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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


悪魔の「道」
「お久しぶりです、草間探偵」
 興信所に現れた黒衣の男を見て、武彦はつい声を荒げた。
「『N.Maddog』、だったか……今度は何の用だ?」
「そう邪険にしないで欲しいものですね。これでも私は客ですよ」
 男は表情一つ変えず、その発する言葉にも感情は欠片も感じられない。
「どうせロクでもない話だろう。聞けばまた否応なしに巻き込まれる。帰ってくれ」
 そう言って追い払おうとする武彦に、男は薄ら笑いを浮かべて続けた。
「おや、いいんですか?
 今回私が貴方に頼みたいことは、ある意味では人助けにもなるんですよ」
「悪魔が人助けなどするのか」
「もちろん、ただで人助けをするほどお人好しではありません。
 ですが、我々がある目的を達成したときに、その副次的な結果としていくらかの人が助かるくらいなら、わざわざ代償を取ろうとも思いませんよ」
 なるほど、確かに、言うことの筋は通っている。
「どういうことだ?」
 武彦が尋ねると、男は再び元の無機質な口調に戻って話し出した。
「悪魔は人間と契約し、願いを叶え、そして魂をもらい受ける……ということは、前もお話ししましたね。
 この契約には、当然のことですが、悪魔と人間、双方の合意が必要となります。
 ところが、最近、人間同様、悪魔の中にもモラルのない連中が出てきましてね」
「人間の側の同意もなく、勝手に契約を結んだことにしている悪魔がいるというのか?」
 そうだとすれば、到底見逃せる話ではない。
 その武彦の思いを見抜いてか、男は小さく頷いた。
「近いですね。
 彼らは、自分たちを悪魔と知らせず、契約の代償についてもよく説明せず、愚かな人間たちを騙しているのですよ。
 もちろん、人間がどれだけ騙されようと、それは我々の知ったことではない。
 しかし、それによって、正式な契約の手順を守っている悪魔の側に不利益があるとなれば、黙って見過ごしてはおけません」
 どうやら、この男の依頼というのは、その「モラルのない悪魔」とやらをどうにかして欲しい、ということらしい。
 男はあくまでクライアントである「正式な契約の手順を守る悪魔」たちのためにこの仕事を依頼し、その副次的な結果として「モラルのない悪魔」に騙されている人々を救うことにもなる。
 確かに、男の言葉に嘘はなかった。

「引き受けていただけますね? 草間さん」
 その男の言葉に、武彦は我に返った。
 武彦としては、あまりこの男に関わりたくはない。
 だが、ここで断れば、この男のことだから、騙されている被害者を巻き込んででも何とかしようとするであろうことは、ほぼ間違いなかった。
 話を聞いてしまった時点で、すでに相手の術中にはまってしまっていたことに、武彦は今さらながら気がついた。
「俺が断ったら、お前はお前のやり方でかたをつける気だろう。
 周囲の人間をどれだけ巻き込んでも気にしないという、その荒っぽいやり方でな」
「よくわかっていらっしゃる」
 男はぞっとするような笑みを浮かべると、懐から一枚のビラを取り出した。
「これが、その問題の連中のいる組織です。
 依頼の正式な内容はこの組織の裏で糸を引いている悪魔の殲滅。
 組織自体、及び、その他の構成員に関する処分はそちらに全てお任せします」
「……わかった」
 ビラを受け取って、武彦はその組織の名を探した。
「『ナイルサイルの会』……?」
 ビラの一番下の部分には、しっかりとその名がつづられていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「……と、いうことです」
 説明を終えて、「N.Maddog」は静かに一同を見渡した。
 自分自身を含めた全てを嘲笑するような、暗く冷たい瞳。
 それに若干の嫌悪感を覚えながら、海原みなも(うなばら・みなも)はこう感想を述べた。
「なにか、人の弱みに付け込んでというのもわかりますが、闇金融みたいな組織は赦せませんね」
 その言葉に、榊船亜真知(さかきぶね・あまち)も同意する。
「確かに、イメージ的に闇金融に近いものがありますわね」
「人間でも、悪魔でも、小悪党の考えることは一緒ですよ」
 そう答えて、「N.Maddog」はその瞳と同じ冷たさの笑みを浮かべた。
「そういうお前も、俺の弱みにつけ込むような真似をしているじゃないか」
 武彦のその皮肉にも、一切動じることはない。
「まあ、私も、大悪党だなどとうぬぼれる気はありませんからね」
 あっさりとそう切り返すと、再びみなもたちの方に視線を戻した。
「それでは、ご協力頂けますか?」
「ええ。これは、さすがに見逃しておくわけにはいかないものね」
 一同を代表して、 応仁守瑠璃子(おにがみ・るりこ)が答える。
「では、よろしくお願いいたします」
 男はそう言って一礼すると、どこへともなく去っていった。





