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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・仮面の都 札幌>


調査コードネーム:熱狂と使命の間に  〜嘘八百屋〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :界境線『札幌』
募集予定人数  :1人〜3人

------<オープニング>--------------------------------------

 なるほど‥‥爆破予告でございますか‥‥。
 たしかにこの時期を狙う理由はよく判ります。
 いま市内では「よさこいソーラン祭り」がおこなわれておりますから。
 万単位の観光客が訪れておりますし、警察もその警備に追われています。
 テロリストか愉快犯か判りませんが、暗躍する余地は充分にございましょう。
 はい‥‥。
 こんな予告など公開するわけにはまいりません。
 パニックになってしまいますから。
 隠密に処理せよ、ということでございますね。
 犯人検挙は警察の仕事。
 わたくしどもは、爆発物の在処を突き止め、内々に処理いたしましょう。
 おそらくは大通り会場のどこかに仕掛けられているはず。
 最も人の多い場所でなくては意味がありませんから。
 さらには、その効果を確認するために、犯人が近くにいることは必定。
 単独か複数かは判りませんが。
 いずれにしても、解体作業はいれば妨害してくる可能性がございます。
 こちらもそれなりの猛者を用意する必要がありましょう。
 ええ。
 判っておりますよ。
 一本の枝も一枚の葉も揺らしてはならない、でございますね。









※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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熱狂と使命の間に  〜嘘八百屋〜

 にぎやかな歓声が街を包んでいる。
 よさこいソーラン祭り。
 群舞だ。
 もともとは、北海道大学の学生が始めたイベントである。
 その学生は四国の出身で、よさこい祭りをモチーフにして北の地に新しい祭りをつくった。
「北海道には面白いものがないから」
 とは、なかなか豪気な発言であるが、少なくとも彼から見た札幌は、退屈でつまらなかったのだろう。
 もっとも、よさこいの原産地である高知県はこの国で一番閉鎖的な地方だといわれている。
 閉鎖的な地域の祭りと、退屈な地域が融合し、よさこいソーラン祭りが誕生した。
 参加チームの数も、毎年加速度的に増え、札幌の風物詩として定着しつつある。
 とはいえ、たとえば青森のねぶた祭りや仙台の七夕祭りなどに比較して軽薄な感は否めない。
 どだい伝統や歴史に裏付けされたものではなく、悪い言い方をすれば「村おこし」の一環でしかないからだ。
「そもそも、優勝を争うってのが祭りとしてはどうかと思うぜ」
 巫灰慈が言った。
 紅い瞳に皮肉な光が揺れている。
「ニッポン古来のお祭りとは、たしかに違うわよね」
 シュライン・エマも苦笑を浮かべた。
 東京にいる骨董屋の友人だったらなんと反応するだろう、と、考えながら。
 祭りとは、べつにそれ自体が目的ではない。
 ねぶた祭りであるなら、坂上田村麻呂が蝦夷の蛮族を討伐して凱旋したのを祝う祭りだ。
 この他に、出陣の祭りである「ねぷた祭り」もあるが、これは前者よりずっと荘厳である。
 母胎となる行事や伝説によって祭りの体質が異なるのは当然なのだ。
 もちろん、伝統のないよさこいソーラン祭りに母胎を無益というものであろう。
「ぶっちゃけ。ただのコンテストじゃないですか?」
 穏やかな顔で辛辣なことを言ったのは、灯藤かぐやである。
 最年少車だ。
 手に持ったデジタルカメラで、踊る人々を撮っている‥‥振りをしていた。
 そのあたりは、巫にしてもシュラインにしても大差ない。
 一応、見物客を装っているからだ。
 断念ながら、今の彼らには祭りを楽しむ余裕はなかった。
「やっぱり、メインステージかねぇ」
「あそこが爆発したら、たしかにタダじゃ済まないわね」
「犯人は、どっかその辺のビルから見てるかもですね」
 微妙な会話を交わしている。
 三人は祭り見物にきたわけではないのだ。
 おそらくはここに仕掛けられているであろう爆弾を発見し、解除するために訪れたのである。
 むろん、参加チームにも見物客にも悟られてはいけない。
 大パニックになるからだ。
 枝一本葉一枚揺らすことなく果実をもぎ取る。
 この上なく危険な果実を。
 それが、今回の仕事だった。


