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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ザ・セントウ2――無か有か
●序
 草間興信所に、再び一人の女性が訪れた。梅原・杏子(うめはら きょうこ)、24歳。幽霊や人外の存在をも対象としているという、世にも珍しい銭湯を営んでいる。
「この間は有難うございました。お陰で大盛り上がりでした」
 にこにこと、杏子は話した。以前、熱い湯派と温い湯派で大々的なケイドロを開催し、草間興信所に『事態を寄り楽しく、より盛大に』する為に依頼をしたのだ。
「いえいえ。あんなんで依頼料をいただけて、こちらは大変嬉しかったですよ」
 ケイドロ、という子どもの遊びのようなものに参加するというだけで、依頼料を貰ったのだ。
「それで、今回はどうされたんです?」
「それが……再び大会を開催する事になりましたので、また是非参加して頂きたいのですが」
「それはいいですが……何故?またお湯の温度でもめてるんですか?」
 草間が尋ねると、杏子は小さく溜息をつく。
「いえ……。温度はあれで決着がついたんですが」
 事の始まりは、他愛も無い一言だったという。「たまには入浴剤とか入れても良いのではないか」と、ただそれだけ。
「すると、それを聞いていたお客様の一人が『入浴剤は邪道だ、あえて言うならば柚子と菖蒲だけだ』と仰って」
「つまり、湯に何も入れない派と入浴剤を入れる派で分かれてしまったと?」
「ええ。また日替わりでいいと思うんですが……」
「最初の一日をもめていると。……で、またケイドロですか」
「今回は缶蹴りなんです」
「え?」
「二つのグループに別れ、拠点を4つ置いて盛大に缶蹴りです」
「また、あの山でですか?」
「ええ。缶は東西南北、四方向に置きます。缶は大小様々な大きさで」
「それでまたグループ分けをあなたがする、と?」
「いいえ。今回は申告制でお願いしようと思ってます。因みに無色派が守り、有色派が攻撃です」
「分かりました。またお手伝いさせてもらいますよ」
 草間はそう言って、必要事項の書かれている紙を受け取りながらにっこりと笑うのだった。

●再掲示
 草間興信所に、一枚の紙が貼られていた。件の缶蹴り大会の必要事項だ。それの一番下に「参加希望者募集」と赤い字で書き連ねられている。
「あら」
 黒髪の奥の青い目をぱちぱちと瞬きさせながら、シュライン・エマ(しゅらいん えま)は紙を見つめた。
「武彦さん、これ」
「ああ。また揉め事が起きたんだと」
「今度は缶蹴りなのね」
 くすくす、とシュラインは笑う。前回行われたケイドロ大会をふと思い出しながら。
「どうしても大会を盛大にやりたいらしいな。ま、うちは儲かって良いんだが」
「本当にねぇ。……へぇ、申告制なのね」
「シュラインはどちらに行くんだい?」
「そうねぇ」
 シュラインはそう呟き、「んー」と言いながら考え込む。
「温泉銭湯等、元々お湯に色がついてるんじゃない限りそのままが良いかな。入浴剤ってどうしても家風呂なイメージがあるのよねぇ」
「つまり、無色派か。じゃあ、守りだな」
「そうね」
「怪我とかしないように気をつけろよ」
「有難う。……って、今回も武彦さんは参加しないつもりなのかしら?」
 シュラインはそう言い、ちらりと草間を見る。草間は何も言わず、煙草に火をつけて煙を吐き出す。
「いつもゴロゴロしてたんじゃあ、体がなまるわよ?」
「ゴロゴロしてる訳じゃないぞ?……ほら、いつ依頼が入るか分からないしな」
「零ちゃんがいるじゃない」
「や、だからだな」
「毎日不健康なんだし、たまには体を動かしたらどうなのかしら?」
