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家に住むもの【推理編】
------＜オープニング＞--------------------------------------
岩崎によってもたらされた密室殺人事件を解決すべく、草間武彦は南家を訪れた。
被害者は南修司、６２歳。鈍器で殴られたかして、頭蓋骨が陥没していた。殺人現場は鍵が閉められており密室だったという。修司は資産家で、金目当ての犯行であると思われているが、末期ガンで死期が近いことを全員が知っていた。
調査の結果、妻の菊恵、次男の勝、長女和恵とその子供美恵にはアリバイがあり、遠方に住む長男博士にも犯行を行った可能性は低かった。
南家には、３体の大きな妖怪がおり、１人は座敷童子で、美恵とよく一緒に遊んでいるらしい。もう一体は白蛇で、今まで眠っていた。最後に常に水を欲しがっている毛むくじゃらの妖怪がおり、これのせいで、南家は水気が少ない。
和恵は家の中に妖怪がいることを容認しており、恐れもしていない。美恵は描こうとしていたコップに活けた花を毛むくじゃらの妖怪に取られていた。
「で、一体誰が犯人だと思う？」
草間は煙草に火を付け、煙を吐き出しながら尋ねた。
●家族構成は以下の通りです。（括弧の中身は年齢です。）
修司(62) ┬ 菊恵(60)
博士(38)┬洋子(38) 勝(34)─智子(32) 和恵(33)┬邦彦(34)
武士(14) 美恵(8)
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●推理のその前に
「とりあえず、まず状況を整理してみようか。」
草間は紙面に簡単な家の見取り図を書き、犯行現場に×をつけた。
「事件当時、妻の菊恵と長女の和恵は台所で夕食を作っていた。次男の勝はリビングでテレビを見ていた。和恵の娘の美恵はこの部屋で座敷童子と遊んでいた、と。結局全員１階にいたんだな。」
人がいた場所に印をつけていく。
「で、座敷童子と白蛇、毛むくじゃらの妖怪がこの家には憑いていると。」
「憑くとか言うなよ！！」
岩崎が悲鳴を上げる。相変わらず、妖怪が犯人だと信じて疑ってないようである。
「座敷童子と遊んでいる子供って一体何なんだよ！」
「そういえば、花を活けたコップを毛むくじゃらの妖怪が持っていってしまったのよね。それなのに、和恵さんは美恵ちゃんの様子を見に行ったときに、絵を描いていたと証言している……変ねえ。」
シュライン・エマが顎に指を当てて首を傾げた。
「あのう。貫田さんはどうしてたんでしょう。まだ聞いていませんでしたよね。」
海原・みなも（うなばら・みなも）は家政婦の貫田の名を上げた。彼女しか犯行現場である修司の書斎の鍵を持っていないのだ。
「ああ。そろそろ来るはずだから、話を聞いてみよう。」
我に返って冷静になった岩崎が時計を見て、頷いた。
貫田は、少しぼんやりした感じのある女性だった。年は５０くらいで、ふくよかな身体付きをしている。
「あのう、貫田さんが鍵を使って、書斎を空けたんですよね？ 一番先に入ったんですか？」
みなもが尋ねると、貫田は少し考え込んでから首を振った。
「いいえ。書斎の扉は手前に引くので、開けたところを勝さんが駆け込んで行きましたよ。」
「じゃあ、一番初めに入ったのは勝さんなんですね？」
「ええ。多分、そうだったと思いますよ。」
「何故貫田さんだけが鍵を持っていたんですか？」
「この部屋を片付けるために鍵が必要だったので、頂いていただけです。」
「じゃあ、他の人は全く入らなかったの？」
シュラインが不思議そうに首を傾げた。
「基本的にはそうですね。修司さんがここで１人で読書するのがお好きだったので。」
何故、わざわざ誰も入れなくする必要があったのだろう。立ち入り禁止だとでも言い置いていけばいいのではないだろうか。
「ヘルパーってそんな仕事までするの？」
「修司さんの身の回りのことをさせていただいていたので。部屋の片付けもさせて頂いていました。」
「何か使用人みたいですね。」
「そんなもんですよ。」
何故か貫田はにっこりと微笑んだ。まるで、自分の仕事を肯定されて世転んでいるように見える。みなもは失礼なことを言ったのではと思っていたので、きょとんとした。