 爆破予告。
 それが、北海道警察本部に届けられたのは三日ほど前のことである。
 最初、道警は悪戯だと疑った。
 とはいえ、疑いつつも捜査しないわけにはいかない。
 それが警察というものだ。
 じつのところ、昨年も似たようなことが起きている。
 インターネット上にある匿名掲示板に祭りへの妨害を記入した人間が逮捕されたのだ。
 そんなものはただの悪戯であることは言うまでもない。
 むしろ、単なる悪ふざけだろう。
 だが、それでも警察は動いた。
 周到で細密な捜査の末、書き込みをおこなった人間を特定し身柄を確保している。
「ご苦労なこったぜ」
 と、巫は思う。
 だが、ご苦労といわれようと暇だと罵られようと、それが警察の仕事だ。
 予告があった以上、必ず動く。
 たとえ悪質な悪戯の可能性が九九パーセントを占めていても。
 そういうものなのだ。
 何故ならば、かかっているのは人命だからである。
 この点に関して、譲歩や妥協が成立する余地など一グラムもない。
「そんな悪ふざけをする方が悪いのよ。自業自得ね」
 シュラインの声は冷たい。
「自分の行為がどういう意味を持つか理解してない人っているんですよね。死ぬまでに理解できるんですかねぇ」
 かぐやの言葉も辛辣を極めた。
 凶事を弄ぶような輩に好意的である理由は、世界の果てまで探しても見つからない、ということだろう。
 だいたい、火遊びとは自分が焼け死ぬ覚悟があってするものだ。
 善悪理非はともかくとして、そんな不覚悟な人間に同情してやる理由はない。
「もっとも、覚悟がありゃいいってもなでもねぇけどな」
「そうね。悪戯で済めば笑い話だけど」
「今回はそうはいかないみたいですねー」
 苦笑を浮かべた三人が、大通り会場特設ステージを見つめる。
「ステージの骨組みの中から、不自然な音が聞こえるわ‥‥時限式みたいね」
 蒼眸の美女が告げる。
 超聴覚を有する彼女は、見えていない情景を音によって脳裏に描くことができる。
「へぇ」
 初めて目にするシュラインの能力に、かぐやが感嘆の声を漏らした。
 彼女から見ると、巫にしてもシュラインにしても在野の人である。
 にもかかわらず驚くほどの能力を持っている。
「世の中はまだまだ広い、ということなのかしらね」
 くすっと笑う。
「余裕だな。いい度胸だぜ」
 巫がからかった。
 初めての仕事で、しかも人命がかかっている。
 重圧に押しつぶされてもおかしくないだろう。
 だが、かぐやはこの緊張感をすら楽しんでいるようだ。
 このあたりは生来の性格もあるだろうが、
「実践経験の少なさからきてるのかもしれねぇな」
 とは、巫の内心の声である。
 幾度も死線を超え、幾多の修羅場をくぐってきた彼は、かぐやの鋭気と覇気は頼もしくもあるが、危うくもみえる。
 このあたりは、シュラインの心理もさほど変わらない。
 理論と実践は違う。
 ただ、こればかりは実地で経験を積むしかないことではあるだろう。
「気を引き締めていくわよ」
 青い瞳の美女が言った。
「了解です」
 黒髪黒瞳の少女が答えた。
 作戦は、次の段階に移行する。
 本来なら、爆発物を発見した時点で彼らの仕事は終わりである。
 あとは警察なり自衛隊なりの爆弾処理班に任せれば良い。
 それが最も効率的であるし、確実だからだ。
 だが、むろんそんなことはできるわけがなかった。
 この大通り会場に、無骨な制服姿が雪崩れ込んできたら、それこそ大変なことになってしまう。
 爆発物の処理が専門ではない三人だが、彼らだけで何とかするしかない。
「一応、最悪の場合に備えてコレを借りてきたけどね」
 左腕のブレスレットをシュラインが撫でる。
 一見するとただの装飾品にしか見えないが、じつは嘘八百屋が貸し出している武器のひとつである。
 シルフィード。
 風の精霊の力を秘めた不可視の弓だ。
 いざとなれば、爆弾の周囲を真空状態にして爆発を停止させるつもりだった。
「それは良いとしてよぅ。どうやってステージの下に侵入する?」
 巫ま問いかけも、もっともである。
 ステージの周囲は、さすがにスタッフオンリーだ。
 近づくことすら容易ではない。
「んー スタッフに化けちゃうってのはどうです?」
「いくらなんでも顔でバレるわよ‥‥でも」
 反論しかかったシュラインが、頬に人差し指を当てて考え込んだ。
 提案をすべて捨てる必要はなかろう。
 スタッフ以外でも、ステージに近づける人間はいる。
 すなわち、参加者だ。
 膨大な数にのぼる参加者の顔を、ひとつひとつスタッフが憶えていられるはずもない。
 とくに人数の多いチームに紛れ込めば、つけいる隙はいくらでもあるだろう。
「てなわけで灰慈。衣装を三人分調達してきて」
「なにが、というわけ、だよっ」
 文句を並べつつも雑踏に消える浄化屋。
 意思疎通がしっかりとできているというよりも、のんびりと議論を重ねている時間的余裕がないからだ。

