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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


お困りですか?〜カビ予防〜

「あ、この投稿者は……」
雫は掲示板に目を止めた。

■お困りですか? 投稿者:新月堂

梅雨間近の季節。
ちょっとした事でカビが生え易くなります。
是非、新月堂にご一報下さい。
お風呂のタイルのカビから人体のカビまで一掃します。
カビ予防は新月堂へどうぞ。


「今度はカビ〜?」
雫は呆れたような声を出した。
前回の投稿は花粉症に関する事で、何人か新月堂へ行ったのを雫は聞いていた。
そして、その時あった事も。
「きっと、味をしめたのね」
瀬名雫は画面から視線を外すと、しばし考えていたが投稿はそのままにしておく事にした。
「んふ♪今回も何か面白い話が聞けるかも」
良い話のネタが増えたわ、とまた新たな犠牲者が増えるとも知らず雫は別の投稿記事に視線を移したのだった。

▼Scene 1
人通りの無い裏小路の趣のある日本家屋の前に立つ今時の少女が一人。
巫聖羅は厳しい顔で腕組みをし、目の前に鎮座する新月堂を見ている。
「う〜……新月堂……また性懲りも無く、掲示板に書き込んで来るとは〜」
唸るように呟く聖羅。
彼女はゴーストネットに再び現れた新月堂の名にここへ脚を運んだのだ。
「前回の花粉症の宣伝で味を占めたに違いない……今回も一体どんな新商品の実験に付き合わされるか知れたもんじゃ無いわ。新たな犠牲者を増やさない為にも、ここは一つあたしが新月堂の凶行を阻止してみせるわ!!」
固い決意と暇つぶしを込めてぐっと拳を握った聖羅の後ろで、盛大な溜息が漏れる。
「……だったら止めてくれ」
聖羅の後ろには不機嫌そうな顔で忌引弔爾が立っていた。
「あ、変態」
「変態って何だよ。俺のどこが変態だってんだ」
「変態じゃない。いきなり俺の身体を使ってくれ!だなんて、どうかしてるに決まってるじゃない」
冷ややかに自分の頭を指で軽く叩いてみせる聖羅に弔爾は益々仏頂面になって行く。
「……俺が好きで言った訳ねーじゃねーか」
ぶつぶつとぼやく弔爾に聖羅の胡散臭げな視線が刺さる。
弔爾は心の中で悪態をついた。自分にとり憑いているものに。
(くそったれ!てめぇのせいだぞ!!)
だが、当の本人は不思議そうな声色で言う。
『何故だ?世の人の為に役立つ事が出来たのだ、もっと胸を張れ』
妖刀・弔丸の言葉におもいっきり苦虫を噛み潰したような顔になる。
最近ゴーストネットの検索の仕方を覚えた弔丸は新月堂の書き込みを見つけると熱心に読みつつ、
『前回の世に尽くさんとする殊勝なる御仁ではないか。此度もまた何か難儀をしておるに違いない!』
と、嫌がる弔爾の身体を乗っ取り無理やりやって来たのである。
「で、今度もまた実験台になる気?」
聖羅の言葉にびくっと弔爾の身体が反応し、聖羅は眉を寄せ呆れたように口を開いた。
「うっそ……まさか、本当に?」
決まり悪そうに口をもごもごさせ、頭を掻く青年に聖羅はきらりと瞳を輝かせる。
「ふふ……あたしに任せなっさい!新月堂に凶行は起させないわ!!」
「……そりゃ頼もしい。たのむぜ、本当に」
「任せなさい!」
ひとつ胸を叩いた聖羅に、やはりまだ不安の残る弔爾は頭の中で響く弔丸の声に急かされ、新月堂の引き戸を開けた。

