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<東京怪談・PCゲームノベル>


味見と言うより毒見 in ゴーストネットOFF

■オープニング〜人参果って何■

 休日昼下がりのネットカフェ。いつも通りと言うか何と言うか、雫を始め常連の面子が大方揃っている店内。
 その一角、少し大きめの空いたテーブルに、一部の人間――雫運営・怪奇掲示板の常連たちが集まっていた。
「へー」
「ほー」
「…そんな物持って来られても…ねえ」
 不穏な気配ぷんぷんの持ち込みに停止する店員一人。彼女――香坂瑪瑙(こうさか・めのう)は偶然テーブル近くにいた、雫たちと顔見知りでもあるこの店のバイトである。
「いや、僕も困るって言ったんだけどねえ。店の前で押し付けられちゃって」
 ぽりぽりと頭を掻きつつ水原(みずはら)はぼやく。その手には菓子の包みらしき平べったい箱。
「アンティークショップ・レン、て言うたら…あの蓮ねえさんの店やったよな? マトモなもんとは思えへんて」
 腕組みしながらしみじみと言う淡兎(あわと)エディヒソイこと、愛称・エディー。
 あの碧摩蓮の持ち込んだもので、口に入れるもの。
 そう聞くだけで危険に思えるのは…気のせいでは無いだろう。
「でもでも、何かありそうだよね。あの蓮ねえさんの、だよ?」
 好奇心いっぱいに雫が言う。
 確かに何か曰くがありそうだ。と、言うか無い方がおかしい。
 そもそも絶対食べてと言うだけ言って押し付けて速攻帰ると言うのは胡散臭過ぎる。
 雫の科白に促され、皆がごくりと息を飲む中、水原は箱のフタを開けた。
 中身は。
「わわわわわっ」
 視界に入れて慌てる雫。
「え? ちょっと待て?」
 同じく動揺する水原。
 ――箱の中にあったのは、まるっきりミニチュアの赤ん坊。
「…なぁんだ、人参果?」
「って、え?」
 慌てる二人を余所に平然と呟く小学校高学年だか中学入りたてくらいの、男の子とも女の子ともつかない子供――丁香紫(てぃんしぁんつー)。
「やっぱりそうなのですか? 丁さん。…あのレンさんの持って来たものと言うのなら――有り得なくもないと思ったんですが」
 同じく冷静に問う病弱中学生・双葉時生(ふたば・ときお)。
 丁香紫と双葉の訳知り顔に、雫の頭の中は疑問符で埋められた。
 水原は『人参果』の単語で察して、あ、と声を上げる。
 一方、それでも要領を得ない雫は首を傾げた。
「人参果?」
「…って、万寿草還丹の事よね」
「だったと思いますよ。ですが…果たして本物かどうか、となると…」
 少し考え、表向き翻訳家&草間興信所のバイトをしているお姉さんと司書のお姉さんがぽつり言う。
 彼女ら――シュライン・エマと綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)――は顔を見合わせ互いに目で問うた。
 そこに。
「ねえねえねえ、人参果って何? それって美味しい?」
 くいくいと汐耶の服を引きつつ、銀髪銀瞳の幼い少女――海原(うなばら)みあおがふたりを見上げていた。


