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今夜は朝までパワフルポーカー
●VS天王寺綾【1E】
あやかし荘『桔梗の間』――外観には似つかわしくない豪華さの漂うこの部屋にはテーブルを囲む2人の女性の姿があった。
1人はおおよそ想像がつくかもしれないが、この部屋の住人である天王寺綾だ。そしてテーブルを挟んでもう1人、綾の正面に座っているのはシュライン・エマである。
「……んー……」
シュラインは落ち着かない様子で、ちらちらと室内を見回していた。
「別にたいしたもんはあらへんで。安物ばっかりや」
綾はカードをシャッフルしながら、さらりと言ってのけた。
(安物って言っても……桁1つ違うんじゃないの?)
シュラインは内心そんなことを思っていた。家具や何やと詳しくない人間でも、この部屋に入ればたぶんいい物が置いてあることは分かるだろう。つまりそういう部屋なのだ。余談だが、綾がシャッフルしているカードも他の部屋の物に比べて質が高いような気がする。
(事務所と大違いだわ)
比べちゃいけないのだろうが、つい比べてしまうシュライン。まあ、草間に同じレベルを求めるのは酷だろう。
「遊びでも、うちは負けへんで」
綾はニッと笑ってみせると、シャッフルを終えたカードを配り始めた。最初にシュライン、次に綾、1枚ずつその繰り返しである。
そして5枚ずつ配り終えると、綾は残りのカードを山札として場に置いた。
「一応こっちも負けたくはないんだけど」
そう言ってシュラインは、目の前に置かれたカードを手に取った。綾もそれに続いた。さあ、ゲーム開始である。
●カードチェンジ・シュライン1回目【2G】
〈ダイヤ 4〉
〈スペード 6〉
〈クラブ 7〉
〈ダイヤ 8〉
〈スペード 3〉
「ん……っと」
シュラインは手札のカードを並び変えると、これからどうするかを思案してみた。
現時点ではノーペアである。けれども数字の並びを見てみると、上手くストレートを狙えるような並びになっていた。
(強め強めの役は狙っていきたいけど……?)
この手札内容だったら、ストレートを狙うのが妥当なのかもしれない。その場合、どのカードを捨てるべきかという問題がある。〈ダイヤ 8〉を捨てて5を待つか、それとも〈スペード 3〉を捨てて5を待つかだ。
(広がりがありそうなのは、スペードの3を捨てることかしら)
例えば〈スペード 3〉を捨てて次に9が来たなら、5だけでなく10も待つことが可能となる。逆に〈ダイヤ 8〉を捨てたなら、5しか待つことが出来ない。確率を考えたら、断然前者だろう。
シュラインは一旦手札から視線を外すと、綾の方を見てみた。綾は相変わらず自信たっぷりの表情を浮かべていた。
(読めないわねえ)
綾の表情から手札の内容を察するのは、どうやら難しそうである。
シュラインは手札からカードを1枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。
捨て札:〈スペード 3〉
●カードチェンジ・綾1回目【3E】
シュラインのカードチェンジが終わると、今度は綾のカードチェンジである。
「ちゃっちゃと行かなな、ちゃっちゃと」
綾は思案もそこそこに、手札からカードを2枚選び出して場に捨てた。
捨て札:〈クラブ 6〉
捨て札:〈スペード K〉
そして山札から新たにカードを2枚引く綾。
「何かあれやなあ」
綾がぼそっとつぶやいたのを、シュラインは聞き逃さなかった。
(まだいい役は出来てないみたいね)
つぶやきからシュラインはそう踏んだ。仮に役が出来ていたとしても、大きな役ではないだろう。勝てる可能性は十分にあった。
ゲームは2回目のカードチェンジへと入っていった。
●カードチェンジ・シュライン2回目【4G】
〈ダイヤ 4〉
〈スペード 6〉
〈クラブ 7〉
〈ダイヤ 8〉
〈スペード Q〉
「むー……」
思案顔のシュライン。それも無理はない。何しろ3がQに変わっただけなのだから。
(このままストレート狙いで押し進めるしかないかしら。ちょっと危険だけど、せっかくのお遊びだしねえ)
5が出なければ、ノーペア確定である。しかし5が出てくれれば、たちまちストレートに化ける。まさに生きるか死ぬか、である。
結局シュラインは、先程引いたカードをそのまま場に捨てることにした。
捨て札:〈スペード Q〉
山札から新たに1枚カードを引くシュライン。そして手札に加えようとした瞬間、カードを見てぎょっとした。
(え? これって……)
はてさて、いったい何のカードが来たのだろうか。
●カードチェンジ・綾2回目【5E】
シュラインの2回目のカードチェンジも終わり、綾の最後のカードチェンジを迎えた。
「勝負かけんとしゃーないかな」
綾はそう言って、手際よく手札からカードを2枚選び出して場に捨てた。
捨て札:〈ダイヤ A〉
捨て札:〈クラブ 9〉
捨てたら今度は引かなければならない。綾は山札からカードを2枚引いて手札に加えた。
シュラインは綾の表情を注意深く見ていた。すると、引いたカードを手札に加える瞬間に綾の口元が一瞬ゆるんでいた。
(狙ってたカードが来たのかしら?)
