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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


おさんぽネット

◇原因追究依頼
 最近ちまたで人気のオンラインゲーム。
 一般的にMMO(Massively Multiplayer Online)と呼ばれるものだ。インターネットを使って世界中のプレイヤーとゲームを楽しめるという特徴から、若い人をはじめ様々な年齢層に人気が出ている。
 その中のひとつ「Elemental Gate」はファンタジーを題材にしたMMORPGで、ある噂が流れていた。
 このゲームは人の魂を吸い取る、のだと……
 事実このゲームに参加していた者の何人かがパソコンの前で意識不明の状態におちいり、ゲームの中のキャラクターが勝手に動いているのだという。
 企画会社はそのゲームの一時中断を行い、専門家に助けを求めることにした。
 すなわち、ゲームの中にいるプレイヤーの魂を現実世界に戻すことと、原因の究明。
 
「でも、案外……帰りたくないだけかもな。こんな世界にいるより、ゲームの中のほうがよほど楽しいだろうし」
 案内のメールを眺めながら三下忠雄はそう呟いた。
「あら、それって……ここの仕事が嫌という意味かしら?」
 さりげなく薄い微笑みをうかべ、静かな口調で碇麗香が告げる。
「いやっ! それは、あの……その……」
「そんなに辛いなら行ってきていいわよゲームの世界。帰ってこれなくてもこっちは全然構わないもの。もし無事に帰ってきたら体験レポートお願いね」
「いや、せ、せめて助手を……」
「オンラインゲームなら、そっちで募集かけなさい。とにかくメールの返事は出しておくわよ」
 言うが早いか麗香は素早くキーボードを打ち込み始める。その姿を忠雄は見守るだけであった。

◆頼もしい助っ人
「皇騎くーん! 来てくれて助かったよ!」
 編集部に入るなり忠雄に飛びつかれ、宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)は反射的に忠雄を突き飛ばした。
「ぎゃふっ! い……痛いなぁ。何するんだよっ」
「……それはこちらの台詞だ」
 じろりと睨み返し、皇騎はそのままパソコンの設置してある席へと移動する。そこにはすでに志神・みかね(しがみ・みかね)が腰かけ、タイピングの格闘をしていた。
「あ、皇騎さん。やっぱり三下さんに呼ばれたんですね?」
 ご愁傷さまといった顔でみかねは皇騎に席を譲る。皇騎はそのまま素早い手つきでキーボードを叩き始めた。持っていたフロッピーを差込み、中にあったファイルをコピーさせる。
「……よし、データの移行完了。いつでも始められるぞ」
「さっすが専門家。作業が早いわねぇ」
 感心した様子で麗香は少し離れた場所から彼らを眺めていた。
「で、問題のゲームのほうだが……プログラムそのものは特に問題ないようだな……何かに感染しているようでもないし……」
「じゃあやっぱり実際に中に入らないと分からないってこと?」
 皇騎は手を休めることなくこくりと頷いた。
「皇騎くんに頼めば大丈夫と思ったのに……やっぱり実際に入り込まないと駄目なのか」
 がっくりと肩をおろして忠雄は深いため息を吐く。
「実際に……って、取り込まれちゃうってこと?」
 明らかに脅えの表情を見せて、みかねは小さく呟いた。このゲームが人の魂を吸っているという話を聞いたばかりだからだ。
「それとは少し違うな。意識をそもままデータ化させてゲームの中にはいるんだよ。……ネットダイブという言葉、聞いたことないか?」
「ええと……確か意識とか精神とかをデータ化させてっていう奴? そっか。それならちょっと違うわね」
「じゃ、始めようか。これを頭につけて」
 皇騎が差し出したヘッドフォンをみかねと忠雄はそのまま頭に装着させる。
「準備はよいね。少ししびれるけど我慢しろよ」
 そう言って皇騎はかたりとEnterキーを押した。

