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<東京怪談・PCゲームノベル>


零が倒れた

●Death Door
不幸という物は突如やってくる。

興信所にいる人物は草間と彼の競馬の予想を頼まれて渋々来たエルハンド。そして経理に忙しいシュラインだけだった。そこで零が台所でいきなり倒れたのだ。「霊力不足の腐敗(寿命とも言える)」と神が言った。
シュラインが急いで消毒液や魔よけなどで用意していた聖水を使って零の腐食部分を拭いている。
草間は助っ人に電話をしていた。
エルハンドは、ある神封石を砕き、其れを粉にして零に少しずつ飲ませる。
「何其れは?」
「私の世界で亡くなった治癒を司る神の神封石だ。かなり弱まっているが…数日は持つかも知れない…」
「…大丈夫なの」
「おそらくな…」
一息ついて…エルハンドは続ける。
「「時間治癒呪文」では彼女の腐敗速度を遅らせるだけだ…。大きな一塊りの霊力がいる…。それが人一人分の魂なのだ」
そう言って、エルハンドは…
「草間の電話では時間がかかるだろう…一人…可能性を持つ奴を連れてくる」
といって瞬間移動で姿を消した。

シュライン・エマ
皆が駆けつけるまで…1時間はかかるらしい。
4人ほど来ると言うことだ。その間自分が出来ることと言えば…
零を励ますしかない。
姉のように、優しく彼女の頭を撫でる。
腐食部分(傷)を聖水で拭いて痛みを和らげる…
徐々に腐臭がきつくなろうとも、顔を背けることはなかった。
その行動をしている間にも…一番よい解決法を考えていた。


●Magic Components of Ritual
応接室に集まった。ソファーに零が横になりシュラインが看病している。
すでに部屋には肉の腐臭が漂ってむせる。それだけ腐敗速度が速いのだろう。
「手短に質問に答える。実際彼女の人工生命体としてのBIOSと機構を読むには時間がかかるからな…」
エルハンドが言った。
「まず先に行っておく…複数分割で契約という方法は、不安定になる。輸血をする場合、同じ血液型がそろわないと、まとまったタンクに入れることが出来ないのだ。そして、陰陽道で知られているまた契約者といっても式神、使い魔を行使する程度の霊力では足りない」
みそのが手を挙げた。
「エルハンド様、では、強力な「存在」との契約が必要になる訳ですか?契約者は生きている物、それとも純粋な力で宜しいのでしょうか?」
「そうだな…私か…君の恋する「神様」との契約…其れをすると、何かと問題になる。氏神、土地神との承諾をえて供給することも似たような物だ。彼女の自由意志は剥奪される。純粋な力で有れば良いのだがな…」
「そうですか…しかし、今は一刻の猶予もありません。まずは零脈で、腐敗を遅らせるしかないですわね」
「そうだな…先ほど治癒神薬を飲ませたので、彼女が死ぬことはないが、肉体腐敗は進んでいる。頼む」
みそのは頷いて、零に零脈との接続を行った。地球からの「点滴」である。
「はっきり言ってくれ…」
しびれを切らした夏紀が言った。その言葉は冷たい。
「シュラインと草間には伝えている…。霊力を魂に換算すれば一人分の魂だ。それが彼女に必要な分」
「…それって…人を殺すのですか?」
焔寿が…訊ねた
「そうだな…」
「そんなの…それでは零さんは喜ばないですよ!」
「わたくしもそう思います…エルハンド様なにか他によい案はないのですか?」
焔寿と撫子はその方法に猛反対した。看病をしているシュラインも厳しい顔をしている。
しかし、其れに賛同する者が居た。夏紀だ。
「其れが早いなら…その方が良い。自殺する人間の魂でも、退魔対象の魔の魂でもいいのだろ?」
「そんな酷いこと…出来るわけ無いじゃない!」
反対するのは焔寿とアルシェ、撫子、シュラインだった。みそのは黙したままだ。
「実際時間がない。なら、確実に彼女を救う方法を他に探すんだ。分割、契約のリスクをふまえると、彼女を元に戻すことは、純粋なエネルギーのみ。其処の神のもっている神封石は何らかの意志を持っているというのは知っている。意志のない霊力…それを生み出すのは魂…そうだろ?」
夏紀が冷たく答える。殆どの者は彼を軽蔑する眼差しだった。彼は其れも気にしない。
「そうだ。しかし、会った時に言っただろう?『人の命を犠牲にするというのは最悪の手段』だと」
「では、全知全能のあんたは?」
「誰が全知全能だ。神だからってそう言う存在ではない。私だって、頭脳を何個も分割し計算している最中だ。だいたい50年以上の人口生命体…フレッシュゴーレム…の機構を調べているのだからな」
沈黙で時間だけが進む。草間は…そのやりとりを見守るしかない。兄として何か出来ないかという歯がゆさ…それは、シュラインもそれに此処に集まっている皆もそうだった。
みそのが零脈から零に「点滴」することで腐敗速度が止まった。
「しばらく大丈夫ですわ。わたくしも人をあやめるというのは賛同致し兼ねます」
シュラインが会話の中で引っ掛かることに気づく。撫子も何か気が付いた
「純粋な霊力を供給出来ればいいのよね?御神木や神社などは大丈夫よね?」
「私も澄んだ霊力を安定させるためのみの社などを考えました」
「それは良い考えですね!探しましょう」
皆の声に覇気が宿る。エルハンドも目で良い案だと言っている。
草間が口を挟む。
「東京には、数ある結界、神社、寺、社が多い。悪霊の巣窟もあるから探すのには手間がかかる。エルハンドの処方した薬では3日と聞いた。みその、零脈で腐敗を止めておくのはどれぐらいだ?」
「おそらく…2日と」
「分かった、手分けして、探すぞ。何だろうと移動手段は問わない!」


