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6月の花嫁
☆オープニング
月刊アトラス編集部に入ってくる一人の男。
「碇さん、ちょっと宜しいでしょうか?」
月刊アトラスを発刊している白王社では、ほかにも色々な雑誌を発刊している。
そして碇に声を掛けたのは、白王社の結婚情報誌「スゥィート・ケーク」の編集長の男性であった。
「……何? 忙しいのよ、こっちは」
「悪い話じゃないですよ? きっと碇さんの待ち望んでたことだと思うのに」
「……まぁいいわ。 どんな話?」
「ああ、今度うちの雑誌で模擬結婚式を上げることになったんだ。そこで、独身でもう花のこなさそうな女性を探してたのですよ!」
碇のこめかみが、ぴくぴく震えている。
誰もが、碇が手を出すだろうと覚悟する……が、手を出さない。
碇も女性。かなり男勝りな部分はあるものの、れっきとした女性なのだからジューンブライドに憧れている、そんな夢見る女性であったりする。
「……分かったわ、出てあげる。あくまでも【模擬結婚式】だけどね」
皮肉めいた事を言う碇だが、それはあえて気にせずに。
「話が分かるな、碇。ま、相手はこいつさ、目、通しておいてくれよ、じゃな♪」
と注文するだけ注文して帰っていった編集長の男。
碇がその封筒を開けて、写真を見ると。
「……ふぅん」
碇の見た写真には、かなり点数高そうな男性が写っている。
「……ま、頑張ってみましょうか。 結婚式なんて、した事ないし」
☆結婚式〜準備中〜
というわけで、結婚式当日の早朝。
結婚式場に一番早く来たのは、宮小路・皇騎であった。
「デジカメはここで、ビデオカメラはここに置いて、と……碇さんの晴れ姿、このビデオカメラにしっかりとおさえさせてもらうぜ」
思わず笑みが浮かんでしまう宮小路。御曹司の財力の賜物か、カメラの数は大量。
どこかの芸能人、のハデ婚のようなカメラの数に、そりゃ結婚式場の係員は驚く。
『こんなに一杯……そんなに有名な方の結婚式なのですか?』
「いや、有名人じゃないよ。これはただの趣味でとってるだけだ」
宮小路がさらっと言うものの、とても趣味とはいえない数。
「ま、巧く撮れればいいが……こっそりアトラスの極秘記事にするなり、希望者に配布するなり……勝手にしてくれても構わないし。所詮俺の知った事じゃないしな」
カメラの調整をしながら、式の時間を待つ宮小路であった。
「わぁ〜、綺麗〜♪ 碇さんこれを着るの? すごい綺麗〜。きっと似合うよ〜♪」
クローゼットに掛けられている着用前のウェディングドレス。
興奮している声は鈴代・ゆゆ。結婚式場の設備を、一通り目を輝かせ、最後にここ新婦の控え室へとたどり着いた。
既に彼女の想像のエンジンは全快、理想の結婚式を自分の頭の中に描いていた最後の止めにこのウェディングドレスだ。
その隣にはゆゆと同様に目を輝かせている二人の少女、海原・みあおと志神・みかねもウェディングドレスに目を奪われていた。
碇の傍にはステラ・ミラが立っていて護衛をしている、この場に居るのは碇達月間アトラス編集部の面々達。
しかし三下だけは、碇の為に準備するって部屋を出て行ったきりここには居ない。
そんな三下を心配するのがみかねだ。
「三下さん、大丈夫でしょうか」
「きっと大丈夫だよっ。 みあおが聞いた限りじゃ、碇さんの妨害になりそうな事はしないみたいだしさ」
みあおは事前に、三下が結婚式でする行動を調査していたが、その中には"普通に"やれば妨害にならない事ばかりしかする予定しか無い。
「でも三下の事だから、三下の"ラグナロク級"の不運でどうなるかは分からないけどね、でもその為にみかねもゆゆも居るんでしょう? だから大丈夫だよっ♪」
みあおの言葉に頷く碇。碇自身も三下のせいで何か起こるだろうというのは容易に想像できる。
「まぁ模擬結婚式だし、別にこれを一生の思い出にしようとは思ってないから大丈夫よ。みんなは気張らないで結婚式を楽しんで。貴方達にとってもよい勉強になると思うから。そうそう、三下がヘマしたら別に減棒ですむ事だしね」
どこかいつもの碇と違う。周りに小さな少女達がいたからこそ、優しい一面が出ているのだろうか。
『そろそろ、ウェディングドレスの方を着てみましょうか?』
係員が部屋に入ってきて、碇を促す。
碇はウェディングドレスを着る為に更衣室へと向かった。
