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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


月下の夢
件名:知ってるか?
投稿者:PAL
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都内某所に存在する公立S校。
ここ数週間ほど、水曜日の夜になるとこの高校の校庭で妙な光景が繰り広げられている。
晴れた水曜の真夜中にその校庭の前を通りがかると、着物を着た女と日本刀持ったS高の生徒が戦っているのがみられるらしい。
毎週水曜日になれば奴らの戦いが見られるんだけど、ここんとこ、男のほうはケガがひどくて押されぎみ。
映画みたいな話だけど、これって心霊現象?

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件名:Re:知ってるか?
投稿者:匿名希望
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日本刀持って女と戦ってるってその男、S校の二年で一ヶ月前から無断欠席している生徒じゃないかってウワサ。
たまたまそいつの顔知ってるヤツが通りがかって近づこうとしたら、
「来るんじゃない!」
って怒鳴られたらしいぜ。

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件名:Re:Re:知ってるか?
投稿者:マサト
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2−Cの真田睦月<無断欠席
目立たない、ちょっとクラい感じの生徒だぜ。

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件名:着物の女
投稿者:アミーゴ
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S高にある首塚の噂、知らねえの?
着物の女は江戸時代に悋気が高じて奉公人の女を殺し、義理の娘に毒を盛ろうとしたみよって女で、獄門の刑に処せられたらしい。
その女の魂を奉った塚が、校庭の桜の木を切り倒すときに崩されたのが一連の騒ぎの原因だとさ。

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ネットにある噂を集めると、どうやら真田という生徒は異世界に閉じ込められたまま出てこれないらしい。
本人は他人が巻き込まれるのを恐れて手助けされるのを好まないが、どうやら日に日に劣勢に追い込まれていくようだ。

□―――ファーストフード店
「真田睦月?ああ、同じクラスだよ」
S高の制服姿でみなもと向かい合った少年は、コーラをストローで吸い込みながら頷いた。
「よく休むんだよね、あいつ。2,3日とかざらにさ。不良ってワケでもないよ。髪染めたりもしてないし…ああ、だからって登校拒否とは言わないと思うけど」
伸ばしめの髪に指を突っ込んで、彼は人差し指でこめかみをポリポリと掻く。
「休んで何してたんだよって聞くと、旅行いってたって言うし。学校より、旅行のほうが楽しいんじゃないの?あいつ成績いいからさぁ。学校の授業、聞いてなくても点とれるしね」
成績がらみの妬みとは無縁のようで、少年はあっさりとしている。
「彼が、真夜中に着物を着た女の人と戦ってるって、噂になってるんですけど」
ああ、と少年は頷いた。
「それ、知ってる。俺のダチも見たって言ってたよ。真田、お前なにやってんだ?って声をかけたら、来るな!!ってすごい顔してさ」
ネットにあった書き込みと同じだ。近づこうとすると、「来るんじゃない」と言われる。
「それで、どうしたんですか?」
「人呼びにいったの」
フライドポテトを抓んで、少年はそれを口に放り込んだ。
「真田怪我してたらしいし、その女ってのが、どうも普通じゃなかったんだってさ。ダチが見てる前で、にや〜って笑って。目なんか真っ赤で、こいつは普通じゃないって思ったらしい。だから、人を呼びにいったんだって」
しかし、人を連れて戻ってきてみると、校庭には誰もいなかったのだという。
「そいつ、酔っ払ってたしさ。夢でも見たんじゃないのかって言われたみたいだけど。俺が知ってるのはそんなとこだよ」
そろそろいいかな?という感じで少年が時計を確認するので、ありがとうございましたと丁寧に礼を言い、みなもはファーストフード店を後にした。
真田睦月という少年は、確かに存在するらしい。それもちょっと変わり者だ。怪奇現象のような噂が立っても、なんとなく「あいつかあ」と受け入れられてしまうような。
敬遠こそされていないが、他の生徒からは距離を置かれているようでもある。
「来るな、って言うのは……、やっぱり、他に被害が及ばないようにするためかしら」
真田は刀を持っていたともいう。明らかに普通じゃない女性と対峙して、助けを求めるのではなく「来るな」と言った。
「……なんにせよ」
ため息を吐いて、みなもは空を仰いだ。
「詳しく調べる時間はなさそうですね」
今日は水曜日。噂になっている現象が起こるなら、今晩のはずである。
「行きましょう」
ファーストフード店で少年から話を聞いたその足で、みなもは図書館に向かった。勿論、「おみよ」の伝説を調べるためである。

