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<東京怪談ノベル(シングル)>


怒りと決心

ここはとある研究室の一室。
透明な培養液、それを包み込む青いガラスケース・・・
その中に入っているのは、胎児の形をした人・・・。

 海原みあおは「幸せの青い鳥」に改造された。
一人で、多くの幸運を作り出すことは難しく、企業側も納得しない。
もっと・・・もっと・・・と。
みあおの精神状態が、いくつもある人格の統合
(6歳くらいのみあおを中心にすることで)に成功し、安定した。
それを企業側が見逃すわけがなかった。
「幸せの青い鳥」を量産し始めたのある。
<幸運>な軍隊、<幸運>な企業、<幸運>な政治家・・・。
利用価値はいくらでもあり、その旅に莫大が金が動くこととなる。
「幸せの青い鳥」は量産すればするほど、需要は高くなる。
幸せになりたくない人間なといないからだ。
いつでも、幸せを願ってしまう欲がある。
だから・・・「幸せの青い鳥」はまさに人の理想とする商品になりえた。
同じ、人間を使っていたとしても・・・だ。
倫理や法規を無視して、みあおのクローンは生産されつづけた。
むやみにすることではないはずなのに。
軽々しく、金だけのために。
クローンを作る。器となる体の製造には、簡単に成功したが、
能力、精神のクローンは難しかった。
みあおの精神、能力は今までの時間が作成しえた唯一無二のもの。
それまでも、コピーしようと企業側は躍起になってクローン作成を
推し進めた。
人を人と扱うことを忘れながら。

 みあおは、いつものように訓練をさせられ、疲労も限界にきていた。
いつも、自動的に食事が出てくる。
それを食すわけだが、今日は様子が違った。
みあおは食べない。
どんなに、研究者たちが食べさせようとしても食べないのだ。
口を開くことはなく、頑ななまでに、首を振り続ける。
みあおは聞いてしまった。あることを。

 みあおになりきれず、みあおの形をしたものたちの行方。
クローンを作ろうとしていることは知っていた。
髪の毛や、皮膚などを採取されたから。
そんなもの、クローン作成以外に何に使う?
答は、容易に想像できた。
みあおはクローンは何体もいると思っていたが、その数は想像を越え、
何百、何千と作られていた。
そして、みあおになりきれなかったものたちは、再利用される。
使い物にならず、精神も持たないただの肉の器。
それは、残酷なまでの、人が人を家畜扱いするということ。
家畜は、育て、食される・・・つまりはそういうことなのだ。
肉の塊でしかない、みあおの形をしたものは、食用になったのだ。
生産費もばかにならない。
それを再利用しないで、廃棄してしまうにはあまりにも、おしかった。
だからといって、他に使えることもなく、
肉は食用に、臓器は違法の臓器売買に使用された。

みあおが何を聞いたのか、想像できるだろうか。
数日前、みあおに食事を持ってきた人間が、背を向け、戻っていくときに、
一言漏らした。

「上の人間は、何を考えているんだ・・・。人を食用にするなんて」

みあおには聞こえないと思い発したその残酷な言葉は、みあおまで届いてしまった。
みあおは混乱した。
人が食用?食べるってことだよね?どういうこと?人が人を食べるの?
でも、どんな人を食べるんだろう?
・・・失敗したクローンしか思いつかない・・・。
その考えは、悲しいことに、真実で、それを悲しんだみあおは食べなくなった。
自分の食事が人肉かは分からないが、その可能性を否定できない。
だから、食べない。
そして、そのショックは大きく、どんどん塞ぎ込んでしまった。

 焦ったのは研究者たち。
やっと落ち着いてきたみあおが、今度は断食である。
みあおが自分たちのしている事を知っているとは思いもよらない。
とにかく、早く「幸せの青い鳥」を完成してしまいたいのに、
みあおは事実に動揺して、研究、訓練は滞り始めた。

 みあおもまた、自分が動揺し、訓練がうまくいかないことに焦っていた。
自分が脱出することで、何か変えれるなら・・・
クローン作成を留められるならと頑張っていたのだ。
まだ、幾分不十分な、能力の制御・・・。
能力を自由に使うことができるなら、脱出は容易になるだろう。
みあおは脱出する際、研究所を破壊するつもりだった。
逃げるだけでは、何も変わらないかもしれないからだ。
また、別の子を攫って、監禁し、改造し、訓練させればいいのだから。
みあおは自分のような子をもう出さないために、
能力の制御を完璧にしようと努力しようとしていた矢先に、あんな言葉。
動揺しないほうがおかしい。
訓練中にみあおは叫んだ。

「あたしの失敗したクローンを食用にしているって本当なの?!」

案の定答は返って来ないが、ガラス越しに見える研究者たちが、
一瞬顔を見合わせたのを、みあおは見逃さなかった。
涙は出なかった。
沸いてくるのは、殺意にも似た怒りだけだった。
ハーピーの姿になり、壁を引っ掻き、殴る。
怒りのやり場がなく、空回りなのはわかっていたが、
みあおが今できることは、それだけしかなかった。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!!!!!・・・・。
吐き気がする。汚い人たちによって作られた能力でしか、
自分は何もできない。
この状況を回避することはできない。
もどかしい思いで、みあおは暴れた。
羽で飛び立ち、ガラス越しに研究者たちを見る。
白い曇りガラス越しの人たちは、決してみあおの方を見ない。
みあおはやり場の無い怒りの中で、決心をする。
まだ、力の制御は完璧ではないが、脱出することを。