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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


シャドウストーカー

------<オープニング>--------------------------------------

 近頃、渋谷の夜の街でおかしな事件が起きている。
 何でも、ネオンに照らされた通りを歩いていると自分の背後から何か話し声が聞こえてくるのだという。
 おかしいと思って振り返ってみても、誰もいない。
 気のせいかと思ってまた歩き出すとまた聞こえてくる。振り返っても当然誰もいないに決まっている。
 そんな事がしばらく続いて、気味が悪くなって駆け出し、人気の無い裏路地に入るとようやくその声が止んだ。
 その事にほっとして息をつくと、背後に何者かの気配を感じ、慌てて背後を振り向いてみるとそこには…。

「自分の影から何かが姿を現して、その影の中に引きずりこんだぁ? 一体何の冗談だ、そりゃ」
「でも、ホントなんです。ホントに私の友達の京子が一緒に渋谷の町を歩いていた時に、そういう目にあったんです! それから、彼女行方不明になっていて、誰も見かけた人はいないそうなんです…」
 すっとんきょうな声を上げる草間に対して、依頼のために事務所に訪れた少女の顔は真剣そのものだ。
 孝美と名乗ったこの少女はどうやら高校生らしいのだが、夜中に今流行りのプチ家出をしていて同じ事をしている友達の京子と渋谷の町をぶらついていたらしい。
 だが、ある日の夜に今、密かに噂として囁かれている事件と同じ目にあって、京子は自分の影の中に引きずり込まれてしまった。
 当然、警察にこんな事を正直に話しても信じてもらえないため、止むを得ずここを頼ってきたのだという。
「大体、どうしてウチなんかに頼ってきたんだよ? ここは探偵事務所だぜ」
「でも、ここなら怪奇事件も解決してくれるって、ネットとかで有名だからそれで…」
 何でそういう方向で有名になるかねぇと、草間は溜息をつきながら何本目かの煙草に火をつけた。
「あの、今、お金はないんですけど、何とかバイトしてでも何でもしてお金は用意しますから、京子を助けてもらえませんか!?」
「…って事だが、誰か調べてみる奴いるか? もっとも、依頼料は後払いになりそうだが…」


●闇に潜むもの
 東京という都市の闇に潜むものたち。
 新宿は歌舞伎町で起きた今回の事件は、そういったものたちが引き起こしている事件の一つかもしれない。
 影から突然姿を現すという怪異の話を聞きつけた海原・みなも(1252)は、そのものの力に不思議さを感じて首を捻った。
「影が襲ってくるなんて不思議ですねぇ。うちの妹もかわいいですから、いつ被害に巻き込まれようとするかわかりません。その前に何とかしないと・・・」
「闇に生き、影を渡る者は他にも多数います。どういった能力なのかは具体的にはわかりませんが、闇という高貴なる世界に棲むものたちは数多い・・・。とはいえ、多少の節度は持っているつもりですが、今回のものは少々礼儀知らずなようですね」
 闇に潜むものと一口にいっても、その姿や種類は千差万別である。
 自身も闇に生きる種族であるウォレス・グランブラッド(0526)は、その正体を図りかねたが、放置しておくつもりはないようだ。
 美学ももたない低級な怪異が大きな顔をするなど、許されるべきことではない。
 既にこの事件では、被害者も出ている。
 影に潜み、姑息な手段を用いるそのものに対して、ロゼ・クロイツ(0423)は明らかに敵意を感じていた。
「影に潜みしもの…、神の光より追いやられしものか。足許に潜む影とは、憐れな。だが、これ以上の悪行を許すわけにはいかぬ。ここで滅してやらねばな」
 その言葉には微塵も慈愛の心無く、ただ神の敵たる邪悪なるものを滅することに向けられていた。
 とはいえ、現状では敵の情報は余りに少なく、このままでは敵の存在を断定して行動を起こすには情報が不足している。
 闇雲に夜の歌舞伎町を歩き回ったらといって、敵が姿を現す可能性は低いだろう。
 この事件がどのような場所で起きているのか。
 それについて、宮小路・皇騎(0461)は得意のインターネットを用いて情報を収集することにした。
「・・・この事件は深夜の歌舞伎町、それも表の路地ではなくて、少し奥まった路地で起きているようですね。歩いている最中に突然闇に襲われたという事件が、何件か情報が来ています。ただ、警察の方では特に明確な情報をつかんでいるわけではなさそうですね。今のところは行方不明事件で処理しているようです」
 いきなり影から何かが姿を現して襲ってきたなどと話されても、警察ではまともに処理できるはずもない。
 依頼者が草間探偵事務所に駆け込んできたことからも、警察はあてにはできないのだ。それゆえ、得られる情報もたかが知れている。
 やはり自分たちの足で情報は探ってみるしかないのだろうか。
 そんな中、勤め先の図書館などで特に関係のありそうなものだけをピックアップして調べてみた綾和泉・汐耶(1449)は、幾つかの文献から興味深い記述を発見した。
「影に関するものとしては、影縛りとか影渡りみたいなものが存在するようね。そのほかには、影は精神世界との係わり合いが深いみたいだから、もし今回の事件で影に潜むものが首謀者なのだとすれば、それは精神世界の存在なのかもしれない・・・」
 多くの人間は、その存在に気づいていないが、この世界には単なる常識では解決できないことが多々存在する。
 異界の存在もそれの一つであり、現在のこの世界以外にも魔界や妖精界など知られざる世界は複数存在し、それらの世界との扉は意外に簡単に開くことがある。
 今回の怪異も、もしかするとそのように開いた扉からきた異界の存在なのかもしれない。
 ともかくとして、集められるだけの情報をまとめた結果、やはり自分たちの足で歩いて敵をおびき寄せる以外に手段は無いという結論にまとまった。
 早速、鬼伏・凱刀(0569)は現地へと向かい、そのものを探し出すことにするのだった。
「さて、どんな奴が待っているのやら・・・。もっとも奴が俺を殺す気ならば俺も殺す気でかかる。己が刃、神人魔問わず断つ刃故、敵は選ばん。誰であろうと関係無い」

