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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


十二支捕獲作戦!?

<オープニング>
「あら…、可愛い人形」
 ある初夏の某神社にて、客間の机の上に載っていたそれを見るなり陽子は嬉しそうに手を伸ばした。
 木製の何か文様のような物が描かれた台座の上に、小さな動物達がぐるりと円を描いて等間隔に並べられている。
 埃を避けるためだろうか、上に被さっていたガラスのケースを退け直接つまんで見ると土鈴のような感触で、親指程の大きさのそれはどれも愛嬌のある顔立ちをしていた。
「ネズミさんにウシさんに…ああ、十二支な……」
「何をしとる、陽子っ!?それに触ってはいかんっ!!」
 彼女が言葉を発し終える間もなく緊迫した声がかけられ、それに覆い被さる様に──
 がっしゃん。
 音が、響いた。
「ななな、なんという事じゃぁ〜!!」
 祖父の慌てた様子に、戸惑う陽子の足元に落ちた人形達。困惑したままそれでも人形を拾おうと手を伸ばせば、するり、とそれは彼女の手から『逃げた』。
「え、え、ええ〜っ!?」
「それは、あの徳永の子倅が作った人形なんじゃ、早いところ捕まえんと厄介な事になるじゃろうっ」
 ありえない事に呆然とする間に、人形達は命あるもののごとく物凄いスピードで散り散りに逃げ去っていった。
「泉さんが作った人形という事は、実物と同じになるの?」
「そうじゃ…なんでも、今度のは鬼ごっこの相手じゃとか…捕えさえすれば人形に戻るらしいがの……」
 台座からそれ程離れる事が出来ない為、この敷地内に逃げたのは間違い無いだろうが、時間が経過すればする程、様々な抵抗能力を身に付けていくと聞き陽子は慌てて、協力してくれそうな相手を募った。

