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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


バトル・ノイズ!

□■オープニング■□

 インターネットカフェ・ゴーストネットOFF。
 そこにあるすべてのパソコンに、ゴーストネットオリジナルオンラインゲーム『ノイズ』がインストールされているのをご存知だろうか。
 そこに行かなければプレイできないにも関わらず、常時20人以上がログインしているというそのゲームは、一部のマニアに絶大な人気を誇っている。その秘密は、音のパズルという斬新な戦闘スタイルにあるのかもしれない。


あの……  投稿者:純一  投稿日:200X.06.04 10:35

 ここで書いていいかわからないんですが、一応。
 友だちに渡そうと思って床に置いたアイテムを、
 知らない人に盗られちゃいました。
 これってサポートの人に言ったら返してもらえるんですか?
 それとも諦めるしかないんでしょうか……。


ルートか  投稿者:秋成  投稿日:200X.06.04 11:28

 このゲーム、トレード機能がないから渡す時どうしても床に
 置かなきゃならないんだよね。
 他のゲームなら置いた奴が悪いなんて言われかねないけど、
 ノイズはなぁ。
 人が大勢いる所でやってたわけじゃないんでしょ?
 誰に盗られたのか言ってみたら?
 そいつが見てたら返してくれるかもよ(笑)。


そうですか 投稿者:純一  投稿日:200X.06.04 12:44

 もちろん、人目につかない所でやってましたよ。
 そしたら急にその人が出てきて持って行っちゃったんです。
 名前は確かエドとかいう人。
 レベル高そうな人でした……。
 見てたら返してくださーい(−人−)
 初めて取ってきた指揮棒なんです……。


ちょい待ち 投稿者:秋成  投稿日:200X.06.04 13:13

 本当にカタカナで2文字の『エド』だったの?
 エドはそんなことする人じゃないんだけどな。
 そもそも指揮棒くらい簡単に自分で取ってこれるレベルの奴
 だよ(笑)。
 見間違いじゃない?


合ってます 投稿者:純一  投稿日:200X.06.04 13:54

 一緒にいた友だちにも確認してみました。
 やっぱりエドさんです。
 返してー(/_;)



□■視点⇒瀬水月・隼(せみづき・はやぶさ)■□

「…………」
 『ノイズ攻略BBS』をチェックしていた俺は、沈黙してしまった。
(このエドって、あのエドか?)
 あのやけに明るいお調子者のエド?
(まさかこんなことをする奴だったとはな……)
 否定してやりたいが、否定できるだけの情報を俺は持っていない。
 エドとは何度か情報交換をしたり、幽霊騒ぎや例のダンジョンの時に有益な情報をくれたりしているが、実際どんなヤツなのかはよく知らないのだ。
(パーティーを組んだことすらねェからなあ)
 そういうクセのあるヤツなら、組んでみればわかるんだろうが。
(でもまあ)
 もしこれが本当にあのエドだとしても、何か理由があるんだろうな。
 何故ならこれまで、エドに関するこんなカキコや噂を聞いたことがないからだ。こんな狭い世界だからこそ、盗難騒ぎなんかすぐに広まる。
 だいいち『ノイズ』では、受け渡しのため地面に置かれるアイテムを盗らないことは暗黙の了解だった。他に方法がないため、置くしかないからだ。エドがそれを知らないはずはない。
(それともう1つは)
 盗まれた指揮棒。
 はっきり言ってエドには必要のないアイテムだし、BBSに書きこんでる秋成ってヤツも言っているが、エドが取ってこようと思えば5分もかからずに取ってこれるアイテムなのだ。
(それに指揮棒には、特殊効果がついたやつなんかない)
 盗んでまで手にする理由がどこにも存在しない。
(――ちょっと調べてみるか)
 俺は『ノイズ』を起動させて、ヘッドフォンをかぶった。アカとパスを打ちこんで――ログイン。