 男が立ち去った後、瑠璃子が再び口を開く。
「それじゃ、具体的な方法の検討に入りましょ」
「まずは、その『ナイルサイルの会』という組織について、調べてみた方がよさそうですわね」
 亜真知の提案に、みなもも首を縦に振った。
「あたしもそう思います。とりあえず、ネットでその組織について調べてみましょう」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それから二日後。
 瑠璃子たち三人は、再び草間興信所に集まっていた。

「『ナイルサイルの会』の本部は横浜にあるものの、実質的な中心は最高責任者の内藤がいる東京支部であるらしい」
「『確実な現世での利益』といううたい文句の通り、入信した人間は皆なんらかの『いいこと』に恵まれているらしい」
「いくつかの企業の経営者について『信者である』との噂があるが、それらの企業はいずれも最近業績が上向いているらしい」
 
 そんな情報は集まったが、瑠璃子たちが期待したような情報――つまり、「入信者の不審死」であるとか、「何らかの事件に関わっている」とか、そういった類の情報は一切見つからなかった。

「悪魔が関与しているとすれば、そういった噂の一つや二つはあると思ったんですけど」
 そう言って、みなもが首をひねる。
「不審死どころか、入信以来、病気が快方に向かっているというご老人もいるようですわ」
 亜真知がそう続けるのを聞いて、瑠璃子はついこう口に出した。
「ひょっとしたら、別の教団、もしくは組織なんじゃ……?」

 その時だった。
「何があったか知りませんが、私の情報が間違っているとでも?」
 背後から聞こえてきたその声に、瑠璃子が驚いて振り返ると、そこには呆れたような笑みを浮かべた「N.Maddog」の姿があった。





「そんなこと、当たり前じゃないですか」
 瑠璃子たちの話を聞いて、「N.Maddog」はやれやれといった様子で首を横に振った。
「入信した人間が、次々と不審死などしてごらんなさい。
 途端に、入信する人間の数は激減するでしょう。それは彼らの望むところではありません」
 言われてみれば、確かにその通りである。
「そういえば、『不慮の事故にあった』という方は、ほとんど見当たりませんでしたわ。それこそ、不自然なほどに」
 亜真知が思い出したようにそう言うと、男は小さくうなずいた。
「無理に殺さずとも、所詮、人間などせいぜい生きて百年程度ですし、入信者の中には十年もちそうもない方もちらほら見受けられます。
 さすがにそれが待てないほど、連中も気短ではないようでしてね」
「黄金の卵を生むニワトリを絞め殺そうとするほど、連中もバカじゃない、ってわけね」
 今さらながら相手を甘く見過ぎていたことに気づいて、瑠璃子は小さくため息をついた。

 ところが、その少し後。
「しかし、それは使えるかもしれませんね」
 不意に、「N.Maddog」がぽつりと呟いた。
「どういう意味ですか?」
 その男の様子に不吉なものを感じたのか、みなもが少し鋭い口調で男に尋ねる。
 すると、男は含み笑いを浮かべてこう続けた。
「実際に魂をだまし取られる人間が出てからでは悪魔の信用問題にもなる。
 そう思ってこの件を依頼したのですが……時間がかかりそうなら、そうやって牽制するのも手かも知れませんね?」
「そういう冗談はやめていただけませんか」
 それを聞きとがめて、亜真知が軽く男をにらみつける。
「冗談、ですか。まあ、今のところはそういうことにしておきましょうか」
 それだけ言い残すと、男は現れたときと同じく、唐突に立ち去った。