●Tree of Power
名のある神社は大抵人が集まる。多くの霊力や念が渦巻くため此処での供給は無理になる。
帝都六芒陣等も除外。一つでも乱れると、封印されている妖などが復活するからだ。
シュラインとみそのは零の看病に徹する。その他は、地図を片手に純粋霊力の社などを探すことをはじめた。只、夏紀はエルハンドに話があるという。
「たしか…」
撫子が何か思い出したようだ。
そして、携帯で草間と焔寿を呼んだ。
「見つかりましたか?」
「心当たりがあるのです」
「どこだ?」
「エルハンド様の剣道場です。」
「「え?」」
焔寿と草間は首を傾げた。
「神社なのですよ。神様が居るというなら、其処には力のある御神木か何かが…。エルハンド様ひょっとして…態と私たちに?」
撫子は少し考えた。
紫猫のアルシェが口を挟む。
「あの神はヒントぐらいしか与えないとか言っていたね。制約とかなんとかで」
「本当に分からない奴だ…おっと無駄話してる時じゃない。急ぐぞ」
三人と二匹は急いで神の剣道場である…神社に向かった。
神社にたどり着く。撫子が顔見知りであるため、神主は快く御神木まで案内してくれた。
「純粋な霊力と妖力も一帯には溜まっているのですよ。全て中庸。此処の力を使う際に何の問題もないです」
「ありがとう、たすかった。皆は此処でまってくれ、零達を連れてくる」
「「ありがとうございます」」
「ありがとうにゃ」


●Ritual
「見つけたか」
エルハンドがなじみの神社にやって来た。
「どうして言ってくれなかったの?」
シュライン達はエルハンドを睨む。
「計算はしていたが、この場所でも良いか私自身分からなかったというだけだ。神主の説明のほうが説得力がある」
「あの彼はどこに?」
撫子が訊ねる
「ああ、他の方法を捜しに言っている最中だと思うぞ。此処がダメならってな…」
草間が零を横抱きしている。「点滴」を解いたので腐敗速度が復活している。しかし、みそのが「流れ」を遅くコントロールすることで大事には至っていない。
「さて…丁度、彼女の機構も分かった。取りかかるぞ」
御神木の霊力は全てを癒すかのような、優しさをもっていた。皆の心に共鳴したのだろう。
焔寿も撫子、みそのも巫女。基本的な霊力供給儀式ぐらいは知っている。神であるエルハンドも然り。
一番肉親として付き合いの長い、草間とシュラインは零とともに神木の前に立った。
四人は印を切り、真言を唱える。それは歌声に聞こえた。
霊気の固まり一つが、零の胸に吸い込まれていく。
その後の光…。