◆闇への誘い(いざない)
 その頃。忠雄達より一足早く咲きにゲーム内に入っていた巫聖羅(かんなぎ・せいら)は各ワールドを探索し、情報収集に力を入れていた。通りすがりのプレイヤー達は彼らと少し違う格好の聖羅を不思議そうに眺めていた。入り込んだときのデータの異常なのか、聖羅は現実世界とほぼ変わらない姿のままゲーム内にきてしまったのだ。衣装はちかくの店で買ったものの、どこかぎこちない。
「まあ、目立って困ることないからいいか……」
 適当に通りすがりに問いかけながら、歩き回る聖羅。そこにひとりの少年が声をかけてきた。
「ねえ、楽しい?」
「は?」
 聖羅は眉をひそめて少年をみやる。プレイヤー達とは少々姿が違う。ゲーム内に用意されたキャラクターなのだろうか……
「ここにいるのと現実世界。どっちが楽しい?」
「……もしかして悪性プログラム……?」
「君が質問する立場じゃない。はいかいいえで答えるんだ」
「……ふーん。そう、その質問に答えたら強制的に連れ去られちゃうってわけね」
 聖羅がそう呟いた瞬間。視界が完全に暗闇と化した。
「ちょ、ちょっと……!」
「答えなかった君はここに満足してると判断させてもらった。一緒にいこう……」
「勝手に決めないで! まだ調査の途中なんだ……か、ら……!」
 聖羅の叫びもむなしく、彼女は闇の中へと溶け込まれていった。

◆調査員集結
「あれ? もしかして……」
 不意に呼び止められ、海原みあお(うみばら・みあお)はその場を振り返った。
「知り合い?」
 一緒に歩いていた雪枷有(ゆきかぜ・たもつ)が不思議そうに声をかけてきた青年ー皇騎を見つめた。
「いや、人違いなら申し訳ないんだが……君、もしかしてみなもかみそのって名前の姉妹いないか?」
「……2人を知ってるの?」
「ああ。以前仕事とかで、何度かあったことがあるんだよ。やっぱり妹さんかい?」
 まあね、と呟いてみあおは背中にある蝶の羽根を羽ばたかせた。頭ほどしかない大きさの妖精の姿に身を変えているみあおは、宙に浮いていないと皇騎達と視線を合わせることが出来ない。羽根から舞い落ちる粉がきらきらと輝き、幻想的な印象を強調させている。
「あー。いたいたっ。ようやく見つけたー……」
 少し遅れて、忠雄とみかねが駆けてきた。どうやら先程までみかねの買い物に付き合っていたのか、大量の袋を抱えている。
「あれ、お知り合いですか?」
 きょとんとした顔でみかねが問いかける。知り合いとは少し違うのだが、説明するのもややこしいので皇騎はさらりと流して話題を変えた。
「もしかしてみあおさん達もこのゲームの調査にきたのか?」
「まあね。三下だけに任せきれないもん。あ、で……みんなはゲームとか詳しい? 良かったら有に色々教えてあげてよ。超初心者らしくて、みあお説明するの疲れちゃった。だって、ゲームの内容とかならクリックとドラッグの違いから教えなくちゃいけないんだもん」
「うわ……そこからなの? そりゃ大変だ……」
 うっかり呟いてしまったみかねはあわてて口を閉じる。
「気にしなくて良いよ。事実なんだし」
 有は苦笑をうかべて気にすることはないといったそぶりを見せる。
「とりあえずお互いの情報交換といきますか。何か変わったこと無かった? ちなみにこっちは特になしといったところかな」
 みあおは少々残念といった様子で一息吐いた。
「そういえば騎士みたいな人が妙な『少年』が出没するらしいって言ってたよ」
「『少年』?」
「NPCとちょっと違う感じで、でもプレイヤーとも違うんだって。で、面白いのはここからなんだけど……その子、妙な問いかけをしてきて、その答えによっては……どこかに連れ去られちゃうらしいよ」
「それって……行方不明と関わりあるね、絶対」
 確信に満ちた声でみあおはぐっと拳を握りしめる。
「皇騎くん、サーバーにアクセスしたりとかして調べられないのかい?」
 下手に地道に探すよりそれが手っ取り早いだろうと忠雄は誘うも、サーバーの負担への影響の方を考慮して皇騎はそれをしようとは言わなかった。
「少年の特徴は分かってるの?」
「大体はね」
「じゃ、街を中心にもう一度調査しにいってみよーっ」
『おーっ』

◆幸運の運んできた試練
「たぶんこっちだと思うんだけどなー……」
 街にいたプレイヤーの情報をもとに忠雄達は二手に分かれて探索を進めていた。ふわふわとみあおが導かれように飛んでいく後ろを、みかねと有がついていく。下手に知識のないのない者達ばかりのほうが、先入観がないため見落としがちなバグも見つけられるだろうという判断からだ。
「なんだかだんだん……怪しいところに来てない?」
 薄暗い廃墟の間をぬけながら、みかねは心配げに辺りを見回す。
 さすがにこの辺りまでくると人気も殆どなく、時折カラスの声が不気味に鳴り響いている。
 一番大きな廃墟に足を踏み入れた時のことだ。不意に3人の眼前にひとりの少年が現れた。
「……ここにいるのと現実世界。どっちが楽しい?」
「えっ!?」
「もしかして噂の子? ええと、どっちで言えばよいんだっけ?」
「答えれば良いんでしょ。私はたとえどんなところだろうと、楽しめれば好きだよ。幸せなんて人それぞれだし、ね」
 みあおが明るく告げた瞬間。足元がふっと掻き消え、3人は暗い闇へと落とされていった。