「あのう、菊恵さんにもう少し聞きたいことがあるのですが……。」
みなもにはどうしても気になることがあった。でも、あまり部外者がうろうろすると邪魔になるだろう。控え目に言ってみたのだが、岩崎はあっさりと頷いた。
「ああ。うん。いいよ、聞いてきて。俺は指紋の鑑定結果を聞いてくる。」
そう言い残して、出て行ってしまった。
「私はここでちょっと頭の中を整理手しとくわ。ワケ分かんなくなっちゃったから。」
シュラインは心底困ったように顔を顰めて、はぁと溜息をついた。
草間は煙草に火をつけて、すっかり思考モードに入ってしまっている。
「じゃあ、ちょっと聞いてきますね。」
みなもは少し緊張しながら、菊恵の元へ向かった。
菊恵はキッチンにいた。手際よく料理をしている。
「あのう。すみません。もう少し詳しく話し聞かせてもらっていいですか？」
丁寧に頼むと、菊恵は快く頷いてくれた。
「勝さんはいつからリビングにいましたか？」
「夕方の５時くらいからじゃなかったかしら。確か見たい番組があると言ってたような気がするから。」
「それから勝さんはずっとリビングにいたんですよね。」
「ええ。そうです。」
「そうですか。ありがとうございます。あの、最後に１ついいですか？」
「どうぞ。」
「貫田さんを呼ぶ際に、どこから電話したんですか？」
「ここよ。」
菊恵はリビングとキッチンの間の壁にみなもを連れてきた。電話はその壁についている。
「ここから、電話して貫田さんを呼んだの。」
「菊恵さんがしたんですよね。」
「いいえ。私は驚いて動けなかったから、和恵がしたわ。」
「ありがとうございました。……菊恵さんは、ずっとキッチンにいたんですよね？」
「ええ。」
菊恵の顔をしばらくの間見つめて、みなもはもう一度ぺこりと頭を下げた。
草間やシュラインのところに戻る前に、お茶を出しに行っていた和恵に出会ったみなもは、ついでに彼女にも話を聞こうと思って、近づいた。
「すみません、事件当日の夕食の材料を教えてくれませんか？」
「え？ えーと。確かホイール焼きだったのよね。煮物はカボチャだったかしら。」
「味噌汁の具は何でした？」
「んーと、ナスとワカメだったと思うわ。きちんと覚えてないけど。」
「いえいえ、どうもありがとうございます。」
みなもは今度こそ、部屋に戻った。
●草間武彦の推理
時間は少し遡る。草間の煙草に絶えかねて、シュラインは窓を開けた。強く吹いてきた風が、中の匂いを浄化してくれる。
「武彦さん、何か分かった？」
他の人の考えも聞いていかないと、独りよがりの思考に陥ってしまいそうになったシュラインがそう口火を切る。
「そうだなあ……。」
草間は困ったように頭をがしがしと掻いた。
「釈然としないことが多いな、やっぱり。なんかそれぞれ足りないことがあるような気がする。」
「分からないわ。」
「それぞれアリバイに穴があるだろ。言ってみれば完全なアリバイを持ってるのは誰もいない。可能性としてはいろいろ考えれられるからな。」
言外に分からないと告げている。草間はいらいらと煙草を吹かした。日々のいろいろな草間の姿を目にしているシュラインだったが、何か深いところで考えていることがあるんじゃないかと邪推してしまう。姿勢が様になっているからかもしれない。
（それにしても、何て色気のない会話なのかしら……。）
仕事一筋な自分たちに、シュラインは隠れて溜息をついた。
しばらくしてみなもに引き続き、岩崎が部屋に戻ってきた。
「はー、あの書斎は綺麗なもんだったよ。」
「綺麗とは？」
「掃除が行き届いていて、指紋がほとんど残っちゃいない。扉を開けたと思われる貫田さんの指紋と、その際に触ったと思われる勝さんと和恵さんの菊恵さんの指紋は辛うじて見つかったが、全然重なり合ってなかったんだよ。」
「修司さんの異常に気付いて、書斎に踏み込むまで誰も扉に触ってなかったってことですか？」
「でも、指紋は拭けば取れてしまうから、後始末をしたとも考えられるわね。」
結局のところ、全員でうーんと唸ってしまった。
「みんな、一体誰を疑っているんだ？」
草間の一声で、全員が自分の推理を披露することになった。
岩崎がばんと机を叩いて、一番に名乗りをあげる。
「俺は絶対に妖怪説。奴らが結託して修司さんを襲ったんだ。」
「動機は？」
