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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ゴースト・チャンネル


■#0 プロローグ

 長谷川郁にとって、雅之はかけがえのない存在だった。

 だから、突然の交通事故で雅之が帰らぬ人となった時、郁を襲った衝撃は計り知れぬものだった。
 誰よりも深く、雅之を愛した。
 誰よりも深く、雅之から愛されていたつもりだった。
 誰よりも、自分は幸福だと、郁は心からそう思っていた。
 ……その時、雅之は彼女にとって、心の大部分を占める存在になっていた。

 不意にそれが引き剥がされたときの痛みは、想像を絶するものだ。
 あまりにも激しい痛みをうけた瞬間、人はその痛みを認識することができない。
 ただ、失ってしまったという事実を前に、呆然とする。
 もう二度と、会うことは出来ない。
 もう二度と、あの優しい微笑みを見ることはない。
 もう二度と、抱きしめられて、そのぬくもりを確かめ合うことも、できない。
 喪失感の後に、絶え間ない絶望と苦痛はやって来る。

 郁は泣いた。
 声の限り泣きつづけた。
 彼の存在を失った、からっぽの心だけを抱いて。

 それから、郁はずっと一人だった。
 一人で薄暗い部屋の中に篭もり、魂の抜けたような表情でテレビを見ているだけの毎日。その両手首には、いくつものためらい傷。
 部屋のテレビは、いつもつけっぱなしだった。
 画像が消え、音が途絶えると、また雅之の事を思い出してしまうからだった。
 そして、楽しかったたくさんの思い出が、もう手に入らないあの頃の幸福が、からっぽの心を締めつけて、粉々に砕いてしまいそうになる。

 ――異変は、雅之がこの世を去ってから半年後に起こった。

『――郁』
 懐かしく、優しい声に、郁はまどろみの中から目を覚ました。
 どうやらテレビを見ながら、眠ってしまっていたらしい。
『そんなところで寝てると、風邪をひくぞ』
 ノイズ混じりのその声は、郁の心に暖かく響いた。
(……私は、まだ夢の中にいるんだろうか)
 夢なら覚めないで欲しかった。
 ノイズ混じりの荒れたテレビ画面に映ったそれは……雅之の姿だった。

         ※         ※         ※

 その数日後。
 とある心霊系サイトのとあるBBSに、以下の内容が書き込まれた。
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タイトル:大好きだった人と死に別れた方へ
投稿者;I.H              2003/05/19 10:57
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あなたには、大好きな人はいますか?
大好きだったけれど、もう二度と会うことの出来ない……
すでに亡くなってしまった人はいませんか?
そんな人にもう一度会える方法を教えます。

深夜の2:00ぴったりに、部屋のテレビを
13chに合わせて下さい。
そして、自分以外に誰も部屋に入れないで下さい。
そして、会いたいその人のことを心に思い浮かべて下さい。
もしあなたが本当に、その人を心から大好きだったなら
きっとその人が、テレビの画面に現れ、
あなたに話しかけてきてくれるはずです。

これは、本当です。
私の元にも、大好きだった人が来てくれました。
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 その書き込みを見た誰もが、他愛もない戯言だと一笑に付したに違いない。
 しかし少数ではあったが、その書き込みから、不可解な異変の匂いを嗅ぎ取った者たちもいた。
 丑三つ時の13chに何が映るのか。そして、その正体とは。
 彼らは真実を知るべく、調査を開始した。