 悪戯っぽく、シュラインは草間を見つめた。草間はぐっと言葉に詰まる。ゴロゴロしているのも、不健康なのも全くの事実であったからだ。
「……勝負あったわね」
 何も言い返せない草間に、シュラインはにっこりと微笑んだ。草間はそんなシュラインに対して諦めにも似たため息を漏らす。
「君には勝てないな」
 草間はそう言い、それからシュラインのしたように悪戯っぽくにやりと笑う。
「但し、缶蹴りでは負けないからな」
「え?」
「俺は有色派だから」
 呆気に取られるシュラインに、もう一度草間はにやり、と笑って見せるのだった。

●開始
 当日、空は雲一つ無い青空が広がっていた。じっと日向に立っていると、汗がじんわりと滲み出してくるようだ。
「皆さん、こんにちは」
 にっこりと笑いながら、杏子は草間興信所の調査員と草間がいる所にやって来た。
「今回もお手伝いしていただけて、本当に良かったです」
「いえいえ。うちとしては依頼をいただけて何よりですよ」
 負けずに草間もにっこりと笑う。
「そうそう。それ以上にまた呼んで頂けて嬉しいもの」
 草間の横に立っていた、シュラインがにっこりと笑いながら言った。手ぶらに近い彼女は、特に持ってきたものも無いようだ。
「本当に幽霊さんや妖怪さんがいるんですねぇ」
 きょろきょろと青い目で辺りを見回しながら、青い髪の海原・みなも(うなばら みなも)は興味深そうに言った。手には紙袋と、ペットボトル。透き通った水がたぷん、と軽く揺れた。
「で、旅館って何処なんスか?」
 みなもと同じくきょろきょろしながら、天壬・ヤマト(てんみ やまと)は言った。金髪の奥にある青の目は、しきりに何かを探しているようだ。そして、妙に大きな荷物も気になる所だ。
「ここは銭湯であってだなぁ……」
「今日も良い天気ですなぁ」
 草間の言葉を遮り、護堂・霜月(ごどう そうげつ)が言った。網代笠から覗く銀の目が、悪戯っぽく光る。草間に微妙に目配せしながら。そして、霜月も妙に大きな荷物を持ってきていた。なにやら重そうな荷物を。
「……取り憑かれたりしないだろうな?」
 ぼそり、と守崎・啓斗(もりさき けいと)が呟いた。茶色の髪の奥にある緑の目は、しきりに周りを気にしている。手には軽そうな荷物。
「大丈夫だってば。万が一何かあったら、俺が何とかするって」
 ばんばん、と啓斗の背中を叩きながら茶色の髪に青い目の守崎・北斗(もりさき ほくと)は言った。こちらも啓斗とは色違いの鞄を持っている。
「チームはどうなってるのかしら?」
 シュラインが杏子に聞くと、杏子は赤い鉢巻を北斗と草間に手渡す。
「自己申告制にしてもらったら、片寄っちゃいました。有色派が圧倒的に少ないんですよ」
「そうなのか?」
 北斗が尋ね返すと、杏子はこくりと頷いてメモをポケットから取り出す。
「有色派が全部で12人ですね。残りの88人は無色派です」
「そんなに違うんスか!なら、多数決とかで良かったんじゃ無いスか?」
 ヤマトが驚いて言うが、杏子はにっこりと笑いながら首を振る。
「それじゃあ、不満が残るでしょう?皆さんで納得して貰わないと意味が無いですから」
「そんなもんなのか」
 啓斗がぽつりと呟く。
「それにしても、差がありますね。確かに守りは、ただ蹴るだけの攻撃よりも不利ですけど」
 みなもは言うが、杏子はにっこりと笑ったまま答える。
「有色派の方は、その不利さを押してでも入浴剤を入れたい!って思ってらっしゃいますから、大丈夫ですよ」
「にしても、少なすぎる事はねぇか?」
 赤い鉢巻をつけながら、北斗は言った。杏子はただ笑うだけだ。
「そう言えば、草間殿も参加なのじゃな」
 霜月が鉢巻をつけている草間に気付き、言う。
「ま、諸々の事情があってな」
 草間はちらりとシュラインの方を見て言った。一同はその様子ににやりとし、シュラインと草間を見比べる。