 センターに登場した俺のキャラ・ファルク。そのファルクを移動させて、タウン内にある役所へと向かう。役所には各種ランキングが見れるランキングボードが設置されているのだ。
 ミッションランキング・デュエルランキング・ゴールドランキングと3種類ある中で、俺はいちばん近くにあるデュエルランキングを覗いた。
 目的は登録されてあるすべてのキャラ名に目を通すことだから、実際はどのランキングでも構わない。キャラ登録すると勝手にこの3つのランキングに登録されるためである。
 上位にはエドを始め、俺も目にしたことのある古参キャラが名を連ねていた。レベルもかなり高い。たまに混じっている低レベルキャラは、おそらくレベル制限のあるデュエルでデュエルポイントを稼いでいるのだろう。それもデュエルの1つの楽しみ方だ。
 ざっと名前を見ていく。『ノイズ』の仕様上、当然同じ名前のヤツはいないのだが、似た名前というのはいくらでもある。また全角と半角は別扱いなので、つづりは同じでもそれが違ったりと、紛らわしい名前も存在する。
 エドの場合、カタカナ2文字のエドだとはっきり書かれていた。だからもしかしたら、半角のエドがいるのではないかと思ったのだが……。
(さすがにいないか)
 他には『江戸』とか『えど』とか『ED』なんてのがいたが、純一とかいうヤツもそんな間違いはしないだろう。
(名前はおいといて、盗難騒ぎの方から調べてみるか)
 例えばこういうことも考えられる。
 1つのアイテムが地面に置いてあるとする。そのアイテムの周りに2人の人間が立っている。どちらもアイテムの方向を向いている。アイテムが消える。そうすると、見ているヤツらにはどちらが盗ったのかはわからないのだ。
(わかるのは盗ったヤツと)
 盗り損ねたヤツだけ。
 もし今回も同じことが起きたとしたら、エドという名前は無意味なものになる。もう1人の名前は出ていないが、そういう方法を取る以上そいつはルートの常習犯と言えるだろう。他にも被害者がいるかもしれない。
(あとは――)
 やっぱりエドにも話を訊きたいな。
 いつものようにプロフィール欄を書き換えて、ファルクを役所から移動させた。
 センターの脇に立たせておき、誰かがやってきたら声をかけることにした。人が現れるまでは、裏で『ノイズ攻略BBS』に検索をかけてみる。
 思いつく限りの言葉で検索してみるが、一向にヒットしない。よくよく考えてみると、俺が『ノイズ』を始めてからはその手の話がなかった気がする……。
(やっぱりエドなのか……?)
 登場エフェクトに反応して、『ノイズ』の画面に戻した。何人かが続けて登場したので、きっとパーティーを組んでどこかへ行っていたのだろう。
 声をかけて、エドと盗難の情報を集めてみる。
『エドって、あのBBSに出てたエド?』
『上級のダンジョン行くとたまに会うなぁ』
『あの人ってデュエルうまいんじゃなかったっけ?』
『――あ、そうそう。友だちが、あいつ全然懲りてないみたいだって言ってたな』
『普通に闘技場来てるみたいだしね』
『盗難の話は、今回の奴で初めてだなぁ』
『盗んでもバレバレだから、誰もやらないんじゃない?』
『ルートやPKやりたい奴は他のゲームいきゃあいいんだよ。ほら、ノイズはまったりゲーだから(笑)』
 その後も何人かのキャラに聞いてみたが、やはり闘技場で会ったという話がいちばん多かった。そして盗難騒ぎはこれが初めてだと。
(――行ってみるか)
 そういえば、デュエル大会に出る約束してたっけ。少しは感覚を思い出しておかないとな。
 闘技場はタウン内にある。闘技場に行くヤツは装備に気を遣うヤツがほとんどなので、銀行の隣だ。
 『ノイズ』では、闘技場以外でもデュエルすることができる。じゃあ何のために闘技場があるのかというと、闘技場内でのデュエルに限り観戦が可能なのだった。よって大会などは、当然闘技場で行われる。大会に限らずデュエルの相手を探しているヤツは、皆闘技場に集まるのだ。
 俺も低レベルの頃は結構出入りしていたが、レベルが上がるにつれ行かなくなった。理由は物足りなくなったからだ。あと高レベルだと、勝って当然のようにみられるのが嫌だった。
(低レベルだってやりようによって)
