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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命 


●天薙撫子
天薙撫子は、『神格』に関わる事件に関わったことから、エルハンドに相談や修行をするためにあやかし荘に赴くことが多かった。そう言うことなど、エルヴァーンが何かやってきた時、数人の住人に神が追いかけ回される風景を見ている。
「いつもああなのですか?」
「あーあやかし荘を一回壊したから、一部の住民に嫌われている…」
「でも、懲りないみたいですね」
「あれは…遊んでいるんだろう。性格が「猫」だからな…なかなかつかめん」
「そうですか、うふふふ」
エルハンドは苦笑するが、お淑やかに口元を押さえ笑う撫子。
その仕草はまさに大和撫子であり、エルハンドも心が安らぐ。まったく何処かの巫女とえらい違いである。

そんな日常である以外今のところは平和だった。
エルハンドが「虫の知らせ」を「視る」までは。

撫子が修行のためにエルハンドを訪ねてきた。丁度、風野時音と天空剣の稽古をしていた。
「こんにちは、今日も宜しく願いします」
礼をする撫子。
二人は、稽古を止め、礼をする。
「ああ、宜しく」
天空剣修行は真剣もしくは木刀で行う。剣道のように、面などのポイントではなく、どこでも当たれば勝ちの実戦である。なので打撲や、骨折は当たり前。また茣蓙巻きの試斬も行う(特殊能力は使わない)。あと、術等を学ぶことも撫子の訪問理由だ。剣客の家には様々な古文書や巻物がある。
今回は、天空剣奥義・天魔断絶の原型とも言われている『天薙の太刀』の安定行使をするため、訓練を行うためだった。

辛い稽古も一休み中に、道路の方で車の急ブレーキ、何かに当たった音…そして走行音…を3人は聞いた。
「なんじゃ!?」
縁側で見物していた嬉璃もその方向を向く。
「…ま、まさか?」
エルハンドは急いで駆け出す。嬉璃と撫子、時音も後を追った。

急ブレーキの跡、エルヴァーンが倒れていた。ひき逃げである。
普通なら、殆どの物理衝撃などは『神格障壁』で無効化されるはず。しかし、今倒れている神には其れさえも張られていない…。何かを持っており…神格力を使って庇うように倒れたままだ。
「…おい兄貴…何故?自分を守る力さえも…庇っている物は何なのだ?」
その何かは泣いた。布に包まれた赤ん坊だ…
「…兄貴…」
「どうしてぢゃ?此奴がやっていることは分からぬ…」
嬉璃が赤ん坊を抱き上げた。ショックなのかまだ泣きやまない。
「まず…エルヴァーンさんを病院に」
撫子が急いであやかし荘に戻った。救急車と警察を呼ぶために。
エルハンドは、兄を抱きかかえる…まだ助かる…現在常人並といっても、自分の力を抑える額の神封石が壊れていない。正確には壊していないだろう。
「事情は…兄貴が回復してからだな…」


●従兄との再会
撫子は、あやかし荘玄関先に見知った顔を見つけた。
「皇騎ちゃん!」
「な、撫子!」
二人は吃驚した。
「あ、急がなきゃ…電話電話…」
と、我に返った撫子は黒電話に手をかける。
「どうしたんだ、撫子?…そんなに慌てて」
皇騎は従妹に訊ねた。彼は別方向から来たようだ。
「エルハンド様のお兄様、エルヴァーン様が事故に遭って…ひき逃げなのよ…」
「なんだって!?」
「赤ちゃんを庇って…この道路沿いよ…」
「分かった…あ、病院は私の所にするように手配しておくから…撫子は…その間彼とその赤ん坊を」
「分かったわ」
皇騎は携帯を片手に事故現場に走っていった。