■元気娘と浪速の男、冷静なお姉様方+α■

 ――『人参果』。
 それは「西遊記」に出てくる、万寿山福地・五荘観洞天にある霊木になる果物――宝物。
 三千年に一度花が咲き、また三千年に一度実を結ぶ。更にまた三千年たってやっと熟して食べられるもので、それもたった三十しか実がならない。縁あってその匂いを嗅ぐ事が出来れば三百六十歳まで生きられ、一個でも食べる事が出来れば四万五千年長生きすると言う。思いっきり抵抗感抱いてしまう程赤ん坊そっくりの見た目で、すぐに硬くなって食べられなくなるらしい。ついでに五行を忌むそうだ。
 …と、シュラインと汐耶、時々双葉や水原も交えてみあおに――他の要領を得なかった雫にも――説明する。
「――…ま、これが仮に本物だったとしても、私は人並みの長生きで良いから遠慮するけどね」
「ふーん。何だか良くわからないけど食べてみればわかるって事か!」
「…食べてみれば、って…随分あっさり行くわね」
 汐耶はみあおの科白に困ったように苦笑する。
「だって不味いものじゃないんでしょ。だったらいいじゃん♪」
 に、と笑いつつみあお。
「…まぁ…不味いとは書いてなかったと思うけど…」
「だからと言ってマトモな物とも限らない、ってね」
 困る汐耶の後を受け、歌うように丁香紫。
「碧摩蓮、ってアンティークショップのおねーさんの噂は色々聞いてるからねー。本物でもヤバい筋から取って来たものな可能性高いし、本物じゃなくてもまた別の変な効果出る可能性はあるだろーし」
「…つまり本物だろうと贋物だろうと油断はできんっちゅーことやな」
「その通り。勿論、贋物だったら実の効果からして注意が必要だと思うけど、もし万が一本物だったなら…これの本来の持ち主が怖いと思う。そんな気軽に出回るもんじゃないもん」
「本物やったら『木ィ倒して鎮元大仙に追っ飛ばされた孫行者』想像すりゃ良い訳か」
 …つまりは返せ、弁償しろと無茶な事を望まれとことん追い回されるのでは、と。
「ま、そゆ事」
「じゃあ…まずは五行のモノに触れれば、取り敢えずこれが本物かどうかは判断付くと思うんだけど…」
 …入っていた入れ物は?
 シュラインは改めて人参果らしい物が入っている箱を見る。
「…普通の菓子折りに使われるような簡単な紙箱ですね」
 蓮から渡されここまで持って来た当人、水原が口に出して答える。
「…枯れて…ないわよね」
「ん? 箱の内側に何か重ねて布地が敷いてありますね…絹かな? その上に入れてあります。包んであるような感じで」
「………………微妙だわ」
 ――『金に遇えば落ちる』ので、『金のたたき棒で落とし、「絹の袱紗」を宛がった皿で受け』て取る。
 ――『木に遇えば枯れる』ので、『木の道具』で受けては食べられず、役立たずになってしまう。
 文献にはそうあった気が。
 それは「紙箱」は木の道具だろうが…この場合はいったい。
 何と言っても中敷き――『絹』の部分が曲者だ。
 取り敢えず『木』に直には触れてない。
「…中敷き取ってみます?」
 ぽつりと汐耶。
「…手っ取り早いか」
「何何? 中敷きがどうかしたん?」
「『木』の道具――例えば紙――に遇えば人参果は枯れるのよ。…本物なら」
「んじゃ取ってみる」
 言うが早いかみあおは人参果の入った紙箱から中敷きの絹を引っぺがす。
 けれど。
 …人参果らしきこの物体には変化無し。
 別に枯れない。
「………………贋物確定?」
 …さあ?

■■■

「…にしても…どっからどう見ても赤ん坊やなー。頭もあるし手も足も付いとる。おー、さわったらやーらかくてぷにぷにしそうや。ほっぺた真っ赤で落っこちそ」
 繁々と眺めつつ、エディー。
「なんだ、髪の毛はあんまり無いんだ。だったら食べるにもあんまり邪魔にならないかな。あ、でも赤ん坊って事は骨とかまだあんまり確りくっついてないよね? 幾らか食べやすいかな? あ、でも血管とかあるか…て言うか中身も人間と同じなのかな?」
 同じくじーっと見つめながら、みあお。
「…何だか生々しい話になって来てるのは気のせい?」
 どこか顔色の悪くなっているシュラインが額に手を当てて俯く。
「…食べるんだったら大体『清水で溶かして食べる』んだから…あんまりそんな心配しなくて大丈夫よ?」
 シュライン同様、テーブルに肘を付いて俯いている汐耶。
「…そう。『水に遇えば溶け』ってあるからね。文献には。…もっとも本物だったら、って注釈は付くけど。取り敢えず私にはこれは本物とは思えないんだけどね…それでも食べる?」
「あ、生おっけーなんだ☆」
「て言うかこれは一応果物の類になりますから…」
 …生が基本では。
 それと、文献には特に何も書いてないですがさすがに中身は人間と同じじゃないと思います…。
 ぼそりと口を挟む双葉。
「ま、どっちでもいいや♪ 面白そうじゃん☆ 食べてみよーよ!」
「そう…」
「まあ…何となくみあおちゃんの言う事の予想は付いたけど…」
 みあおの楽観的な発言に、思わずあさっての方を見てしまうシュラインと汐耶。