■#1 雫の頼み

 昼下がりのインターネットカフェ・『ゴーストネットOFF』。
 息抜きがてらこの店に訪れ、偶然居合せた四人の男女を相手に、一人の少女がしきりに声を弾ませていた。
 少女の名は瀬名雫。いつ来ても何故かここに居ることで、このカフェでも有名な常連客である。
「ウチのサイトのBBSにこういうカキコがあったんだけど……」
 そう言って、雫は四人の眼前にあるパソコンのモニターに、BBSの書き込みを表示してみせる。
「……なになに、『大好きだった人と死に別れた人へ』?」
 四人の中でもっとも若い――眼前の雫よりも、はるかに幼く見える銀色の髪の少女・海原みあおが、興味津々といった表情を浮かべて、モニターに映る文章を読み上げた。
「丑三つ時の13chに、死んだ人間が映る……? 嘘臭い話だな」
 端正な顔立ちに苦笑いを浮かべたのは、高杉奏(たかすぎ・かなで)。肩まで伸びた長い黒髪を後で纏めている。もう若者と呼ぶほどには若くはないが、ミュージシャンらしい、黒系統でまとめたセンスのいいファッションには、大人の男の色気さえ漂わせている。
「まるで『おまじない』みたいだなあ、こりゃ」
 高杉同様、まったく信じていないといった風情で肩をすくめた青年は、雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)。だがその緑がかった不思議な色の瞳は、彼がこの話に興味を抱いたことを示すように愉しげに揺れていた。新進気鋭の若手オカルト作家として、この手の話は、彼にとって絶好のネタなのであった。
「…………」
 残る最後の一人、黄金の髪に雪のような白い肌の美女、レイベル・ラブは、腕を胸前に組んだまま、考え込んでいるかのように沈黙している。
「でも、面白そうじゃない?」
 雫がそう言って、愛らしい顔立ちに、にやりと小悪魔のような笑みを浮かべる。
「うんうん、面白そう!」
 くりくりした大きな瞳を輝かせて頷くみあお。
 もっと『大人』な他の三人の反応は、冷静なものだった。
「何か企んでるな、瀬名雫」
 警戒の眼差しで見つめる正風に、
「――あ、わかった?」
 悪びれもせずにそう言う雫。
「ウチには毎日たくさんこの手の怪奇情報の投稿が来るんだけど、とーっても量が多過ぎて、あたし一人じゃ調べきれないの」
「それで、俺たちにこいつが本当かどうか調べろと?」
「そゆこと♪」
 奏の言葉に、雫は調子よく頷いた。
「みあおやる! みあおもね、声を聞きたい人がいるんだ!」
 手を上げて元気よく即答するみあお。この様子では、雫が頼まなくとも、どのみち実行するつもりでいたのだろう。 
「……ま、本当かどうかは怪しいもんだが、やってみてもいいぜ。どうせ二時ごろなら宵の口だしな」
 奏も同意する。
 正風はしばらく考えていたが、ふと遠い目をして、
(そういや、亀子の命日、今日だったな……)
 そして、雫に頷いた。
「俺も手伝うよ。原稿のネタくらいにはなりそうだしな。……レイベル、あんたも興味がないわけじゃないんだろ」
 話を振ってきた正風に、レイベルは冷ややかな笑みを浮かべて、
「私には会いたい者などいない。すでにこの世を去った者と、今更言葉を交わして何になる」
 ぶっきらぼうにそう言う。
「……だが、この話が事実かどうか、確かめてみたい気はするな」
「きまりだねっ!」
 雫はぱちんと指を鳴らすと、嬉々として言った。
「それじゃあさっそく今夜にでも試してみてよ! それで何が映ったか、後で詳しく教えてちょうだいね!」


