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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


お困りですか?〜カビ予防〜

「あ、この投稿者は……」
雫は掲示板に目を止めた。

■お困りですか? 投稿者:新月堂

梅雨間近の季節。
ちょっとした事でカビが生え易くなります。
是非、新月堂にご一報下さい。
お風呂のタイルのカビから人体のカビまで一掃します。
カビ予防は新月堂へどうぞ。


「今度はカビ〜?」
雫は呆れたような声を出した。
前回の投稿は花粉症に関する事で、何人か新月堂へ行ったのを雫は聞いていた。
そして、その時あった事も。
「きっと、味をしめたのね」
瀬名雫は画面から視線を外すと、しばし考えていたが投稿はそのままにしておく事にした。
「んふ♪今回も何か面白い話が聞けるかも」
良い話のネタが増えたわ、とまた新たな犠牲者が増えるとも知らず雫は別の投稿記事に視線を移したのだった。

▼Scene 4
「カビ……」
志神みかねは画面を覗き込みながら、感心して頷いていた。
「確かに、梅雨の時期はパンとかすぐにかびちゃうし、お風呂もちらっと見たら小さなかびがあったりとか気になるよね……」
感心はするものの、やはり投稿者はあの新月堂。
悩むみかねの目に新月堂の投稿レスが目に入った。

 ―・―・―・―・―・―

 どなたか新月堂に以前行かれた方。
 もしくは新月堂の場所などご存知の方。
 詳しい事を教えてくれませんか?
 
            投稿者 みなも

 ―・―・―・―・―・―

「……この人、行く気なのかな?」
どこか不安を拭いきれないみかねだったが、人がいるなら話は別。
一人より二人。という考えのみかねはすぐにこの投稿者へメールを打った。

 ―・―・―・―・―・―
 
 前に新月堂に行った事があります。 
 また、新月堂に行こうと思っているので良かったら一緒に行きませんか?
 会っていろいろ話した方が早いと思うし……
 お返事待ってます。

          みかね

 ―・―・―・―・―・―

送信ボタンを押したみかねは、長く息を吐いた。
「大丈夫よね……前も一応、無事に帰って来れたんだし……」
言い聞かせるように呟くみかねの元にみなもと名乗る人物からメールが返ってきたのは夜になってからで、内容はお願いしますと言う事と、待ち合わせ場所の相談だった。

