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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


家に住むもの【調査編】


------<オープニング>--------------------------------------


「草間、助けてくれ!」
 その来訪者は草間武彦の至福のときに現れた。ようやく先日来の仕事の書類を書き上げて、ぼんやりと煙草を吸っていたのに、男は無遠慮に分厚いファイルをでんっと机の上に乗せたのだ。
「おいおい、岩崎。俺は……。」
「この事件は絶対に妖怪だか幽霊だかなんだかが絡んでいるに違いないんだよ!!」
「知るかっ!! 俺はただの探偵だって何度言ったら分かるんだよ!」
「頼むよ〜。頼れるのは草間しかいないんだ。」
 押し付けられたら堪らないと立ち上がった草間は、だが、涙ながらにしがみ付いてくる公務員の友人に、折れるしかなかった。



「で? 何があったって?」
「密室殺人事件だよ。亡くなったのは南修司さん。62歳。鈍器で殴られたかしたらしくて、頭蓋骨が陥没していた。でも、自室には鍵が閉まっていて、誰も入れなかったって言うんだ。きっと妖怪の仕業だと俺は踏んでいるんだが。。」
「そこでなんで妖怪の仕業になるんだよ……。密室のトリックなんてどれほどあると思っているんだ? 第一、妖怪ならわざわざ密室にしなくてもいいじゃないか。」
 草間は呆れたように揚げ足を取ってみたが、岩崎はそれをあっさりと聞き流した。
「修司さんはなかなかの資本家で、奥さんの菊恵さんと3人の子供に2人の孫がいて、離婚して戻ってきた長女の和恵さん母子が同居してたんだ。その日は次男の勝さんも家に来ていたらしい。修司さんと勝さんは仲が悪かったみたいで、金目当ての犯行じゃないかと睨んでいるんだが、居間に全員でいたというアリバイがある。まあ、家族の証言は基本的には重要視されないんだけどね。ちなみに長男の博士さん一家は遠方に住んでいるんだ。だから犯行は不可能。」
 岩崎はちらりと退屈そうな草間を振り返る。
「ここまで聞けば普通の事件だと思うだろ?」
「まあな。」
「でも、修司さんは末期ガンで何もしなくてもそろそろ寿命が尽きることは全員が知ってたんだぞ。なんでわざわざ犯罪に手を染めようとする?」
「まあ……普通はしないわな。」
 むしろ普通の人は殺人なんて犯さないとは思うが。
 話の続きがあるのかと思って、草間が促す。
「それで?」
 岩崎がばっと両手を合わせて滂沱の涙を流した。
「誰が犯人か俺にはさっぱり分からないんだ。お前探偵だろ。犯人を見つけてくれ!」
「はあ?! 俺にも分かるわけないだろ。」
「頼む! 密室のトリックすら分からないんだ。このままじゃ迷宮入りになってしまう!」
「どこまで能無しなんだよ!」
 日本の優秀な警察機関は一体どうなっているんだと思わずにはいられなかった。
「まずは調査からしてみるか……?」


●家族構成(括弧の中身は年齢です。)

        修司(62) ┬ 菊恵(60)
博士(38)┬洋子(38) 勝(34)─智子(32) 和恵(33)┬邦彦(34)
   武士(14)                    美恵(8)