「あれは、『解決を急げ』という意味ですよね」
 緊張した面もちで、みなもが口を開く。
(だったら、普通にそう言えばいいじゃない)
 瑠璃子は心の中でそう毒づくと、一度深呼吸をしてからきっぱりとこう言い切った。
「ええ。なんとかして、早急に成果を上げなければならない……となると、とるべき手段は一つしかないわね」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 「ナイルサイルの会」の東京支部は、都内某駅の駅の近く……と言えば聞こえはいいが、駅から遠くないことだけが取り柄の、入り組んだ裏通りの一角にあった。
「一度も迷わずに来られたなんて、ほとんど奇跡ね」
 ここまでの道のりを思い出して、瑠璃子が呆れたように言う。
 確かに、初めて訪ねる人間ならば二度や三度は迷ってもおかしくないような場所ではあったが、亜真知の力をもってすれば、カーナビの真似事をする程度、造作もないことだった。
「とにかく、まずは中に入ってみましょう」
 亜真知は後ろの二人にそう言うと、さっさと建物の中へと入っていった。





 三人が事務室へ向かうと、そこには一人の青年の姿があった。
 先日集めた情報によれば、この青年こそ、この「ナイルサイルの会」の最高責任者の内藤のはずである。
「入会希望の方ですか?」
 三人に気づいて、内藤がにこやかな笑みを浮かべる。
 いわゆる「営業スマイル」とは絶対に違った、人の良さがにじみ出るような笑顔。
 それにつられるように、亜真知も軽く微笑みながら答えた。
「わたくしたち、この前の月刊アトラスの記事を読んで来たのですが、よろしければ少し中を見学させていただけないでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ。
 ……といっても、ここと礼拝室くらいしかありませんが」
「ありがとうございます」
 三人は内藤に軽く一礼すると、奥の礼拝室の方へと向かった。

 礼拝室に入ってみると、そこには、わずかに小さな祭壇が一つあるだけであった。
 その祭壇には、何やら複雑な模様のようなものが描かれているが、特に魔力や霊力の類は感じないし、亜真知の知っているどの術法にも、このような文様はない。
「意味がありそうでいて、実際には意味などない」
 それが、亜真知の出した答えであった。
 してみると、この祭壇はただのフェイク、ということになる。
 そうこうしている間にも、信者とおぼしき人が時々やってきては、祭壇に祈りを捧げて帰っていったりするが、そのお祈りの方法もバラバラで、決まった様式のようなものはさっぱり見あたらなかった。
「この部屋には、何も怪しいところはないですよね」
 室内に自分たち以外は誰もいなくなったのを確認してから、みなもがささやくように言う。
「ええ。祭壇も、礼拝も、全て飾りでしょう」
 亜真知が小声でそう答えると、「念のために」と隠し持っていた小型ムービーカメラで祭壇を撮影していた瑠璃子が、手を止めずにこう尋ねた。
「じゃ、やっぱり事務室の方に?」
「そう思います」
 亜真知はそう答えると、また先頭に立って事務室の方に引き返した。

「いかがでしたか……と言っても、何もなかったですよね」
 内藤のところに戻ると、彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
 嘘のつけない、飾れない男だ。
 この教団の責任者となる前は画家を目指していたとのことだったが、おそらくそこでもこの「バカ正直」が、彼を成功から遠ざけていたのではないだろうか。
 ふとそんなことを考えながら、亜真知は曖昧な笑顔を返した。
 何もなかったですよね、などと言われても、「はい」とも「いいえ」とも答えかねる。
 内藤もそのことに気づいたのか、再び彼の方から話を切りだしてきた。
「それで、どうなさいますか?」
「そのことなんですけど、ここに入会、もしくは入信する場合は、何か書類のようなものが必要なのでしょうか?」
 待ってましたとばかりに亜真知がそう質問すると、内藤は引き出しの奥から一枚の書類を取りだした。
「ええ、入会して下さった方の人数などを把握していく必要上、この書類に記入していただくことになっていますが」
 亜真知はそれを受け取ると、残りの二人とともに注意深くその書類に目を通した。
 みなもと瑠璃子は気づいていないようだが、亜真知にはこの書類から微かな魔力が感じられる。
 最初に睨んだ通り、入信の際の申込書が偽装された契約書であると見て間違いなかった。
 あとは、確たる証拠を捜すのみ。
 目を皿のようにして、亜真知は書類を調べた。