 いくらでも勝機があるのに。
 最初から無理と思いこんで戦いを挑んでくるヤツとは、戦う気にはなれなかった。
(かと言ってレベル制限のあるデュエルは)
 人数が少なくてつまんねぇからなあ。
 今の俺は、ギリギリの強さのモンスターを相手にしている方が楽しいのだった。
 久々に闘技場に入る。中にはデュエルのためにキャラを鍛えているというヤツもいるくらいだから、それなりには賑わっていた。
『あれ?! ファルクだ。珍しいなぁ。最近ずっと来なかったじゃないか』
 ログが流れると、男キャラが近づいてきた。そのキャラに見覚えがあった。俺がここによく出入りしていた頃にも、ここにいたヤツだ。
『おかげさんでレベルが上がったからな』
『そっか。おいらわざとレベルとめてるよ(笑)』
 どうやら生粋のデュエル馬鹿のようだ。
『最近ここでエドを見なかったか?』
 声をかける人を選ぶ手間が省けたとばかりに、俺は問いかける。すると案の定。
『ああ、今日も何度か来てたぞ。てかファルクがここで待ってれば、そのうち来るだろ』
『俺が待ってれば? どういう理屈だよそれは』
『あいつさ、高レベルのヤツが闘技場に現れると、どこからともなくやって来るんだ(笑)』
『…………』
 俺は思わず無言を打ちこんだ。
(いや――エドらしいといえばらしいのかもしれないが……)
『誰かがエドに教えてるってことか?』
『かもな。もしくはそのためだけのマクロがあるとか! レベル80以上の奴がきたら、闘技場に自動転送』
『ンな馬鹿な』
 そこまでやっているとしたら、笑うしかない。そもそもマクロも『ノイズ』では禁止されているはずだ。
 もし本当にエドがマクロを使っているなら、盗難騒ぎもエドに違いないと思われても仕方がない。1つ違反があれば他にも……と疑われても文句が言えないからだ。
『――お、やっぱり来たぜ(笑)』
『!』
 俺のすぐ後ろに、エドが現れる。俺が入り口辺りから動いていないから当然か。
 横から紛れこんでいた挨拶などのログが急に途切れる。皆裏でエドの噂をしているのだろう。
 当のエドはいつもと変わらない調子で声をかけてきた。
『わお。まさかと思ったが、本当にファルクがいるw 大会のために肩慣らしにでも来たのか?』
『それもあるが、お前を捜してたんだ。ちょっと話がある』
『もしかしなくてもあのことか』
 エドはエドで色んなヤツに訊かれているようだ。すぐに俺の問いを悟る。
『いいだろう。ちょっとパーティーに入れ』
 表示された誘いに『OK』をクリック。チャットをパーティーチャットに変更してから、動き出したエドのあとに続いて闘技場の隅へと移動した。
『わりぃな。メールもパソチャも受信拒否してるんだ。今朝から苦情がうるさくてなぁw』
 名前さえわかればコンタクトが簡単に取れる『ノイズ』。それは一見便利なように見えるが、便利すぎるゆえこういう弊害も起こる。
『本当にお前がやったのか?』
 俺が率直に問うと、エドの返事も早かった。
『ファルクはオレが盗ったと思ってるのか?』
 訊かれて逆に俺の手がとまる。へぇそうかと納得できなかったからこそ、調べようと思ったのだ。
『――お前が指揮棒なんて必要とするタマか?』
『はは。そーなんだよな。前々からオレのことを知ってる奴は、苦情のメールなんてよこさねぇ。送ってくるのは低レベルの初心者ばかりだ。きっと指揮棒を使ってレベル上げしてる奴らなんだろうな』
 だからこそそれを盗んだエドを許せないって?
 なんだか馬鹿馬鹿しく思えて、俺は打ちこんだ。
『そいつらがやってることこそ規約違反だってことが、わかってないんだな』
 エドが無実の罪ならなおさら。
『オレは憶えがない。指揮棒なんぞ必要としない』
 きっぱりと言い切ったエドに、俺は少し安心する。
(少しでも繋がりのあるヤツが)
 悪人だとわかるのはやっぱりいいもんじゃないからな。
『お前もサポートに言った方がいいんじゃ? 憶えがない、言いがかりだって』
 俺がそう発言すると、エドは何故かしばらく黙っていた。フリーズしたのかと思いキャラが消えるのを待ってみるが、どうやらそうではないらしい。
 やがてエドが口にした言葉は、予想外のものだった。
『――憶えがないのは、それだけじゃないんだなこれがw』