■■■

 色々悩みつつ、また少し経ってから。
 改めてエディーが口を開く。
「…人参果もどき、ちゅーたらまぁ多少は聞こえはええけど…贋物や、っちゅーならぶっちゃけただの悪趣味ちゃうか…」
 贋物ならただの赤ん坊を象った食い物(?)である。
 玄奘三蔵法師が慌てて人参果を辞退した理由そのまんまになってしまう。
「…つーてもな」
 ひとつ忘れてはいけない事がある。
 それは。
「出所がアンティークショップ・レンなんやよな…」
 アンティークショップ・レン。それは曰くありのものばかり置いてある――と言うか置いてある物すべてに何らかの曰くがあると言う大層な骨董屋。
 水原はそこの主人にネットカフェの前で何故か呼び止められ渡されたと言う。
 それも絶対食えと言って押し付けて逃げたと…。
 …怪しい。
 怪し過ぎる。
 丁香紫の言った『贋物であっても変な効果』、それはもしかしたら長寿どころか即死になる事も…?
 いやいや、いくらなんでもそこまでは…。
 …と、言い切れないのが昨今の東京の物騒なトコロ。
 あーでもないこーでもないと人参果らしい物体を前に悶々悩むエディー。
 そこにシュラインが思い付いたように声を掛けた。
「…ねえ?」
「ん? なんやシュラインの姉ちゃん」
「ひょっとして蓮さんも、厄介な相手に押し付けられたって線はないかしら」
「………………どやろ?」
 新たな可能性にエディーは首を傾げる。
 無くもない。
「…そうだったとしても、当の『人参果』は今ここにあるんだから…何か厄介事なんだったら必然的にこっちに来るんじゃ…?」
 ふと雫。
 その科白に一同が凍り付いた。
 慌てたのか、反射的にシュラインが携帯電話を取り出す。
「蓮さんに連絡取ってみるわ」
 ぴ、ぴ、と短いプッシュでメモリーしてある蓮の携帯番号に即座に掛ける。
 るるるるるる、と呼び出し音がシュラインの耳に頼りなく響いた。
 そして、呼び出している最中、一同を見渡す。
「…ま、捕まらないとは思うけど」

 暫し後。
 何度呼び出し音が響いても相手が出る気配の無い電話を切り、シュラインはぱたんと携帯電話を折る。
「やっぱり駄目ね。う〜ん。もうちょっと時間経ったらまた掛けてみましょうか」
 捕まらないとは思うけど。
 そう言いながらも諦めは付かないようだ。
 …多少、現実逃避の感はある。

■■■

「だぁぁあっ、んなもん幾ら考えてもわからんわいっ! 仕方あらへんこうなったら行動あるのみっ!」
「え?」
「もー、面倒やっ! 匂いだけでも嗅いでみるっ!!!」
「…つまり三百六十年は生きる決心がついたと」
「…物は試しや。ま、どうせその文献通りってこたある訳ないやろっ!」
 言ってエディーは人参果と思しき物体に鼻を近付ける。

 と。

 数瞬の沈黙。
 エディーの上体から急にがくっ、と力が抜けた。
「ちょっと淡兎くん!?」
 慌てて介抱しようとする瑪瑙。
 だが倒れかかったように見えたエディーは、そこでうるるんと泣き真似をしつつぽつりと呟いた。
「…何の臭いもせえへんがな」
 直後。
 ぱこんっ、とテーブル上に置きっぱなしだった誰かのクリアーケースがエディーの後頭部に炸裂する。
「…何か起きたかと焦ったじゃないの。変なところで心配させないの」
 クリアーケースを手に、じろっ、とエディーを見ていたのは汐耶。
 殴られた頭をさすりつつ、エディーはぼそりとひとこと。
「姉ちゃん、ナイスツッコミや…」
 …そのタイミングは素人では無い。
 と、言いたかったらしい。

