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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


忘れられし伝承



●緑の公園



 最近、ゴーストネットの掲示板はある話題で持ちきりだった。

 その話題の舞台は東京の外れの、広いだけが取り柄の公園。

 遊具はまったくなく、あるのは野原と小さな山と林と。そんな緑豊かな公園だが、この度いくつかの遊具と施設を建てることになったそうだ。

 おかしな事が始まったのはその頃から。

 事件が起こるのはたいてい、工事を進めようとした時。

 最初は、雨。工事を進めようとした日に限って降る雨。

 はじめのうちは運が悪いとしか思われなかった。だが次も、その次も――天気予報では降水確率ゼロパーセントと言われているにも関わらず、工事の日には必ず雨が降るのだ。

 度重なる工事延期にとうとう痺れを切らした事業主が強行しようとしたところ、今度は明らかに不可思議な事件が起こり始めた。

 ただ、被害として見た分にはたいした事は起こっていない。

 いきなり水をぶっかけられたり、誰かに足を引っかけられたり――そんな、いたずらとも呼べる規模のものだ。

 だが誰も居ないはずの場所でいきなりそんなことが起これば・・・・作業員たちが不気味に思うのも無理はない。

 そして・・・・・・・今、公園の工事は一時中断されている。

 悪天候にもいたずらにもめげず、工事を強行しようとしたところ、作業員の数人が大怪我をしたからだ。

 ――公園の工事は今、中途半端な状態で止まっていた・・・・・・。





●調べてみよう!



 公園は、ただただ、だだっ広かった。だがその所々にぽつんぽつんとある建設中の遊具や建物に、武神一樹は少しばかり顔を顰めた。

 緑が減り灰色の人工物が増えていく今の世の中。これも一つの流れだ・・・・・・だが、中途半端に投げ出されているそれらを目にすると多少は物悲しいものも感じる。

「さて・・・」

 まずこの付近の妖たちに話を聞いてみようと決めていた一樹は、早速周辺の散策をはじめた。

 ほんの十数分。それだけで、一樹はこの公園が一種異常な状態にあることを知った。

 ・・・・・・多すぎるのだ。

 妖が人間に混じって園内を歩きまわり、時には子供らと遊んでいたりする。様子を見るに人間たちは自分が会話し遊んでいる相手が人外だなんて思ってもいないようだが。

「ちょっと良いか?」

「ん、なに?」

 人間の子供そのままの外見の、だが人間ではない少年は、一樹が声をかけるとにっこりと笑って振り返った。

「少し聞きたいことがある。この公園で最近起こっている怪事について・・・何か知らないか? この土地に纏わる逸話でも、昔からここに棲んでいる者の話でも良い。知っていることがあったら教えて欲しいんだ」

 途端、少年はサッと顔を青くして脱兎の如く駆けて行ってしまった。

 あまりに突然の行動に、引きとめるひますらなかった。

 それから、歩けば当たると言った感じで妖に会うこと十数回。その全てが、同じような対応だった。

「・・・・なんなんだ、いったい」

 一度きちんと掴まえて話を聞きたいところだが・・・・・・もうすぐ待ち合わせの時間だ。

 今回の話に興味を持ち、調査を引きうけたのは一樹だけではない。

 あとできっちり話をつけなければと頭の隅で考えつつ、一樹は待ち合わせの場所へと向かった。





●門前払い



 海原みなもと武神一樹。合流した二人は先に調べておいた情報を交換しあい、公園の事務局の方に来ていた。

 事件を目撃した当事者の話を聞くためだ。

 だが・・・・・・。

「どこからそんな話を聞いてきたんだ?」

 それが、事務局にいた職員の返答だった。

 職員は呆れたような目で一樹を見、

「まったく、大の大人までそんな噂話に・・・・」

 わざとらしいため息をついて、バタンと扉を閉じてしまった。

「・・・・・どうしましょう?」

 しばらくの沈黙ののち、みなもがぽつりと呟いた。

「ふむ・・・・・先に妖たちの話を聞くか」

「なんで逃げるんでしょうか・・・」

 言われて、一樹は改めてあの妖たちの様子を思い返す。

 サッと顔色を悪くしたあの様子は、恐がっている――怒られる事を恐がっている子供を思い出させる態度だった。

 おそらくいたずらの犯人を知っているか、もしくは公園内の妖たちすべてが共犯なのではないだろうか?

 そんな考えが頭に浮かんだが、これらはただの推測だ。真実を知るにはやはり当事者の話をきちんと聞かなければ・・・。

「さあなあ・・・。ま、それも聞いてみれば良い」

 とりあえず公園関係者からの聞き込みを後回しにした二人は、妖たちの話を聞くべく公園内へと足を向けた。



 