『へ?』
『アイテム欄に持っていないはずの指揮棒があった。それも事実だ』
『な……?!』
 盗った記憶はないのに、物的証拠があるって?
(何だよソレ……)
『サポート側から見たら、やはりオレが盗ったように見えるかもしれん。それでオレはどっちにも強い態度をとれないワケよ。わかってくれる? このオレの複雑な気持ち……w』
 真剣に悩んでいるのだろうが、その言い回しがあまりにもいつもどおりだから、まったくそんな感じはしない。
『……純一とかいうキャラと会ったことも憶えていないのか?』
『だな。オレも気になってチャットログ調べてみたが、そいつのログは見当たらなかった』
(一体どういうことだ?)
 誰かがエドをはめようとしているんだろうか……。しかし本人の知らない間にアイテム欄にアイテム流しこむなんて、それこそサポートでない限り不可能だろう(……基本的には)。
『おいエド。お前なんかサポートに嫌われるようなことしてないだろうな?』
 訊いてからふと、さっきの男が言っていたマクロのことを思い出した。
『例えばマクロとか』
『冗談はよしこちゃん!(死語) オレが楽して強くなりたいなんぞ思うと思うか? それにオレがサポートに嫌われるなんて、お前が嫌われるより数倍ありえないねw』
『なんだよその自信は……』
『ここだけの話、オレ、『ノイズ』作ってるNファクトリーのおっさんたちと知り合いなんだ』
(!)
 意外なところで繋がった……。
『当然向こうもエドがオレだって知ってる。――ところで、どっからマクロなんて話が出てきたんだ?』
『あ、ああ……お前、高レベルのヤツが闘技場に現れると、どこからともなくやってくるっつーから、さっき話してたヤツがマクロでも使ってんじゃねーかってさ』
 するとエドは忌々しそうにそいつの方に身体を向けて。
『チッ、あいつか。あとで血の海に沈めてやんねーとなっ』
 デュエルする気満々のようだ。
『マクロなんかじゃねーぞ。サポートの連中に頼んであるんだ。一応闘技場の活性化なんか考えてるみてぇでな。闘技場に集まる面子のレベルとか統計取ってるって言うから、じゃあ強ぇ奴来たら教えてくれって言ってあるんだ(笑)』
(ちゃっかりと言うかなんと言うか……)
 しかしこれで、エドがそこまでNファクトリーの連中と仲のいいことはわかった。
(でもだったら)
『サポートの連中にちゃんと話せばわかってもらえるんじゃないのか?』
『どうかな。知り合いとはいえ、やったのが本当にオレなら庇わないだろ、ふつー。お前だってやったのが本当にオレなら、こんなふうに会話しないんじゃないのか?』
(――そうかもしれない)
『この件に関しては、オレはもう諦め気味w オレがやったと思いたい奴は思ってればいいさ。そのうち噂も収まるだろうしな』
 確かにエドがずっとこんな態度でいれば、噂はすぐに収まるだろう。それに当のエドが気にしないんであれば、これ以上俺がどうこういう問題ではない。
(盗難騒ぎのことはひとまず置いといて)
 Nファクトリー内部のことを訊いてみるか?
 そう思って、キーボードに問いを打ちこんでいる最中だった。
『――お、わりぃ。そろそろ帰らねーと』
 エドのログが先に流れる。
 俺は慌てて入力しかけの文字を消して、違う言葉を返した。
『またなw』
『おぅ! 大会楽しみにしてるぜ〜。じゃ』
 去り際の名残惜しさもなく、エドはあっさりと消えた。自動でパーティーが外れ、チャットモードもノーマルに切り替わる。
 ファルクを闘技場の真ん中辺りに移動させてみると、闘技場内のメンバーもずいぶんと減ってきているのがわかった。
(俺もそろそろ帰るか)
 デュエルの練習はできなかったが、有益な情報を得ることができた。
(エドはNファクトリーと繋がりがある)
 しかもそれはある程度深いらしい。次に会った時は、ぜひ聞き出してみなければ……。
 ログアウトして、ヘッドフォンを外した。今立ち上がって動いている面々の中に、エドのリアルがいる。そう思って周りを見渡すが、その人数は意外と多かった。
(……そうか、そろそろナイトパックの時間か)
 帰るヤツも多いが、やってくるヤツも多い時間帯。
 俺は諦めて、その人の流れの中に紛れた。