<とにもかくにも作戦会議>
 サクッ。
 軽い音に続いて、香ばしいかおりが口の中で広がる。程よい甘さに満足そうな顔をしたのは海原みなも。雪白の肌に太古の海を思わせる青い髪、青い瞳が印象的な少女である。
「みなもさん、とても美味しいですわ」
 彼女特製の手作りクッキーと、それに合わせて陽子がいつもの緑茶から切り替えたミルクティーとのハーモニーを堪能して幸せそうに一息つくのは榊船亜真知。
 一見、黒髪の純和風の美少女という風体だが、本来の姿は人にあらざるもの──超高位次元生命体の次元投射体である。
「本当、みなもさんはお菓子もお料理も上手ですよね〜」
 羨ましいです、などとおかわりの紅茶を注ぎつつ陽子がのほほんと言うさまは、桜ノ杜神社の平和な日常の一コマと言えなくも無い。
 しかし。
「……現状ではっきりしている事は、彼らはこの敷地内から出られないという事ですね」
 一人、先程から十二支の人形が並べられていた台座を眺めながら至極冷静に言葉を発するのは九尾桐伯。
 どこか退廃的なムードを漂わせた青年は、後ろで一纏めにした黒髪が肩を伝って落ちてくるのを鬱陶しそうにかきあげる仕草も様になっていた。
 美味しいお菓子と紅茶についつい和んでしまった三人は、はっとしたように九尾をふり返ると話を本来の方向へと持っていく。
「…一応、泉さん……ええっと、この人形の製作者なんですけれど……に聞いたのですが〜」
 と切り出して陽子が説明した話をまとめれば、これはちょっとオカルティックな趣味の客専用に人形を製作している徳永泉が作った作品の一つで、客から返品されたものだった。
 手軽に動物と追いかけっこや触れ合うのを楽しめる……という優れもの(本人談)のはずだったのだが、妙な所に妙なこだわりを持つ彼の『遊び心』によって、少々……いやかなり厄介なものになっていた。
 台座から外された人形は時間と共に本物の動物と同じ外見を持ち、更に人形を外した人間の能力に応じて自然界等から力を蓄え、追いかける人間に対抗する能力を身に付けていくのだという。
 何故、捕まらない為の対抗能力等を持たせるのかと聞けば、『ただ逃げるのを追いかけるんじゃつまんないじゃナイ?』というシンプルかつ実にはた迷惑な理由である。
「とりあえず、この地にどなたも入らないよう結界を張らせていただきましたわ…まぁ、あくまで保険ですけれど」
 邪魔が入っては興醒め……とは流石に口にせずに亜真知が言う。1000年の長い眠りから醒めたばかりで多少体が鈍っている感があるが、雑多な気が入り混じる他所と違って、神域であるここでは力を阻むものは無い。敷地ごと結界を張るなど造作も無い事だった。
「あとは、それぞれの動物がどこにいるか、ですよね」
「十二支といえば、薬師如来配下の十二神将でもあるのですよね…薬師如来は確か、東方の浄土を守護しているといいますから、東に集まっている可能性が高いかと…」
 顎に手をあて考え込む九尾に、ちょっと見せてください、とみなもが横から台座を覗き込む。
 多角形の中央に東西南北の文字と、それを囲むように坎・艮・震・巽・離・坤・兌・乾と一文字ずつ刻まれ、そしてその外側に人形が填まっていたであろう小さなくぼみがあった。
「安倍晴明の式神も十二神将と呼ばれていたという説もあった気がしますが…これを見る限りでは違うようですね」
 晴明が使役した「十二神将」は、式占と呼ばれる陰陽師の占術の「十二天将」をに由来するもので、青龍・朱雀・玄武・白虎…と比較的有名な名前が連なっている。
 しかし、目の前にあるそれは陰陽道に使う式占盤とは形状が異なっていた。
「ん〜、という事はネズミさんを始めに時計回りの方角で居るって事ですよねっ」
 ぴ!と、みなもが指を立てて言えば、九尾も頷いて、
「では私は東を中心に北の方角を探してみます。力自慢の動物が多そうですから」
 丑と寅の辺りを示しつつ鋼糸を取り出す。普段は攻撃用として使っているが、アクティブ・ソナーとしても使える攻守兼用武器なのだ。
「じゃ、まずあたしは水に縁のありそうで、時間が経つと厄介そうな辰さんを追いかけますね!神水お借りします」
 人魚の末裔であるみなもは水との親和が強い。同属性の物であれば対処のしようもあるという考えなのだろう。
「ええっと、ではわたしはここで皆さんをお待ちしていますね〜」
 朝一番に汲んだ水に神前で祈りを捧げたという、手水舎の自然のそれよりも少々効力の高い神水の入った小瓶をみなもに渡した陽子が、にこにことそれぞれの場所へ向かう二人を見送る。
「……あの、陽子さん、少々ニンジンをいただけますかしら?」
 二人きりになって亜真知がおもむろに口を開く。その視線は机の上の台座に固定したままだ。
「あ、ありますよ〜。今持ってきますね〜」
 ちょっと待っててください、とぱたぱたと綺麗に磨かれた廊下をかけていくのを確認すれば、亜真知は台座にそっと手をかざす。
「………ん。大体こんなものですわね」
 後で理力変換で似たような波動を放つダミー(捕獲用の罠付き)を作る為情報を読み取り、そして本物の波動をこの部屋以外から感知できないようにごく微弱な結界を張る。
「……あまり堅固な結界を張っては何かと思われてしまいますものね」
 それでなくとも、あの方わたくしの方を時折不思議そうに眺めておられましたもの、と心中で呟く。
 亜真知が神に連なるものである事は目下のところ秘密事項だ。その為今回の捕獲についても表向きは中学生巫女として参加するつもりだ──あくまで表向き、だが。
「ありましたよ〜。亜真知さん、これで良いですか〜?」
「ええ、助かりましたわ。これでしっかり捕まえてまいりますから、ご安心くださいね」
 やがて綺麗にカットしたニンジンを持ってきた陽子に、亜真知は金色の瞳を細めて笑いかけた。