「な、何よ」
 ほんのりと頬を赤らめ、シュラインは皆をじろりと見ました。
「では、そろそろ始めましょうか」
 杏子がそう言い、皆は途端に真剣な顔つきになる。荷物を本部として設置しているテントに預け、有色派の北斗と草間は有色派の方に、他のメンバーは無色派の方に集まった。
「それでは、これから缶蹴り大会〜無か有か〜を始めます!」
 拡声器を使い杏子が壇上で言った途端、わあ、と声が広がった。
「ルールの確認をします。東西南北に、大小様々な缶が置いてあるので、無色派はそれを守りつつ、有色派を捕まえてくださいね。有色派は無色派から逃げつつ、缶を蹴る為に狙ってください。尚、有色派の人を捕まえても、缶を蹴られたら一旦逃がし、一分間は手出しする事ができません。また、一度蹴られた缶を元の位置に戻しても無効なので、蹴られてしまった缶の場所よりもさっさと蹴られてない缶の所に行って守るか、有色派の人を捕まえた方がいいですよ。四つ全ての缶を蹴れば有色派の勝ちです。逆に一つでも缶を守りきるか、有色派全てのメンバーを捕まえれば無色派の勝ちとなります」
「つまりは、一個でも守りきればいいだけの話っスね」
 ぼそり、とヤマトが言う。
「それか、全員捕まえるかよね」
 頷きながら、シュラインも言た。
「そうそう、2・3注意があります。まず取り憑く事、生命の危機に関する攻撃の禁止です。あと、缶を蹴られた後の一分間内に手を出したら、即退場にしますからね」
「……結構、厳しいんですね」
 みなもがぼそりと呟く。
「まあ、それも仕方無かろうて。るーるというものは、守る為にあるのじゃから」
 霜月が頷きながら言う中、一人啓斗はほっと息をついている。
「取り憑かれることはないようだ」
 ぼそり、と啓斗は呟く。
「では、始めましょう!制限時間は今から2時間です。有色派の人は逃げてください!無色派の人は3分後に追いかけるか配置についてくださいね。ああ、そうそう。三分間の間は缶を蹴ってはいけませんからね。じゃあ、始め!」
 杏子はそう叫び、笛を吹いた。途端、有色派の面々は山に向かって走り出す。
「さて、三分後に備えるか」
 霜月は屈伸を始めた。みなもはペットボトルをきゅっと握り締め、微笑む。
「何だか楽しみになってきました」
「そうねぇ。結局前回も楽しかったし」
 シュラインは笑いながら言う。
「そうなんスか。いいなぁ、オレも頑張るっスよ!」
 ヤマトはうーんと伸びをしながら意気込む。啓斗はぼんやりと時計を見る。
「そろそろだ」
 それと同時に、杏子は「始めてください!」と叫んだ。缶蹴りが本格的に始まったのである。

●東
 シュライン・霜月・ヤマトの三人は東の缶の前にいた。
「……出たわね、ドラム缶」
 妙に嬉しそうに、シュラインは呟く。
「流石じゃ。これを待っておったのじゃよ!」
 きらきらと目を輝かせ、霜月は嬉しそうに言う。
「これも缶といえば缶スからねぇ。でもちゃんと蹴れるんスかね?」
 目の前にある赤いドラム缶を見て、ヤマトは不思議そうに言う。
「蹴るんじゃなくて、これは倒すって言った方がいいでしょうね。こんなに大きいんじゃそれしかないでしょうし」
 コンコン、と缶を叩きながらシュラインは言う。霜月はドラム缶を覗き込む。上部は蓋が無く、コップのようになっている。
「これ、裏返してもいいかのう?」
「いいんじゃないスか?別に缶は缶に変わりないスから」
 ヤマトが言うと、霜月は片手でひょいと持ち上げ、裏返す。中身がないとはいえ、ドラム缶を軽々と持ち上げてしまったのだ。
「重くないの?」
「重くはないですな」
 シュラインの問いに、平然と霜月は答える。裏返したドラム缶を満足そうに見つめ、それから缶の周りをうろうろと歩き始めた。