■#2 思い出の中の笑顔 

「……あんたはどう思う、レイベル?」
 『ゴーストネットOFF』を共に出て、駅までの道を歩きながら、正風が傍らを歩くレイベルに尋ねた。
「先ほどの、『ゴースト・チャンネル』とやらの話か」
「ああ。もし事実なら、生と死に分かたれた二つの世界が、テレビってもんを触媒にして、一時的に繋がってるとも解釈できる。そうなった原因や、理由はわからないが。もしかすると、ここんとこ東京に怪異事件が続発していることとも、何か繋がりがあるのかもしれないぜ。この世とあの世が入り混じるようなことがあれば、もうなんでもアリだ」
 自らの推論を述べる正風。
 レイベルは煩わしそうに長い金髪をかきあげつつ、
「誤解覚悟で言えば、これは喜ばしい現象だ」
 と、さして感情のこもっていない口調で言った。
「世界がそうなるのならそれで構わない。何の問題もない」
「あんたらしいや」
 肩をすくめる正風。
 レイベルは意に介さず、言葉を続けた。
「だが、恐らく違うのだ、この事象の真の意味は」
「真の……意味?」
「生と死の間はとてつもない幅をもって揺らぎこそすれ、それが故に決して破れはしない」
「じゃあ、『ゴースト・チャンネル』とやらは、嘘っぱちって事か?」
「そうは言わん。ただそこに映るものが、本当に『あの世』に属するものとは限るまい」
 作家としての仕事をしている正風にも、この友人の意図を読むことは難しいと思える時がある。
 それが四百年近くを『不死者』として生きてきたレイベルと、まだようやく二十二年間の人生を歩んできたにすぎない自分との差なのかもしれない、とも思う。
「俺にはよくわからないが、まあとりあえず試してみよう。何かあったら、その時はその時だ」
 あくまで気楽な正風の台詞に、珍しくレイベルが微かな笑みを浮かべた。
「……ん、なんか俺、変なこと言った?」
「いいや。雪ノ下はシンプルでいいと思ってな。そのように気楽に考えるには、私はこれまでの生で悪意の存在を見過ぎたのかもしれん」
 そして、駅の前で立ち止まる二人。
「私は例の書き込みをしたI.Hとやらを調べて、この事象の真偽と詳細を調べてみよう。もし試すつもりなら止めはしないが、用心することだ、雪ノ下」
「ああ、あんたもな、レイベル」
 にっと笑って、軽く手を上げてみせる正風。
 そして二人は別々に、駅の構内へと消えていった。

         ※         ※         ※

(あれから、ちょうど一年になるのか……)
 電車に揺られながら、正風は窓の外を流れてゆく黄昏時の街を、遠い目で見つめていた。
(時の流れってのは、やっば凄いもんなんだな……あんなに辛かったことだって、こうして思い出になっちまう)
 雪ノ下は心のうちでひとり呟いて、微笑んだ。
 脳裏に浮かぶのは、一人の娘の姿。
 小柄で、少し痩せぎすの身体。いつも胸が小さいのを気にしていた。
 髪は、肩のところより少し長い、艶やかな黒髪。
 微笑むと、垂れ目ぎみの瞳と、右目の泣きぼくろがとても愛らしかった。
 のんびり屋で、涙もろくて、お人よしで、そそっかしくて。放っておくといつも危なっかしくみえるくせに、いざという時は人一倍逞しく、強い娘だった。
 彼女の名は、玄武かごめ、といった。
 