■■■

「取り敢えず――五行の『木』に続き『縁あってその匂いを嗅ぐ事が出来れば』――は嘘、と」
「効果も何も匂いが無いっちゅーんじゃなあ。…んにゃ。て事は食ってみるしかあらへんのか!?」
 エディーはがしがしと頭を掻きつつ派手に悩んでいる。
 そこに今度はみあおが顔を上げた。
「…ねえねえねえ水原だっけ」
「ん?」
「持ってきた時他に何か言われたりしなかったかなぁ? ほら、新鮮な内に、とか」
「………………いや、その辺は特に。ただ絶対食べてねとだけ。ちょっと慌ててる様子ではあったかな? でもそれにしては訳知りなしたり顔だった気もするんだけど…」
「…そう言えばこの実ってすぐ硬くなるとかで五荘観でしか食せない筈だったんじゃ?」
 本物なら。
 ぽつりとシュライン。
「………………言われてみれば」
「その時点で変ですね」
「せやな。もー水原はんが持って来てから随分経っとるし。いや、だったら蓮の姉ちゃんがそこらで持ち歩いとったっつー時点で変やろ」
 同意する汐耶に双葉、エディーと言った「知っている」面子。
「そうよね? うーん。…確か文献じゃ鎮元大仙…だったかしら、実の樹守ってる仙人が居る筈だけど…確認できたらなぁ…なぁんて。さすがに無理よね?」
 シュラインの発言に、みあおに雫に双葉、そして瑪瑙の四人は一斉に丁香紫を見た。
「…丁香紫って仙人とか言ってなかったっけ?」
 誰にともなくぽつりとみあお。
「本当?」
 それを受け、丁香紫に問うシュライン。
 何を期待されているかは、言わずもがな。
「…確認出来ない?」
「…出来ませんか?」
 畳み込む雫に双葉。
 丁香紫はうーん、と考え込んだ。
「…いや、別に行ってみても良いんだけど…それ以前に物凄く単純に、今って件の人参樹に実は付いてない時期だったと思うんだよね。仮にボクがこっち来てから実が付いていたとしても、食べられるように熟すにはまだまだ」
「そうなの?」
「じゃあ…やっぱり本物とは無関係、って事でいいのかな?」
 小首を傾げ、雫。
「…でもね、最近挿し木で殖やしたって噂もあって」
「………………はい?」
 なんだそりゃ。
 …いきなりガーデニングな話かい。
 いや、そもそも挿し木程度で殖やせるのかその霊木。
「…あくまで噂だけど。でも本当にそうしたんだったら、そっちは分けた相手の物で、鎮元大仙の管轄じゃなくなるから…何とも言えない。それに噂通り本当に殖えてたとしても、普通に挿し木しただけでそうそう殖えるとも思えないし。もし殖えてるとしたら、また何か別の丹薬やらでいじって変質してる可能性もあるかも…しれないし…そうしたらそれもそれでまた『本物』とも言えるかも…」
「…じゃあいよいよわからないって事?」
「まぁ…言っちゃえばそうなる。ま、念の為だ。一応確認に行っては見ましょ。五荘観洞天まで」
 そのくらいは大した手間じゃ無いし。
 言って丁香紫はとん、と床を蹴る。
 そして何物かに乗るように空中に飛び上がったと思うと――その場から忽然と姿が消えた。

■■■

 暫し後。
 …頼みの綱の丁香紫は帰って来ない。
「で」
 ばん、とテーブルに手をつきエディー。
「このままただ待っとってもどーしょーもないんとちゃう?」
「まぁ…ねえ」
「どないする?」
 一同を見渡すエディー。
「…そうですね。みあおちゃんの言う通り、食べてみるのも一興ですね。もし万が一、妙な効果が出だしたらその時点で封じてしまえばいいですし」
 エディーの問いに、さらりと汐耶。
「頼めますか綾和泉はん」
「封印術なら任せて」
「食う方は」
「勘弁」
「…やっぱり」
「みあおは食べてみるよー?」
「嬢ちゃんチャレンジャーやなあ」
「…じゃ、やってみる?」

■■■

 そして御当地店員の瑪瑙に陶磁器の入れ物(曰く店長の趣味らしいデカい椀)を借り、そこにミネラルウォーターを満たしてみる。
 で。
 件の人参果らしきものをそこに入れてみた。
 が。
 …溶けない。
「『水に遇えば溶ける』も嘘、か」
 ふむ、とシュラインが頷く。
「さっきの可愛らしい仙人さんが言ってたように挿し木、じゃなかったとしても…人工的に作られたもの、って事も有り得ますよね。同じ効果や弊害は無いにしても、形や味はどうにかなりそうだし」
 新たな可能性を提示する汐耶。
「…って形はともかく誰が人参果の味知ってるんですか」
「食べた事無きゃ知らないわよねえ。ま、適当に捏造するんじゃないの? そう知ってる人が居る訳じゃなし」


