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クルスを捕らえよ
□■オープニング■□
ある日雫のサイトに、こんな募集が書きこまれた。
協力者募集 投稿者:ソロモン 投稿日:200X.05.20 18:40
試しにつくってみたホムンクルスに逃げられてしまった(笑)。
そこで捕獲を手伝ってくれる協力者を求む。
ホムンクルス？ 投稿者:ラビ 投稿日:200X.05.20 20:20
って小人っつーか子どもだろ？
１人で捕まえられんのかい？
確かに 投稿者:ソロモン 投稿日:200X.05.20 21:53
見かけは子どもなのだ。６歳くらいに見えるだろう。
ただし、かなり賢い。
技術によって生まれたクルスは先天的に技術そのもの。
通常の方法では捕まえられないだろう。
何か、賢さを逆手にとったいい方法はないだろうか？
□■視点⇒海原・みあお(うなばら・みあお)■□
「ご協力、感謝する」
メンバーがそろうと、ソロモンはそう告げて頭を下げた。ソロモン自身みあおとあまり変わらない歳のように見えるけど……。
（確かクルスも、同じくらいなんだよねぇ）
子供が子供をつくりだしたってこと？
何だか変な話だね。
ここは待ち合わせの場所となった人通りの多いオープンカフェ。みあおの前にはソロモンと、今回一緒にクルスを捜すことになった光月・羽澄(こうづき・はずみ)が座っている。
「で？ ソロモン。お捜しのホムンクルスは、一体どんな子なの？」
ウェイトレスさんが運んできた飲み物を受け取りながら、羽澄がソロモンに問いかけた。
ソロモンは何故か苦笑して。
「それなんだが……はっきり言って僕とそっくりなのだ。僕のアレからつくったのだから、あるいは――と思ってはいたのだが、まさかこれほどとは」
「アレ？ アレってなぁに？」
みあおがそこを突っ込むと、今度は困ったような顔をつくる。羽澄は知っているようで、そんなソロモンを笑って見ていた。
「まぁその、アレはアレだ。体液、だと思ってくれ」
「ふぅん？」
（汗かなんかかな？）
よくわかんないけど、あまり言いたくなさそうだからこれ以上は勘弁してあげよう。
「服装は？」
羽澄が先を促す。
「ご覧のとおり、僕はこんな服しか持っていないのでね。その辺の幼稚園からもらってきた緑のスモックを着せていた」
そういうソロモンの服装は、大人の男の人みたいなスーツだ。
最初に見た時。
（七五三みたい……）
と思ったのは秘密にしておこう。
「じゃあじゃあ、クルスが好きなものってなんかある？」
今度はみあおが問いを振った。
ソロモンは腕組みをして「うーん」と唸ると。
「正直わからないな。部屋から出したことはないし、好き嫌いを選択できる程の情報は与えていないのだ」
「えー？ 好きな食べ物もわからないの？」
「何でも良く食べるし、拒否されたことはないな」
（むむむ……）
思ったよりも手強そうだ。
「じゃあとりあえず、キミの写真を撮らせてもらおうか」
羽澄はそう言って、携帯電話を構える。今流行りのカメラ付きケイタイだ。
「いいだろう」
応えたソロモンはポーズをつけて――パシャ。
「これを知り合いに送って、これと似た顔を見つけたら連絡してくれるよう頼んでみるよ」
羽澄はその方法を最初から考えていたようで、早速メールを送信し始めた。
（みあおもなんかしないとねっ）
「じゃあみあおは、子供がいても不思議じゃなくて、大人が入りにくいような所を捜しに行ってみるよ」
（外見はみあおと同じくらい）
それならこの外見を、とことん利用しない手はない。大人は大人なりの場所を探せばいいんだし。
（うん、ばっちぐぅ〜）
やる気満々のみあおに、ソロモンは。
「よろしく頼む。クルスはお金も持っていないし、移動手段も徒歩以外ないはずだ。そう遠くへは行っていないだろう」
それからみあおたちは、皆でケイタイの番号を交換して。それぞれにクルスを捜しに出かけた。
みあおが向かったのは、小学校とか幼稚園とかの学校関係だ。逃げたり隠れたりする時に公園じゃ、あまりにも普通すぎると思うから。
