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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命

●海原みなも
海原みなもは、姉が土産に買ってきたひよこ饅頭を手にあやかし荘に向かっていた。
色々と世話になっている、神宛である。姉妹そろって様々な事件に関わっているからということだ。
たくさんお客が居れば一緒に食べるのも良しだ。
たしか、姉と神はこんな会話をしていた事を思い出した。
神「ひよこ饅頭は頭から食べるか、おしりからたべるかどっちだろうな…」
姉「人それぞれですわ。でも興味有りますわね」
とかなんとか。
「まるで、ソース派か醤油派みたい」
と思い出し笑い。
気が付けば、あやかし荘に向かって怪しそうな歩き方をしている人物を発見した。
泥棒かな?とおもったみなもは、誰かすぐ分かった。
宮小路皇騎だったのだ。
驚かしちゃお…っとほくそ笑む。
丁度、剣の稽古が聞こえている。
「…確か、…の御子息だとか…」
と言っていると後ろから
「ええそうですよ」
と、みなもはいきなり言った。
驚く皇騎。
彼のすごく驚いた表情をみるみなもは、笑いをこらえる。
「あ、おひさしぶりみなもちゃん」
「はい、お久しぶりです。どうしたのです驚いて?」
「あ、いやその」
流石に仕事を抜け出してきたというのは言えまい…。
みなもは彼の戸惑う姿にクスクスと笑う。
皇騎も乾いた笑いをするしかなかった。
「お仕事忙しいのですね」
いきなり理由の一つを答えられ、固まってしまう皇騎。
姉から彼の仕事などを土産話に聞いているので、当てずっぽうだが本当だったようだ。
「息抜きは大事ですね。あやかし荘でご一緒にひよこ饅頭食べませんか」
「はい喜んで」
二人で、仲良くあやかし荘に向かった。

しかし、ノンビリひよこ饅頭を食べることは叶わなかった。

丁度、あやかし荘に入ると歌姫が忙しそうにあちこち走っている。
「どうされました?」
歌姫は皇騎とみなもに気付き、ジェスチャーで何かを伝える。
何か事故があったらしい。
そのときである。
「皇騎ちゃん!?」
後ろから馴染み深い女性の声。
「撫子!」
固まるのは二度目…。
まさか従妹が此処にいるとは思いもしなかったのだ。大抵は一緒に行く約束をしても約束を破ってしまったり、すれ違ったりが多いので、「馴染みの薄情者」とか言われたりする。
「あ、急がなきゃ…電話電話…」
と、我に返った撫子は黒電話に手をかける。
「どうしたんだ、撫子?…そんなに慌てて」
皇騎は従妹に訊ねた。彼は別方向から来たようだ。
「エルハンド様のお兄様、エルヴァーン様が事故に遭って…ひき逃げなのよ…」
「まさか!」
「赤ちゃんを庇って…この道路沿いよ…」
「分かった…あ、病院は私の所にするように手配しておくから…撫子は…その間彼とその赤ん坊を」
「分かったわ」
皇騎は携帯を片手に事故現場に走っていった。
みなもは、まずあやかし荘の人にネット環境を持っていないか訊きに回った。
「あ、そう言うことなら自由に使ってくれ」
と、端末を貸してくれた人がいた。
「ありがとうございます」
感謝の礼をするみなも。


●みなもの子守と退魔のこと
管理人室には、撫子と、嬉璃と時音がいた。
時音は赤子を恵美が用意してくれた布団に寝かせて今後どうするかを考えていた。
撫子は、精神感応で『退魔一族』の子供と言う。
「現代の退魔一族は子供を捨てる事はないはず…」
時音は疑問を持った。
「おそらく、何者かに…魔に一族を殺されたのでしょうね」
撫子は推測で答えた。
みなもは、その惨劇を起こした魔を許せない。しかし自分では何も出来ない。
赤子は目覚め、無垢な笑いを見せる。
彼女は決断した。
「わたしはお守りしますね、経験はないですけど」
と、みなもが言う。撫子は、襲って来るかも知れない魔に対して対抗する準備をしていた。
「僕は子供のお守りをします」
と時音は言った。

みなもと一緒にお守りをすることとなる時音。
「へー、昔にお守りしていたんですかぁ」
感心するみなも。
時音は微笑みながらこう答える。
「ええ、僕が小さい時に住んでいた街で、近所のおばさん達にお守り頼まれていたんだ」
みなもが赤子を抱いて楽しそうに笑っている。
ところが赤子がいきなり泣き出した。慌てるみなも。どうあやしても泣きやまない。
「あ、多分おなかが減っているんですよ」
時音が理由を教えた。
「えと、何がいいのかな?」
おろおろするみなも
「粉ミルクとか有りませんか?」
「ふむ、確か有ったはずぢゃ」
嬉璃が、台所に向かって
「おお、あった。賞味期限もだいじょうぶぢゃ」
という。
「じゃ、ミルクを作っておいてください、僕はほ乳瓶など買ってきます」
といって、部屋から出た。
「あ、わたしも…嬉璃ちゃんお願いします」
「うむ…おお、よしよし…」