 正風にとって、大学生活の四年間――そして、その後の人生にまで影響することになった、かごめとの出会い。
 講義を受ける前の下調べに、民俗学の資料を探していた正風は、人気のない大学図書館の奥で、本棚と格闘しているその小さな背中を見つけた。
(何をやってるんだ……?)
 娘はどうやら、棚の高い段にある本を取ろうとしているようだった。
 雪ノ下もどちらかといえば身長が高いほうではないのだが、それでも手を延ばせば楽に届くような高さ。
 しかし彼よりさらに身長の低いかごめには、それすら至難の技らしかった。必死でつま先立ちして、ふらふらしながら、本に手を延ばす。
(危なっかしいな、ありゃ……)
 横目でその様子を盗み見ながら、呟く正風。
 不意にその身体がぐらりと横に揺れた。
(あっ……!)
 他人事ながらはらはらしている正風のことなど気づく由もなく、辛うじて体勢を立て直したかごめ。
「うう、とられへん……。どないしよ……」
 かごめは一旦伸ばしていた手をひっこめると、深い溜息をついて、京都弁のイントネーションでひとり呟いた。
 そして周囲を見回し、さらに奥のコーナーに置いてあった木製の踏み台を発見する。
 嬉々としてそれを持ってくると足元に置いて、その上に乗った。
 そんな一生懸命な様子をこっそり見守っていた正風も、ようやく気をとりなおして、目的の資料探しに集中することにした。
 次の瞬間。
「あれ?」
 かごめが上げた声に、また再びそちらに注意を持っていかれる正風。
 踏み台の上にのって、ようやく目的の本を掴んだかごめだったが、今度は本が棚から抜けない様子だ。
「んーっ!」
 本の背の部分に指を掛けて、必死で引き出そうとするが、ぎちぎちの密度に詰めこまれた棚の中で、まるで他の本と糊付けでもされているかのように本は固定されてしまっていた。かごめも意地になって、全体重をかけて本を引き出そうとするので、不安定な踏み台の上でその身体がぐらぐらと揺れ始めた。
(……おいおいおいおい!)
「ぬ……け……へん……っ!」
 見るに見かねて、正風が手助けしようとそちらを向いたその時、その身体が大きくバランスを崩した。
「……危ない!」
 あわてて駆け寄り、踏み台の上から倒れたその小柄な身体を受け止める。
 抱きとめたかごめの身体は、予想していた以上に軽かった。
 間一髪のところだった、と正風が安堵しかけたその時――。
 落下とともにかごめが本を引きぬいた勢いで、同じ段に並んでいた本が一斉に、正風の頭上に降ってきた。

「あ痛ぇ……」
 本の雪崩に痛めつけられた頭と背中をさすりながら、正風は自分の身を呈してかばった娘に問いかけた。
「大丈夫か、怪我は?」
 ふるふる、と娘は首を振って、
「おおきに。うち、昔から要領悪うて。ほんに、ごめんなさい……」
 そう言って頭を下げる。
「気にするな。こっちも怪我はしてない」
 実際には、怪我がないこともなかったが。頭と背中を分厚いハードカバーの本に連打されたのだ。こぶとあざくらいはできているかもしれない。
「それより、こいつを片付けないとな……」
 床に散らばった本を拾い上げて、正風は微笑を浮かべた。
 かごめも笑った。愛らしい笑顔だ、と正風は素直に思った。

 それをきっかけに親しくなったかごめに誘われて、大学の『ミステリー研究会』に所属することになった正風。
 それから、正風はかごめと、サークルの仲間たちとともに、数多くの怪異事件と遭遇し、それを解決してきた。
 その時の経験を小説の形で残すようになり、それが、オカルト作家としての生き方をしている現在の自分に繋がっている。
(あの時、あいつと出会わなかったら――そして、あいつとの別れがなかったら――多分俺は、今とは違う自分になっていたんだろうな)
 それが、結果として良かったのか、悪かったのかはわからない。だが少なくとも正風は、今の自分が嫌いではなかった。ただ――出会ったあの時と同じように、かごめが死んだ一年前の今日にも、彼女を守ってやれていたら。

 ……そう、今日はかごめの命日なのだった。


■#3 かごめ

 夕食を済ませ、部屋に戻ってくると、時刻は十二時を回っていた。
 かごめの弔い酒にと、少し居酒屋で時間を潰し過ぎたようだ。
 正風は心地よい酔いを感じながら、ベッドの上に腰掛けると、手にしていたコンビニの袋の中身をガラステーブルの上に並べる。
 100%果汁のオレンジジュースに、プリン、ポテトチップと、恋愛小説の文庫本。
 どれも、かごめが好きなものばかりだった。
 デスクのワープロの隣に置いてある写真立てをもってきて、そのそばに並べる。
 写真立ての中には、記憶に焼きついた姿そのままの、愛らしい笑顔があった。
「ちゃんとした墓参り、いってやれなくてごめんな、亀子。そのうち余裕が出来たら会いに行くから、今日は陰膳ってことで我慢してくれよな」
 正風は写真の中のかごめに言い聞かせるようにそう呟いて、ふと思い出した。
(……そう言えば、『亀子』って呼ぶなって、よく言ってたな)