「何してるんスか?」
「うむ、ちょっとした地雷を埋めておるのじゃ」
「地雷?……護堂さん、生命の危機に関するのは禁止って」
「いやいや、これは大丈夫な地雷じゃよ。拙僧の考案したトリモチ地雷じゃ」
 うきうきと嬉しそうに、霜月は埋めていく。
「何だか楽しそうス……。オレも手伝うっス!」
 様子を見ていたヤマトが、それに加勢した。シュラインは小さく苦笑しながら見守る。
「本当に大丈夫なのよね?」
「当然じゃ!尚、この中の一つには人体に優しいのもあるのじゃよ」
「え?どれっスか?」
 興味津々のヤマトに、霜月はにやりと笑って一つの地雷を取り出す。地雷というか、茶筒というか。
「これを踏むと、なんと癒しの薔薇の香りがするのじゃ!」
「へぇ、凄いス!」
「……それ、本当に癒されるのかしら?」
(というか、何の意味があるのかしら?)
 首を傾げるシュラインの思いを他所に、ヤマトはその地雷を見せて貰い「本当に薔薇の香りがするっス!」とどこか得意顔の霜月に嬉しそうに言っている。
「……これで全部じゃな」
 ぱんぱんと、手についた土を払いながら霜月は言うと、ぴょんと飛んでドラム缶の上に座り込んだ。
「護堂さん、何してるんスか?」
「見張りじゃ。今から鋼糸を張り巡らし、制空権も得るからのう」
「ああ、それでドラム缶の上に乗ったのね」
 シュラインが納得したように言うと、暫く霜月は黙ってからこっくりと頷いた。
「……ドラム缶の上に乗りたかっただけじゃないスか?」
 こっそりとヤマトがシュラインに耳打ちする。
「それは言ってはいけないわ」
 苦笑しながらシュラインは答える。
「じゃあ、オレちょっと見回りに行って来るっス」
 ヤマトはそう言って山に向かう。シュラインは目を閉じ、耳を澄ます。辺りにいる存在の息遣いを探る為に。
「まって、天壬君!……うん」
 シュラインはそっとヤマトに近付き、耳打ちする。
「そこの茂みに、誰かいるわ」
 シュラインは同様に霜月にも伝えると、ヤマトと霜月は顔を合わせてさっと構える。
「……オレはこっちにおびき寄せればいいスね」
「そして、ここで捕まえるという訳じゃな」
「私は一人じゃないと思うから、その仲間の声や音を覚えて霍乱するわ」
 互いに顔を合わせ、そっと身を潜める。すると向こうから一人の男の幽霊が飛び出してきて缶に向かって行った。空からの攻めらしい。
「ふん!」
 霜月は鋼糸を操り、それを弾いた。次に横の方から狸が出てきて、くるりとバク転した。途端、プロレスラーのような男に変化する。
「待つっス!」
 巧に逃げようとしながら缶に向かってくる狸を、ヤマトは追う。少しずつ地雷の埋めてある方に誘導するように。そして、軽く爆発が起こる。
「うお!」
 狸が爆風で飛ばされると同時に、粘着質な物質が辺りに飛び散った。そこに狸は着地する。見事に捕獲完了。
「凄いっス……」
 ヤマトは呆気に取られた。考案者の霜月は妙に嬉しそうだ。
「あと一人いるわね……」
 ちらりとシュラインが目をやると、それは草間だった。爆発に目を奪われていた隙に、茂みから飛び出してきたのだ。
「む、草間殿か」
 霜月がドラム缶の上にすっくと立ち上がり、鋼糸を構えて放った。だが、草間は器用に避け、真っ直ぐに缶に向かう。
「蹴らせないっスよ!」
 ヤマトは地を蹴り、草間を追いかける。上手く地雷のある方に誘導する為に。だが、草間は先ほどの狸の様子を見ていたのであろう。地雷のある場所を大きくそれ、遠回りで缶に向かってきた。シュラインは大きく息を吸った。
「草間、危ねぇぞ!」
「何?」
 北斗の声に、草間は慌てて振り返りながら身構えた。が、そこにいたのはにっこりと笑うシュライン。
「しまっ……」
 後悔するのも束の間、気付けば霜月の鋼糸に足元を掬われ、ヤマトに上から押さえつけられていた。