▼Scene 2
「にゃお〜」
薄暗い新月堂で二人を出迎えたのは丸々と太った猫だった。
白に薄い茶色の模様の入った新月堂の飼い猫、ぽん太はもう一声やけに間延びする声を響かせた。
「はいはい。お客さんですか……おや?」
店の奥から暖簾をよけて顔を出した新月堂店主、白柳文彦は聖羅と弔爾を見るとすぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「いらっしゃい。また来て下さったんですね」
「本当は来たくなかったんだけどね。犠牲者を増やさない為に来たわ」
「はぁ……犠牲者、ですか?」
不思議そうに首を傾げる白柳だが、気を取り直し二人に尋ねた。
「で、今日はどういったご用件でしょう?」
「あんた、またゴーストネットに書き込みしただろ?」
返って来た弔爾の質問に、白柳は手を叩いた。
「あぁ、あの書き込みを見てやって来られたのですね。いや、やはり掲示板というものの効果は侮れませんね」
にこにこと嬉しそうに言う白柳は弔爾に期待の眼差しを向ける。
「もしかして、今回もお手伝いして頂けるんですか?」
「ちょ〜っと待った。そんな事はあたしの目が黒いうちはさせないわよ!」
足を広げ腰に手を当て白柳の前に立った聖羅は唇を引き締め、厳しい顔で睨んだ。
「さぁ、商品を見せてもらいましょうか」
「おやおや、恐いですねぇ……そんなに変な物は置いてないんですけどねぇ」
そう言いながら店内を動く白柳に聖羅と弔爾は奇異の目を向ける。
「あれで……変なものじゃねーってのかよ。おい」
「んー今回もきっと、とんでもなくキテレツな商品を出してくるに違いないわ」
囁きあう二人を気にとめる様子もなく、白柳は一つの小さな漬物入れのような壷を持って戻ってくると、それを机の上に置いた。
「付いてしまったカビを取り除くならこれはどうでしょう。きちんと世話をしてやれば数も増やせますし、永久使用可です」
「……世話?」
嫌な予感がするものの尋ねた弔爾ににっこりと白柳は答え、壷のふたを開けた。
「はい。飼ってみると可愛いものですよ」
「うげっ!?」
壷の中から出て来たのは親指程の大きさの黒いなめくじ。
ぬらりとした体をゆっくり蠕動させ蠢く姿にみるみる聖羅の顔が泣きそうになって行く。
「却下!!」
「え〜何故ですか?この子達は優秀ですよ。何せ、人体についたカビまで食べてくれる……」
「却下と言ったら却下!マシなやつはないの?」
大声を張り上げる聖羅に白柳は肩を竦めると、可愛いのにとか呟きながら壷を片付けた。
「……助かった」
まだ息荒い聖羅にぼそり、と弔爾は冷や汗を拭いつつ言うと、何故か悔しがっている弔丸に舌を出した。
「おい、やっぱ帰ろうぜ。ここに長居するのは危険だ」
「あたしも、そう思う……ねぇ!」
呼びかけた聖羅だが、白柳が少し先制して今度は別の壷を持って戻ってきた。
「では、これなんかどうでしょう?やはり、まずは予防するのが一番ですからね」
にこにこと柔らかな笑顔を向けられ、二人は毒気が抜かれたのか顔を見合わせると、視線この商品まで話を聞こうと頷いた。
「……ま、そりゃそうだな」
「で、なんなの?ソレ」
先ほどよりは少し小さめな壷へ体を傾け中を見ようとする二人に、白柳は蓋を取り外した。
中身は薄黄色い液体が入っている。
「……何?ハチミツ?」
「ハチミツではありませんよ。これは、カビです」
「はぁ?カビって……あんた今カビを予防するって言ってたじゃない」
素っ頓狂な声を上げる聖羅に白柳は片手を挙げ頷く。
「分ってます。ほら、良く言うでしょう?」
「何を?」
「毒を持って毒を制すって、ね」
にっこり言った白柳。
「……つまり、カビが付く前にそのカビを塗るって訳か?」
冷めたように言った弔爾に白柳は手を一回叩いた。
「その通り!このカビをお風呂のタイルとかに塗るとですね、一面薄黄色のタイルに早変わり。あの薄気味悪い色のカビは生えないし、またこの子たちは成長したとしてもわずか数ミリですからシートだと思ってもらえれば大丈夫ですよ」
説明した白柳は、ただ、と付け加え何かを訴えるように弔爾を見た。
「……ただ、何よ」
嫌な予感に冷や汗を流し、白柳に聞けない弔爾に代わり、聖羅も薄々次の言葉を知りながら尋ねた。
「いや、まだ人体へは試してないのでご協力頂けないかと思いまして」
花も綻ぶような極上の笑みを浮かべる白柳が二人の目にどう映ったか……
「馬鹿馬鹿しい!帰るわよ」
ぐいっと弔爾の腕を掴み戸口へと歩き出した聖羅。
だが、弔爾が固まったように動かない。
「ちょっと、どうしたの?」
訝しげに弔爾の顔を覗き込む聖羅だが、弔爾の視点は呆としてどこか遠くを見ている。
弔爾の中では只今格闘真っ最中。
ふっと視点が元に戻ると、弔爾は白柳に向かい合い勢い込んで言う。
「此度もこの身体を存分に遣うが良い!」
「ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?」
慌てる聖羅だが、弔爾の身体を操っている弔丸はどこか感無量な表情で白柳を見ている。
「それは有難い。では、まずはこのカビからやりましょうか」
「応!必要とあらばカビを増やしてくれても構わんぞ」
「あ、それは良い考えですね。付いてしまったカビに対しての効能は判ってませんからねぇ」
「あんた達何言ってんのよ〜!」
とんとんと進んで行く話に声を張り上げ割って入る聖羅に、弔爾も負けじと大声を上げる。
『てめぇ!人の身体使って何勝手な事ぬかしてんだよ!!』
だが、聞こえる相手は弔丸のみ。
(喧しい。貴様でも世の為に尽くせる事があるのだ。誇らしく思え)
『黙れ、木瓜古刀!水虫にでもなったらどうしてくれんだ』
(ふん。それもまた良し)
『ざけんな!絶対、治せよ!でないと……ナマス斬りにすっからな……』
「これ以上の凶行は犯罪よ!」
「犯罪って……」
聖羅の言葉に苦笑する白柳だが、止める気は無いらしく商品棚から小瓶を取ると、聖羅を見た。
「あ、そこに居ますと貴女もカビが付いてしまいますよ?」
さっと白柳の隣に移動した聖羅はしまった、と言った時にはもう遅い。
白柳は小瓶の蓋を開け、軽く一回弔爾に向かって瓶を振った。
聖羅の身体の毛が一気に逆立ち、絶叫が響き渡ったのだった。

