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<東京怪談・PCゲームノベル>


今夜は朝までパワフルポーカー

●VS歌姫【1A】
 あやかし荘『椿の間』――ここにはテーブルを囲む2人の少女の姿があった。1人はもちろん、この部屋の住人である歌姫。そしてもう1人は志神みかね、つまり1対1の差し向いという状況だ。
「……私の他には居ないんですね」
 と言い、入口の方を振り返るみかね。遅れて入ってくる者の気配もなく、どうやらこれで確定のようである。
 歌姫はにっこりと笑顔を浮かべ、カードをシャッフルしていた。夜明け近くでいい加減眠たくなってきていてもおかしくないはずだが、歌姫の顔には眠さや疲れは見られなかった。
 疲れというか、眠さが見えるのはみかねの方である。みかねは歌姫の手の動きをぼーっと見ながら、時折眠た気な目を擦っていた。
 ポーカー大会の始まった当初は陽気に笑いながら楽しんでいたみかねだが、やはり睡魔には勝てないようである。この1回が限度かもしれない。
「あふ……」
 小さくあくびをするみかね。ああ、やはり限度間近のようだ。それでも今回のポーカーはまだお遊び。いつぞやみたいに生命がかかってる訳ではないのだから、気が楽であった。
 そうこうしているうちに、シャッフルを終えた歌姫がカードを配り始めた。みかね、歌姫、みかね……と、1枚ずつ交互に配ってゆく。
 そして5枚ずつ配り終えた所で、歌姫はみかねの方をすっと手で示した。順番はみかねから、ということだろう。
「あっ、はい。私から……ですね?」
 歌姫の手に気付き、みかねは慌てて目の前の手札を手に取った。これでようやくゲーム開始である。

●カードチェンジ・みかね1回目【2A】
〈スペード  K〉
〈クラブ   K〉
〈スペード 10〉
〈クラブ   Q〉
〈ダイヤ   J〉

 みかねは手札を見て思案した。とりあえずすでにワンペアが成立している。しかし、数字の並びを見るとストレートも狙えないことはない。
(どうしよう……)
 しぱしぱと、眠た気に瞬きさせるみかね。ストレートを狙うとなると、すでに成立しているワンペアを崩すことになってしまう。それで目的のカードが来なければ、ノーペアになる危険性もある訳で。
 みかねはちらっと歌姫を見た。歌姫は相変わらず、にっこり変わらぬ笑顔を浮かべていた。手札がいいのか悪いのか、さっぱり分かりはしない。表情から読み取るのは、無理なようだ。
「……えーと」
 あれこれと悩んだ末、結局みかねは堅実にゆくことにした。ワンペアを残す方向に出たのである。
(ひとまずワンペアと〈クラブ   Q〉を残して……)
 みかねは手札から2枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

捨て札:〈スペード 10〉
捨て札:〈ダイヤ   J〉

●カードチェンジ・歌姫1回目【3A】
 さてさて、みかねの順番が済んだら次は親である歌姫の順番だ。
 何を捨てるのかみかねが見ていると、歌姫は迷うことなく手札から1枚選んで場に捨てた。

捨て札:〈ハート   5〉

「え、1枚だけなんですか?」
 少し驚いて、みかねが尋ねた。眠気が一瞬吹き飛んだ。歌姫は小さくこくんと頷いた。
(じゃあ、もうほとんど揃ってたりするのかな……?)
 眠い頭でそんなことを考えるみかね。その可能性はあるかもしれない。ツーペアでフルハウス狙いか、それともスリーカードからフォーカードを狙っているのか。色々と考えられる。
 歌姫は山札からカードを1枚引き、手札に加えた。やはり表情は変わらない。
 そしてゲームは、2回目のカードチェンジに入っていった。

●カードチェンジ・みかね2回目【4A】
〈スペード  K〉
〈クラブ   K〉
〈クラブ   Q〉
〈クラブ   3〉
〈ハート   6〉

(……変わってないし……)
 じっと手札を見つめるみかね。2枚カードチェンジしたはいいが、役はワンペアのまま変わっていなかった。
 2回目のカードチェンジをどうするか考えつつも、睡魔がみかねに襲いかかってくる。
(眠いなぁ……)
 ちょっとでも目を閉じると、もうそのまま眠ってしまいそうだった。事実、思案中に一瞬何度か意識が途切れてしまっていたのだから。
 ごしごし目を擦りながら考えていたみかねは、今度はワンペアだけを残してカードチェンジすることに決めた。ここから大きい役は狙えないものの、ひょっとするとツーペアやスリーカードにステップアップする可能性は十分にあるのだから。
 みかねは3枚を手札から選んで場に捨てると、山札から新たにカードを引いて手札に加えた。