（クルスは賢い）
だから"普通"ではないだろう。
ただそういう場所も、最近ではずいぶんと物騒になってしまったために、関係者以外の大人は立ち入り禁止なんて場所が多い。そしてだからこそ、みあおにはもってこいなのだった。
（頭勝負じゃあ負け確定だけどっ）
体力勝負なら負けないもん！
見つけたら、向こうが諦めるまで追いかけてやるんだ。
そんなわくわくした気持ちで訪れた、４件目の幼稚園。皆が外で楽しそうに遊んでいた。かぶっている帽子の色は緑だった。
（帽子が緑ってことは、もしかして……）
みあおはおねーさんたち（先生だ）に見つからないように建物に近づき、窓から中を覗いてみる。
「！」
（やっぱり……）
中で折り紙遊びをしてる皆は、緑色のスモックを着ていた。もしかしたら、ソロモンはここの幼稚園からもらってきたのかもしれない。
（この中に混じってたら、面白いんだけどなぁ）
部屋の中を見回してみる。
皆折り紙に夢中のようで、下を向いてる子が多くて全員の顔を見ることはできない。
ふと、壁に貼られている絵に目をとめた。皆が描いた、きっと先生の絵だろう。
（――数えてみよっかな）
絵の数より今いる人数が少ないならまだしも、多かったら……可能性が出てくる。
（えーと、右から……いーち、にぃ、さん……）
数えるのに夢中になっていたみあおは、背後から人が近づいてくることにまったく気づかなかった。
「――なぁーにやってるの？」
「わぁっ」
驚いて振り返ると、さっき外で遊んでた皆と一緒に遊んでたおねーさんだ。
「あなた、この辺の子供？ 皆と一緒に遊びたいの？」
どうやら勝手に入ったことを、怒りたいわけではないらしい。
みあおは少し安心して。
「んーん、違うの。みあおと同じくらいの歳の子で、緑のスモック着た子を捜してるの」
「それはお友だち？」
おねーさんが不思議そうに首を傾ける。
「んー……これから友だちになるかもしんない」
「そ、そう……」
おねーさんはずっと笑顔だったけど、困っていることがありありとわかった。
（みあおも困ってるんだけど……）
――ガラッ
「どうしたの？ よしちゃん」
今度はみあおが覗いていた窓が開く。中から違うおねーさんが顔を出した。
よしちゃんと呼ばれたおねーさんは、安心したように息を吐いて。
「この子がね、中の様子を覗いてたから。よくわからないんだけど、緑のスモックを着た同じ歳くらいの子供を捜しているんですって」
「あら……」
中のおねーさんもやっぱり不思議そうな顔をしたけれど、みあおが真剣な顔をしていたせいか、一応は真面目に取り合ってくれた。
「この中に、その子がいると思うの？」
「いるかもしれないの。だからみあお、壁に貼ってある絵の数を数えてた」
「みあおちゃんっていうのね。じゃあみあおちゃん、絵の数と皆の数が同じだったら、ここにその子はいないってわかってくれるかな？」
おねーさんの言葉に、みあおは勢いよく頷いた。おねーさんも頷いて。
「絵の数は24枚よ。私が貼ったから、それは間違いないわ。じゃあ子供の数を一緒に数えていきましょうか」
みあおと同じ高さに視線を合わせて、指をさしながら数えていく。
「１人、２人、３人……」
途中で外にいたおねーさん（よしちゃん）は、皆の方へ戻っていった。２人とも子供が１人増えているなんてことは、全然考えていないんだろう。
（やってみなきゃ、わかんないじゃないっ）
クルスは賢いって、言ってたもん。
子供に紛れるくらい、わけないかもしれない。
「……22人、23人、24人――あら？」
おねーさんの声がとまった。
みあおの目には、まだ数えられていない１人が残っている。同じものが、おねーさんにも見えているはずだ。
「25人……？ どうして?!」
驚愕の声をあげて、おねーさんは皆の方に戻ってゆく。
「ちょっと皆！ 折り紙やめて顔を上げてちょうだい？」
パンパンと手を叩きながら、皆にそう促した。そうして上げられた顔の中に、みあおは発見する。
「あっ、いたぁ〜〜〜!!」
「?!」
さっき見たソロモンとそっくりの顔がいたのだ。みあおの声に反応して、その顔が急に動き出す。