 と、その時。
「あの、これ、なんでしょう?」
 みなもが、書類の外枠の模様の一部を指さした。
 確かに、その部分の模様にだけ、若干不自然な線が混ざっている。
「印刷の汚れ、じゃ、なさそうね」
 怪訝そうな顔をする瑠璃子。
 亜真知も、真剣にその部分を見つめ――そして、ついにその正体に思い至った。
 それは、すでに消えたはずの古の少数言語の文字だった。
 亜真知でさえも本体からデータを引っぱり出すのに時間がかかったのだから、おそらく現代の日本にこの文字が読める人間などいはしまい。
(証拠は見つけた)
 そこで、亜真知はあることに気づいた。
 証拠は確かに見つかったが、「読めない文字」が証拠では、内藤は到底納得しまい。
 とはいえ、ここで悪魔を引きずり出したりすれば、悪戯に騒ぎを大きくする危険がある。
 なんとかして、騒ぎを大きくせずにすませる方法はないだろうか?





 少し考えた後、亜真知は内藤にこう頼んだ。
「すみませんが、もう少し考えてみたいと思いますので、この書類の方は持って帰らせていただいていいでしょうか?」
 彼女が予想したとおり、内藤はそれを快諾した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 その日の夜。

 みなもたち三人は、こういったことにおあつらえ向きの、人気のない廃工場に集まっていた。
 依頼主の「N.Maddog」も、見届け人ということで同行している。

「ここなら、悪魔を引きずり出しても大丈夫ね」
 納得したように言う瑠璃子に、亜真知がこう続ける。
「念のため、工場周辺に結界を張っておきましたから、悪魔が逃げ出す心配もありませんわ」
 その二人に、今度は「N.Maddog」が声をかけた。
「それでは、そろそろ問題の悪魔の方を呼び出すとしますか」
「ええ。早く終わらせてしまいましょう」
 その返事が終わるやいなや、あらかじめ件の申込書を乗せてセッティングしてあった魔法陣から煙が立ち上り……そして、数十匹もの悪魔が出現した。

「おやおや。ここまで腐敗が広がっているとは……参りましたね」
 全然参っていない様子で呟く「N.Maddog」。
 だが、みなもが見る限り、戦況はあまり有利とは思えなかった。
 みなも自身の戦闘能力は、あまり高いとはいえない。
 一応、念のためにと聖水をある程度手に入れてきてはいるものの、それがどこまで役に立つかはわからなかった。
 亜真知は、おそらくこの程度の悪魔になら十二分に対応しうるだけの力を持っているだろう。
 しかし、さすがにこれだけの数が相手となると、あっさり片づける、とはなかなかいくまい。
 瑠璃子の戦闘能力は未知数だが、本人はあまり期待しないで欲しいようなことを言っていた。
 「N.Maddog」は、あるいは強いのかも知れないが、気まぐれに敵を攻撃してくれることはあっても、こちらのバックアップに回ってくれることはまず期待できない。
(なんとかしなきゃ……でも、どうやって?)
 考えても、なかなか打開策は見つからない。
 するとその時、瑠璃子が駆け寄ってきてこう言った。
「私たちだけじゃ、この数相手は厳しそうね。
 少しの間、時間を稼いでくれる? 私は、ちょっと助けを呼んでくるから」
「わかりました」
 とっさにみなもがそう答えると、瑠璃子は「右腕に白い布がついているのが味方だから」とだけ言い残して、表の方へと駆けていった。

 引きずり出された悪魔たちが攻撃を開始したのは、ちょうどその時だった。





「もっと地道に働かなきゃダメですよ」
 そう言いながら、少し大人びた姿に変わった亜真知が、手近な悪魔を神力転換によって開いた『常世送り』の門に叩き込んでいく。
 その奥では、「N.Maddog」が数匹の悪魔を適当にあしらっていた。
 あくまで「向かってきたから相手をしている」だけで、積極的に戦う気はないらしい。
 みなもはといえば、聖水を操って悪魔を牽制しつつ、時間を稼ぐことに専念していた。
 おかげで、何とか間合いを開けることには成功していたが、悪魔を倒すというところまではいかず、逆に、向かってくる悪魔の数は徐々に増えて来つつあった。
(これ以上は、もたないかも)
 みなもが、そう弱気になりかけたとき。
 突然、巨大な太刀が近くにいた悪魔たちを薙ぎ払った。
 みなもが驚いて見上げると、そこには三メートル弱はあろうかという巨大な鎧武者のような人影が、右腕に白い布をつけて立っていた。