 やがて、きらびやかな舞踏衣装に身を包んだ三人が、ステージに最接近する。
 まあ、身ぐるみ剥がれた参加者が、後にトイレから発見されるが、それは別の説話である。


「ここまでは、まず順調ですねー」
 かぐやが言う。
 ステージの下。
 係員たちの目を盗み、まんまと侵入を果たした彼らは、せっせと爆弾の処理に当たっていた。
 そして、実務を担当しているのがかぐやである。
 もちろん解体などできないから、物質転送で飛ばしてしまうのだ。
 砂漠あたりに。
 その際、少しでも位置をずらすといきなり爆発ということもあるから、作業は慎重かつ細心におこなわれている。
 結果。ひとつひとつの処理にそれなりの時間がかかっていた。
「なんとか間に合いそうだな‥‥」
 注意深く周囲を監視しながら、巫が安堵の息を漏らす。
 仕掛けられていた爆弾は八つ。
 もしこれが一斉に爆発したらと思うと慄然としてしまう。
「一個あたりの処理に七分弱。残ってる爆弾は五つ。爆発時刻まであと一時間。大丈夫よ」
 額の汗を拭いながら、シュラインも息を吐いた。
 間に合いそうなペースである。
「‥‥そう上手くいけば、な」
 男性の声が響く。
「なっ!?」
 慌てて振り返る巫。
 紅い瞳に映っていたのは、踊り子のような黒装束をきた男だった。
 爆弾に集中しているかぐやはともかくとして、警戒していた浄化屋や事務員にすら気取られることなく侵入する。
「普通」の人間に可能なことではない。
「なにもんだ? てめぇ‥‥」
 押し殺した誰何が巫の口から漏れた。
「知っても詮無きこと。死に行く貴様らにとってはな」
 言った瞬間、男の手から何かが飛ぶ。
 それは一直線に爆弾を目指し‥‥
「私を無視して話を進めないで欲しいわね」
 シュラインの声。
 支柱に、不可視の矢で縫いつけられた紙切れ。
 薄い笑いが、美貌の上を滑る。
「爆弾に陰陽術に黒装束。相変わらず進歩も芸もないわね」
「なるほど。そういうことか」
 巫が得心したように頷いた。
 かつて、この国を転覆させようとしたものたちがいた。
 物質文明を否定し、呪術国家をつくるために。
「まだ残っていたわけね。七条の残党が」
「この爆弾は最後の足掻きってわけかい」
 じりじりと。
 挟み込むように間合いを詰めてゆくシュラインと巫。
「違うな。これは反撃の烽火だ」
「そうかい。でも残念ながら、狼煙は湿気ってたみてぇだな」
「もう梅雨だからね。本州じゃ」
 軽口は、だが虚勢だった。
 七条の残党がどれほどの勢力を持っているかわからないが、少なくともこの男一人ということはあるまい。
 そしてそれ以上に、この場で戦闘をおこなうわけにはいかなかった。
 爆発物がまだ残っているのだ。
 誘爆など起こしたら、終わりである。
 なんとかしてこの場から引き離さなくてはならない。
「シュラインさん。ここお願い」
 かぐやが立ちあがった。
 黒い瞳が好戦的な光を放っている。
 どういう事か、と、問い返す暇もなく。
「破っ!」
 一挙動で肉薄した少女が、高々と男を蹴り上げる。
「くっ!?」
 意外な方向からの攻撃に、溜まらず後退する七条の残党。
「今よ!」
「了解だぜっ!」
 続いた浄化屋が男の襟首を掴み、奈落の上、すなわちステージ上に放り投げた。
 凄まじい膂力であったが、じつはちゃんとタネがある。
 浄化屋のもうひとつの武器たる物理魔法だ。
「シュライン! そっちは頼んだぜ!」
 自らもステージに飛びながら叫ぶ巫。
 かぐやも続く。
 反論しかけたシュラインだったが、戦闘能力において最も低い自分が一緒に行ってもあまり意味がないと思い直す。
 ここは、爆弾の撤去に専念すべきだろう。
「やるわよ。シルフィード」
 淡々とした声。
 同意するようにブレスレットが揺れた。
 構えた指先から、目には見えない矢が飛ぶ。
 それは、真なる風でも疾き風でもない。
 彼女自身が編み出した、新しい矢。
 名付けて、慟哭の風。
 設置された爆弾が崩れてゆく。
 爆発でも消滅でもなく、砂の砦のように崩壊してゆく。
 四本矢を同時に放つことによって音波振動を起こし、目標物の分子結合自体を破壊する。
 それが新しい技の正体だ。
 風と音は同じものである。空気の振動という一点に於いて。
 火薬だろうと起爆装置だろうと、すべて、
「風の前の塵に同じ、ってね」
 平家物語の一節をもじり笑みを浮かべる。
 憎々しいほどの余裕。
「でも、ちょこっと柱も巻き込んじゃったわね。慎重にやらないと」
 少しだけ反省するシュラインだった。
 爆弾はあと四つ。
 ステージまで崩さぬよう注意しながら作業は続く。