この反応はそうとしか考えられない。問題はその結果、どのような役が成立したかである。
ゲームはついにショーダウンへと入っていった。
●ショーダウン・VS天王寺綾【6E】
さて、ショーダウンである。先に手札を開くのはシュラインだった。
「最後にいいカードが来ちゃって……ね」
と言って、シュラインは手札を開いてみせた。
〈ダイヤ 4〉
〈スペード 6〉
〈クラブ 7〉
〈ダイヤ 8〉
〈ジョーカー 〉
「ストレートよ」
何と、最後にシュラインが引いたのは〈ジョーカー 〉であった。その結果、土壇場でストレートが成立したのである。
シュラインにストレートを出されて、綾は意気消沈するかと思われた。けれども綾は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ほな、今度はうちの番。うちは……これや!」
綾は一気に手札を開いてみせた。
〈ハート 2〉
〈ハート 3〉
〈ハート Q〉
〈ハート 8〉
〈ハート 10〉
「ええっ!?」
驚くシュライン。何と何と、綾の手札にはフラッシュが成立していたのである。こちらも土壇場、最後のカードチェンジで成立したのだった。
ストレートとフラッシュ、強いのはもちろんフラッシュである。
「うわあ……やられちゃったわ」
シュラインが天を仰いだ。かくして最後のゲームは土壇場の大逆転、綾の勝利で終わったのだった。
●マッサージでGO!【7E】
「……お加減はいかがでございますか、お嬢様」
「うんうん、わらわは満足じゃ。ほめてつかわそう」
どこの時代の話だと言いたくなる会話だが、この会話はシュラインと綾によって交わされていた。
綾はマッサージチェアに座ってゆったりと、そしてシュラインはそんな綾の足をマッサージしていた。
綾の出した命令、それはフットマッサージをするという物であった。しかもその間は、『お嬢様と従者』という設定で会話するという条件までつけられて……いやはや、何と言いますか、これは。
(うう……どこでこうなったのかしら)
何となく釈然としない思いを抱きながら、夜明けのフットマッサージを続けるシュライン。続けているうちに微妙に上手くなってきたような気がするのが、少し悲しかった。
「そこ……そこをもう少し強く」
「……ここでございますね、お嬢様」
言われた通りに、シュラインは足の裏を押した。恍惚の表情を浮かべる綾。上手くツボに入り、気持ちがいいようだ。
あやかし荘中に響き渡る三下の悲鳴を耳にしたのは、ちょうどそんな時であった――。
【今夜は朝までパワフルポーカー 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
/ 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
/ 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
/ 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
/ 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
/ 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
/ 男 / 17 / 高校生 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・シュライン・エマさん、54度目のご参加ありがとうございます。何とも惜しかったですねえ。たぶん一番接戦だったのが、この部屋だったのではないかと思います。ああ、フットマッサージ何となく慣れたみたいです、どうやら。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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