主役の居なくなった新婦の部屋が静かになる。アトラスの面々は結婚式場へと向かう。
「それじゃ、私は心配ですから三下さんの所に向かいますね。 三下さん失敗ばっかりだから、私が手伝ってあげないと……どうなるか分かりませんから」
みかねはそう言って部屋を出て行く。みあおも同じく部屋を出て行く。
そして部屋に残るのはステラとゆゆの二人。
更衣室からウェディングドレスに身を包んだ碇が出てくる。
頭には宝石で作られたティアラ、そして胸元には輝くダイヤモンド。
「うわぁ……これって、この結婚情報誌に載っているウェディングドレスじゃな〜い? 数百万するウェディングドレス〜。 憧れちゃうなぁ〜♪」
ゆゆの手に握られていた雑誌はもちろん「スゥィート・ケーク」。
雑誌にはこのウェディングドレスは一流デザイナーによって作られた、と書かれていたのだ。
「ゆゆちゃんも大きくなったら着れるわよ? 私のよりも良いウェディングドレスをきっとね」
碇の微笑みも、どことなく気品があるように見える。アトラスの編集部員達を一言で切り捨てる女編集長とはとても思えない。
「本当に綺麗ですね……これは生半可な気持ちで着ていいものとは思えないのですが、碇様はどう思われます?」
「いきなり何を聞いてくるのよ?」
怪訝そうな顔をする碇だが、ステラは至って真剣な顔。
「答えてください。かぼちゃ仮面が貴女を狙っているのですから」
「……そうね、確かに生半可な気持ちで着ちゃいけないとは思うわ。結婚式は女性にとっては憧れだし、私もいつかはこんなウェディングドレスを着たいと思ってる。でも、どうせ自分には機会は無いと思っているから」
(……結婚式は望んでいるようですね、でも自分にその機会は無いと思っている、と)
その時、式場にアナウンスが流れる。
『結婚式が始まります。付添い人の方以外は、皆様大聖堂にお集まり下さい』
「あ、もう時間なんだ。碇さん、それじゃ結婚式場で待ってるね〜。晴れ舞台、頑張ってね♪」
「私も失礼致しますね。碇さん、結婚式を最高の思い出にしてさしあげますよ」
「ありがとうゆゆちゃん、ステラさん」
碇はそう言うと、係員に促されて新郎の下へと向かった。
☆結婚式〜本番〜
式場にウェディングマーチが鳴り響き、式が始まる。
参列者が全員席に着席すると、神々しい牧師の言葉が始まる。
『晴天の下、皆様お集まりいただきありがとうございます。 今日は新郎・小高と新婦・碇の結婚式を執り行います』
「結婚式って、こんな感じで始まるんですね……」
初めて体験する雰囲気に感心するみかね。牧師の始めの言葉が終わり式場入り口のドアが開いた。
新郎・新婦の入場である。
バージンロードを歩く新婦、碇のウェディングドレスの裾を持っているのはみあお。
タキシードとウェディングドレスの二人の姿を見て、ゆゆは既に夢見心地。既に僅かな幻影能力が発動していた。
「たくさんの人に祝福されるって、こんな感じなのね〜」
宮小路が式場に入ってからの碇を撮り続ける。ウェディングドレスを着た碇を前後左右、四方八方から。
「綺麗ですよ、碇さん。ちゃんとこのカメラに写してあげましょう。(後でどう使われるかは知った事じゃありませんが)」
牧師の前ま二人がで到着すると、誓いの言葉が始まる。
『新婦、碇・麗香。 貴女は新郎、小高を生涯伴侶として付き添う事を誓いますか?』
牧師の言葉に、碇は頷き誓う。
「わぁ……碇さん、本当に綺麗〜。何か輝いてる〜♪ 私もあんな結婚式が出来ればいいなぁ〜」
更に妄想が爆発していくゆゆ。更に幻覚視聴能力がフルパワーで発動していた。
きらきらと輝くウェディングドレス、ステンドグラスより差し込む輝く光、それに反射する碇の胸元のダイヤモンド、そして神々しい雰囲気の中に舞い降りる天使等……ゆゆの理想の結婚式が広がっていた。
「ゆゆちゃん、こういう結婚式が憧れなんですね」
隣の親友の想像を目の当たりにするのはいつもの事だが、自分もこんな結婚式だったら……止める事はしなかった。
でも、その幻覚にびっくりしたのが三下だった。
「わ、わぁぁっ! ゆ、幽霊ですぅっ」
「う、歌が聞こえてきますぅぅっ!」
天使を幽霊と勘違いしてみたり、大勢の観客(幻影)が歌う賛美歌に驚いたり。大声を上げて驚きかける三下。
みあおが慌てて三下の口をおさえ、手を引っ張り外へと連れて行く。
「あれはゆゆの幻影だよ? 何度も体験したでしょっ?」
「す、すみませぇんっ……」
三下とみあおはさておき、教会での式も終わりを迎える。