◆眠り姫
 ふと遠くから叫び声が聞こえ、忠雄はその場を振り返った。
「どうかしたか?」
「……いま、誰かの声が聞こえたと思ったんだけど……」
 2人がいるのは危険なダンジョンとして有名な洞窟でまわりには殆ど人がいない。たまに通りすがるのも精鋭パーティぐらいなものだ。
「……助けて……」
 かすかに少女らしき声が聞こえ、皇騎は思わず立ち止まる。
「確かに……誰かいるようだな……」
 皇騎は電脳化させた式神を呼びだして周囲に放つ。ぱりんと乾いた音が響き、周囲の壁が一斉に崩れ落ちた。
「な、なんだ?」
「気配を探りやすいよう、余分なデータを一旦はがしておきました。これで、声の主が探しやすいはずです」
 皇騎は目を閉じてじっと気配をさぐる。わずかに聞こえる物音をつきとめ皇騎はすばやく音源のもとへと駆けていった。
 
◆封じられていたもの
 深い階段を下りていった先にひとつの部屋があった。明かりも何も無い、ただの暗闇で包まれている。中央に置かれた広いベッドで聖羅は深い眠りにおちていた。ゆっくりと階段を下りてくる皇騎と忠雄。眠り姫を見つけると、忠雄はあっと小さく声をあげた。
「聖羅さん……? なんでこんなところに……」
「確か先にゲーム内の調査に来てもらってた人だよな。もしかして何かに捕まったと
かかもしれないな」
 皇騎はそっと聖羅の頬をそっとなでる。熱は失っていないし弾力もちゃんとある。単に意識を失っているだけのようだ。
「ん……」
 わずかに声をあげると聖羅はゆっくりと瞳をあけた。はっと皇騎と視線が重なり、お互い言葉を失う。
「ちょっとそこどいてーっ!」
 頭上から声が聞こえたと思うと、みかね達が一斉に落ちてきた。いち早く気づいた聖羅と皇騎は素早くベッドから飛び降りる。その直後、大量のほこりをあげて三人が一斉にベッドへと飛び込んできた。
「いたたた……」
「なんなのよもー……っ」
「あれ、反対側の遺跡ののほういったんじゃなかったっけ……?」
 不思議そうに首をかしげて忠雄は落ちてきた女性群に問いかけた。
「あ、そうそう! みつけたよ噂の少年! みかねが返事しちゃったらいきなり穴に落とされちゃって……」
「それじゃあ、ここがもしかして皆が連れてこられる場所なのか?」
「どうなんだろう……でも僕達以外人の気配ないよね……?」
 みあおはキョロキョロと視線を彷徨わせながら、くるくると飛び回る。確かに人の気配はしない。が、妙に張り付くような空気が妙に心をいらだたせた。
「変だな。この辺りの気はずいぶんと薄い割には……はっきりと強い意志を感じるな」
 有は険しい顔立ちで宙を睨む。彼らに向けられた意思……つまり殺気に強い警戒心を抱かずにいられなかった。
「もしかするとこの辺りの壁に何か隠されているんじゃないかな」
 聖羅は辺りを慎重に見回しながら壁を手探りで探っていく。
「何してるの?」
 突然の声に全員一斉に振り返った。何時の間にそこにいたのか少年がちょこんと壁に佇んでいた。
「あーっ! この子、この子よっ! さっき言ってた子」
 途端、みあおが羽根をばたつかせて少年の周りを回る。少年はわずかに眉を寄せてみあおをひょいとつまみあげた。
「なにするのーっ 離してっ!」
 みあおはじたばたと暴れるも少年の腕から逃れることが出来ない。
「静かに出来ない? うるさいのは嫌いなんだけど」
「そっちが離してくれたら静かにするもんっ」
「……わかったよ」
 自由の身になったみあおは素早く忠雄の後ろに身を隠して、頬を膨らませる。その様子に苦笑しながらも忠雄は少年に問いかけた。
「ちょっと聞きたいんだけど……君はいろんな人に質問してまわってるんだよね? 僕達この世界に迷い込んだ人達を探してるんだけど、知らないかな?」
「迷いこむ……この世界には自ら望んで来てる人しかいない。迷い込んできたのはそう望んでいたからだよ」
 少年は薄い笑みを浮かべてそう呟いた。それはとても虚ろで冷たさまで感じられ
た。
「君達も望むのならずっとここにいるといいよ。ここは全ての望みが叶う場所だよ」
「それはどうかな」
 壁を探っていた皇騎がさりげなく告げる。すっと手をはらうと壁に扉が現れた。
「この世界は君が思ってるほど全てじゃない。気をそらせて隠してもすぐに見つけられてしまうものだ」
「……僕のプログラムを破るなんて……後悔するといいよ。その先にまってるものは君達がのぞむものでは決してないから」
 そう言って少年は忽然と消えた。
「何? いまの……」
「……仲間が欲しいから波長があう人を探してとりこんでいたというところか……ふたを開けてみれば、所詮そんなものだな」
 そう言いながら皇騎はなにげなく扉を開く。途端、悪臭のこもった煙が部屋に流れ込んできた。煙をわずかに吸い込んだだけでめまいと嫌悪感が湧き上がってくる。
「なんだこれ、体の中で何か暴れてっ……」
「やばいっ息をとめろ! 悪性のウィルス……」
 目の前が真っ暗になり背中が凍るように冷たくなったのを感じた。薄れいく意識の中、やけにはっきりと少年の声だけが聞こえてきた。
「現実世界にいてそんなに……楽しい?」
 