捨て札:〈クラブ   Q〉
捨て札:〈クラブ   3〉
捨て札:〈ハート   6〉

●カードチェンジ・歌姫2回目【5A】
 みかねのカードチェンジが終わり、今度は歌姫の最後のカードチェンジである。
 歌姫はまたもや手札から1枚カードを選び、場に捨てた。迷った様子は全くない。

捨て札:〈スペード  6〉

「あ」
 みかねが短く声を発した。睡魔に襲われうろ覚えではあるが、今捨てたカードの場所は先程引いたカードの場所ではなかったか……?
(……やっぱり何か役が出来上がってるのかも)
 そんな不安がみかねの頭をよぎった。役が出来上がってるから、わざわざ他のカードに手を触れる必要もない。そう解釈したのだった。
 みかねは自分の手札を確認してから、また歌姫の顔を見た。相変わらずの笑顔だ。
(私の負けかなあ)
 歌姫の表情を見ていると、何故かそう思えてくるみかねであった。

●ショーダウン・VS歌姫【6A】
 いよいよショーダウンとなった。先に手札を開くのはみかねの方だった。
「じゃあ……」

〈スペード  K〉
〈クラブ   K〉
〈クラブ   2〉
〈ダイヤ   2〉
〈ハート   7〉

「Kと2のツーペアです」
 みかねの手札にはツーペアが成立していた。最後の3枚チェンジが上手くいったようだ。
 これでもし歌姫がスリーカード以上なら、もちろんみかねの負け。ツーペアだったら、Aのペアがない限りみかねの勝ち。ワンペア以下ならみかねの勝ちとなる。
 続いて歌姫が手札を開いた。

〈スペード  9〉
〈クラブ  10〉
〈ハート   J〉
〈ハート   Q〉
〈スペード  2〉

「ノ……ノーペア、なんですか?」
 意外な展開に、みかねは手札と歌姫の顔を交互に見比べた。歌姫は笑顔だったが、そこには『負けちゃいました』という感情を読み取ることが出来た。
 どうも歌姫、最初からストレートだけを狙っていたようだ。もしストレートを狙わずに別の役を狙っていたなら、ゲームの展開はどう変わっていたか分からない。
 何にせよ、最後のゲームはみかねが勝利したのだった。

●心地よい歌のゆりかごにて【7A】
 負けた歌姫はにこにこ笑顔で、じっとみかねの顔を見つめていた。勝ったみかねからの命令を待っているのだ。
(あ、そうか。命令することが出来るんだ……)
 眠気にほとんど支配され、一瞬みかねは命令のことを忘れていた。
「……えーと……」
 悩むみかね。眠さで頭が上手く回らないせいもあるもあるのだろうが、いい内容がどうも思い付かない。何だか布団にベッドといった、睡眠に関係あることばかり浮かんできてしまう始末である。
 それでも何とか、みかねは命令をひねり出したのだった。
「あの、じゃあ……肩揉みして下さい〜」
 無難な内容だった。まあ、ちょうど夜通しの連戦で肩も凝ってきていた所だったから、よいタイミングなのかもしれないが。
 みかねの命令を聞いた歌姫はすくっと立ち上がると、そのままみかねの後ろに回って座り直した。そしてみかねの両肩にそっと手を置いた。
「♪♪♪〜」
 歌姫は優し気な声で何やら歌い始めると同時に、みかねの肩をゆっくりと揉み始めた。
(何の歌だろ……)
 それはみかねの初めて耳にする歌だった。日本語なのかどうかも分からないが、とても穏やかな気分になれるような曲であった。
(……気持ちいいなあ……)
 歌と肩揉みの心地よさに、ついついみかねの目も閉じてきてしまう。そしてそのままみかねはうとうととし始め……眠ってしまった。
 その後みかねが目を覚ましたのは、あやかし荘中に響き渡る三下の悲鳴を耳にしてだった――。

【今夜は朝までパワフルポーカー 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
                   / 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・志神みかねさん、34度目のご参加ありがとうございます。何とか勝つことが出来ましたね、おめでとうございます。歌姫の歌を聞きながら、肩を揉んでもらうのは、とっても気持ちよかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。