負けるわけにはいかない。
(分裂したままでは、いけないの)
たとえオリジナルのみあおが消えようとも。全員のみあおが納得できればそれでいい。
みあおはそう思った。
(だって、みんなみんな、"みあお"なんだもの)
すべてのみあおが、幸せを望んでいるんだもの。
(たまにでいいから)
必要になったら呼んでね。
"みあお"のために頑張るから。
そうして皆で、幸せになろう?
(了)
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