◆帰還
 気が付くと一行は編集部のパソコンの前に座っていた。別ルートを使って、ネットダイブでゲームに入らなかったみあおと有の姿は見られない。恐らくそれぞれのパソコンの前でため息でも吐いているのだろう。
「あら、早かったわね」
 コーヒー片手に、麗香があっけらかんと言う。
「なかなか面白い旅だったようね。楽しませてもらったわよ」
「げ、見てたんですか?」
「あら、パソコンに勝手に流れてたんですもの。こんな面白いものを放っておくなんて勿体ないでしょう?」
 麗香はにんまりと笑みを浮かべる。明らかに相手の反応を楽しんでいるようだ。幸いにもう皇騎達より早くゲームの世界に侵入していた聖羅は行動を見られていなかったようだが、忠雄と一緒にいたみかねは一部始終が麗香の監視のもとにいたことになる。
「とりあえずはお疲れさま。原因を解決させることが目的じゃないし、成果はまずまずといったところじゃない? レポート楽しみにしてるわよ」
 そう言って麗香は残っていたコーヒーを一気に流し込んだ。

■冒険談
「……で、崖の上にいたところをみあおが発見して呼びに行ってあげたのっ」
 はつらつと内容を述べるみあおの傍ら、文章に書きとめていた忠雄はひとつ息を吐いて手を休める。
「まだ終わらない? レポート枚数、規定を超えちゃうんだけどさ」
「えっ、それをまとめるのが記者のお仕事だよ。そのまんま書いてちゃ駄目に決まってるんだからっ」
 みあおは人懐っこい笑顔を浮かべてぽんと忠雄の背を叩く。
「それは分かってるんだけど……量が多すぎるとまとめるほうも大変なんだよ?」
「情報量は多い方がいいの。そのほうがレポートの質もあがるし、編集長に喜んでもらえるよ? んじゃ続きはじめるからね」
 そう言ってみあおは更に体験談を語り始める。あきらめた様子で忠雄は机からカセットテープを取り出し、録音のスイッチを入れた。
「……そしてみあおはその大きな切り株の近くまで飛んでいって調べたの。これが伝説の……」

 おわり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0249/志神 ・みかね/女/15/学生
0461/宮小路・皇騎 /男/20/大学生(財閥御曹子・陰陽師)
1087/巫  ・聖羅 /女/17/高校生『反魂屋(死人使い)』
1415/海原 ・みあお/女/13/小学生
1529/雪枷 ・有  /女/14/ヴァンパイア
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせ致しました。「おさんぽネット」をお届けします。
 今回は私事で身辺の周りがかなりごたごたして、ちょっと執筆に時間がかかってしまいしました。
 ここで記すような内容ではないので割愛いたしますが、文章に影響していたら深くお詫び申し上げます。
 
海原様:このたびはご参加有り難うございました。姉妹のかたが皆同じ年齢でしたので、どちらが上か下か判断出来ずにいました(まだまだスキル不足……)職業で判断させて頂きましたがよろしかったでしょうか?

 実はこの作品は読み切り風のシリーズものの序章です。毎月1回、このようなものを書けたらなぁ……と思っていますので、もし見かけましたらご参加下さると嬉しいです。
 
 それではまた別の物語でお会いしましょう。
 
 執筆:谷口舞