「あー、またー」
「なんだよ?」
「うちのこと、『亀子』って。何度も言うてますけど、うちの名前は『玄武かごめ』どす」
 かごめはそう言うと、決まって頬をふくらませた。そんな仕草も、正風には愛らしく思えた。
「いいじゃないか、似たような響きだし。それに、玄武ってのは北の方位を守る亀の姿をした神獣だろ。ぴったりじゃないか」
「ぜんぜんぴったりじゃあらしまへん。『亀子』じゃまるでうち、よっぽどどんくさいみたいに聞こえますやんか」
「――だから、昔から言うだろ。『名は体を表す』って」
「どないな意味ですのん!?」
 怒って追いかけるかごめ。笑って逃げる正風。
 ……ずっと繰り返されると思っていた、そんな二人の風景も、もはや思い出の中にしかない。
 正風はかごめの写真を見つめながら、大切な宝物をいとおしむように、微笑んだ。

         ※         ※         ※

『……ぜ……ん』
 ザザッという耳障りなノイズの音とともに、懐かしい声が響いた。
『……正風はん……』
 心地よいまどろみの中でその声を聞いて、正風は自分が眠っていたことに気づいた。
 時計を見ると、ちょうど二時を差している。音声は、うっかり眠りに落ちる前にチャンネルを合わせておいたテレビから聞こえていた。
 砂嵐の中にぼんやりと姿が浮かんでいる。懐かしいシルエット。
 正風は急速に意識が覚醒していくのを感じながら、その身体をベッドから起こした。
『……うちどす……亀子どす……』
「……お前なのか、亀子」
『会いたかった……ずっと、会いたかった……』
 正風の意識の覚醒とともに、テレビの中の輪郭がしだいに確かなものへと変わっていく。
 淡い桜色の唇。整った鼻筋。おっとりとした印象を与える、垂れ目気味の瞳。右の目元に小さく浮かんだ泣きぼくろ。
 いまや、その映像は、彼の記憶の中の面影を、そのままに映し出していた。
「俺も……お前に会いたかった」
 その瞬間。
 世界に異変が起きた。
 ベッドが消え、ガラステーブルが消え、デスクが消え、部屋の壁が消え、テレビが消え――。
 灰色と黒に蠢くテレビの中の砂嵐に、全てのものが埋め尽くされて。
 その中に、正風と娘が立っていた。
『正風はん……。うち、ずっと待ってましたんや。こうやってまた会えるのんを……。ずっとずっと、一人ぼっちで待ってましたんや……』
「亀子――」
『うちのこと、抱きしめておくれやす。もう二度とうち、正風はんのそばを離れたくない――』
 娘が歌うように囁いて、ゆっくりと正風に手を延ばす――。
 だが。
「……なるほど、これが貴様の手か。こうやって人の弱みにつけこむわけだ」
 正風は笑みを浮かべた。
「自分を『亀子』だと名乗る女……か。『ゴースト・チャンネル』とやらがどんなものかと期待してはみたが、やれやれ、とんだ茶番だったな」
 それを聞いて、『亀子』の表情が凍りついた。 
「貴様は亀子じゃねえ。――あいつを侮辱するな!!」
 正風は身構えると、拳に意識を集中した。
 己に宿る念を拳の一点に込めて――眼前の娘に、渾身の突きを放った!
「……呀ァッ!!」
 幼少の頃より、祖父に直伝された、気功を応用した『発剄』であった。その技に込められた念の一撃は、たとえ実体を持たない思念体が相手であっても絶大な威力を発揮する。
 ひとたまりもなく霧散する娘の姿を忌々しげに睨みつけながら、正風は呟いた。
「貴様ごときの猿真似に惑わされるほど、あいつは俺にとって軽いもんじゃねえんだよ」
『……まあ、嬉しいこと言うてくれはるわぁ』
 不意に、砂嵐の世界に響き渡った懐かしい声に、正風の表情が変わった。
『生きてたときにその言葉、聞かせてくれはったらよかったのに。いけずやわ、正風はん』
 正風の背後に佇んでいた声の主は、くすくすと笑った。
 振り向くと、そこにはかごめがいた。容姿こそ先ほどの偽者と寸分違わないが、身に纏っているのは白い襦袢のような装束だった。
 ふわりと宙にただよいながら、艶やかな黒髪も揺れている。
「――亀子! まさか!?」
『あーっ、正風はん! またうちのこと、亀子って言った!』
 むすっと、愛らしく頬を膨らませる娘。
 ああ、そうだ、と正風は心の中で呟いた。
 ――俺はそんなお前が、大好きだったんだ。
「許せかごめ、愛情表現だ」
 そして、彼女を抱きしめる。出会った時のように。
 腕の中に宿った重みは、あの時のままだった。
「でも、どうしてお前が――」
「うち、神さんから、正風はんの守護霊を仰せつかったんどす」
 かごめは花のように笑った。
「……もう、二度と離れまへんえ♪」
 そして、正風の身体に、ぎゅっとしがみつく。
 正風は悪戯っぽく笑って、
「……なら、俺は結婚したら生者と死者に挟まれて、両手に花だな」
「そんないけずなこと言うんやったら、この世界から出してあげへんっ」
 ぷい、とそっぽを向くかごめ。
 その身体を抱きしめる腕に少し力をこめて、囁く正風。
「……それも悪くないな。ここにいれば、邪魔も入らない。お前と二人、もう少しここにいるとするか」
 それを聞いて、かごめは頬を薔薇色に染めると、幸せそうに微笑んだ。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号/   PC名   / 性別 / 年齢  / 職業
 1415 / 海原・みあお  / 女性 / 13  / 小学生
 0367 / 高杉・奏    / 男性 / 39  / ギタリスト兼作詞作曲家
 0391 / 雪ノ下・正風  / 男性 / 22  / オカルト作家
 0606 / レイベル・ラブ / 女性 / 395 / ストリートドクター