▼Scene 3
「ちょっと……こっち寄らないでよ」
「…………」
足取り重く帰り道を歩く二人に周りの好奇の目が集まる。
「まったく……あんたのせいでとんだとばっちりよ!」
ぷりぷりと怒る聖羅の少し後ろを歩く弔爾はもう喋る事さえ億劫なのか、ただ機械的に投げ出される足を見ている。
そんな弔爾は全身深緑と薄黄色の斑模様。
どうやら黄カビは緑カビより生存力が強く、緑カビを駆逐しているようだが、その一方で黄カビも生命力を失い枯れていくという結果が判った。
だが、黄カビの駆逐スピードは遅い。
その結果、緑と黄の入り混じった斑模様の人間が一人出来上がってしまった。
聖羅もまた、ところどころ黄色と緑を付け歩いている。
足取りも荒く歩く聖羅は拳を震わせると唇を固く結ぶと、心の中で思った。
もう二度と新月堂の敷居は跨がないぞ、と。
そうして、二人は夕飯時の騒しい商店街を帰っていった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1087/巫・聖羅(カンナギ・セイラ)/女/17歳/高校生兼『反魂屋(死人使い)』】
【0845/忌引・弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0249/志神・みかね(シガミ・ミカネ)/女/15歳/学生】
【1252/海原・みなも(ウナバラ・ミナモ)/女/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
壬生ナギサです。
今回は聖羅・弔爾組。みかね・みなも組に分けて書いております。
弔爾さんには今回も尊い犠牲になって頂きました。
ご愁傷様です。
コレに懲りずまた新月堂と遊んで下さると幸いです(笑)

何か意見やご感想などがあればお教え下さい。
では、またご縁と機会がありましたらお会い致しましょう。