ほ乳瓶のほかに紙おむつや育児用具を買いそろえるあいだ、みなもは時音に育児について色々訊ねた。
笑顔で答えながら、時音は話す。
几帳面にメモするみなも。
買い物が終わり、あやかし荘に戻ってくるのには実際時間はかからなかった。
ほ乳瓶に入れた人肌ぐらいに暖めたミルクをおいしそうに飲む赤子。
おなか一杯になったのかすやすやと眠る。
歌姫がひょっこり管理人室に顔をだしては、時音の側に座ってと赤子をみていた。
みなもは、時音と歌姫が赤子を眺めている姿をみて思わず…
「まるで家族みたいですね」
と、クスクス笑った。
時音とその恋人は赤面する。
それに反応したのか、赤子はおきてまた無垢な笑みを浮かべた。
歌姫が恐る恐る赤子を抱いて笑っている。本当に絵になる。
そして、歌姫はみなもに赤子を抱いたら?というふうに赤子を彼女に向けた。
みなもが赤子を抱えると、赤子の笑みに彼女は
「ほんと可愛いですね」
と感想を言う。
しかし、この子は退魔の一族、この事実を知った二人はこの赤子がどんな運命をたどるのかが不安だった。
おしめの取り替えの時に、赤子が女の子とわかる。
おむつの仕方を教わったみなもが初心者なのに手際よくやってのけた。
交代でお守りをしている間、みなもはネット環境を持っている住民に頼んで赤子についての情報を検索していた。なかなか見つからない。些細な事故記事でも良い。
雫の掲示板を調べてても事件の記事は無かった。しかし、退魔一族に関しての情報は何とか手に入った。
「闇に隠れ、魔を滅ぼす者。生涯表の世界に出ること叶わず」
というものだった。更に
「退魔の魔眼、そして剣術は門外不出。具現剣光刃も諸刃の剣。知るもの、其れは隠すべきだ」
みなもは探す。可能な限りの歴史を…
「退魔は七門、聖、白夜、朱雀、玄武、青龍、白虎…と様々な一族を持つ。真の氏は隠され続ける。闇に生きる退魔の定めである。しかし、時が経つにつれ魔に襲われ滅びるか、里を離れ散り散りになる…いまはこの記録しかない」
退魔の情報は…他にもある…しかし、これ以上有力な手がかりはないようだ…。
溜息をつくみなも…
「流石に…裏社会のことは…更に裏社会の人にしか分からないのね…」
外では、すでに魔との戦いが始まっている。時音とみなものお守りのお陰で、赤子は泣きもせず落ち着いていた。決着は早く付いたようだった。
みなもは電話の音に気づき、
「あ、私が取ります」
といって管理人室から出ていった。
そして、喜びの声で。
「エルヴァーンさんが意識を取り戻しました!」
と皆に伝えた。


●里親
エルヴァーンはこういった。
「ノンビリ散歩していれば、物陰で赤子の泣き声がしていた。見ていれば女性が死んでおり大事そうに赤子を抱いていた。女性の怪我に残留妖気があって灰になっていったよ…。それで、退魔一族が何者かに殺されたかと思った。死んだ女性を召喚して話を聞いたので急いであやかし荘に赤子を預けようと駆けだしたんだ…。で、この状態だ。…咄嗟のことだから子供を庇うことに専念してしまったよ。迷惑をかけた」
そして、赤子の今後をはなすと、
「…普通の人間に託すか、退魔の者に託すか自由にしてくれ。私が世話出来るわけでもない」
そう言った後、エルヴァーンは飛び起き、守っていた赤子から神格を取り戻した。残りの些細な傷は癒され活力がみなぎる。
「じゃ、また何処かで…」
と言い残し、瞬く間に姿を消した。

皆であやかし荘に戻ってから…のことである。
みなもと、時音は、抱いている赤子を見つめた。
赤子は「なぁに?」という顔をするがすぐ何事もなかったかのように二人に笑ったのだった。
「次は里親捜しですね」
と、少し名残惜しそうだがみなもが時音に言った。

「迷惑ばかりかけよって…」
病院の屋上で弟は溜息をついた。その遠く先に本当は寂しがり屋の兄が、あやかし荘がある方向を眺めているからだ。


しかし、弟は声をかけることはなかった。

End




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【1252 / 海原・みなも/ 女 / 13 / 中学生】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚 剣客の下宿7 兄が庇った命』に参加してくださりありがとうございます。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