■何故かいきなり三名様得意技(?)披露の羽目■

 結局また袋小路。
 そこでみあおがまたくいくいと汐耶の服を引く。
 なあに? と問うと予想外の事を答えられた。
「…料理?」
「うん」
「そりゃおもろそうやな。いっちょやるか!」
 いきなりひとり元気になるエディー。
 ちなみに他の面子は顔を見合わせ悩んでいる。
「…人参果を料理ねえ」
「…ちょっと考えも付かなかったけど」
「そもそもちょうど良い道具って」
「セラミックの鍋とか」
「ああ、セラミック製は大丈夫か…ってそれ以前に、今まで確かめた以外の五行を忌む事はあると思う?」
「取り敢えず『火』も五行だから…もし駄目だったら本格的な料理は出来ないと思うけど…『火に遇ったら焦げる』から」
「いや、『水』と『木』が効果無しやったんやから『火』も大丈夫かもしれへん」
「…どうしても料理してみたい訳なのね…淡兎くん」
「そんなん言わずもがなやないですかー☆ 珍しい食材! 腕が鳴りますわー☆」
「…となるとまずはその辺確かめてみましょうか。『水』と『木』以外…火、土、金、と」
「ここに実があるんだから『金』も除外ね」
 …『金』は実を落とすのに使う五行って事で。
「じゃあ『火』以外は『土』だけじゃん」
 みあおの声に瑪瑙がぽんと手を叩く。
「裏口近くに置いてあるプランターの土でどうでしょう?」
「『土に遇えば土の中に入る』だったわね。まぁこれも取り敢えずやってみましょうか? 今までを踏まえて考えると多分入らないと思うけど」

■■■

「…で、見事に五行は関係なさそうだと判明したところで」
「みあおちゃんの提案通り厨房借りてやってみます?」
「おー! 勿論うちもやってええよな♪」
「…駄目って言ってもやるんじゃないかしら?」
「いやー良くわかってらっしゃるっ☆」
「…ところで包丁使って切り分けられるのかな?」
「煮込んだら形、崩れると思う?」
「…どうでしょう?」
 …色々相談しつつ、三人の後ろ姿は瑪瑙の案内で厨房へと消えていく。

 …一方、料理を待つ人々の方は。
「け、結局僕も食べる訳ですか…」
「僕も勘弁してもらいたい…」
「嫌なら別にいいんじゃない? 取り敢えず立候補者一名居る事だし」
「うーん。中身が高麗人参とかだったら美味しいんじゃないかなー?」
「…そりゃ「人参果」ってのはそこらにある普通の「人参」の由来だか語源だとか言う説もありますが」
「んじゃひょっとして可能性高いかな!?」
「…どうでしょう。て言うか高麗人参って苦いんじゃ」
「え゛? そうなの?」
「いや良く知りませんけどあんまり美味いものじゃないような事を聞いた事があるようなないような」
「はっきりしろ双葉ー!」
「まあまあ、中身がそれって決まったわけじゃないんだから…」
「それもそうだ」

■■■

 そして暫しどころか随分経って後。
 出てきたのは「おひたし」やら「味噌汁」やら「浅漬け」やら「煮浸し」やら「きんぴら」やら「芋の煮っころがし」めいた物やら「モザイク掛けたくなるような怪奇物体」やらだった。
 どうやらシュラインと汐耶の得意分野は似たような料理――ちょっと昔風の家庭料理――だったらしい。
 …そしてエディーの料理はいつもの如く正体不明…と言うか何料理、と分類するにも判別不能。謎である。
 ずらっ、とテーブル上に並べられたそれらに、わーい☆ とみあおは挑んでいく。
 けれど食べ進む内、考え込むような顔になってきた。
 特に何かあった、と言う顔ではないのでまだいいが…。
「…で、お味は」
「無い」
「へ?」
「エディーのならちょっとだけ変な味がする」
 …実はみあおはそちらにまで手を付けていた。
「変てなんやねん! うちのぐれーとすぺしゃるでりしゃすわんだほーな料理なんやでっ」
「まあまあ、味があるって事で、無いよりいいじゃない」
 意図不明の宥め方をする汐耶。
「…普通に味付けしたのにねえ」
 とは言え、食材が普通でないのだから普通の味付けも何もないのだが。そもそも味見もしていない。作っている最中、反射的に味見をしそうになったが慌てて取り止めたりもしていた。
 けれどあまりにも普通ーに食べているみあおを見て。
 少々心が揺らいでいたりもする。
「味見…してみる?」
 汐耶と顔を見合わせるシュライン。
「いえやっぱり得体の知れない物は基本的に口に入れる気は…」
「私も同感」
「見たところ…率先して食べてるみあおちゃんに特に問題がなさそうなのは良かったかな…」
「ところで味が無いってのは何なのかしら? 醤油とか味噌とか塩とか砂糖とかみりんとか…全部打ち消してるって事になるの?」
「淡兎くんのだけちょっとでも味がある、って感想なのが気になるんですが…」
 こっそりと汐耶がシュラインに耳打ちする。
 …但し、食材の事が無くともこればっかりはさすがに食べる気にはなれない。
「あんまり不用意にそう言う事言わない方が良いわよ? 危ないから」
「?」
 シュラインの科白に首を傾げる汐耶。
 と、そこに。
「なぁにひそひそ話しとるんですか姉ちゃん方♪ どうせやから食べて見ぃへんかっ♪」
 にっこり笑って上機嫌なエディーがふたりの間に入ってくる。
「さっき言ったよね? 勘弁って?」
「まま、そう言わんと〜」
 …何やら話が『人参果』から『エディーの料理』にすりかわっている。
 これはむしろ危険な徴候か。
 思いつつもそれに関しては何も言えない。ちょっと怖い。
「ところで…これじゃ結局何も解決していないと思うんだけど…」
 図星。
 …ついでに言えば三名の手料理で結構時間は経っていると思うのに、丁香紫は帰って来ない。
 鎮元大仙に確認しに万寿山福地・五荘観洞天まで行ったんじゃなかったんだろうか…。
 確か『大した手間じゃない』と言っていなかったか?
 それとも仙人は時間の感覚が違うのだろうか…。