●犯人確保



 妖を探すのも、確保するのも簡単だった。

 聞けば逃げるだろうという予測はついていたし、二人で構えていれば逃がさないようにすることは容易い。

 手首を掴んで引き止めている一樹の隣で、みなもが穏やかに笑う。

「突然ごめんなさいね。この公園で最近起こっている怪事について、何か知っていたら教えていただけませんか?」

 優しい声に、妖は少しだけ警戒を解いてくれたようだ。

 ビクビクとしながら、小さな声でだが返事をしてくれた。

「怒らない・・・?」

 小さな子供にしか見えない外見の妖を前に、二人はコクリと頷いた。



 そうして聞き出せたのは、二つ。

 この公園内にある泉を住処としている妖がいるのだが、工事が進むとその泉が潰されてしまうということ。

 今回の事件はこの公園に棲む妖たちが共謀して行った事であること――だが、住処を無くしてしまう当人には今回の妨害工作のことはまったく言っていないそうだ。



「何故だ?」

「その方は貴方たちの行動を何も言ってこないんですか?」

 首を傾げる一樹とみなもに、妖は拗ねたように口を尖らせてボソボソと答えた。

「放っといたら水龍(すいり)の家が壊されちゃう・・・。けど、ここら辺に人が増え始めた頃からかなあ・・・煩いって言って最近ずぅっと寝てるから・・・・・・」

 本人の知らぬまに住処を壊される事のないように・・・ということらしい。

「ふむ。とりあえず悪戯のことはわかった。そいつの家のことだ、とりあえずその水龍とやらに会ってみようじゃないか」

 一樹の言葉に、みなもが頷く。

「その泉の場所を教えてもらえますか?」

 みなもの質問に、妖はすぐ泉の場所を教えてくれた。





●龍の泉



 公園の奥にある小さな泉。夏には涼みに来る人で賑わいそうだが、まだ少し肌寒いこの時期には人影はまったくない。

「どうしましょう?」

 見た限り、妖の気配はない。

 眠っているためであろうとは思うが、普通に声をかけて起きてくれるものかは難しいところだ。

 だがそれ以外に良さそうな方法は見つからなかった。

「とりあえず、声をかけてみるか」

「はい」

 そして二人は泉の前で水龍の名前を呼びかけてみた。途端、風もないのに水面に漣が立つ。

 ザザァッ・・・

 不自然な高波が立ち、覆い被さってくる。水が引いた時・・・・泉の傍から、二人の姿は消えていた。





 ふと気付くと、周囲は淡い青一色に染まっていた。

 目の前に、和服姿の幼い少女がいる。肩のあたりできっちり揃えられたおかっぱの黒髪。濃紺の瞳。見たところ十歳前後といっただろうか。

 少女は不機嫌そうにこちらを見つめていた。

「人の安眠を妨害するのはおぬしらか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 素晴らしく外見とのギャップの大きい口調に思わず言葉を失った二人を無視して、少女――おそらく、水龍――は一方的に話続ける。

「ここのところ今まで以上に騒がしくて眠りが浅くなっておったところに、名前を呼ばれてはのう・・・。眠りたくても寝てられぬわ。で、おぬしら、わしになんの用じゃ」

「・・・この泉が潰されようとしているのは知っているか?」

 一樹の問いに、水龍は深い溜め息をついた。

「知っておる。だがあんな悪戯程度の妨害ではどうにもならぬわ。末端の作業員に怪我を負わせたとて同じこと、また代わりがくるだけじゃ。・・・・ここがなくなれば、わしは他に移るしかないじゃろう」

 どこか無感情に、淡々とした口調。

 みなもはさっきの妖の少年を思い出して、口を開いた。

「でも、この公園に棲んでいる妖たちは・・・・――」

「それもわかっておる。わしとて何もしなかったわけではない」

 言いかけた言葉を遮って、水龍がぶっきらぼうに言う。

 空を見上げたその様子から、初期の悪天候は彼女の仕業だったのだろうと知れた。

 ニッと笑って、どこか冷たい瞳で二人を見つめた。

「わしは昔は人と共におった。昔のように供物が欲しいとは言わん。ただ、静かに暮らしたいだけじゃ。・・・・・・本当は棲み慣れたこの地に留まりたいところじゃが、人に危害を加えるのもいやじゃ。工事を止める手立てがないならば・・・離れるしかなかろう」

「そういうことなら俺たちが力になれる」

 さっぱりと明るい表情で、一樹が宣言した。

「私たち、そのために来たんです」

 みなももまたニコニコと笑顔で宣言した。

「工事を止めてくれるのか・・・・?」

 水龍の問いに、二人はしっかりと頷いた。

 水龍が、穏やかに笑う。

「ふむ・・・久方ぶりの来訪者じゃ。信じてみよう。悪戯をしていた者たちにももうそんなことをしないよう言っておこう。・・・ただし、約束を破った時には・・・・」

 水龍の瞳がスッと細くなる。

「大丈夫です。きっとなんとかなります!」

 さっき門前払いされたばかりだという事実は頭の隅に追いやって・・・・・みなもは力強く頷いた。





●約束の行方



 水龍と話したのち、二人はすぐに工事を中止するよう説得に向かった。

 だが・・・・・それはそう簡単にはいかなかった。コネもなにもないうえに、話を聞こうともしてくれない公園関係者たち。

 それでも、諦めるわけにはいかない。約束をしたのだ――もし破ったら水龍の怒りを買うだろうことは明白。



 そうして通い詰めること一週間。



 公園についた二人は公園の入り口にある立て看板に目を丸くした。

 そこに書かれていたのは、事情により施設の一つが建造中止になったこと。その施設は・・・・水龍の泉の上に建つはずのものだった。

 どうして急に・・・・・・?

 そんな疑問は残ったものの、結果良ければすべて良しという言葉もある。

 二人は互いに顔を見合わせて安堵の表情を浮かべた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

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整理番号|PC名  |性別|年齢|職業

1252|海原みなも|女 |13|中学生

0173|武神一樹 |男 |30|骨董屋『櫻月堂』店長