●不夜城の一角で
東京の街に真の闇が訪れることは無い。
 闇におびえる人々は、電気による光を作り出し闇を退け夜をも自分たちの時間とした。
 煌々とネオンの光によって照らし出された新宿の街は、まさに不夜城の名にふさわしい。
 だがそれは、真に闇を退けたことにはならないことを、ウォレスは良くわかっていた。
「・・・いかに光に頼ろうとも、所詮夜は闇の時間。光によって作り出された闇もまた深くなるのみ、ですか。おかげで、この町は闇のものたちの温床のようなものですが・・・」
 闇を恐れるあまりに作り出した巨大な光は、逆に深い闇をも作り出し、闇の繁殖を容易にした。
 人が多く集まれば、その心には深い闇が発生する。
 あらゆる意味で多くの闇のものたちが集うこの町で、狙いのものに遭遇するのは中々に珍しい。
 わざと気配を絶って、闇のものの気を引くような行動をしてみたが、今のところはそれに引かれて来るのに影から姿を現すものはいないようだ。
 ロゼは、銀の矢などを装備した物々しい格好をしてあえて目立つように歌舞伎町の町を歩き回るが、こちらもそれらしきものが姿を現すような気配は無い。
「・・・退廃と堕落。忌まわしい快楽に満ちた町、か。確かに神の教えに背を向けた忌まわしき闇のものどもが喜びそうな場所であるが・・・」
 卑猥な言葉をかけて近づいてきた男を容赦なく蹴り飛ばしながら、彼女は不快そうに眉を顰めた。
 この町には様々な背徳のものが揃っている。
 そんな町に闇のものが集まるのは当然のことで、彼女としても、敵はその一部では無いかと目をつけていた。
(「影に引き摺り込んだと言う事は、敵は影そのものと言うよりは、むしろ影から影へ移動する能力を持ったものと見るべきか。尤も、影から影へ移動する能力を持った影という見方も出来るか。人を攫うという資質、人外外道の可能性も多々にある。誘拐等の警察沙汰の事件に発展していない事から考えても・・・」)
 しかし、自分の影には今のところ、特にこれといった変化は起きていない。
 事件について、もう一度詳しく調べてみた宮小路は、引きずり込む影について興味深い情報を手にした。
「似たような事件も一通り調べてみたのですが、どうも共通する事が存在しているようで・・・。襲われている人たちはどれも一般人であり、女子供ばかりが狙われています。ですから、もしかすると影は弱い人間だけを狙っているのではないでしょうか」
 彼自身も囮となり、街中を歩いてみたが影に動きは無い。
 女子供と言えば、今回依頼を引き受けた者たちの中では海原が一番に思い当たるのだが、こちらもまだ影からの接触は発生していなかった。
「・・・う〜ん、確かに被害者には女子供が多いみたいですけど・・・。あたしの方には姿を現していないんですよね。一応、家出少女らしい格好はしてきたんですけど」
 儡も雑誌を読んだりして、事件について書かれている記述を探してみたが、確かに被害者は女子供が多かった。
 しかし、海原のところには姿を現さない。
 このことについて、宮小路はもう一つの点を指摘する。
「先ほども言いました通り、これは一般人を特に狙っているみたいです。もし影のものが力を感じ取ることができるとすれば、強い力をもった人間の前には姿を現さないのかもしれません。つまりは・・・」
 もっとも異能者では無いものこそが狙われやすいということである。
 そして、それに最も該当するものとは・・・。

 その頃、綾和泉は一人人気の無い裏路地を一人で歩いていた。
 表の通りの喧騒から外れた底は、まさに闇の凝縮された漆黒と沈黙が支配する空間である。
 ネオンの明かりによって作り出された、深き彼女の影はゆっくりとその形を歪めながら、ついに人の形となって隆起すると彼女に向かって、その指を伸ばした。
「あああぁぁぁぁ!?」
「・・・! 姿を現したか? ・・・来い!」
 通りの向こうから聞こえてきた悲鳴に反応した鬼伏は、すばやく小鬼を召還するとそれと共に悲鳴の聞こえてきた場所へと急ぐのだった。