 さて、下の地味な作業をよそにステージの上では死闘が展開されていた。
 会場はパニックに‥‥包まれていなかった。
 おおかた、アトラクションだとでも思っているのだろう。
「‥‥見ろ。これが日本国民の姿だ‥‥」
 嘲弄した七条の残党が、かぐやに襲いかかる。
「勝手なこと言わないでよっ! お祭りを邪魔してるのはアンタたちじゃない」
 舞うように身をかわした少女が、すかさず反撃に転じる。
 いつのまにか、烏のような黒装束は一〇名ほどにまで増えていた。
 おそらくは近くで見ていたのだろう。
 作戦の失敗を悟り、強攻策に出たのだ。
「誰だって、楽しむ権利はあるぜ」
 しなやかな肢体から繰り出される蹴りが、黒装束の一人を吹き飛ばす。
 巫の動きも、舞っているかように華麗で力強かった。
 敵の攻撃をミリ単位で見切って回避し、かつ正確で効果的な一撃を叩きこむ。
 かつて七条と戦ったときには、ここまでの芸当はできなかった。
 しかし、あれから一年近い時を経て、彼の体力も体術も格段の進歩を遂げている。
 人数差をものともしない戦いぶりだった。
「もうちょっと、演舞らしくしてあげる☆」
 こちらも余裕たっぷりのかぐやが優雅に舞う。
 両手には鳴子。
 間の抜けた恰好だが、これを持つことがルールなのだから仕方ない。
 客に疑いを抱かせぬ為にも、多少の演技は必要なのだ。
 すれ違いざまのファーストコンタクトで水月に膝を叩きこみ、相手の体勢が崩れたところに、踵を落とす。
 目の醒めるような格闘術である。
 客から歓声が上がる。
 本気で戦ってるようには見えないだろうし、見せてもいけない。
 このあたりの事情は、七条の残党にしても同じだろう。
「だが、両手を縛られて戦うなら俺らの方がずっと有利だぜ」
 飛燕の如く空中に舞った浄化屋が、勢いよく両足を回転させて二人ほどの黒装束を打ち倒す。
 挑発を兼ねて。
 巫に攻撃が集中すればかぐやの負担が減るし、なによりもステージ下のシュラインに時間を与えることができる。
 このような状況下にあって、巫の戦術眼はなお健在だった。
「仕込まれたからなぁ。綾に」
 とは、口に出さぬぼやきである。
 のろけともいう。
 やがて、
「‥‥あと‥‥二人‥‥」
 かぐやが言った。
 数的には互角になった。
 ここまでの経緯を考えれば、巫とかぐやが圧倒的に有利と見えるかもしれない。
 だが、黒い目の少女は容易く動こうとはしなかった。
 疲労もある。
 蓄積されたダメージもある。
 いくら卓抜した戦闘能力を有する二人でも、ここまでノーダメージでいられるはずがないのだ。
 無数の小さな傷が、体中に刻まれている。
 致命傷からは遠くとも、やはり痛いものは痛い。
 七条の残党たちが構える。
 おそらく彼らにも判っているのだろう。この局面では自分たちの方が有利だということを。
「もうひとふんばりだぜ‥‥」
「わかってる」
 頷き合う巫とかぐや。
 もう、長時間に渡って戦い続けるのは困難だ。
 大きな技なら、あと一つか二つ出せるか出せないか、といったところだろう。
 ひるがえって、敵の方はほとんど無傷で疲労度も少ない。
 衆寡敵せず。
 古来の警句どおりといってしまえばそれまでだが。
「でも、三対二ならどうかしらね」
 あでやかな声が風に流れた。
 ステージの片隅に屹然と立つ影。
 左腕を真っ直ぐに伸ばし、右手は耳のうしろに。
 シュラインだ。
 不敵な笑みを浄化屋が漏らす。
 彼女がここにいるということは、下での作業が終わったということだ。
 すなわち、七条の残党の作戦は、戦略レベルにおいて失敗した。
 この上、戦術的な勝利に固執する意味はなくなった。
「もう一回、形勢逆転ね☆」
 がぜん元気を取り戻したかぐやが、一歩近づく。
 と、七条の者どもが身を翻した。
 逃げを打ったのだ。
 おりしも、ステージに流れていた音楽が止まる。
 巫もシュラインもかぐやも、追撃はしなかった。
 深追いしても意味がない。無理な追走は必死の逆撃を招くだけだ。
 客席かか拍手が送られる。
 どうやら、最後までアトラクションだと思っていてくれたらしい。
 軽く目配せした三人が、それぞれの為人で声援に応えた。
 北の島に初夏を告げる蒼穹が、無限の連なりを見せていた。


