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…endless?
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「だいたい守崎さんがいけないのよ!」
「そう言う篠宮さんはどうなんだ?」
公園のど真ん中でいきなりケンカを始めた
篠宮夜宵と守崎啓斗は、見事に周囲の注目
を集めていた。
ここはデートスポットで有名な海辺の公園。
当然周囲はあま〜い恋人達で溢れている。
二人は注目を集めている事もお構いなしに
ケンカを続けている。それを周囲の人達は
遠巻きに見たり、もしくは自分達の世界に
入っていて気にも留めていない。
たまに隣を通り過ぎていくカップルがチラ
リと二人を見遣り、ヒソヒソと耳打ちしな
がら歩いていく。
「ねぇあの二人どうしたんだろ?」
「さぁね、ただの痴話喧嘩じゃねぇの?」
そう、周囲の反応は所詮こんなもの。
二人のその姿は仲良くケンカしているバカ
ップルそのもの以外の何者でもなかった。
二人はまだこの時気付いていなかった。
尚もケンカを続けている彼らのその背後に、
白く淡い影が蠢いていたことに。
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事の発端は『幽霊』騒ぎだった。
最近デートスポットの海辺の公園に、カッ
プルばかりを襲う『幽霊』が出現している
らしい。
襲われた人達の話と現場の状況を整理して
みるとこんな感じだ。
@デートスポットの海辺の公園(限定)。
Aカップルだけが襲われる。
B白くて霧の様な幽霊だった。
被害と言っても、驚いて逃げる時に転んだ
ときに出来た擦り傷や捻挫等で、今のとこ
ろ大きな被害は出ていない。
大きな力を持った『幽霊』では無いらしい
が、このままにもできないだろう。
万が一、と言う事もある。
そこでこの幽霊の調査を行い、害を及ぼす
若しくは悪質であると判断を即決できる状
況下であればその場で『調伏』すること。
「被害が最少である内に何とかしないと」
「そうです。どんな理由があったとしても
人を襲う行為は許せません。」
この調査に名乗りをあげた篠宮夜宵と守崎
啓斗だったが、二人には一つ難題があった。
それは…
「カップル…」
「それはつまり囮調査、ですか。」
襲われるのは仲良く寄り添うカップル限定。
当然のことながら、ソレを襲う幽霊を見つ
けるには恋人同士のフリをして調査を行な
うことが一番の手である。
「守崎さんと…」
うぅーんと悩む夜宵の横で同じ様に腕を組
んで悩む啓斗がいた。
「まぁ確かに手っ取り早い方法だけど…」
別に仲が悪いと言うわけではない。
二人は互いに信頼しあう大切な友人である。
それは間違いない事実だ。
が、しかしだ。
どういう訳か、どうも一緒にいるとお互い
ペースを乱され気がつくと何時もケンカを
している、そんなカンジなのだ。
普段は落ち着いた物腰で『お嬢さま然』と
した夜宵であるのに、啓斗とケンカを始め
てしまうとその表情は一変する。
普段の取り澄ました様な敬語も表情も全て
打ち消され、とても生き生きとした顔や喋
り方になっているのだ。
そしてそれは啓斗の方にもいえた。
性格はそれなりに明るい彼なのだが、忍者
な家柄のせいかそれとも別な理由なのか、
無表情な時が多い。
しかし彼女とケンカをしたりする時だけは
感情が素直に表に出て生き生きしている。
周囲はそんな二人を微笑ましく見ているの
だが、当人達はまったく気がついておらず
逆に『なんでだろう?』的な発想に至って
いるのだった。
自覚なしの二人は、とりあえず目先にある
『幽霊の調査』を受ける事にしたのだった。
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そして話は冒頭へと戻る。
二人は頑張って『デート』らしい服装と雰