≪人魚姫、捕り物帳≫
「さてと。方角からいったらこの辺なんだけどなぁ…」
 てくてくと境内の辺りまでやってきてみなもはきょろきょろと辺りを見渡す。
 台座のある社務所を中心として考えれば、水に関係のある動物が居る方角……巽にあたるのは境内の辺りだった。
「竜か、タツノオトシゴか…どっちなのかな」
 うーん、と小さく唸ってみなもは手水舎の方へと向かう。一応、貰った神水は切り札という事にしようというのだろう、可愛らしい花柄のポーチにしまっている。
 神社を囲む山々からこんこんと湧き出た清水を湛えたそこは、静謐な気配に満ちていた。
「…力、貸してくださいね」
 そう一言断って、みなもは澄んだ水面に手を伸ばしかけた──が、
「……っ!」
 思わず声を上げそうになって慌てて口を塞ぐ。
 たった今手を伸ばしたそこに、居たのだ。ふよふよと心地好さそうに水の中を漂う手のひらサイズのタツノオトシゴが。
(捕まえなくちゃっ!)
 と、水面にみなもの手が触れた瞬間、ふよふよと漂っていたタツノオトシゴのひょうきんな顔と目があった。
「駄目っ」
 反射的に水の湧き出し口に飛び込もうとするタツノオトシゴを、操った水の檻で閉じ込める。
 幸い、それ程時間が経っていないためか、ジタバタともがいてはいるものの、檻を破るほどの力は持っていないようだった。
「…ごめんね」
 そう呼びかけ、水の中に手を入れ檻に捉えたタツノオトシゴを両手で掬い上げると、それはみなもの手のひらでぴちぴちと暫く跳ねていたがやがて、元の姿だろう5センチ程度の可愛らしい人形に変化していた。
 人形をポーチにしまいこみ、順当にいけば次は卯か巳…兎か蛇かと考え込むみなもの目に、同じように捕獲の準備万端な様子の亜真知の姿が目に入った。
「あっちは亜真知さんに任せて、あたしは蛇さんで行こう」
 よし、と気合を入れて、南の方角へと向けて歩き始める。どのくらいの大きさに成長しているかは分からないが辰の場合のように隠れている可能性があるからだ。
「……紐?」
 語尾が疑問系になってしまったのには理由がある。
 タツノオトシゴを捕まえた手水舎から少しいった所になんとも表現のし難い色彩をした一本の線が、石畳の上に出現していたからだ。長さ、30センチと言ったところだろうか。
 目に鮮やかな極彩色の蛇は長々と横たわり、呑気に甲羅干しなどしていたのだ。
「普通の蛇さんなら……って、普通なのかな?」
 思わず自分で自分の言葉につっこみつつ、ポーチにしまった神水の小瓶を取り出し蓋を取る。精神を集中し空へと放った神水はみなもの意思を受け命あるもののように一直線に横たわる蛇へと向かう。
 その頃には人間の気配に気がついた蛇が、しゃーっと長い舌を出して蛇行して逃げ始めていたが凍る寸前まで冷やされた水に包み込まれその動きも徐々に鈍り始めた。
 すっかり動きを止めたところでみなもはそっと近寄り、用心のために首の後ろを掴む。すると、派手な色をした蛇の姿は小さくなり、やがて辰と同じような大きさの人形へと変化していった。
「さぁ、次は馬さんですねっ」
 同じくポーチにそれを収めたみなもは、きりりと表情を引き締めると歩き出した。