零の顔色は良く、傷も癒えていた。
「…お…おはよう…ございます?」
「よかった!」
「零ちゃん、本当良かった!」
「え?え?どうしたのですか?」
シュライン達が、術が成功し例が助かった事に喜び、抱きついてきたことで戸惑いを隠せなかった。
その風景を、勢いで倒れた草間とみその、神は優しそうに眺めていた。

●Present
零の回復祝いがささやかに行われた。
未成年が多いので、ジュースという形である。
全快したとはいえ、リハビリで週に一回はあの神社に寄ることになるがたいした距離ではない。
「バービカンで我慢するか」
草間は後々のことを考えてか、そう呟いた。
おそらく雰囲気酔いの少女達を送ると言うという仕事があるからだ。
アルシェと兄妹の赤猫、焔は再会を喜びじゃれ合っている。
お互い人の言葉を知っているから、クイズ等にも参加している。
楽しい風景だ。

宴も終わり、皆を送り、事務所に残ったのはシュラインと零、草間、そしてエルハンドだった。
「水瀬君来なかったね…」
零は窓を見上げていった。
「あのあと、電話で連絡したら用事は済んだといって戻らないと」
エルハンドが答える。そして、続けて。
「一緒にいた時に、彼は前の償いにこれをと」
彼が差し出したのは小さい…緑色の宝石が印象的なネックレスだった。
「…もし、会えるなら…ありがとうと言いたいです」
「そうか」
零の言葉に三人は微笑んだ。
ただ、もう会うことはない…剣客は心ではそう思っている。
水瀬夏紀は「死んだ」。新しい平和な人生を歩むために…「生き返る」。
そう…島から離れて自由になったこの少女の様に…。


数週間後
「今回はどうだ?」
「あのなー?また呼ぶか?」
「また神頼み?」
草間はまたエルハンドを呼び、競馬を未来視して貰っている。
シュラインは溜息をつきながら言う。零の様子を見に来た皆も笑っている。
零は、頭に赤猫をのせてクスクス笑っている。
仕事もおわったので、皆で予想する事となった。
「おい、また大穴かよ…毎回あたるかってんだ!」
「いや、私の未来視は間違ってない。大体だな、お前頼んでおいて、いつも違う物買ってるだろ?」
「うう」
「私はえ〜っと、エルハンドさんに賛成!」
「おい零!」
「ん〜わたしもエルハンドさんの予想に賭けるわ」
「シュラインまで!わかったよ!俺が探偵の勘で当ててやる!」
「そうねーおもしろいわね。でもその使い方もったいないわ、探偵の勘」
「うるせー」
自棄を起こす草間。
「そろそろだな、さくっと買ってこよう」
エルハンドは、確認してから買いに行った。

レースが始まった。
結果…草間は惨敗。神様チームは大穴で、しかも万馬券だった。
「兄さん…だめです。でも私が当てたから生活には困らないです」
にこやかな笑顔で零は兄を慰めた。
「それは良いが…」
「贅沢は敵です。しばらくタバコ1日1箱だけです。マルボロは行けません」
「…はい。分かりました。零ちゃん」
頭を垂れる兄武彦。その光景に皆大笑いする。
「わらうなぁ!」
しょんぼり探偵は叫んだ。笑われて当然だと思うのだが…。

零の首には、あの緑色の宝石が輝いていた。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【1109 / 水瀬・夏紀 / 男 / 17 /若き退魔剣使い】
【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 /天翼の巫女】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女 】


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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『零が倒れた』に参加してくださりありがとうございます。
皆さんの考え方は殆ど同じだったので、良かったです。
零ちゃんを想う気持ちしっかり描写出来ていればいいなと思っております。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