「妖怪に動機もくそもあるか！ 妖怪の考えていることなど、俺に分かるか。」
「……岩崎、お前本当に警察かよ。」
呆れ返って、草間はがっくりと肩を落とした。このままでは、あっさり迷宮入りになりそうだ。
●海原・みなもの推理
「あたしは菊恵さんと勝さんの共犯説を押しますね。」
続いてみなもがきっぱりと言った。
「凶器は夕食の材料です。」
「夕食って……確か、ご飯に味噌汁に煮物、それとホイール焼きだったわよね。」
「ええ。その日の煮物はカボチャだったらしいんですよ。きっとそれを凶器に使ったんじゃないでしょうか。殴りつけたあと、料理で使って煮物にしたんですよ。」
「なるほど。そうすると、凶器はなくなるものな。」
岩崎が何度も頷いて納得する。代わりにシュラインが首を傾げた。
「でも、飛び散ったカボチャを全部回収できるかしら？」
「２人だから出来ますよ。菊恵さんは勝さんがリビングにいたといいましたけど、和恵さんが席を外している間は、お互いしかアリバイを保証する人はいませんからね。」
「それで、犯人は共犯ってことか。」
草間もふむふむと頷きながら、さらに尋ねる。
「動機は？」
「妖怪使役の書か、書き直した遺書だと思います。または、貫田さんと修司さんの関係に対しての菊恵さんの女性的感情。だって、合鍵を貫田さんに渡しているのに、菊恵さんに渡さなかったのが不思議じゃないですか。」
みなもはそう言って小首を傾げて見せた。
●シュライン・エマの推理
「私も動機としてはみなもちゃんと似てるかな。財産でも資産以外のものが欲しかったんじゃないかと思うのよ。例えば修司さんが飼っていた毛むくじゃらの妖怪。座敷わらしや白蛇は家につくものだけど、これは修司さん個人の妖怪よね。継承するには何らかの方法がいるんじゃないかしら。で、その過程か方法そのものとして殺人を犯した、とか。」
「やっぱり動機としてはその線が有力そうだよな。財産目当てなら、修司さんが死ぬのをただ待ってればよかったんだし。」
言いながら、岩崎は自分がかなりひどいことを言っていることを自覚して、眉を顰めた。
「凶器は大きめの氷とか。鈍器の代りになるし、氷なら溶ければその妖怪が水を持ち去って、凶器は残らないわ。そう思うと妖怪の存在を父親から聞いてる和恵さんが怪しいのだけど……。」
うーん、とシュラインは唸る。強い確信はもてないが、どうしても和恵を疑ってしまう。
「それに、和恵さんは美恵ちゃんが花を描いていたと言い切っていたけど、実際に絵はなかったし。それって、実際には絵を描いているところを見に行ってなかったってことにならないかしら。」
「そうか！ そうだよな。」
「でも、子供の証言ってのはかなり曖昧だからなあ。」
簡単に推理に飛びつく岩崎と違って、草間は慎重だ。
「そう言えば何故あの妖怪、コップの水じゃなくて花を持って行ったのかしら？ それに、何の為に水を欲してるのかしらね。」
「そういう性質の妖怪なんじゃないのか？ 俺はよく知らないんだが。」
「花ごと持っていったのは謎ですよね。確かに。」
みなもも不思議そうに首を傾げる。水が欲しい妖怪ならば、コップだけ持っていけばいいのに。
「私としてはこんなものだけど。……どうかしら？」
To be continued...
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【1252 ／ 海原・みなも（うなばら・みなも） ／ 女 ／ １３歳 ／ 中学生】
【0086 ／ シュライン・エマ ／ 女 ／ ２６歳 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋時々草間興信所でバイト】
（受注順で並んでいます。）
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
【推理編】、如何でしたでしょうか？
いろいろな推理が飛び交っていて楽しいです。
さて、この中に正しい解答があるのかどうか。
続いて、【解決編】もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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