<エンディング>
「すみませんっ、陽子さん、お風呂までお借りしちゃって……」
 巫女服姿のみなもが濡れた髪をバスタオルで拭きながらとことこと入ってくる。白い肌がうっすらと上気してほのかな色気をかもし出していた。
「いいえ〜、それより合う服がそんなのしかなくて申し訳ないです。お洋服、もうすぐ乾きますから」
 ぺこりと陽子が頭を下げ、それを受けてみなもが席につく。
 既にとっぷりと日が暮れてどうにも視界が悪いという事になり、他の二人もそれぞれ捕まえた人形を手に部屋に戻って来ていた。
 台座は右半分が大体埋まったという状態だった。
「うーん、半分…ですか」
 渋い顔をしてみなもが言えば、九尾が頷いて、
「まぁ、子から午まで捕まえたんです。割といいペースで捕まっていると思いますよ」
 元気付けるような言葉に、みなもは曖昧に笑ってぽりぽりと頬を掻く。あれからみなもは暴れ馬と化していた午と格闘し土まみれになりながらも取り押さえたのだ。
 いくら人魚の血を引くからといって、馬と力比べをする美少女の図、は少々…いやかなり異様だろう。
(…誰も見ていなくて良かったぁ)
 年頃の少女らしい事を内心呟いたみなもの横で、眉根に皺を寄せた亜真知が形のよい唇を噛んだあと、おもむろに口を開く。
「…でも、何故他の動物は姿を現さなかったんですの?」
「さぁ…。もしかしたら力を蓄えていたのかもしれませんよ…子のように周囲に生息する同属の動物を操る力を得る為に」
 台座の酉の文字を見つめ、頭の中に某鳥の大群が人に襲い掛かるパニック映画を思い出しながら九尾が溜息を吐く。
「じゃあ、残りは今夜にかけて力をつけて、明日動きだすつもり、なんでしょうか?」
 少し心配そうな表情になったみなもに、陽子はふんわりと笑みを浮かべ、
「まぁ、仕方が無いですよ〜。今夜はもう遅いですし、明るくなってからもう一度探してみます。…みなさん、今日は本当にありがとうございました」
 つとめて楽天的な雰囲気を装っているのか分からないが、こうして十二支捕獲の一日目は幕を閉じた。

<終わり>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾 桐伯 / 男 / 27  / バーテンダー】
【1252 / 海原みなも / 女 / 13  / 中学生】
【1593 / 榊船亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】

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■         ライター通信          ■
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……という事で大変遅くなりました、へっぽこライター聖都つかさです。(平伏)
ご参加、ありがとうございました!
十二支捕獲作戦(前編)いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら良いのですが…。
今回は、久々に個別文の部分があります。≪≫でくくられたところが各キャラクターさんの体験した事になっています。
建物をでて戻ってくるまでのほかのキャラさんがどういう行動をしていたのか興味をもたれましたら、どうぞあわせてご覧くださいませ。
後編については、もう依頼のサンプルは出来上がっておりますので、承認され次第窓を開く予定です。
引き続きお付き合いくださると光栄です。
それでは、参加いただきありがとうございました。感想等頂ければ嬉しいです。

聖都 つかさ 拝

以下、各PL様への私信です

【九尾 桐伯 様】
いつもお世話になっております。
今回の九尾さんは渋く、スマートに捕獲。をテーマに頑張って見ました(笑)。
東の方角を怪しいと仰っていたのはビンゴです。
……その賞品が、力自慢の虎と牛というのが心苦しいですが(汗)。
素敵なプレイング、ありがとうございました!

【海原 みなも 様】
お世話になっております!
十二支の方角、まさにその通り、大当たりです!!
的確で丁寧なプレイングで、辰、巳、午の三匹(?)みなもさんにがんばって頂きました。
(あまり嬉しくない賞品ですが(笑)
馬と格闘シーン、書ききれずに申し訳ありません。

【榊船 亜真知 様】
初の参加、ありがとうございました。
亜真知さんの設定、拝見してびっくりでした。
まさか、神様が参加してくださるとは……桜ノ杜の祭神も驚いていることでしょう(笑)
色々考えて、口調を「〜ですわ」という可憐なお嬢様調(?)にしてみましたが……。
『美少女にして、実は策士』な雰囲気、少しでも表現できているでしょうか?