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●密室検証

「修司さんは末期ガンだったが、調子のいい日と悪い日ではものすごい差があったようで、ほとんど寝たきりかと思えば、元気にデスクに向かっていることもあったそうだ。」
 岩崎に連れられてやってきた南家はなかなかの豪邸だった。玄関から真っ直ぐ廊下が伸びていて、両側に4つずつ部屋が繋がっている。突き当たりに2階へ上がる階段とキッチンの扉があり、そこを通らなければ、奥のリビングルームには入れない。
「玄関に入って、右側は客間、勝さんの泊まっていた部屋、物置に洗面所。洗面所の奥に風呂がある。左側にはヘルパーの貫田さんが泊まるとき用に空けてある部屋、美恵ちゃんの遊び場、それから以前博士さんが使っていた部屋がそのまま置いてあって、その向こうがお手洗いだ。」
「あとでゆっくり中を見せてもらえるかしら?」
 シュライン・エマの質問に、岩崎は軽く頷いた。
「修司さんの死亡推定時刻は15時から19時の間。その時間帯は菊恵さんと和恵さんで夕食の準備中で、この扉は開いたままだった。」
「ということは、誰かが入ってきたらすぐに分かるってことですね。」
 海原・みなも(うなばら・みなも)が実際にキッチンに立って、振り返ってみた感想を述べた。みなもの場所からは玄関までがはっきり見える。
「そういうことだ。だから外部犯の可能性が低いと思っているんだが。」
 言いながら、岩崎は2階へと案内していく。
 2階には廊下を挟んで4つの部屋があった。
「修司さんの書斎、修司さんと菊恵さんの寝室、和恵さんと美恵ちゃんの部屋に物置だ。」
 岩崎はその一番奥の部屋に向かう。
「そして、ここが修司さんの書斎であり、殺人現場だ。」
「発見されたときは鍵がかかっていたのよね? 誰が開けたの?」
 鍵が壊されていないことを確認しながら、シュラインが尋ねた。
「ヘルパーの貫田さんらしい。」
「合鍵よね?」
「彼女しか合鍵を持ってないんだよ。しかも、貫田さんが持ち歩いていたようだし。彼女はその時間帯自宅へと帰っていたというアリバイがある。」
「ふうん。でも、鍵があるなら誰かがこっそり合鍵を作ってることはありえるわよね。」
 密室の重要性はあまりないようにシュラインには思えた。
 部屋の中は事故当時のまま保存されており、修司の死体があった場所に白いロープで形どられていた。近くに椅子が倒れたままになっている。
「これはどの向きに倒れていたのかしら?」
「うつ伏せだが。」
「ここまで這いずってきたようではなかったのよね?」
「そんな様子はないな。恐らくデスクに向かっていた修司さんは背後から衝撃を受けて転がり落ちたというのが正しいところだろう。抵抗したようなあとはないんだがな。」
「凶器は何だったのですか?」
「花瓶のようなものだと思うんだが、衝撃で割れているはずなのに、破片がどこからも見つからない。しかも、陥没の加減からかなりの重さのものだと考えられるているんだ。多分大量の水でも入った瓶みたいな。でも、水が流れた跡もないし……。」
 結局、密室のトリックどころか、凶器すら分かっていないことが判明した。
「……水……そういえば何か変な感じがするような……。」
 みなもが少し眉を顰めた。違和感の元を探そうとするが、何であるか分からない。
「それじゃあ、次は話を聞いてみよっか。」
「そうですね。」
 シュラインに促され、みなもは思考の隅に引っかかりを残したまま、次の行動に移った。



●寄り道

「博士さんはなかなかの実業家みたいだったぞ。修司さんの会社の1つを継いで立派に自分のものとして順調に経営してるし。財産狙いなら、最も縁の遠そうな人物ではあるな。内心どう思っているかは分からないにしろ。」
「そうですわね。」
 草間は1人別行動を取り、遠方に住む南博士の一家に聞き込みをしてきたところだった。途中、喫茶店「黒い猫」に立ち寄り、コーヒーを飲みながら店長の雪ノ下・ノエルにこの事件の話をしている。
「それにしても密室殺人ですか、本当に警察も当てになりませんわね。」
「まあ、岩崎だからってこともあるんじゃないかな。」
 厳しい評価を下す草間に、ノエルはくすくすと笑った。
「わかりましたわ、息子がいつもお世話になってますし協力致します。」
「え?」
 ノエルは外見年齢が10代の半ばだ。息子がいるというのが冗談にしか聞こえないが、草間が身を引いたのはこれに驚いたからではなかった。
 ぶつぶつと口の中で呪文を唱える。
「ちょっと待ってくれ。向こうに行ってからでも……。」
 草間の制止も虚しく、ノエルは呪文を唱え終わっていた。
「じゃーん! マジカル・ノエルにおまかせよっ♪」
「……か、勘弁してくれ。」
 がっくりと肩を落とす草間の前で、ノエルが可愛らしくびらびらの服を纏った魔法少女に変身している。草間はこの手の少女趣味な格好が大の苦手なのだ。
「さあ、草間さん行きましょうっ♪ その家に住む家霊、西洋ではブラウニー、日本では家神を呼び出して調査しましょ。」