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■         ライター通信          ■
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 どうも、たおでございますヾ(≧∀≦)〃
 そしていつも以上にふらふらでございます。
 難産の末に生まれた『ゴースト・チャンネル』ですが、楽しんでいただけましたでしょうか?

 僕はどちらかというと、キャラごとに個別にプレイング結果を書くより、参加してくださったメンバーさん全員が絡み合って物語を進めていくほうが好きなので(その分、展開が複雑になって文章量が増えてしまうのですが)一気に参加者さん全員のプレイングを1つの物語としてまとめて書くことが多いのですが、今回は参加者さんのプレイングがそれぞれ接点なしだったりするので、困った困った。
 オープニングの中の『そして、自分以外に誰も部屋に入れないで下さい』という一文を、どれだけ恨めしく思ったことか(笑)。
 さんざん迷ってリテイクを繰り返した挙句、結局この『ゴースト・チャンネル』は、各プレイヤーさんごとに、ほとんど個別作成という形になりました。んでもって結局その方が書きやすかったりして。あいたたた(苦笑)。

 遅ればせながら、この度はたおの調査依頼にご参加ありがとうございました!ヾ(≧∀≦)〃
 ご発注をいただいてから、相当お待たせしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
 おまたせした分、一生懸命書きましたので(というかいつでも一生懸命なのですが)、楽しんで読んでいただけると嬉しいかぎりですが……。
 今後はもっと執筆スピードもあがってゆくと思いますので、どうか懲りずに、またたおの調査依頼に参加してやってくださいね!ヾ(≧∀≦)〃

たお