□―――S高:11:00 p.m.
人ひとり通りかからないS高の校門前で、みなもはそびえる門扉を見上げた。思い立って持ってきた霊水入りのペットボトルが、手の中でちゃぷんと音を立てる。
黒い鉄柵の向こう側には、なんの変哲もないグラウンドが広がっている。
黒い闇に包まれたグラウンドを、柵の間から覗き見るようにして見渡す。暗くてよくは見えないが、グラウンドの奥、切り倒された痕も生々しい切り株の傍に抱えるほどの大きさの岩が転がっているのが見えた。
「あれかしら」
みなもが言う「あれ」とは、書き込みにあった石塔のことである。地方史の文献をひっくり返して探した末、みなもは小さな記事を発見した。
和菓子屋「七福」の三代目、伊之助の妻おみよ。七福は当時たいそう繁盛した和菓子屋だったようだが、この店では、一年間に3人の死人が出た。どれも奉公のために七福にやってきた娘たちである。これらすべてがおみよによる殺人だったのだが、このことが明るみに出たのは、伊之助の娘おあきが同じように殺されてみつかった後だった。おみよは悋気の激しい女で、同時に少し気が触れていた。彼女は伊之助の傍にいる娘たちが、伊之助を寝取ろうとしていると思い込んでいたのである。
嫉妬に駆られ、おみよは鬼になった、と文献には書いてある。彼女は首を刎ねられて死んだが、彼女の身体から離れた首は、夜毎「七福」の店に現れ、様々なたたりを起こしたという。悪い噂が立った七福では、主人の伊之助も自殺してしまい、お店は結局潰れてしまった。それからも、高名なお坊さんが彼女の霊を鎮めるまで、その土地にはおみよが現れ、そこへ住み着くものを取り殺してしまったのだという。七福が潰れた翌年には大飢饉が起こったと書いてあるから、十八世紀の末ごろだろうか。
お坊さんがおみよの霊を鎮めた時に建てたのが、このS高の校門にあった石塚というわけだ。切り株のとなりにごろんと転がった岩は、なるほどその伝説を知らなかったら無視してしまいそうなそっけない形をしている。
いつの間にか、校門の一点がぼんやりと光を持ち始めていた。目を凝らすと、うっすらとそこに人がいるのが見える。
みなもはもう一度校門を見上げた。
「どろぼうさんみたいなことをするのは気がひけますけれど」
こればっかりはしょうがない。ごめんなさいと心の中で謝って、みなもは校門に手をかけた。
服を柵に引っ掛けないように、身体を持ち上げ、柵を乗り越えて校内に飛び降りる。
顔を上げると、光はさっきより大きくなり、その中で二人の人影が対峙しているのがはっきり見えた。高校生くらいの男の人と、着物姿の女性だ。
男の人は、掲示板にあったとおりにS高の制服を着ている。その制服はぼろぼろで、所々が破けて血が滲んだりしていた。服も顔も、泥と血だらけである。片手には月の光を受けて冷たく光る刀が握られていた。
対峙するのは、くすんだ色をした着物姿の女性である。顔を見た瞬間、すぐにそれが人間ではないとみなもにもわかった。緑色が強く浮かんだ白い肌、血を含んで真っ赤になった目。口元が開くと、禍々しい朱色の口内が覗いた。
「真田さん!」
みなもに横顔を見せる男の人に呼びかける。彼はびっくりしたように振り向いてみなもを確認し、それから怖い顔をした。
「来るんじゃない!」
真田の意識がみなもに逸れた瞬間に、着物姿の女性…おみよが腕を横に薙ぎ払った。月夜の下に白いものが光り、それが真田に襲い掛かる。
「くっ…!」
厳しい体勢で身体を捻り、すんでのところで真田はそれを弾き返した。勢いに負けてぐらりとその体が揺れる。
「真田さん!!」
霊水を片手に、みなもは彼に駆け寄った。堪えきれずに片膝を付いてしまった真田の腕に手をかける。
「来るんじゃないと言っただろう!怪我でもしたらどうするんだ!」
「あなたのほうが怪我をしています!!」
一方的に怒鳴られて、負けないようにみなもは真田を見つめ返した。言い返そうとして口を閉ざし、真田は刀を一閃して再び襲い掛かってきた光を打ち払う。
真田は乱暴にみなもの腕を引いて、自分の後ろに彼女を下がらせた。
「ここは、あの女性が作り出す異世界だ」
おみよと対峙しながら、真田が説明する。
「一度ここに入ってしまったら、彼女を倒すまではここから出られないんだよ」
「話し合って解決することは出来ないんですか?」
真田の肩ごしに見るおみよは、最早人間とは呼べないほどに変わり果てていた。月光に照らされる青緑色の肌。ギラギラと狂気に燃える真っ赤な目。笑うように開いた口からは、呼吸をするたびに白いカビのようなものが吐き出される。結い上げられていたはずの髪はばらりと広がり、空中で藻のようにゆらゆら揺れていた。
「バカな」
おみよの行動に注意しながら、真田が首を振る。
「彼女に言葉は通じない」
おみよの体が、空中に高く浮かび上がった。はっとして振り仰ぐと、彼女の身体は月を背に一旦停止し、体の向きをかえると真田とみなもめがけて急降下してくる。蛇のように横に釣りあがった目が、血のような色を湛えてみなもの眼前に迫ってきた。黴たような、腐ったような、嫌なにおいが鼻に付く。