エルヴァーンは皇騎の指定した病院に運ばれ、エルハンドは一緒にその病院に向かった。
赤子は管理人室ですやすやと眠っている。風野時音があやしたお陰らしい。
「何はともあれ…この赤子をどうするかぢゃ…」
嬉璃が考える。
「しばらく此処でおもりをします…あまり分からないですけど…」
事故現場を見て、事情をしった海原みなもが言った。
「全神格をこの子に与えるほどということは…あの方にとって重要な赤ちゃんなんでしょうね…」
撫子はそう口にした。赤子にはまだ神格障壁が張られている。危険と判断される事柄に対して反応することは、霊視から分かった。これが解かれた時エルヴァーンが「死ぬ」ということになる。
あの神双子は殆どの世界に、自分を投影した変わり身で存在している。化身(アバター)といわれており本体よりは劣るにせよ、力は強力だ。もし、化身が「死んだ」ならば、制約によって200年はこの世界には干渉出来なくなるし、本体も弱くなるのだ。

撫子は赤子に精神感応を試みる…障壁は其れを許してくれた。赤子の中に感じた物は…
何世紀もあいだ、悪しき魔を滅ぼすために生きてきた退魔の力だった。
「この子…退魔一族です…しかしどうして?」
撫子は驚きを隠せない。その場にいた者は驚いた。
「どうして?現代での退魔一族は…普通子供を捨てることなんか…」
退魔剣術使いでもある時音は疑問を感じた。通常の退魔はひっそりと隠れて魔を絶つ事をしている。未来ではその状態ではなかっただけだ。
「エルヴァーンさんが庇うと言うことは…その一族の生き残りに託されたのかもしれません」
みなもは落ち着いて言った。
「…もし…魔がその一族を滅ぼしたとなると…由々しきことですね…」
撫子は今自分が出来ることを探していた。魔がこの子を狙っているとしたら…。
赤子は目覚めると無垢な笑みをこぼしていた。
撫子の携帯がなった。着信音で「薄情者」と分かる。
「皇騎ちゃん?どうだったの?」
撫子は従兄に今のエルヴァーンの事、現場や警察の動きなどを聞いた。
すでに犯人は捕まったが、只のひき逃げであること、エルヴァーンがいきなりその場に現れたということだった。エルヴァーンの方は息子と霊能力の医療チームと共に傷は全快したが意識は戻らないと言う。
撫子は、不安は隠せない
彼女は、赤子のことを正直に話した。
[…退魔一族の生き残り…わかったすぐそちらに戻る]
そう言って皇騎は電話を切った。
事情を聞くべき相手が昏睡している以上…この場で自由に動けるのは撫子だけだ。
時音は退魔の子供をお守りしていたことがあるのでそちらに集中させるべきであり、みなもも手伝いをするからだ。
エルハンドと皇騎が帰ってくれば何か少しでも分かるかも知れない…。
撫子は妖斬鋼糸と神斬を用意した。


●来襲
エルハンドと皇騎が戻ってくると、まずはどこから敵が来るかと言うことを計算しなければならなかった。
「兄貴…やってくれる…」
エルハンドはあやかし荘、新館の周りを見渡したあとそう呟いた。
「どうされました?」
「いや…未来を予見したのでその準備をすでに兄貴がしていたということだ…あとは私たちで何とかなると思ったのだろうな」
確かに、霊視をすると、あやかし荘に赤子に纏っている力に数カ所、力を感じる。
皇騎には、術者隊や捜索隊を指揮して、滅びた退魔一族のことなどを探して貰っている。