――ガラッ ……バン！
部屋から出て行った。
（逃げる気ね！）
負っけないんだからぁ〜〜
建物の出口に回りこむと、ちょうど出てきたところを鉢合わせた。
「あっ」
小さく声をあげて、みあおから逃れるように走ってゆく。
「待ちなさーい！」
みあおはもちろん追いかける。
追いかけごっこなら負けはしない。何故ならみあおには、最後の手段がある。
（空を飛ぶという）
最後の手段が。
★
住宅街に逃げ込んだクルス。碁盤目のように張り巡らされた道を、クルスを見失わないよう注意して走る。
「待ぁぁぁてぇぇぇ〜」
クルスのスピードは目に見えて落ちてきていた。みあおが追いつくのも時間の問題だろう。
そう思った時だった。
（――え……？）
みあおが目で追っている先で、クルスが２つに分裂（?!）したのだ。
いつの間にか２人が走っている。顔が見えないので、同じかどうかはわからないけど。
（目がぼやけてるのかな？）
そう思って、走りながら何度か瞬きをしてみる。それでも直らない。
さらに。
「なっ、なんで?!」
次の角を曲がった時には、クルスが３人になっていた。みあおの前を走る影。
（クルスって増えれるわけ?!）
ソロモンに訊いてみようかな……と考えて、やっと見つけたことを連絡していない事実に気づいた。
３人に増えたクルスを見失わないように気をつけながら、ケイタイでソロモンに連絡する。
『クルスを見つけた？』
「みっ、見つけたけど、逃げてるよぉ〜。しかも逃げながら３人になっちゃった！」
『ああ、それは……あとで説明しよう。それより今どこを走っている？』
ソロモンにこれまで走ってきたルートを伝えると。
『ＯＫ。じゃあそのままクルスを追い続けてくれるかね？』
「捕まえろってこと？」
『いいや、追うだけで構わないのだ。どうやらクルスは、逃げながら自然ともとの場所へ向かっているようだ』
「わかった。じゃあこのまま追いかけるね！」
『こちらは家で準備しておこう。では』
通話を終えて、改めてクルスに目を戻す。
（また増えてる）
今度は５人。
（どこまで増えるのー?!）
目の前で増え続けるクルスは、ソロモンの家にたどり着く頃には10人にまで膨れ上がっていた。
家の前で待っていたソロモンは、クルスが通ったあとのドアを閉めると。肩で息をしているみあおに向かって笑った。
「ご苦労だった。これで半分のクルスが戻ってきたようだ」
「は、半分?!」
「もう半分もこちらに向かっているらしい。とりあえず……中で休むかね？」
「そうさせてもらえると嬉しい……」
結局ずっと走り回って、みあおはすっかり疲れていた。
しばらくソロモン宅で休んでいると、10人のクルスを連れた羽澄が戻ってきた。羽澄も困惑した表情をしている。
「一体どういうことなの？ ソロモン。どうしてクルスがこんなにいるのよ?!」
すごむ羽澄。みあおも負けじとソロモンを睨む。
ソロモンは申し訳なさそうな顔をして。
「だって……最初から20人いるんだと言ったら、絶対に引き受けてくれなかっただろう？」
その言葉に、羽澄は怒ったように返した。
「何言ってるのよ。それで断ったりはしないわ。ただ人数が多いなら、こちらの方法だってもっと色々と考えられたはずよ」
みあおもそれに同意する。
「そーだよっ。人数が多くたって、みあおができる限りのことは頑張るもん」
ソロモンにはそれが予想外な言葉だったようで、目を大きく見開いた。それから珍しく素直そうな笑顔を見せる。
「……ありがとう、２人とも……」
それを見てみあおは、なんだかほんわかしたいい気分になった。
（やっぱり人を幸せにするのって気分がいいね♪）
力に頼らなくても、みあおは人を幸せにできるんだ。
それが凄く嬉しい。
みあおも笑顔を返す。
「――で？ 20人のクルスが皆で大暴走した理由は、何だったの？」
「ぎくぅ」
羽澄も笑顔で問う。笑顔なのに何故か少し怖い。
「ま、まぁそれは……色々あってだね……」
「言わないつもり？ だったらいいわよ。皆に訊くから。ね？」
「うんっ」