     ★

 翌日の放課後。運悪く掃除当番にされた俺は少し遅れてゴーストネットへやってきた。いつものように『ノイズ』を立てた俺を待っていたのは、光月・羽澄(こうづき・はずみ)からメールだった。
『こんにちは。突然だけど、BBSのエドというキャラのルート騒ぎは知ってる? 璃瑠花ちゃんが、それはエドが実験台にされたせいじゃないかと言ってるわ。言われてみると確かに怪しいのよ。それでエドに会って確かめたいと思っているから、エドを見かけたら連絡をちょうだいね。
 追伸:キミはエドのリアルについて何か知ってる?』
(……何で気づかなかったんだ、俺)
 読んでそう思った。
 曖昧な記憶といい、残されたアイテムといい。あの心理テストのダンジョンの時、アイテムが残らなかったのはその場で使う、なおかつ消耗品だったからだ。けれど今回は違う。
(エドは確かにはめられていたんだ)
 "実験"という罠に。
 俺は急いで、パーソナルチャットの画面を開いた。
 メールを送っておいたということは、まだノイズ内にいる可能性が高いのだ。それならばメールよりチャットの方が早い。
『おーい』
 パソチャは相手がログインしていないと送れないため、試しに1行送ってみる。
 いつもと同じようにチャットウィンドウに表示された。
『お、よかった。まだいたか』
 もう一行送る。
 少し待っていると、光月の反応が返ってきた。
『こんにちは。今みなもちゃんと闘技場にいるの。こっちに来てくれない?』
『わかった。俺も話したいことあるしな。今行く』
 それだけ打つとチャットウィンドウを閉じて、まずは銀行へ向かう。
 話に行くだけだが、いつ対戦を申しこまれるとも限らないのだ。闘技場に行くからには、それを覚悟しなければならない。
 軽く装備を整えてから、闘技場へと向かった。
 光月と海原・みなも(うなばら・みなも)は入り口のすぐ近くにいた。おかげですぐに見つけることができた。
『エドならそのうち来るぞ。俺昨日エドから話聞いたんだ』
 パーティーを組んで早々、俺がそんなログを流すと2人は心底驚いたように反応した。
『ここで待ち合わせをしているんですか?』
『BBSのことで何か言ってた?』
 どの辺が"心底"かというと、反応の速さだ。俺は画面の前で少し笑いながら。
『待ち合わせはしていない。――エドはNファクトリー内部に知り合いがいるらしくてな。高レベルなキャラが闘技場に現れると、その情報がエドに行くようになってるんだとさ』
『! それでエドが現れるって……?』
『現に昨日ここで会った。Nファクトリーの知り合いについては、詳しく訊き出す前に落ちちまったがな』
『Nファクトリー内に知り合い……それって、璃瑠花さんの予想が正しいことを証明してるみたいですね……』
(確かに)
 みなもの言うとおりだ。
(何故エドがいち早く実験台にされたのか)
 少なくとも俺たちにはまだ、何の変化もないのに。
 その理由が内部に知り合いがいるからだとすれば、納得できる。つまり100%他人を相手にするより、少しでも知っている人物を相手にした方が、変化がわかり易いからだ。
(それだけじゃない)
『さらにもう1つ、証明できるモンがあるぞ』
 俺はつけ加えた。
『エドは盗んだ憶えはないと言っていた。だがエドのアイテム欄には確かに、"手に入れた憶えのない指揮棒"が存在していたらしい』
『?!』
 きっと2人は俺が考えたことと同じことを考えているのだろう。ログはしばらくとまった。
『エドさん……大丈夫かしら』
 やがて心配そうなみなものログが流れる。
『一時的な憎しみでも、植え付けられたのかねぇ』
 俺は自分の予想を打ちこんだ。
(憎しみから、相手の物を盗った)
 これがゲームの中だからまだいい。もしリアルで憎しみなんか植え付けられたら……どんな悲劇が起こるかなんて、毎日のニュースが伝えている。
(考えたくは、ない)
『――お、来たぜ』
 画面の隅にエドを捉えた。俺たちの間に緊張が走る。今日は3人で個室にいるわけじゃないが、それでも空気は伝わってくるのだ。
 痛いほど張りつめた――
『あれ? またファルクか。お前が2日連続でここ来るなんてどうしたんだぁ? そんなにオレとデートしたいのか?w』
 その張りつめた空気は、一瞬にして消え去った。――いや、エドにそれを求めるのが酷か。
『しかも両手に花ときたもんだ(笑)。1人オレの方入って、パーティーデュエルでもするか?』
 パーティーデュエルとは、予定外の誘いがきた。まぁ面白そうではあるのだが。
 他の2人は構わないのだろうかと様子を窺っていると、光月がやる気満々の発言をした。
『OK。私がそっちに行くわ』
 自分からパーティーを解散させたので、俺はみなもに申請を出す。
(確かに)
 レベルのバランス的には、この組み合わせがいちばんいい。俺はエドよりレベルが高いし、みなもは光月より下だったはずだ。
(もっとも――)
 パーティーデュエルに必要なのは、レベルよりもチームワームなわけだが。
『デュエルなんてするつもりなかったろ。大丈夫か?』
 俺がパーティーチャットで話しかけると。
『ええ、でも、1対1じゃなければ結構楽しそうだなって思いますから。ちょっと待って下さいね、一応持ってる中でいい装備に変更しますから』
『ああ』
 さほど嫌がってはいないようだったので、少し安心する。やはり嫌々やられるよりも、楽しんでやろうとしてくれる方がありがたい。
『準備できました!』
 俺は作戦の説明を始める。
『OK。エドは呪術師経由の魔道士だ。だが正直攻撃音階より呪術音階の方が怖い。それさえ防げれば力は俺の方が上なはずだ』
『ふむふむ』
『あんたは収集士だったな。使えそうなノイズはあるか?』
『種類の多さには自信がありますけど……』
 どれが"使えそう"かはわからないらしい。
『転調士と呪術師のコンビはある意味最強だ。勝つにはかなりの運が要求される。俺が合図したら、ノイズを放てるだけ放ってくれ』
『わかりました』
 俺の中では既に、勝利のシナリオができていた。
 急かすように、エドに声をかける。
『準備いいか? さっさとやろうぜ』
 エドがそれに応え。
『おうよ。行くぞ』
 ――デュエルが始まった。
 今回の曲はテンポの速い曲だ。