「チェックメイトね、武彦さん」
 にっこりとシュラインは微笑み、草間を見下ろすのだった。

●終了
 ピー、という笛の音があたりに鳴り響いていった。
「はーい、終了です」
 杏子が拡声器を通じて皆に通告する。皆、名残惜しそうにスタート地点にぞろぞろと帰ってきた。その際、杏子の手伝いをしていた霊が缶を回収していた。
「発表します。蹴られた缶は北と南の二箇所だけです。という事で……無色派の勝ちです!」
 わあ、と会場がざわめいた。負けてしまった有色側も、何だか晴れ晴れとした顔をしているが。
「因みに、二つ缶を蹴ったという事で……週に二回は入浴剤を入れますね。月曜日と木曜日にします」
「週二回しか入浴剤を入れねーんだ」
「まあ、敗者だからな」
 ちょっとだけ不満そうな北斗に、草間が宥める。
「にしても、楽しかったっスねぇ!」
 うーんと伸びをしながら、ヤマトは言った。
「そうねぇ。いい運動になったわよね。ね?武彦さん」
 ちらりと草間を見て、シュラインは悪戯っぽく笑う。草間は何も答えず、苦笑しながら煙草を一本口にくわえた。
「今日はいまらか無色のお風呂にしますね。皆さんどうぞ入っていってくださいね」
 にっこりと笑い、杏子が言った。啓斗はほっと息をつく。
「良かった……無色の風呂に入れそうだ」
「いっつも家で無色のに入ってるじゃん」
 突っ込む北斗を、啓斗はぎろりと睨む。
「お前がたまに訳の分からん赤い入浴剤を入れたりしなければ、毎日無色なんだが」
「え?あれ気に入った?今日実は持ってきたんだぜ!」
 じゃーん、と言いながら北斗は唐辛子の入った入浴剤を取り出す。いらんいらん、と無色派5人が手を振った。その中で、霜月はぼそりと呟く。
「薔薇の香りならば、いいんじゃがのう」
 薔薇の香りのする坊主。皆不思議な感覚に一瞬捕らわれてしまった。
「じゃあ、皆さんお風呂上りにお茶でもしませんか?あたし、クッキーと新茶を持ってきたんです」
 紙袋を見せながら、みなもは微笑む。皆、こくこくと頷いた。そして一同は銭湯へと向かうのだった。

 風呂上り、宴会場。そこでは杏子が軽くつまめる食べ物と、牛乳や珈琲牛乳、フルーツ牛乳を用意していた。勿論、お酒も。
「かー!風呂上りのフルーツ牛乳はやっぱり美味いな」
 フルーツ牛乳のビンを握り締め、北斗が言う。
「……邪道だ。白牛乳を飲まないと」
 何となく不機嫌そうに、啓斗が牛乳のビンを持ったまま言った。
「どうしたの?啓斗君。なんだか不機嫌ねぇ」
 みなもの持ってきてくれた新茶を飲みながら、シュラインが尋ねる。
「……俺の持ってきたはずの無香料の入浴セットが、いつの間にか花の香りに変わっていてな」
 ぎろ、と北斗を睨む。北斗はただにやりと悪戯っぽく笑うだけだ。
「良いではないか。ふろーらるな香りも、安らぐものじゃから」
 ふんわりと薔薇の香りを漂わせながら、霜月が言った。どうやら、本当にローズオイルを持ってきていたらしい。薔薇の香りのする坊主、という不思議な感覚に、皆はあえて何も言えなくなっていた。
「このクッキー、美味しいっスね!」
 ヤマトは自分でバイト先から持ってきたというソルティードッグを飲みながら、みなもの作ってきたクッキーを頬張る。みなもは少しだけ照れながら微笑む。
「霊水を使って作ったんです。美味しくてよかったです」
「へぇ、霊水……」
 皆、はっとして後ろを振り返る。見ると、みなものクッキーを食べた何人かの霊が軽く成仏しかけていた。慌てて周りが押さえつけていたが。
「ある意味、成仏する事はいい事なんじゃないかしら?」
 シュラインがぼそりと呟く。
「いや、そうするとここの売上が少し減るじゃないか」
 草間は冷静に判断する。自らの興信所を振り返っているのであろうか。