【続】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号■PC名(よみがな)■
 性別/年齢/職業

 ■1415■海原・みあお(うなばら・みあお)■
 女/13歳/小学生

 ■0086■シュライン・エマ(しゅらいん・えま)■
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト

 ■1207■淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)■
 男/17歳/高校生

 ■1449■綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)■
 女/23歳/司書

 ※表記は発注の順番になってます

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■         ライター通信          ■
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 ※オフィシャルメイン以外のNPC紹介

 ■どっか行ったまんま何故か帰って来ない仙人■鬼・丁香紫(くい・てぃんしぁんつー)■
 無/664歳/ネットカフェに良く居る変な仙人

 ■レンに人参果を直接渡されたひと■水原・新一(みずはら・しんいち)■
 男/28歳/ハッカー『Aqua(あくあ)』・高校の日本史教師

 ■訳知りその一■双葉・時生(ふたば・ときお)■
 男/14歳/中学生・雫運営怪奇HPの『数多居る』副管理人のひとり

 ■成り行き上の色々調達屋■香坂・瑪瑙(こうさか・めのう)■
 女/20歳/大学生・ネットカフェのバイト長・時々某酒場でもバイト

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 さてさて。
 深海残月です。
 エマ様、淡兎様、再会を嬉しく思います。
 そして海原様に綾和泉様、いつもお世話になっております。
 このたびは御参加有難う御座いました。

 と、言う訳でお待たせ致しました。
 各調査機関&あやかし荘+解決編の「味見と言うより毒見」シリーズ、第一段「ゴーストネット編」をお届けします。
 今回は全面的に皆様共通の文章になってます。個別部分がありません…。
 終わり方が『続』なのがその理由(?)です。
 …内容としては見事に何の解決もしていません。
 騒いだだけです(え)
『他の調査機関でも解決はしません』。…今回に続いて他の「草間」や「アトラス」、「あやかし荘」に参加なさって下さった場合、むしろ謎が増える可能性があります(笑)
『解決する』のはあくまで『解決編』でです。
 ちなみに最短を考えるなら、今回+解決編だけで問題ありません。
 解決編以外は今回のひとつだけでも残り三つでも、お好きなだけの数、ご参加下さいませ。
 …参加者様のプレイングにより増える謎の質はころころ変わります(ってライターの主体性はどこに)

 肝心の続編は、次にPCゲームノベルの窓が開いた時と思ってやって下さいませ。
 第二段のタイトルは「味見と言うより毒見 in 月刊アトラス編集部」になります。
 つまり舞台は月刊アトラス編集部です。
 ちなみに人参果は人参果でも『今回の物と同じ人参果』とは限りませんので御了承下さい。
 ライターが遅筆なのでノロノロ運転ですが、気に入って頂けましたなら、どうぞ宜しくお願い致します。

 淡兎様
 似非大阪弁を許して下さったようでほっとしてます…。再びの発注、どうもです(礼)
 ところで今回はギャグ路線と言うか漫才風味と言うか…浪速の男を狙ってみました(え)
 が、何やら失敗の気配…。まだまだ甘い…。
 しょ、精進します…(汗)
 どーか見捨てないでやって下さい…。

 ではまた、御縁がありましたら。

 深海残月 拝