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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命

●宮小路皇騎
大阪の事件から数週間経ったのは良いが…未だに後始末が大変なことと、御曹司としての仕事、大学生活と多忙極める宮小路皇騎。このままでは体が持たないと言うことから、こんな書き置きを残して姿を消した。
「仕事→つかれました 遊び→行って来ます by:皇騎」
部下はこの書き置きを眺め…。
「ぼっちゃま…」
血の涙を流していたらしい。

逃亡者の様に注意深くあやかし荘までやってくる。かなり遠くでも、剣術の稽古が聞こえる。ああ、此処には剣客がすんでいますねと思い出した。
「確か、大阪でお世話になった方の御子息だとか…」
と言っていると後ろから
「ええそうですよ」
と女の子の声がした。
驚く皇騎。
声をかけたのは海原みなもだった。
「あ、おひさしぶりみなもちゃん」
「はい、お久しぶりです。どうしたのです驚いて?」
「あ、いやその」
流石に仕事を抜け出してきたというのは言えまい…。
みなもは彼の戸惑う姿にクスクスと笑う。
皇騎も乾いた笑いをするしかなかった。
「お仕事忙しいのですね」
いきなり理由の一つを答えられ、固まってしまう皇騎。
しまった…彼は彼女の姉上と一緒に大阪の事件を解決したんだ…皇騎一生の不覚。
「息抜きは大事ですね。あやかし荘でご一緒にひよこ饅頭食べませんか」
「はい喜んで」
二人で、仲良くあやかし荘に向かった。

しかし、ノンビリひよこ饅頭を食べることは叶わなかった。

丁度、あやかし荘に入ると歌姫が忙しそうにあちこち走っている。
「どうされました?」
歌姫は皇騎とみなもに気付き、ジェスチャーで何かを伝える。
何か事故があったらしい。
そのときである。
「皇騎ちゃん!?」
後ろから馴染み深い女性の声。
「撫子!」
固まるのは二度目…。
まさか従妹が此処にいるとは思いもしなかったのだ。大抵は一緒に行く約束をしても約束を破ってしまったり、すれ違ったりが多いので、「馴染みの薄情者」とか言われたりする。
「あ、急がなきゃ…電話電話…」
と、我に返った撫子は黒電話に手をかける。
「どうしたんだ、撫子?…そんなに慌てて」
皇騎は従妹に訊ねた。彼は別方向から来たようだ。
「エルハンド様のお兄様、エルヴァーン様が事故に遭って…ひき逃げなのよ…」
「…なんだって!?」
「赤ちゃんを庇って…この道路沿いよ…」
「分かった…あ、病院は私の所にするように手配しておくから…撫子は…その間彼とその赤ん坊を」
「分かったわ」
皇騎は携帯を片手に事故現場に走っていった。

途中で、風野時音に会い、赤子の無事を確認した。
「事故現場は?」
「私が結界をはった。風などで遺留品が紛失することはないだろう」
丁度、警察と救急車がやって来た。現場捜査とダージエルに応急手当がなされ救急車に運ばれる。
エルヴァーンは皇騎の指定した病院に運ばれ、エルハンドは一緒にその病院に向かった。
霊能力者でもある医療チームがエルハンドに神の治療方法を尋ねる。
今は常人並であり、障壁もないので、普通の人間のように処置すればいいとエルハンドは言った。ただ、額と右目の神封石は触るのは危険と付け加えた。
内臓などは問題なく、脳も異常はない。殆どが打撲だった。受け身の取り方を極めているようだ。
治癒術をもって止血などしていくが、意識だけは戻らないらしい。
治療中に皇騎は、警察を動かし、犯人を探す。
迅速な対応と事故発見が早かったため、1時間後には犯人が捕まった。
事情聴取すれば、いきなりダージエルが現れて、轢いてしまったと言うことらしい。慌ててしまって逃げた、また免許取消になるのがいやだったとも自供している。
「撫子に電話しなくちゃ」
病院の外にでて、撫子の携帯に電話する。
あらかた状況を説明した後…従妹がこう告げた。
[エルヴァーン様がお庇いになった赤ん坊は退魔一族なの…]
「なんだって…!」
[捨て子ではないし…、魔が狙ってくるから…]
撫子はおそらくエルヴァーンが一族の生き残りに託されたと推測したことも報告した。
「…退魔一族の生き残り…わかったすぐそちらに戻る」
皇騎は電話を切り、エルハンドを呼んであやかし荘に急いだ。


●来襲
皇騎は、まずはどこから敵が来るかと言うことを計算し、どう戦うか考えていた。
「兄貴め…やってくれる…」
エルハンドはあやかし荘、新館の周りを見渡したあとそう呟いた。
「どうされました?」
「いや…未来を予見したのでその準備をすでに兄貴がしていたということだ…あとは私たちで何とかなると思ったのだろうな」
確かにあやかし荘に赤子に纏っている力に数カ所、力を感じる。
皇騎は、他の術者隊や捜索隊に、滅びた退魔一族のことなどを探して貰っている。
しかし、今のところそう言った情報はないようだ。