目を閉じることもできずにその場に立ち尽くしたみなもを、真田の腕が引き寄せた。ぐいっと強い力で横に引かれ、みなもはその場から引き剥がされる。すぐ傍をおみよの体が横切り、ふわりと腐臭の混じった空気がみなもの肌を打った。
「なにか、手はないんですか!?彼女に声を伝える方法は」
バランスを崩したみなもを支え、再びみなもを守るようにおみよとの間に立ちはだかる真田に声をかける。
「ないと言っただろう!」
怖い顔でみなもを振り返り、真田は彼女が持っているペットボトルに目を留めた。
「それは?」
「霊水です。おみよさんを昇華するのに使えるかと思って」
「もらうよ」
言うなり、真田はみなもの手からペットボトルを取り上げた。
「真田さんっ」
霊水が何かの役に立つならありがたいが、元々おみよを成仏させてあげようと思って持ってきた水である。
「手荒なことは、しないであげてください」
「そんな呑気に構えている場合じゃないよ。僕も気が進まないが、仕方ない」
言うなり、真田はペットボトルをおみよに向かって投げつけた。ペットボトルは、蓋をされたまま回転して飛んでいく。おみよが笑った。笑うと、かぁっと左右に口が裂けて、紅い歯茎と、黄ばんだ歯までが露わになる。覗いた舌は蛇を思わせて細長い。円柱型に変化したおみよの瞳孔が、ギョロリと動いてみなもを捉えた。
おみよが襲い掛かってきた。真田が投げつけたペットボトルなど恐れるそぶりも見せない。
「きゃあっ!」
思わずみなもは叫んでいた。ジェットコースターのように、おみよの顔は加速度をつけてぐんぐん近づいてくる。凶悪な目が、みなもを害することだけを目的にギラギラ光っている。
「効果がないなんていわないでくれよ?」
真田が刀で空気を縦に割った。
おみよの目の前まで迫っていたペットボトルは、その一閃で二つに割れて、中の水が空中に零れた。
「ギャァァァ……!!!!!」
空気を引き裂くような悲鳴が、おみよの口から溢れ出た。同時に、ジュワッと厚い鉄板に水を落としたような音がして、みなもの鼻を焦げた嫌なにおいがくすぐる。
びっくりして顔をあげると、おみよは空中で、爪の伸びた手で顔を覆って身悶えていた。指の間から、白い煙が立ち昇る。ブスブスと何かが燻る音がする。
おみよの肉が溶けているのだ。ぼたぼたと、おみよの指の間から零れたものが、グラウンドに落ちた。腐臭はどんどん増していく。
「鎮まれ。ここは、おまえがいていい場所じゃない」
凛とした声がおみよに呼びかける。真田の手には、くしゃくしゃになった白い呪符が握られている。空中で身悶えるおみよにそれを押し付けると、耳を覆いたくなるような叫び声は余計に高くなった。
耳をつんざくような声は途切れ途切れになり、弱くなり、最期には呻くようになって、やがて消えた。
そろそろとみなもがつぶっていた目を開けると、そこにはもうおみよの姿はない。かわりに、ひらりと一枚の小さな紙片が舞っているだけだ。
鼻につく腐ったような匂いだけが、おみよが確かに今までそこに居たことをみなもに知らせている。
「やれやれ」
真田の声に我に返ると、そこは何の変哲もない学校のグラウンドだった。うすぼんやりと真田とおみよを覆っていた光も、いつの間にか消えている。
「きみのもって来てくれた霊水のお陰で助かったよ」
真田は、腰を屈めて土の上に落ちた紙片を拾い上げた。
「あの女性の力が強すぎて、弱らせてからでないと彼女を封じ込めることが出来なかったんだ」
真田の手の中に納まった紙には、「おみよ」と毛筆で書き込まれている。真田はそれを無造作にポケットに突っ込んだ。
「それにしても、君はどうしてこんなところへ来たんだ?」
「噂になっていたからです。水曜の夜になると、毎晩真田さんが、ここで女の人と戦っているって」
「女の人を斬りつけるわけにもいかなくて手間取っていただけさ」
そこで初めて気が付いたというように、真田は制服についた埃をはたく。叩くたびに、埃がぱふっと宙に舞った。
「僕は真田睦月。妖怪や霊を封じる一族の末裔…らしい」
「そんな一族があるんですか?」
真田は視線を泳がせて気まずそうな顔をした。
「少なくとも、僕の両親はそう言っているね」
そして、真田はそれを信じてこんなことをしているのだ。やっぱり変わった人である。
「…真田さんは、おみよさんを斬るわけにもいかないから、ずっと苦戦してたんですか」
「当然だよ。僕は女性に手をあげるようなことはしない」
プライドを傷つけられたような顔をして真田は言う。みなもはそんな彼をあっけに取られて見返した。
「それで、何週間もおみよさんとあの世界に閉じ込められていたんですの?」
答えようとして、何かに思い当たって首をかしげ、真田はつぎにぎょっとした。
「何だって?すまないが、きみ、今日は何日だい?」
みなもが丁寧に西暦まで交えて日付を教えると、真田は肩を落としてため息をつく。
「僕はそんなに閉じ込められていたのか」
気づいていなかったらしい。
「…そうです」
みなもが答えると、力なく真田は頭を振った。その表情も声も暗い。
「……中間試験を受け損ねた」