振られて頷いてから、みあおたちはクルスがいるだろう部屋の方へと歩いていった。ソロモンは追ってこない。どうやら自分の口からは言いたくないだけのようだ。
「クルスくんたち、開けるわよ」
一言声をかけてから、羽澄が引き戸を開く。するとクルスたちが、思い思いに遊んでいるのが見えた。
「あ、やぁ。さっきのおねぃさん」
１人が羽澄に声をかけた。
「追いかけごっこ、楽しかったよ」
他の１人がみあおに声をかけた。
「ねぇ皆。なんでここを逃げ出したの？」
みあおが問いかけると、20人のクルスが皆互いに顔を見合わせる。
そして。
「だってソロモンがうるさいんだ。教えろ教えろって。むしろこっちが教えてほしいっつーの」
「？ ？」
なんだか話がよくわからない。
「何を教えろって？」
羽澄が詳しきを問うと。
「だからそれもわからないんだ。で、うるさいから皆で逃げてみようってことになって……」
みあおは羽澄と顔を見合わせた。そしてそのまま、回れ右。そこには引きつった苦笑を浮かべたソロモンが立っている。
「一体どういうことなの？」
「なの？」
またしても睨むみあおたちに、ソロモンは。
「そんなに睨まずとも、ちゃんと話すのだ。さっきの部屋へ戻ろう」
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『技術によって、彼ら（＝ホムンクルス）は生命を、肉体を、血を、骨を与えられる。技術によって生まれた彼らは、先天的に技術そのものである。だからひとは、彼らに何も教えこむ必要がない。むしろ彼らこそ、他人に教える資格がある。何故かといえば、彼らは庭における薔薇の花のごとく、技術から生じたのであり、技術によって生命を保っているのだから。すなわち、彼らは人間以上のもの、精霊に近いのだ』
ソロモンがクルスをつくる際に参考にした本・『物性について』の中に、こんな一文があったのだという。
それでソロモンは、教えようとせずに教わろうとし続けた。だから皆は嫌になったんだ。
ソロモンに感謝はしていても、ソロモンの求めるものがよくわからない。だってクルスたちはまだ、育ってはいなかったから。
「でも……皆自分からここに戻ってきたよね？ なんでかな？」
話を聞き終わった後、疑問に思ったみあおが問った。それに答えたのは、ソロモンではなく羽澄だった。
「それはね、あの子たちが賢いからよ」
「え？」
「賢いからこそ、自分たちがここ以外では生きていけないことを、わかっていたの」
「そっか……」
きっとクルスたちにとって、この脱走は最初から一時的な反抗だったんだ。
またこの場所に戻ってくると、決めていたからこそできた。
（こんなんでも、ソロモンはちゃんと想われてる）
そんな皆を、こんなふうに閉じこめてちゃダメだよ。
帰る時に、みあおはソロモンに告げた。
「たまには部屋から出してあげてね」
（少しの自由もない生活なんて）
本当はつまらないから……。
(了)
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号/ ＰＣ名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 1415 / 海原・みあお / 女 / １３ / 小学生 】
【 1282 / 光月・羽澄 / 女 / １８ /
高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは＾＾ 伊塚和水です。
クルス捜索、お付き合い下さってありがとうございました_(._.)_
最初は普通にクルスが１人のつもりで書いていたのですが、あまりにも普通すぎてつまらないかなーと思い、増やしていったら凄いことになってしまいました(笑)。でもみあおさんなら、20人のクルスもなんのその、一緒になって元気に遊んでくれそうで、見えない部分を想像するのがすごく楽しいです＾＾
それでは、またお会いできることを願って……。
伊塚和水 拝
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