『二人がこれからも幸せに過ごせる事を……』
牧師の言葉を最後に、二人はバージンロードを、手をつないで歩いていく。
「碇さん、おめでとうございます」
微笑むみかねに手を振る碇を、ゆゆの出すライスシャワーが降り注いだ。
そして舞台は披露宴会場へと移る。
模擬結婚式なのに披露宴まであるのは、長津田がこの企画に命を掛けている証拠。
三下も披露宴会場ではせわしなく動き回る。係員に任せれば良いものまで自分でしようとする三下は、シャンパングラスを列席者の皆に渡したり……それでコケてシャンパングラスをいっぱい割ってみたり。
慌てて立ち上がったところに係員が通りかかって、頭にお盆をぶつけてお料理をぶちまけるとか。
はたまた碇に言われて静かに居ている所をカラオケを歌うように仲間に言われて、それがとんでもない音痴だったりとか、やる事なす事全てが不運の連続である。
もちろん悪気は無いのだが、その悪気の無さが逆に性質が悪かった。
「ああ、もう三下さん……私が拾いますから、座っててください」
三下のミスの度に、何かとフォローを入れるみかね。結婚式を楽しむ暇なく、三下のフォローに追われていた。
決して順調ではない披露宴だが、誰もが幸せな気分に浸れていたのはゆゆの幻覚聴覚能力の賜物かもしれない。
しかし、その披露宴に迫る影。
煙幕が突然披露宴会場に放たれた。
「ぇ、な、何?」
ゆゆが慌てるが、誰もがゆゆの幻覚聴覚能力の一つだと思っている。
そこにかぼちゃの仮面を被った者……かぼちゃ仮面に扮したステラ・ミラが登場する。
「新婦は預かる」
新郎の小高にそう告げて、碇と共に空間転移をするステラ。
煙幕が止むと、そこには碇の姿が無かった。
「い、碇さんが消えちゃったですぅぅっ!!!」
更に取り乱す三下。みあおが「きっとお色直しだよ、すぐに戻ってくるよっ」
と落ち着いていた。
碇を連れ去ったかぼちゃ仮面は、新婦控え室へと降り立つ。
「な、何をするのよっ!」
突然の事で訳も分からない碇は、目の前のかぼちゃ仮面に向かって後ずさりをする。
後ずさりをする碇に近づき、碇の心の中の理想の男声を出すステラ。
「……どうか、御自分の本心を大切に。そうすれば、必ず幸せになれます。 貴女はとても魅力的な女性、自分に恋人が出来ないなんて考えないで下さい」
ステラの言葉を聞いて、呆気にとられる碇。
「それでは……碇様の幸せ、祈っております」
と言って、ステラは煙のように周囲と溶け込み、居なくなってしまった。
「……何なの? でも……あの声は……」
仄かに灯る乙女心が芽生えるのを、碇は確かに感じていた。
時間が経ち、碇が心配で探し回るみかねが、新婦控え室に立っている碇を見つける。
「碇さん、どうしたんですか? 突然居なくなって」
「……え? 突然? ……そうね、突然だったわね」
「? あの、みんな待ってますよ? お色直しと皆は思ってますから……早く戻りましょ」
手を引くみかねに付いて行く碇。
そして、披露宴会場ではそろそろ終わりを迎えようとしていた。
碇の手にはブーケが握られている。
「……次に結婚する人へ。 結婚式は自分の心を大事にしてね。 一生、自分と添い遂げる人なのだから、ね」
ブーケを投げる碇。天高くアーチを描いたブーケは……。
「え、私……?」
ゆゆが碇のブーケを受け取っていた。
★帰り道
結婚式場からの帰り道。
「本当に、すみませんでした。私のせいで、色々とめちゃくちゃになっちゃって……」
ぐったりしながらすっかり気落ちしているみかね。でも碇は怒っていない。というか微笑んでいた。
「気にしないでいいのよ。 みかねちゃんはみかねちゃんなりに頑張ってくれたんだから。悪いのは三下の妨害だから、貴方は気にする必要は無いわ」
みかねの頭を撫でる碇。自分のせいにされて抗議の声を上げるのは三下だ。
「な、なんでボクなんですかぁぁ?」
「うるさい、三下はこれから2ヶ月減棒」
「ひ、ひどいですぅぅぅぅぅっ!」
でもそう言われても逆らえない、それが忠実な下僕の三下君であった。
「みあおちゃんも、ゆゆちゃんも、そしてみかねちゃんも来てくれてありがとう。 模擬結婚式だけど、私は私なりに楽しめたわ。 ま、これで本当に相手ができれば嬉しいけどね、私を貰ってくれる人なんて、そう簡単に出来る訳無いけど……頑張ってみようと思う」
自嘲するような碇に、みあおが碇の目の前で微笑みながら。
「きっと碇にもいいお婿さんが来るはずだよっ。みあおはそう信じてるもんっ」