●南菊恵(60)の証言

 シュラインとみなもが一番初めに証言を求めたのは、修司の妻である菊恵であった。夫を失い、かなりがっくり来てしまっている。ショックを受けているところにこんなことを聞くのは酷なことに思えたが、岩崎はさくさくと聞いていく。
「あなたは和恵さんと夕食を作っていたと言っていましたね。」
「はい、そうです。」
「夕食は何を作ってらしたんですか?」
「いつものようにご飯と味噌汁と煮物、とその日はホイール焼きでした。」
「誰かが2階に上がったところは見なかったんですね?」
「はい、誰も来ませんでしたし、勝もリビングでテレビを見ていました。」
「和恵さんとどちらかがキッチンを離れたことは? 勝さんがお手洗いに立ったことはありませんでしたか?」
「私はずっとキッチンにいました。和恵が美恵の様子を見に行ったことはありますが、少しの時間でしたし、キッチンから2人の声が聞こえてました。勝はずっとリビングにいました。」
「分かりました。ありがとうございます。他に何か聞きたいことありますか?」
 岩崎がくるりと振り返って、みなもとシュラインを見た。
「私はいいわ。」
 シュラインが首を振ったので、みなもが見を乗り出した。
「あの血液型教えていただけますか?」
「A型ですけれど。……ああ、そんなに期待しているような複雑な家庭ではありませんよ。確かにあの人に隠し子がいたりするかもしれませんし、遺書で彼らにも財産を分譲するようにと書いてあったとしても、財産はそんなことで目くじら立てるほどの少なさではないんです。」
 その自信満々さに、みなもは呆気に取られるしかなかった。大人の世界って怖いと思った瞬間でもある。
「じゃあ、遺産相続順とかは……。」
「遺言の公開はまだですけど、一般的なものじゃないかと思ってます。」
「そうですか。ありがとうございました。」
 ぺこりと頭を下げた。



●南勝(34)の証言

 次に呼んだのは次男の勝だった。
(すごく心臓がどきどきしている。疑われているのが分かっているからかしら。)
 聞こえてきた心臓の音にシュラインは眉を顰めた。
「あなたは修司さんと仲が悪かったそうですね。借金があって、すぐにお金が必要だったと聞いたのですが?」
「仲が悪かったのも事実だし、借金があるのも本当だけど、俺がやったんじゃないぞ!」
 噛み付くように勝が言う。いらいらと指先で机の端を叩いていた。
「たまたまここに来ていた理由は?」
「金をくれって交渉しに来てたんだよ。でもやっぱり断られて、夕食でも食べていけってお袋に言われたから、不貞腐れてテレビ見てただけだ。」
(これは疑われて怯えているだけね。)
 シュラインは落ち着きのない勝の様子と心拍数からそう結論付けた。



●南和恵(33)の証言

「私は母と夕食を作っていました。美恵の様子は一定時間ごとに見に行くようにしてるんです。一人で遊んでいるので寂しいかと思いまして。」
「美恵ちゃんは何をしていましたか?」
「絵を描いていました。あの子が摘んできた花をコップに入れてあげていたので、それを描いていました。」
「そういえば、この家は花瓶が全然置いてありませんね。」
 飾り気がないわけではないのに、花は全く活けられていないのだ。
「あ……道理で。水を感じないわけですね。」
 水と親和性の高いみなもが合点が行ったようにぽんと手を叩いた。
「この家、何故か水がすぐに蒸発してしまうんです。空気が何だか乾いていて、何度か火事を起こしそうになったこともあります。お風呂は入浴剤を入れたら減らないんですけど。」
「……それっておかしくないですか?」
「父は水を欲しがっている妖怪がいるんだって言ってました。」
「そうですか。」
 岩崎は平然と頷いて、話を流した。
「あのう、離婚の理由って何ですか?」
 先ほどの大人の世界があるので、みなもは恐る恐る尋ねてみた。
「性格の不一致です。理由はいろいろありますが、生活時間が合わなくなったのが最大の原因です。」
 和恵が部屋を去ったあと、岩崎が涙ながらに振り返ってくる。
「ほらやっぱり妖怪の仕業なんだ!!」
「そうかしら? そんな妖怪がいたらもっと怯えるもんじゃない?」
 和恵は怖がっているようでも、退治して欲しいわけでもなさそうだった。当然のことして見に染み付いてしまっているようにも感じられる。
「どういうことかしらね?」
 シュラインは首を傾げた。