女の子が、何をこんな遅い時間まで一人で出歩いているんだ、と思い出したように説教をはじめた真田とともに、みなもは校庭を後にした。
「くれぐれも日が落ちてから外を出歩かないように。女の子だったらなおさらだ。最近は色々と物騒なことだし……云々」
延々と続くお説教を訊きながら、みなもは家路につくのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
PC
 ・1252 / 海原・みなも / 女 / 13 /中学生
NPC
 ・真田睦月(さなだむつき)/ 男 / 16歳 / 高校生兼妖怪退治の一族(らしい)
  言動がスカしていたりするが、当人は大真面目。
  古臭い女性観を未だに捨てていない時代遅れな人。

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■         ライター通信          ■
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こんにちは!
お届けがやや遅くなってしまってすみません!ひー。
どシリアスになるはずだった真田がなんだかアホに見えました(実際そのとおり)。
真田はきちんとみなもさんをご自宅に送り届けたことと思います。
「最近は色々と物騒だし」なんて言っていますが、埃だらけの傷だらけで深夜に可憐な女の子と歩いている彼のほうがよっぽど物騒ですね。通報されないといいんですが。
依頼を受けてくださって嬉しかったです。
真田のアホさ加減に懲りず、また遊んでいただけたら幸いです。
どうもありがとうございました。