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<東京怪談ノベル(シングル)>


のんびりゆっくりゆったりと



 その日は朝から気分が良かった。
 いつもより少し早い時間に目が覚めて、カーテンを開けたら穏やかな朝の陽が部屋に射す。
 何も予定がない日なんて、もしかしたら久しぶりかもしれない。
 もうそろそろ春とは呼べない季節だけれど、太陽の光はまだギラギラと熱く照りつける夏の陽とは違う。
 ふんわりと暖かい陽気に、このままもう一度寝てしまおうか? なんてことも頭の隅で考えた。
 だけど、こんな素敵な陽気の日に一日部屋で過ごすだなんて勿体無い!
 澄んだ青空を見ていると、部屋の中で考えこんでいることすらなんだか勿体無いように思えてしまう。
 何をするかは歩きながら決めようかな。
 行きあたりばったりに過ごす一日というのも楽しそうだと、のんびり出かける用意をはじめた。

 なんとなく足を向けたのは賑やかな商店街。
 日曜ゆえの、平日とはまた違った騒がしさが楽しくて、買う気もないのに、ついつい商品を眺めてしまう。
 そんな時ふと、可愛らしいリボンが目に留まった。
 よく見ればそれはリボンと箱と包装紙がセットになったラッピング用品だった。
 こういう衝動買いもたまには良いだろう。
 今の所まったく使い道のないそれを手に取って、レジへ足を運んだ。
 買ったばかりのラッピング用品を手にして、また商店街の散策に戻る。
 せっかく買ったのだから、何かに使いたいところだ。
 何に使おうかと考えながら歩いていた時、今度はお菓子用品に目が行った。
 ふとあることを思いついて、いくつかの食品を買いこんで、やっぱりのんびり歩いて家に帰った。





 ドサっと材料を台所に並べて、キュッとエプロンの紐を結んだ。
「さてと」
 狭い台所はもう、材料と調理道具でいっぱいになっていた。
「えーっと・・・・・」
 バターとお砂糖と卵と薄力粉。それから、幽霊さんも食べれるように霊水も。順番にボウルに入れて、ゆっくりと混ぜ合わせる。
 作ったクッキーは誰にあげようか?
「んー・・・・・・・・・・・・」
 学校の友達の事を考えていたら、まだ早いような気もするけれどもうそろそろ考えなければいけない進路のことが頭に浮かんだ。
 時々巻き込まれたり首を突っ込んだりしている事件や、そこで出会った友人たち。
 次から次へとお友達の顔が浮かんで、少しだけ手を止めた。
 改めて生地の量を確認する。
「・・・・・足りるかしら」
 お友達みんなに渡すにはちょっと量が足りないかもしれない。少なくとも、ラッピングの箱は確実に足りなくなる。
 オーブンに入れてしまえばあとは待つだけだから・・・・・――
「また買ってこようかな」
 カシャカシャと泡立て器を回しながら、楽しい笑みが浮かんだ。
 冷蔵庫で生地を冷やす間に、型を用意する。ハート、星、ウサギ、桜――他数種類。うちには、思っていたより色々な形の物があったらしい。
 固まった生地を型抜きして、余った分は適当に切って。順番にオーブンに放りこむ。
 焼いている間にもう一度買い物に出て、ラッピングの箱を少し買い足した。

「うん、よし!」
 可愛らしく焼きあがったクッキーに頷いて、ちょっと冷ましてからラッピング。
 余り物のいびつな形のクッキーは自分の分だ。
 適当なお皿に移して、お茶を用意して。暖かな陽光が注ぐ縁側へと移動した。
 春というにはすこし眩しすぎるが、夏というにはまだまだ穏やかな陽射し。
 今日はほとんど風がなくて、砂埃が舞うこともない。
 外でのんびりするのに本当にぴったりの陽気だ。

 作ったクッキーを食べながら。
 のんびりゆっくりゆったりと。
 穏やかな時間の流れを感じることのできる一日だった。