元気一杯、にこにこ満面の笑みで言われるて、碇も苦笑しながら頷いた。
「そうね、信じなきゃ駄目ね。 私にいつか、いいお婿さんが着ますように、って。みあおちゃんに言われて、もっと元気付けられたわ」
やっぱりいつものの碇とはまったく違う。
結婚式を経験して、何らかの心境の変化があったのかもしれない。
でも三下への対応が更に酷くなったのは気のせい……ではないかもしれない。
「それにしても、三下はどうしてあんな妨害をしようと思ったのかしらね」
「ボク妨害なんてしようとしてないですよぅぅ」
「だからきっと、三下の、ラグナロク級の不運のせいだよ? 三下も悪気があった訳じゃないんだし」
恐るべし三下のラグナロク級の不運。でも全てはゆゆの幻覚によってうやむやにされている。
「そう考えると、ゆゆちゃんの幻覚能力もすばらしい物ね。 ちょっと行き過ぎな所もあった気がするけど」
そんなゆゆは、碇からブーケを受け取って更に妄想に浸っていた。
前方には大きな池があるのに、それにも気づかないように直進中。
「ブーケ……ブーケを受け取った人は次に結婚するって言うわね。という事は、次の結婚式は私の結婚式……どんな人がお婿さんになるのかなぁ……」
「……ゆゆちゃん、まだ妄想に浸ってる……」
みかねがゆゆの肩を叩く。正気に戻るゆゆ。
「ぇ、ぇ? あれ、どうしたのみかねちゃん」
「また妄想に浸ってたでしょ? 自分が次に結婚したら、どんな人が恋人になるとか……」
「え、えと……うん」
から笑いをするしかないゆゆ。碇も苦笑しながら。
「まぁ、今回は貴方の幻覚視聴能力のおかげで、とっても楽しい結婚式になったわよ。本当にありがとう、感謝するわ。でも、あまり妄想に浸ってばっかりいると、帰ってこれなくなるから気をつけてね?」
ゆゆが頷くのを見て碇が手を叩く。
「よし、今日は皆で食事でも食べに行きましょうか。 女同士、結婚式に求める事でも話しましょう。勿論女だけで、ね。私が奢ってあげるから」
「「「は〜い」」」
女性三人が頷く。三下がまごまごしているとそれに碇が追い討ちをかける。
「それじゃ三下。 あとは宜しくね。 そうそう、グラスとかを壊した代金、貴方の給料から差っ引くように長津田から言われたから、覚悟しておきなさいよ」
「ま、またボクですかぁぁぁ? ボク、給料無くなっちゃいますよぉ……」
三下の泣き声がその場に響くが、碇は全くの無視。
泣きながら、三下は自宅へと帰っていく。
6月の花嫁に話を咲かせる女4人のディナーは、夜遅くまで続いていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13歳 / 小学生】
【0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20歳 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】
【0249 / 志神・みかね / 女 / 15歳 / 学生】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10歳 / 鈴蘭の精】
【1057 / ステラ・ ミラ / 女 / 999歳 / 古本屋の店主】
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■ ライター通信 ■
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どうも、お待たせいたしました、燕です。
月刊アトラス編集部・「6月の花嫁」お届けします。
皆様が希望していたかもしれない二人の誓いのキスは、あえて書いてません。
ご自由に想像してあげて下さい。碇さんの女らしい部分でしょうから。(笑)
では、またどこかで逢える事を……。
2003/7/2 Writer:燕
>海原様
いつも参加いただき、どうもありがとうございます。
今回みあおさんは、碇のウェディングドレスの裾もちをやって頂きました。
この中で一番碇が心を許していそうなのが海原さんだったので。
本当の姿は妖艶な20歳という事ですので、元気一杯な子供という事で、
碇が子供を持ったらこんな感じで接するのだろうと思いました。
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