「じゃあ、皆で今からトランプでもしないスか?それとも、ウノ?」
 ヤマトが鞄から色々な遊び道具を取り出し始める。
「そうだ、忘れていたが天壬君。ここは決して旅館では……」
「あら、皆さん。今日は泊まっていかれるんですか?」
 説明しようとした草間の言葉を、杏子が遮った。にこにこと笑い、皆を見回している。
「泊まるって……ここ、銭湯ですよね?」
 みなもが尋ねると、杏子はにこにこと笑ったまま頷く。
「どうも今日は皆さん夜通し騒ぐみたいですから。良かったら泊まっていってください」
「え?いいのか?」
 北斗の問いに、にっこりと笑ったまま杏子は「はい」と答える。
「北斗……」
「いいじゃん、兄貴。一日くらい」
 啓斗は少しだけ考え、それから諦めたように頷いた。
「お泊りって何だかわくわくしますね」
 みなもがうきうきとしながら言う。
「そうじゃな。しかも、メンバーも濃いしのう」
 辺りを見回し、霜月が言う。皆の視線が霜月に集中した。お前が言うな、と突っ込む視線と共に。
「じゃあ、次の入浴剤の日には何を入れるかを賭けてトランプしないっスか?」
 ヤマトの提案に、皆が乗った。シュラインと草間は顔を合わせる。
「また賭けをするのねぇ」
「さっきまでしていたのに、物好きな連中だ」
 草間の煙草の煙が、ゆらゆらと天井に立ち昇る。トランプのカードが、ヤマトの提案に乗ってきたメンバーの手元へと配られていく。至極柔らかな雰囲気の中で。
「それもいいんじゃない?平和な証よ」
 シュラインは微笑む。かくして、再び戦いの火蓋は切って落とされていた。次の入浴剤を、何にするかを賭けて。

<入浴剤の種類を決めながら・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 /26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生 】
【 0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17 / 高校生 】
【 1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶 】
【 1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生 】
【 1575 / 天壬・ヤマト / 男 / 20 / フリーター 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハです。霜月玲守です。この度は「ザ・セントウ2」に参加して頂き、本当に有難うございました。如何だったでしょうか?
 この「ザ・セントウ2」では皆様にチーム分けとして有色派か無色派か自己申告していただいたのですが、その結果素敵な片寄りが。びっくりしました。やはり、無色の方がいいんでしょうか。有色派を攻撃としたので、きっと有色が多いのだろうと踏んでいたのでちょっとびっくりしました。でもそれぞれに理由があって個人的には凄く嬉しかったです。
 シュライン・エマさん、いつも参加して頂き、本当に有難うございます。今回は草間にも参加を促していただいたので、特別に参加させてみました。どうだったでしょうか。そういえば、草間がこんなにも依頼に出張っているのは初めてかもしれません。書く機会を与えていただき、本当に有難うございます。
 今回も少ないながらも、それぞれの文章となっております。宜しければ見比べてみて下さいませ。因みに、缶蹴りでは2グループに分けております。
 ご意見・ご感想等心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。