しばらくした後…
妖気…しかも強力…。
「これは…鬼ですわ」
「のようだな…強力な力を嗅ぎ付けたようだ」
撫子は神斬を腰に差し、妖斬鋼糸を握りしめる。皇騎も気配を察し、呪符をもち従妹の側に駆け寄った。
「あれ?助けてくれるの?皇騎ちゃん」
「君はまだ修行中だろ仕方ないから手伝ってあげるんだよ」
「あら?そうなの?昔はいつも、わたくしに問題押しつけてたじゃなかったかなー」
「…撫子…まだ根に持ってるのか」
「ふ…仲が良いな」
「「そんなことないです!」」
二人で否定する。その場でお互いが沈黙してしまうので、剣客はクスリと笑った。
「あ、やって来ます!」
あわてて、撫子が指さした。
男着物をきた二本角で肌が赤褐色、筋肉質…目は窪んでおりそこから殺意で睨み付けている。
破壊の妖気…。その気は、おそらくどんな勇気のある者を怯えさせるだろう。
鬼が踏み出すごとに、草が枯れていく。「死」をまき散らす「魔」だった。
しかし、何かが抜けていた。撫子にはそう思った。
「此処に…ガキいる…渡せ…さもないと…殺す」
「お断ります」
撫子は力強く言った。
「気をつけろ」
皇騎が、片方で剣を片方で呪符を持つ。
剣客は至って冷静に二人の前に庇うように進んだ。
「神が居ようと…無駄」
鬼は一気に跳躍した。剣客が具現短剣を召喚し軌道を読むかのように投げたが、全てはじかれた。
「障壁を持っているな」
鬼は撫子と皇騎の後ろに回ろうとしたのだ。だが、鬼は見えない壁にぶち当たり、はねとばされる。
「なに!?」
鬼は受け身を取って驚く。人間ごときの障壁など力で破壊出来る。
「神の障壁がすでにあやかし荘に張っている…兄貴のな」
「むむむ」
「皇騎、撫子…私が彼奴を弱らせる。合図を送る…そのときに撫子、天薙の太刀を使え…」
「はい」
剣客は、そう言ってパラマンディウムを持って鬼の間合いギリギリで止まる。鬼は全力で襲いかかる。
剛と柔のぶつかり合いだった、剣客は鬼の力を剣で受け流して逃がす。前の神格暴走者戦とは変わった戦いだった。エルハンドは剣の舞を踊るが如く、激流の鬼の力を静水で制しているのだ。
ただ、それだけではなかった。
「天空剣・斬の技・激流逆行」
その激流は静水で制されていたのではなく…ある一転に貯められていたのだ。それは…剣に。
一振りで、今まで溜まった鬼の力が鬼に跳ね返っていく。その力は、鬼の肉体の殆ど死滅させるのに十分だった。しかし回復力は残っているようだ。
其れが合図だった。
すでに霊力を限界まで引き出した撫子。其れを支えるかのように術を施す皇騎。
撫子は倒れ込む鬼に向かってかけだした!
「天薙の太刀!」
鬼は反撃する間もなく、撫子の神斬で肉体もろとも命を斬られ…塵になった。
「赤子の問題も殆ど解決出来たな」
「エルヴァーンさんが意識を取り戻しました」
剣客の言葉と同時に、みなもの声が聞こえた。

●事故の訳
エルヴァーンはこういった。
「ノンビリ散歩していれば、物陰で赤子の泣き声がしていた。見ていれば女性が死んでおり大事そうに赤子を抱いていた。女性の怪我に残留妖気があって灰になっていったよ…。それで、退魔一族が何者かに殺されたかと思った。死んだ女性を召喚して話を聞いたので急いであやかし荘に赤子を預けようと駆けだしたんだ…。で、この状態だ。…咄嗟のことだから子供を庇うことに専念してしまったよ。迷惑をかけた」
「結界はどうして?」
撫子が訊いた。
「なに…前の償いさ…あやかし荘を全壊させたからな…」
苦笑して答える。
「赤子はどうされます?」
皇騎が訊いた。
「…普通の人間に託すか、退魔の者に託すか自由にしてくれ。私が世話出来るわけでもない」
そう言った後、エルヴァーンは飛び起き、守っていた赤子から神格を取り戻した。残りの些細な傷は癒され活力がみなぎる。
「じゃ、また何処かで…」
と言い残し、瞬く間に姿を消した。

皇騎に電話が鳴った。
「滅びた退魔一族は…退魔剣神陰流の?」
その情報に偽りはなかったようだ。
エルハンドにだけそのことを報告し、従妹にさえ口にしなかった。
「そうか…運命かもな…」
剣客はそう呟いた。

エルヴァーンは、溜息をついてあやかし荘がある方角を眺めている。
赤子のあのぬくもり…昔、懐かしい幸せ…。求めることはもう…出来ない。
すでに、自分は自立している。母のぬくもりは…とうの昔のことだ。
「少しセンチメンタルになってしまったか」
彼は自嘲した。近くに弟の存在に気づいたのか、転移呪文で消えていった。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【1252 / 海原・みなも/ 女 / 13 / 中学生】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命』に参加してくださりありがとうございます。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