(ちっ、"向こうより"か)
 転調士と呪術士(呪術所持者)の組み合わせの時、大抵使われるパターンがある。それは転調士が転調した隙をついて呪術を使うというものだ。呪術を防ぐには相殺するしかないが、転調後すぐだと音が取り辛く外してしまうことが多い。
 その必勝法としては、転調後こちらもありとあらゆる音を出すというかなり強引な手が使われる。どれかの音と呪術の音が重なることを期待するのだ。
 だがその代償は大きく、その後すぐには特殊音階(攻撃や回復音階)を使うことができない。
 つまりそこで呪術を防げなければ、一気に形勢が傾いてしまうことになるのだ。
『いつ勝負にくる?』
 冷静にノイズを消しながら、時を待つ。
(――!)
 やがて唐突に転調した。光月が転調音階を奏でたのだ。
『準備!』
 普通はここで準備ではなく放出だ。だが俺は、裏の裏をかこうとしたのだった。
(転調時に放出は常套手段)
 呪術はその効果があまりにも大きいため、1回のデュエルでは1度しか使えない。
(エドならば、確実な道を選ぶだろう)
 つまりこっちが放出しきったあとを狙って……
『! しまった』
 ――という俺の予想は、見事に外れてしまった。こっちは放出するどころか、混乱のせいでうまくノイズを消すこともできない。
 ダメ元でキュアを唱えようとしてみるが、無駄だった。
『深読みしすぎたな……。てっきり転調後のこっちの一発を待ってから来ると思ったのに』
『混乱きついですね(>_<)』
 そんなログを流している間にも、Mポイントはどんどん減っていく。0になるとセンターに――戻るわけではなく、画面がブラックアウトした。そして元の画面に戻り、デュエルポイントが引かれたことを知らせるウィンドウが開いている。
 勝てば増え、負ければ減るデュエルポイントは、デュエルランキングに関係している。
『あ〜〜くそっ。うまくやられたなぁ』
 今度はノーマルチャットで、悔しいログを流す。「次は勝つ」という意味をこめて。
『あ、あたし混乱なんてしたの初めてですっ。こんなふうになっちゃうんですねー』
 続いて発言したみなもの言葉に、俺は納得した。
(混乱したことがなかったから)
 "きつい"ことを知らなかったのか。
『ふっふっふ。チームワークの勝利だな』
 エドが嬉しそうにパーティーを解除させたのを見て、俺はすぐにエドと光月に申請を出した。
『お? 何だ?』
『いいから入れ』
 エドを無理やりパーティーに入れ、少しその場から離れる。俺たちがデュエルをやっている最中に、観戦しようと人が集まってきていたからだ(観戦したいキャラに近づいて観戦ボタンをクリックすると観戦できる仕組みになっている)。
『何だよ? いきなり付き合って下さいなんて言うんじゃないだろうな?w』
 明らかに内緒話をしようという雰囲気の俺たちに、エドがそんなことを言った。エドにシリアスを求めること自体間違っているのだろう。
『違うから安心しろw』
 俺がそうあしらうと、光月が鋭く切り出す。
『――失礼を承知で訊くわ。キミはNファクトリーの人たちとどういう繋がりがあるの?』
『! ……ファルクが喋ったのか?』
『悪ぃな。俺たちは同じことを調べているんだ。情報を共有しなきゃ効率が悪ぃんだよ』
 普通のヤツなら怒るのかもしれないが、さすがのエドは普通とかけ離れていた。
『もしかして幽霊騒ぎとか前のダンジョンの時も、このギャルたちと協力してたんかい?w』
(ギャル……)
 今時そんな言葉を聞くとは。
『まぁな』
『くぅ〜〜ずりぃなぁ。オレも仲間に入れてくれよ。何調べてるかしらねぇけど』
『どうして仲間に入りたいんですか?』
 そう訊いたみなもも勇気があると思ったが。
『そりゃあだって、ファルクはネカマが嫌いそうだからな(笑)』
『――は?!』
『たとえリアルで会わなくても、一緒に行動するならキャラだけじゃなく中身もギャルの方が華やかじゃないか! プレイヤーはやっぱり断然男の方が多いしな』
『…………』
『…………』
『…………』
 正直に答えたエドも十分勇気があると思った。
『あ〜なんだよ3人してw 感じ悪いなぁ。仲間に入れてくれたら何でも喋るって言ってるだろーがっ』
『! 本当か?』
『オレが今まで嘘ついたことあるのかよ?(ニヤソ)』
 俺は少し考えてみるが。
『――……不本意ながら、ないな』
『だろー? しかもファルクたちが闘技場でわざわざオレを待ってたんなら、訊かずには帰れないよな?』
(ただの馬鹿じゃない)
 それがよくわかる発言だった。
 おそらくリアルで一緒にいたなら、皆と顔を見合わせていた場面だろう。けれど答えは話し合わずとも決まっていた。
(エド本人以外に)
 繋がるものは何もないのだ。ここは仲間に引き入れてでも、頼るしかない。
 代表して、光月がログを流す。
『――OK、エド。あとからすべて話すわ。だから先に聞かせてちょうだい。あなたはNファクトリーとどんな関係にあるの?』
『ふっふっふ。聞いて驚くな。なんとオレの親父がNファクトリーのメンバーなんだ』
『え?!』
『何……?』
『ホントですか?!』
 一度にログが流れた。
(まさか自分の子供まで実験台にしてるのか……?)
 ありえねぇー。
 けれどエドの言葉は、まだ終わっていなかった。
『そんなに驚いてくれて嬉しいが、実は"元"がつくんだよなぁw』
『元メンバー?』
(それは……!)
『――エド。どうしても嫌なら答えなくてもいいが……お前のリアル苗字って?』
『なんだよ、そこまで訊くのか?(笑) 別にかまわねぇけどさ。遠藤だよ、遠藤! だから略して"エド"ってわけ』
(違った……)
 偶然はそこまで重ならない。
 きっとエドは、藤堂よりもずっと以前に辞めたヤツの息子なのだろう。
 ――しかし。
『実は"元"がつくものは、もう1つあるんだぜ』
『え?』
 偶然の矢は放たれた。
『そいつオレの"元"親父。オレがまだ小さい頃に別れたのさ。その頃のオレの苗字は藤堂だった』
 逆の方向へ放たれ、反射して戻ってきた。
("運命"という2文字に反射して?)
『オレは藤の字から離れられないらしいなw』
 そんなエドのログなど、目に入らない。
(エドが藤堂の子供……)
 そして次に浮かぶ疑問。
(これは本当に、偶然なのか――?)