囲気を出そうとした…つもりだった。
それらしく腕を組んでみたり、笑ってみた
りと夜宵は!(強調)頑張った。
しかしである。
一方の啓斗は終始無口&無表情。
これでは甘い雰囲気どころか、カップルに
見えるかも怪しい。
そして数分後、夜宵がキレてケンカに到っ
てしまったのだ。
「だいたいね、守崎さんがそーいう態度だ
からいけないのよ!」
「俺のどの態度がダメなんだ?」
「その顔よ!かお!」
ビシッと指さされ啓斗は思わず顎を引く。
しかし言われた内容に少しムッとした。
「なんだそれ、顔は関係ないだろ!」
「あのね、私達は何の調査でココに来てる
のかしら?」
「幽霊の、囮調査だろ。」
「囮調査、って意味知ってる?」
「知ってるよ。それと俺の顔がダメな理由
ってあるのかよ?!」
「大有りよ!」
腰に手を当てて何かしら怒っている夜宵は
普段のお嬢さま的雰囲気とは違う威圧感を
持って啓斗を圧倒していた。
「普通、カップルで公園に来てるのにそん
な無表情っておかしくない?おまけに会話
も無しじゃ不自然よ。あり得ないわ。これ
で囮になってるの?こんなじゃ幽霊だって
現れないわよ!」
彼女が言う事はもっともな話である。
しかし、間違っている部分もあった。
それは…
二人の姿は傍から見れば十分『カップル』
にうつっていたのだ。大きな声でケンカは
しているが会話の内容までは周囲も解って
いない。
しかも二人がケンカしている風景は、
『彼氏に構ってもらえない彼女が怒った』
と言う風に都合良く見えていた。
しかも彼らの言う『幽霊』さえも彼らの直
ぐ側へと近づいて来ていた。(これに関し
ては、啓斗のシャーマン体質のせいかも知
れないが)
「もう今日は失敗ですね。帰りましょう!」
「そうだな!」
二人とも『囮調査』は失敗したと思い、公
園を後に帰宅の途へとついた。
夜宵と啓斗はソッポを向いたまま公園の出
口へと歩いていた。二人の心境は態度とは
裏腹に全く同じ。
『ムカムカムカムカッ』
公園を今まさに出ようとしたその時、それ
は二人の前に突然現れた。
それは依頼にあった『白い霧状の幽霊』
その瞬間、ぴたりと二人の歩みが止まった。
「「……」」
驚かせようと思っていた『幽霊』であった
だろうに、二人の反応は今ひとつ。
しかも何だか眼も据わっている。
それでも必死(?)に幽霊は二人の周囲に
霧状のモノを吐いたり特殊効果を駆使した
りと結構健気に頑張った。
しかし、その行為が全て無駄であったと次
の瞬間証明された。
「鬱陶しい!」
夜宵が声を発した瞬間、白い霧状の幽霊を
暗闇が包み込んだ。それでも必死にもがき
呪縛から抜け出そうと、軋む様な声とも何
とも解らない音を発した。
硝子を引掻いた時の様な甲高い音&耳鳴り
の超強力版な音に啓斗は顔を顰めた。
「五月蝿い!」
もがき苦しみ暴れる幽霊を夜宵は更に抜け
出せない様に雁字搦めに闇で呪縛し、そし
てとどめの強烈な一撃を啓斗が放った…。
結局。
二人の八つ当たり的な攻撃を見事に受けた
『幽霊』は無事(?)成仏していった。
当初の予定とはかなりズレたが、コレで依
頼は無事完了したわけだ。
ふと息を吐いた二人は視線を合わせ、クス
リと笑った。何だかんだと言ってもやはり
息の合った二人なのだ。
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「守崎さん、ゴメンなさい。先程は言い過
ぎました。」
「いや俺の方こそ悪かったよ篠宮さん。」
依頼達成の報告の帰り道、結局は仲直りも
果たした二人だった。
「そうですね。」
「って、…は?」
夜宵の切り返しに思わず表情が前面に出る
啓斗に対して、彼女はいたって真面目な面
持ちで云々と頷いている。
そして結局は、再びケンカを初めてしまう
無自覚な二人なのであった。
…endless?
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