▼Scene 5
お昼時を少し過ぎた商店街の裏通りの小路。
趣のある新月堂の前に立つ二人の少女はしばらく無言でいた。
「なんだか、老舗の着物屋さんみたいですね。本当に想像していたところと違いますね」
細身でみかねより背の高い青い髪の少女、海原みなもはそう言うと隣のみかねを振り返った。
「今回はカビだから、薬を飲まされたりする事はないよね……それに、本当にカビが何とかなるんだったら、家でも役に立つだろうし……今回は流石に蜂とか出てこないよね……きっと……カビだし」
ブツブツと遠い目をしながら呟いているみかねに不思議そうに首を傾げたみなもは、みかねの目の前で手を振る。
「あの、大丈夫ですか?」
「はっ!あ、うん……大丈夫」
苦笑を浮かべたみかねは気持ちに整理を付けたらしく、ひとつ大きく頷くとみなもに向き合った。
「海原さん。変なものが出て来てもあまり、驚かないでね?……蜂とか」
「はち?何だか良く分りませんけど、そんなに大変だったんですか?」
「う、うん……私は大丈夫だったけど」
言い難そうに口の中でもごつくみかねだが、みなもは少し考えたものの、何も想像がつかなかった様でゆっくりと新月堂を見上げて言った。
「とにかく、安く防止できるような物があったら嬉しいですね。あたしの家、結構ひどい時がありますから」
「うん。そうだね。……私も今回は何か買って帰れたらいいなぁ」
「じゃあ、入りましょうか」
からり、と乾いた音を立てて引き戸を開いて一歩、みなもは中へと足を踏み入れようとしたところ、その足元をゆっくりと何かが横切った。
「あ、ぽん太さん」
丸々と太った猫はゆっくり尻尾を振り、ちらっと二人を見上げると、そのまま外へとのったりと出て行った。
「あれ、猫ですよね?」
あまりに太り過ぎのぽん太の姿にみなもが訝しげにみかねに尋ねた問いの答えは後ろから返って来た。
「そうですよ。すこしばかり太り過ぎですけどね」
「あ、白柳さん」
「いらっしゃいませ」
柔らかな微笑みを浮かべた色白の優男は、半身をよけると手で店の中を示した。
「さぁ、どうぞ。外は日差しが強いでしょう?」
「失礼します」
二人は薄暗い店内へと敷居を跨いだ。
「で、今日はどういったご用件でしょう?」
新月堂店主、白柳文彦の言葉に店内を物珍しそうに見回していたみなもは顔を白柳に向けた。
「ゴーストネットの書き込みを見て来たんです」
「あぁ、カビですね」
「そうです。安くて万能に使えるものが欲しいんです。あ、あと毒性の少ないものでエコロジーなものが良いです。海や水を汚すものは使いたくないですから」
「あ、私はお風呂のカビと、食べ物のカビが何とかならないかなぁ。と」
自分の要求条件を伝えるみなもとみかねに相槌を打っていた白柳は、しばらく顎に指を当てて考えていたが、壁に並んだ商品棚から一つの瓶を持ってくると二人の前に置いた。
「では、これなんかどうでしょう?とてもエコロジーで毒性ゼロのものですよ」
「なんですか?」
毒性ゼロでエコロジーという言葉に身を少し乗り出して尋ねるみなもに白柳は微笑んで蓋を開けた。
その中にいたのはぬらりとした体をゆっくり蠕動させ蠢く親指程の大きさの黒いなめくじ。
「ひっ……!?」
みなもの腕にしがみ付き、みかねが引き攣ったような小さな悲鳴を上げる。
「こ、これは……」
みなもも体を引き、流れる嫌な汗を感じながらなめくじと微笑んでいる白柳の顔を見比べた。
「この子達は特殊な食性でしてね、カビを好んで食べるんですよ。ちゃんと育ててやれば長生きしますし、繁殖も可能です。どうです?つがいで買われませんか?」
確かにエコロジーで毒も持っていないようだが、ちょっとこれは……と、みなもは口篭る。
「あの、他にはありませんか?いろいろ見て決めたいので……」
「それもそうですね。では……」
「蓋!閉めて下さい〜」
次の商品を取りに行こうとする白柳に涙混じりの声で訴えるとみかねは唸った。
「……う〜やっぱり……ううん。変なのはこれだけかもしれないし。うん、そうだよね……」
ブツブツ言っているみかねの気持ちが少し分り始めたみなもは不安な目を白柳に向けた。
「んー……これは良いかも。では、こちらはどうでしょう?」
と、再び二人の前に戻った白柳が持ってきたのは白い祝儀袋のような、紙包みに赤い紐が結ばれた札だった。
見た目が普通なものに落ち着きが戻ったみかねは少し首を傾げた。
「お守り、ですか?」
「いいえ、違いますよ。でも、使い方は似たようなものですが、これなら風呂場や部屋にも使えますよ」
「どう使うんですか?」
同じく不思議そうに札を見るみなもとみかねの前で白柳は赤い紐を解いた。
『オおォぉ……っぉおお』
低い呻き声と白い人型のような靄が立ち昇り、口のように開いた黒い穴からおぞましい声が漏れる。
『おおっ……水……のどが、かわいた……水をくれぇえェ!』
もがく様に蠢く靄に絶句し、呆然と見つめる二人に相変わらず穏やかな声色で白柳は説明し始める。
「声を無視すればあとは実害はありません。後は勝手に周りの取れる水分を取って行くので先ほどのなめくじの様に世話をしなくても大丈夫ですよ」
固まっていたみかねは暫し瞬きをし、震える指で水を求める靄を指差すと訊いた。
「あれ……なんですか?」
「あぁ、あれは思念の固まりです。水が飲みたくても飲めず死んでしまった人たちの無念の思考を集めたものですよ。あそこまで同じ思念を集める事は今じゃ難しいんですよね〜」
のほほんと言う白柳だが、二人はどうすればいいのか分らず息を呑んで靄を見つめていた。
そんな二人の見ている前でゆっくり宙を漂っていた人型の靄はぐりっと顔らしき部分を二人に向けると、今までの動きとは一変、みなもとの距離を縮めた。
「きゃっ!?」
咄嗟に突き放そうと前に出された腕は靄を突き抜け、みなもはぞくりと背筋が震えた。
「う、海原さん!白柳さん、早く助けて下さい!!」
「はいはい。大丈夫ですよ〜慌てなくても」
微笑みながらそう言うと、白柳は札を元に戻しながら口の中で何事か呟き、赤い紐を括ると人型の靄は暗く低い呻き声を上げながら札の中へと吸い込まれるように消えていった。
「だ、大丈夫?!」
「……うん」
今にも泣き出しそうな顔で見上げて来るみかねに、少し青ざめた顔をしながらもみなもは強く頷いた。
「如何でしたか?この商品は」
相変わらず笑みを湛えている白柳に、みなもは鋭い視線を向けた。
「買います」
「海原さん……?」
困惑した声を出したみかねだが、みなもは厳しい口調で続ける。
「この札は然るべき所で供養してもらいます。こんな事……可哀相すぎます」
「おや、そうですか?……まぁ、お買い上げ頂ければこちらは構いませんが」
白柳に幾らかと尋ね、財布を取り出したみなもの手にそっと横から手が重ねられる。
「志神さん……」
「私も半分出します。恐いけど……やっぱり、可哀相だもんね」
微笑んだみかねに、みなももふっと笑むと頷いた。

▼Scene 6
「結局、カビ予防グッズは買えなかったなぁ」
日の沈みかけている商店街を歩きながら言ったみかねに、みなもは微笑んだ。
「でも、善い事が出来ました」
みなもの手の中にある札を見、みかねも笑顔で頷いた。
「一日一善!あんな恐いことはコリゴリだけどね」
ふふふ、と顔を見合わせ二人は微笑む。
「ねェ、クレープでも食べて帰らない?」
「あ、良いですね。あたし、美味しいところ知ってるんですよ」
「じゃ、行こう!」
長く伸びた影を連れて歩くみかねとみなもを遠くから眺めていたぽん太は、大きな欠伸をひとつするとのったりと身体を動かし、尻尾を優雅に揺らしながら小路の闇へと消えていった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1087/巫・聖羅(カンナギ・セイラ)/女/17歳/高校生兼『反魂屋(死人使い)』】
【0845/忌引・弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0249/志神・みかね(シガミ・ミカネ)/女/15歳/学生】
【1252/海原・みなも(ウナバラ・ミナモ)/女/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
壬生ナギサです。
今回は聖羅・弔爾組。みかね・みなも組に分けて書いております。
如何でしたでしょうか?

みかねさんの何か買って帰りたいな〜という希望とは少し違ってしまいましたが
コレに懲りずまた新月堂と遊んで下さいませ(笑)

何か意見やご感想などがあればお教え下さい。
では、またご縁と機会がありましたらお会い致しましょう。