  エピローグ

「とりあえず、地元劇団によるアトラクションということになりました」
 嘘八百屋が言った。
 滞りなく祭りが終了し、翌日のことである。
「‥‥さぞかし巧妙な工作がおこなわれたんでしょうね」
 苦笑を浮かべるシュライン。
「ビデオで撮ってたヤツもいるだろうし、人の記憶には残るからな。ま、仕方ねえだろうよ」
「あんまり変なことで有名になりたくないけどねー」
 巫とかぐやも、苦笑している。
 笑うしかない、というところであろう。
「それで、審査員特別賞とやらがでるそうですよ」
「いらないわよ」
「いらねぇって」
「慎んで辞退しますよー」
 やれやれと肩をすくめる三人。
 まったく、ニッポンは平和だ。
 そういえば、よさこいソーラン祭りと札幌市長選挙の投票日が重なったため、投票率は低迷してしまったらしい。
 自分たちの街の重要事ではないのだろうか?
 祭りの方が「政(まつりごと)」より大切らしい。
 政治は、それを侮った人間に必ず復讐するというのに。
「‥‥だから、あんな連中が暗躍する」
「野望が叶うかと錯覚する」
「自分たちが変えなくてはって思っちゃうんですよね」
 自嘲にも似た翳りが、三人の顔を彩った。
 仕事明けのコーヒーは、ことのほか苦かった。
 これから起こる波乱を示唆するように。










                          終わり



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
1536/ 灯藤・かぐや   /女  / 18 / 学生
  (びとう・かぐや)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「熱狂と使命の間に」お届けいたします。
じつは、新シリーズの始まりです。
東京と札幌を結んだ、謀略と闘争☆
特殊能力や人外を否定するハンター。
物質科学文明を否定する陰陽師軍団の残党。
今ある平和を守ろうとする警察と自衛隊。
そして、第4の勢力である怪奇探偵たち。
人のありようとか、そんなテーマで書き出していけたらなぁ、と思っています。

さて、いかがだったでしょう。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。