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<東京怪談ノベル(シングル)>


a dream papaya☆
 ある雲一つない晴れた早朝の、草間興信所の調理場。窓から入る光が眩しいくらいに輝く。
 そこで元気にそして、無邪気に料理をしているのは灯藤・かぐや、18歳。学校自体の場所も一般人にはどこにある不明の魔導専門の『裏』学校に通っている、魔導学生。
 かぐやと言う人間は18歳という年齢の割には身長は低く、小柄な体型をしている。かぐや自身は全然自覚はしていないが、誰もが振り向く美少女で特殊なフェロモンが出ている(それが不思議現象を起こす)という噂もある。

「料理はロマンス〜♪」
 と、料理を作る時の口癖を時々漏らしながら、調理場のテーブルの上に置いてある本日のメインディッシュ、『かぐや特製おにぎり』が手元のお弁当箱に次々と詰められていく。
 料理はロマンスというのが、かぐやのモットーである。
 中身は、生ワサビとバナナを微塵切りにしたものと、ウズラの卵のマヨネーズ和えと煮干と林檎の微塵切り。
 果たしてそれが一般的に受け入れられるとは思えないのだが、絶対に無いとは言い切れない……が、味覚音痴のかぐやは気にはしない。そしてその上悪気がないのでどうしようもない。
 ともかく料理作りが大好きなかぐやは、楽しそうに料理を詰めていく。
 因みにフルーツが多いのはかぐやがフルーツ好きだからである。そしてなぜ微塵切りなのかは分からない。
 全てが詰め終えて準備万端という時。
「そうだ! りゅーちゃんとさっちゃんにも作ってってあげよっと。わたしの手作りのお弁当……。きっと喜ぶよね♪」
 思い出したかのようにかぐやはいそいそと、弁当箱ふたつを取り出して再びいそいそと詰め始めた。

 それから約30分後。
 『草間武彦にも差し入れを』と思いたったかぐやは、丁寧に包まれた弁当箱を両手で大事そうに抱えて持ち、廊下をお弁当の中身が崩れないように小走りする。
 部屋の前で息を整えて、ドアを軽く数回ノック。
「……あれ?」
 草間からの返事は確認できなかったが、かぐやがそっと扉を開けたその時。
 何かにつまづいてかぐやは、勢いよく転んでしまった。お弁当はその場所からキレイな放物線を描き、音をたてて床に飛び散る。
 その勢いで包んでいた包みは解け、作ったお弁当の中身全てが無残にも床に散らばってしまう。こうなっては食べることすら出来ない。
 その散らばったお弁当の中身をジッと見つめるかぐや。つかの間の沈静と沈黙――。
 自分がつまづいたものをかぐやは起きてじっと目を凝らしてみる。見えたのは一般的にどこでもある『電気釜』。それを見た瞬間にかぐやは……。
「なんでこんなトコロに電気釜なんかあるんじゃコラァ!」
 普段とは似付かぬ形相で、かぐやは声を荒げる。と同時に電気釜にパパイヤが襲い始める。
 実はかぐやは、感情が昂ぶると身体の中から様々な形をした様々なフルーツが出てきて、その対象に精神的及び物理的ダメージを与える、夢想魔導(ナイトメア)であったのだ。
 その怒りの矛先は当然の如く電気釜に向けられ、『ドリームパパイヤ』と名付けられた、パパイヤの大群に襲われ、無残にも破壊されてしまった。一筋の煙が電気釜から線香のように伸びて、その命を安らかとも思えない無残な結果で終えた。
 その感情の昂ぶっているかぐやの目に映った1つの影。ふと視線に入ったかぐやは見上げる。
 そこにいたのは差し入れをしようと思っていた張本人・草間武彦だった。
「なぁ……」
 一部始終どころか、その様子を全て見ていた草間武彦は、以前かぐやが言っていたことを言葉少なく語った。
「……その電気釜、この前お前さんが、『ここでも差し入れがすぐ作れるように♪』って持ってきたヤツだぜ。忘れたのか?」
 その言葉にかぐやの動きは止まり、2人に長い沈黙が流れる。
「…………」
「…………えへっ」
 草間はかぐやの動きをじっと見つめる。
 そして最終的にかぐやが取った行動は……。
「じゃっ、そろそろ時間だからかぐや、学校に行ってくるね。行ってきますvv」
 かぐやは何事もなかったかのように時計に目をやり、草間に向けて笑顔を作りカバンを持って、パパイヤに包まれた部屋からパタパタと立ち去っていた。
 残されたパパイヤと弁当&電気釜の残骸。そして草間の言葉。
「さて、どうするかな。この残された弁当と電気釜の残骸を」