●マジカル・ノエル

「ここがそのお家ですね。まあ、なんてたくさんいるのかしら♪」
「…………え?」
 ノエルの言葉を聞きながら、草間は嫌な予感を覚えていた。
「たくさんいるってのは、やっぱいるのか?」
「いますわね。少なくとも大きいのが3体はいますわ。」
「へー。」
 とりあえず中に入ろうと、玄関の扉を開くと、岩崎が泣きついてきた。
「やっぱりここには妖怪がいるらしい!!」
「分かってるって! 今からその調査をするから。」
「ほえ?」
「マジカル・ノエルにお任せよっ♪」
 ひらりんとポーズを決めるノエルを岩崎はぽかんと見つめた。シュラインとみなももびっくりして目を丸くしている。
「あらまあ、息子がお世話になってますわ。雪ノ下・ノエルと申します。あたしが今からブラウニーを呼び出してみますね。」
 ノエルが杖を一振りすると、ぽんと着物を着た少女が現れた。
「こ、これは一体……?!」
 岩崎は腰を抜かさんばかりに驚いている。
「座敷童子のようですね。」
 みなもが興味深そうに少女を見つめた。
「ねえ、この家で修司さんが亡くなったんだけど詳細を知らない?」
 ふるふると首を横に振る。すっとある部屋を指差す。
「あの部屋は……美恵ちゃんが遊んでいた部屋じゃないかしら?」
「美恵ちゃんと一緒にいたってことを言いたいのね。」
 ふむふむと頷いて、ノエルはありがとう、と手を振った。
 次に現れたのは見事な白蛇だった。
「これはまた綺麗に育ったわねー。」
「感心してる場合か。」
「でも、なんだか眠そうですね。」
 みなもの言うように、白蛇はふあぁと欠伸ばかりしている。そのまま目を閉じたら開かないのではないかと思わせる。
「寝てて何も見てないっぽいわね。」
 シュラインの予想通り、白蛇からは何の情報も得られなかった。
「もう! 一体どうなってるのよ、この家は!」
「やっぱり妖怪のせいなんだー。」
「岩崎、いい加減うるさいぞ。」
 最後に出てきたのは、欠けた盃を持った毛むくじゃらの妖怪だった。
『水が欲しい〜。』
 盃を差し出しながら呻く。
「あのね。聞きたいことがあるんだけど。」
『水をくれ〜。』
「あのう。あたしが少しなら水をあげれますけど。」
 カラカラな家なので、どこまで出来るか不安だったが、一応みなもがそう提案してみるが、ノエルは首を縦には振らない。
「ダメ。こいつは水をたらふく貰ったらさっさと逃げていくわよ。飢えさせて、富をもたらせるの。修司さんはこれを飼っていて資産を築いたのね、きっと。」
『水〜〜〜。』
 毛むくじゃらは水を求めるばかりで、他には何も言ってはくれなかった。



●南美恵(8)の証言

 最後に残ったのは、美恵だった。人形を抱いて、きょとんと大人たちを見上げている。
「美恵、お絵描きしてただけだよ?」
「何を描いていたの?」
 シュラインが置いてあったスケッチブックを手にした。
「見てもいいかしら?」
「うん。」
 開いてみると、クレヨンでぐちゃぐちゃと色が塗ってある。
「これは何を描いたの?」
「それはこのお人形さん。」
「これは?」
「ママ。」
 ぺらぺらと捲っていって、シュラインはふと変なことに気付いた。
「ねえ、この女の子って?」
「お家にいるの。時々一緒に遊んでくれるよ?」
 それは先ほどノエルが呼び出した座敷童子に似ているように見えたのだ。そして、最後のページに描かれていたのは庭で、和恵が言った花の絵は一つもなかった。
「お花の絵は描かなかったの?」
「だって、持っていかれちゃったから。」
「……誰に?」
「何か分からないけど丸いものに。だから知らない。」
「……それって、あの毛むくじゃらの奴ですかね?」
 みなもが恐る恐るノエルに耳打ちする。
「そうかもしれないわね。」
 岩崎は不可解な妖怪と共存している美恵に、意識を飛ばしかけていた。


「さてと、これであらかた聞き終わったかな。」
 話を聞き終わってリビングでお茶を出してもらいながら、草間がふうっと息を吐いて、腕組みをした。
「で、一体誰が犯人なんだろうな。」


 To be continued...


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13歳 / 中学生】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0589 / 雪ノ下・ノエル(ゆきのした・のえる) / 女 / 110歳 / 喫茶店マスター兼魔物退治屋】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
まずは【調査編】ということで聞き込みが主でしたが、如何でしたでしょうか?
犯人の目星は付いたでしょうか。
続いて、【推理編】もお付き合いいただけたら嬉しいです。