しばらくした後…
妖気…しかも強力…。
「これは…鬼ですわ」
「のようだな…強力な力を嗅ぎ付けたようだ」
撫子は神斬を腰に差し、妖斬鋼糸を握りしめる。皇騎も気配を察し、呪符をもち従妹の側に駆け寄った。
「あれ?助けてくれるの?皇騎ちゃん」
「君はまだ修行中だろ仕方ないから手伝ってあげるんだよ」
「あら?そうなの?昔はいつも、わたくしに問題押しつけてたじゃなかったかなー」
「…撫子…まだ根に持ってるのか」
「ふ…仲が良いな」
「「そんなことないです!」」
二人で否定する。その場でお互いが沈黙してしまうので、剣客はクスリと笑った。
「あ、やって来ます!」
あわてて、撫子が指さした。
男着物をきた二本角で肌が赤褐色、筋肉質…目は窪んでおりそこから殺意で睨み付けている。
破壊の妖気…。その気は、おそらくどんな勇気のある者を怯えさせるだろう。
鬼が踏み出すごとに、草が枯れていく。「死」をまき散らす「魔」だった。
しかし、何かが抜けていた。撫子にはそう思った。
「此処に…ガキいる…渡せ…さもないと…殺す」
「お断ります」
撫子は力強く言った。
「気をつけろ」
皇騎が、片方で剣を片方で呪符を持つ。
剣客は至って冷静に二人の前に庇うように進んだ。
「神が居ようと…無駄」
鬼は一気に跳躍した。剣客が具現短剣を召喚し軌道を読むかのように投げたが、全てはじかれた。
「障壁を持っているな」
鬼は撫子と皇騎の後ろに回ろうとしたのだ。だが、鬼は見えない壁にぶち当たり、はねとばされる。
「なに!?」
鬼は受け身を取って驚く。人間ごときの障壁など力で破壊出来る。
「神の障壁がすでにあやかし荘に張っている…兄貴のな」
「むむむ」
「皇騎、撫子…私が彼奴を弱らせる。合図を送る…そのときに撫子、天薙の太刀を使え…」
「はい」
剣客は、そう言ってパラマンディウムを持って鬼の間合いギリギリで止まる。鬼は全力で襲いかかる。
剛と柔のぶつかり合いだった、剣客は鬼の力を剣で受け流して逃がす。前の神格暴走者戦とは変わった戦いだった。エルハンドは剣の舞を踊るが如く、激流の鬼の力を静水で制しているのだ。
ただ、それだけではなかった。
「天空剣・斬の技・激流逆行」
その激流は静水で制されていたのではなく…ある一転に貯められていたのだ。それは…剣に。
一振りで、今まで溜まった鬼の力が鬼に跳ね返っていく。その力は、鬼の肉体の殆ど死滅させるのに十分だった。しかし回復力は残っているようだ。
其れが合図だった。
すでに霊力を限界まで引き出した撫子。其れを支えるかのように術を施す皇騎。
撫子は倒れ込む鬼に向かってかけだした!
「天薙の太刀!」
鬼は反撃する間もなく、撫子の神斬で肉体もろとも命を斬られ…塵になった。
「赤子の問題も殆ど解決出来たな」
「エルヴァーンさんが意識を取り戻しました」
剣客の言葉と同時に、みなもの声が聞こえた。

●事故の訳
エルヴァーンはこういった。
「ノンビリ散歩していれば、物陰で赤子の泣き声がしていた。見ていれば女性が死んでおり大事そうに赤子を抱いていた。女性の怪我に残留妖気があって灰になっていったよ…。それで、退魔一族が何者かに殺されたかと思った。死んだ女性を召喚して話を聞いたので急いであやかし荘に赤子を預けようと駆けだしたんだ…。で、この状態だ。…咄嗟のことだから子供を庇うことに専念してしまったよ。迷惑をかけた」
「結界はどうして?」
撫子が訊いた。
「なに…前の償いさ…あやかし荘を全壊させたからな…」
苦笑して答える。
「赤子はどうされます?」
皇騎が訊いた。
「…普通の人間に託すか、退魔の者に託すか自由にしてくれ。私が世話出来るわけでもない」
そう言った後、エルヴァーンは飛び起き、守っていた赤子から神格を取り戻した。残りの些細な傷は癒され活力がみなぎる。
「じゃ、また何処かで…」
と言い残し、瞬く間に姿を消した。

「迷惑ばかりかけよって…」
病院の屋上で息子は溜息をついた。その遠く先に本当は寂しがり屋の兄が、あやかし荘がある方向を眺めているからだ。


しかし、彼は声をかけることはなかった。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【1252 / 海原・みなも/ 女 / 13 / 中学生】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命』に参加してくださりありがとうございます。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