 当然エドには本当のことなど話せず、俺たちはなんとかごまかしてログアウトした。
 その翌日。
 事態はさらなる急展開を見せることになる。
「――! 親父?!」
 ゴーストネット内に突然響いた声に、思わず俺は顔を向けた。ヘッドフォンをしていても聞こえたのは、そいつの席が俺の3つ隣だったからだ。
 いつもの俺ならチラリと見ただけですぐ『ノイズ』に戻るのだろうが、今日はそうはいかなかった。声を上げたガキ見覚えはない。
 けれど。
(! あの顔は……?!)
 「親父」と呼ばれた方に見覚えがあったのだ。それに隣には、御影・璃瑠花(みかげ・るりか)が立っている。
(まさか藤堂?!)
 そしてこのガキが――エドか!
「文和(ふみかず)!」
 藤堂(?)はゆっくりとエド――文和に近づいてくると、最後には文和を抱きしめた。
「本当に親父なのか……? 今までどこに行ってたんだよ?! 会社の秘密ぬす――うぐっ」
(あっぶねー)
 とっさに俺は文和の口を抑えた。
 こんな公共の場で、真実ではないにしても物騒なことを言わせるわけにはいかない。
「その話はこっちで!」
 そのまま俺は文和を奥の個室へと引きずっていく。ついでに藤堂も釣れたのでそのまま部屋に押しこんだ。その後ろから入ってくる面子は、いつものメンバー。いつの間にか集まっていたようだ。
 皆がそれぞれ席に着いたのを確認してから、文和の口から手を離した。
「うぐぐぐ……ぷは〜〜〜。あー苦しかった。何なんだよあんた! いきなりオレの口塞ぎやがって!」
「文和! 言葉遣いが悪いぞ」
「うぐっ」
 俺に食ってかかろうとした文和を、藤堂が鋭くとめる。
(さすがに"親父"だな)
「だって……ホントにどこ行ってたんだよぉ。オレ心配してたんだからなぁー。母さんは放っておけなんて言うし、Nファクトリーの人たちは親父のこと犯罪者扱いだし……」
「文和……」
 藤堂はもう一度、文和を抱きしめた。
 その様子を見ていても、俺にはいまいち納得できない。
「――ホントにこいつがエドなのか?」
「あたしもちょっと……信じられないです」
 みなもも同じように思ったようで、呟いた。
(何かなぁ)
 さすがにこれほどガキだとは思わなかった。どう見ても中1くらいにしか見えない。
「何だよあんたたち。オレを知ってるのか?」
 一丁前に生意気な口をきくガキに。
「あー知ってるとも。お前がこの2人をナンパするところ、しっかりと見てたからな」
 俺はそんなことを言ってやった。2人というのはもちろん、みなもと光月だ。あながち嘘ではない。
「え? ……え?!」
「ナンパだと……? 文和、お前そんな歳で何を考えているんだ」
「知らないよオレ! 言いがかりだ〜」
(一丁前なのは、口だけじゃなかったか)
 一丁前に"父子"をしている。
 多分ほんの少しの羨ましさも混じって、俺は笑った。
「おいお前! でたらめなこと言うなっ」
 こちらを睨みつける文和に、笑ったまま応える。
「エドは意外と頭のいいヤツだったがなぁ。いい加減気づけ! 俺はファルクだ」
「あたしはみなもです」
「私はlirva」
 すると文和は反応して。
「ファルク?! ファルクってあのファルクか? パーティーデュエルでオレに負け――いてっ」
 このガキに負けたと思うとかなり不服なので、とりあえず殴ってやった。
「1対1じゃ負ねーよっ」
「何すんだよ〜」
 仕返ししようと文和が飛びかかってくるが、身長が違いすぎて俺の頭にはとてもじゃないが届かない。
(弟がいたら、こんな感じなのか?)
 ふと、そんなことを考えた。
「はしゃぐのはそれくらいにしておけ。そろそろ大事な――儀式の時間だ」
 和んだ空気の中を、羽柴・戒那(はしば・かいな)の張りつめた声が通る。一瞬にして、部屋が静まり返った。
(それが)
 文和を元に戻すための、"儀式"の始まりだった。