 その鎧武者の参戦によって、戦況は完全にみなもたちに有利になった。
 数十匹もいた悪魔が全て殲滅されるまで、それからさほどの時間はかからなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 助太刀に来てくれた鎧武者が去り、入れ違いに瑠璃子が戻ってきた頃には、辺りはすっかり落ち着きを取り戻していた。

「なんとか、片が付きましたね」
 心底安心したように、みなもが一つ大きな息を吐く。
 けれども、まだ全てが終わった、というわけにはいかなかった。
(後は、『ナイルサイルの会』のほうをどうするか、ね)
 瑠璃子が、そう口に出そうとしたとき。
 突然、そのままになっていた魔法陣の上に、光の柱のようなものが現れた。

『我が名を騙る悪魔らを討ち滅ぼしてくれたこと、礼を言う』
 光の柱の中から、男のものとも、女のものともつかぬ声が発せられる。
 その声に、亜真知が驚いたような表情を浮かべた。
「……まさか?」
『いかにも、我はナイルサイル。より高き次元よりこの世界を見守る者』
 亜真知が、みなもが、そして瑠璃子も、一斉に「N.Maddog」の方を見る。
 しかし、彼もまたこの事態に当惑しているらしく、返事の代わりに小さく肩をすくめただけだった。
『我は我が信徒らの心の内にある。我は我が信徒らの祈りの内にある』
 その言葉とともに、光の柱はゆっくりと姿を消した。

「ナイルサイル……実在したというの?」
 呆気にとられて呟く瑠璃子に、「N.Maddog」は苦笑いしながら首を横に振った。
「どうやら、そのようですね。これは予想外の出来事でした」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 事件の解決した日の翌日。

「それでは、これが今回の依頼料です」
 そう言って「N.Maddog」が持ってきたのは、相場よりかなり多めの現金だった。
「これだけ気前がいいと、かえって怪しいな。この金の出所はどこだ?」
 いぶかる武彦に、「N.Maddog」は無表情のまま答える。
「正当な方法で手に入れたお金ですよ。
 錬金術の得意な知り合いが、私にはたくさんいますからね」
「そうか。なら、受け取っても問題はない、か」
 武彦のその言葉で、二人の会話が一旦途切れる。
 それを見計らって、みなもは「N.Maddog」に質問してみた。
「あの、今回悪魔に騙されて契約させられてしまった人たちの契約は、一体どうなってしまうんでしょうか?」
 すると、「N.Maddog」は少し怪訝そうな顔をした後でこう説明した。
「契約した当の悪魔がすでに力を失ってしまっているんですから、当然、その時点で契約は失効です。
 普通、こういうことは人間が悪魔を騙した場合に起こるのですが、今回ばかりは逆でしたね」
「悪魔も、人間並みに賢くなってきたということだろう」
 武彦が混ぜっ返すと、「N.Maddog」もすかさず切り返す。
「人間を堕落させるはずの悪魔が、逆に人間に堕落させられたんですよ。ひどい話です」
「それでは、いずれにしても、人間と悪魔が近づきつつあるように聞こえますよ」
 二人のやりとりを聞いて、みなもはついそう口にした。
 それを聞いて、武彦が苦笑する。
「こうして悪魔の代理人なんかになっているヤツがいるのが、その証拠だ」
 と、その会話を横で聞いていた瑠璃子が、不意にぽつりとこう言った。
「でも、悪魔や鬼神に願う者はいなくならないわよ」
「ええ。人の欲望は、留まるところを知りませんからね。
 ……ですが、だからこそ私がこんな仕事をやっていられる。ありがたいことですよ」
 そう呟いて、「N.Maddog」は微かな笑いを浮かべた。
 自分自身を含めた全てを嘲笑するような、暗く冷たい笑いだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252 /  海原・みなも / 女性 /  13 / 中学生
1593 /  榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ(神さま!?)
1472 / 応仁守・瑠璃子 / 女性 /  20 / 大学生・鬼神党幹部

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で七つのパートで構成されており、最後のパートについてはみなもさん・瑠璃子さんと亜真知さんで違ったものになっておりますので、よろしければもう片方にも目を通してみて下さると幸いです。

・個別通信(海原みなも様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 諸般の事情により、なぜか戦闘シーンでの描写が比較的多めになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。