●シャドウストーカー
 影からはいずり出たもの。
 それはまさに異形の存在としか言えないものだった。
 黒いタールを人型に固めたような、不気味な手を綾和泉に対して指し伸ばしてくる。
 彼女がまったくの一般人であれば、このままそれに引きずりこまれていたかもしれない。
 だが、綾和泉は手にしていた文庫サイズの本を取り出すと、封印を解いてそれに投げつけた。
「これでもくらいなさい!」
 猛烈なスピードと飛来する本の直撃を受けたそれは、思わぬ反撃にぐらりと身をのけぞらしたが、再び体勢を整えると、彼女に向かって手を伸ばす。
 しかし、それが彼女の体に触れるよりも早く、今度は小さな鬼のようなものが複数黒い体にまとわりつき、牙を突き立て始めたではないか。
鬼伏が放った小鬼である。
遅れて鬼伏自身もその場に駆けつけた。
「そこまでだ。もはや貴様に逃げ場所は残っていない。諦めるんだな」
 小鬼に体を噛み付かれたそれは、もがき苦しむような様を見せながらも、何とかこの場から逃げ出そうと小鬼を振り払って、綾和泉の影の中に逃げ込もうとする。
 だが、今度はその影の中から姿を現したウォレスが、それを掴み上げて通りへと放り投げた。
「私が恐れるのは信仰、神を顕すもの…そして激しい太陽の光のみ。その見てくれからも、神の使途では無い。太陽とも縁遠い。恐れる必要はどこにもありませんね」
「・・・神の光より目を背けし愚か者よ・・・。もはや逃げ場は無いと知れ。数多くの人々を苦しめてきた報いはその身をもって受けてもらうことにしよう」
 姿さえ確認できればこちらのものである。
 続いて現場に到着したロゼは、ワイヤーによってそれの体を絡めとると、細腕からは考えられない力を発揮してそれを振り上げ、再度地べたに叩きつけた。
 人並みはずれたなどという陳腐な言葉では表現できないほどの圧倒的な力によって、その影のようなものを叩き潰す能力者たち。
 そして、宮小路は武器召喚によって呼び出した髭切を構えると、それの首筋に向かって突きつけた。
「さぁ、攫った人たちがどこにいるのか吐いてもらいましょうか・・・。素直にしゃべらないと損をしますよ・・・うん?」
 だが、それは依頼を能力者たちの前で、突然ぐにゃりと崩れると跡形も無く崩れ去っていく。
 やがて地面に溶け込んで、完全にその痕跡が見られなくなったそれを見て海原は困った顔をする。
「・・・どうしましょうか? これで攫われた人たちを探しだす手がかりが無くなってしましたが・・・」
 確かに今消え去ってしまったあれが事件を引き起こした張本人だとすれば、これで手がかりは全て無くなってしまったことになる。
 依頼主の目的であった、影に連れ込まれた者の救出。
 どうすれば良いのかと、思案に耽りながら事務所へと戻った一行を出迎えたのは、なんと依頼をしてきた少女孝美その人だった。
「あ、皆さんが依頼を受けてくださった人ですよね! 本当に有難うございます。あの子、戻ってきたんです。あれからいなくなった場所で気を失って倒れていたんだそうなんですけど、皆さんが解決してくださったんですよね?」
 いきなりの事に面食らう彼ら。
 依頼人の言っていることに訳が分からなかったが、詳しく聞きだしてみると彼らがあの影のようなものを倒した翌日の朝、何と影に連れ込まれた人々が次々とその攫われた場所から発見されたというのだ。
 警察としても一体何が何のかさっぱり分からず、お手上げ状態とのことだった。
 自分たちに礼を述べる依頼者に、彼らは釈然としない何かを感じながらもひとまず一つの依頼が解決されたことを受け入れることにするのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13 / 中学生
 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき) / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)
 0423 / ロゼ・クロイツ / 女 / 2 / 元・悪魔払い師の助手
 0569 / 鬼伏・凱刀(おにふせ・がいと) / 男 / 29 / 殺し屋
 1449 / 綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや) / 女 / 23 / 司書
 0526 / ウォレス・グランブラッド / 男 / 150 / 自称・英会話学校講師

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 シャドウストーカーをお届けいたします。
 無事に依頼人が依頼した通りに京子は助け出されましたが、文中にありました通り、少し釈然としない終わり方になっています。
 敵がどのような目的をもってこのような行為に及んだか、それを調べるプレイングと能力があればあるいは違う方向にいっていたかもしれません。
 この作品で一区切りとして、またアクスディアなどWTに集中することになるかと思います。
 WTの方も何卒ご贔屓によろしくお願いいたします。