     ★

 羽柴の手によって文和の感情操作がゼロに戻されたあと、藤堂はNファクトリーの真相を語った。
 それによるとNファクトリーは、大掛かりな詐欺を目的にこの実験を行っているらしい。
(ますます許せねェな)
 金がほしいならまともに働けっつーんだ。
 『ノイズ』と『ノイズ』が好きで遊んでいるヤツらを、犠牲にするようなことは許せない。
(藤堂がこっちの味方についた今)
 本当の意味での戦いは、ここからだ!



 後日。
 文和との約束どおりデュエル大会に出場した俺は、見事に優勝を飾った。
 文和は俺との決勝戦を最後に、エドをデリートする決心をしたらしい。
「今度は1対1でもファルクに勝てるキャラを作ってやる!」
(ならば俺は)
 楽しみに待っていよう。
 平和な『ノイズ』で、もう一度文和とデュエルできる日を――。










                            (了)

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号/   PC名  / 性別 / 年齢 /   職業   】
【 1252 / 海原・みなも / 女  / 13 /  中学生   】
【 0072 / 瀬水月・隼  / 男  / 15 /
                高校生(陰でデジタルジャンク屋)】
【 1282 / 光月・羽澄  / 女  / 18 /
             高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【 0121 / 羽柴・戒那  / 女  / 35 / 大学助教授  】
【 1316 / 御影・瑠璃花 / 女  / 11 / お嬢様・モデル】



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          ライター通信          
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 こんにちは^^ 伊塚和水です。
 ご参加ありがとうございました_(._.)_ 『ノイズ』3作目のお届けです。
 今回はついに、藤堂さんの登場とあいなりました。大変お待たせいたしました(笑)。
 書き始める前は「これで終わるのかな?」と思ってこのタイトルにしたのですが、どうやらもう1本続きそうです。よろしければまたお付き合いくださいませ^^
 毎度のことながら、各視点により詳しい部分が違っていますので、あわせてお楽しみいただければさいわいです。
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