コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


人材発掘‥‥いや、多分。

●募集してみる
『もとむ人材。世界平和や征服を企むクライアントや被験体、並びに離常識な道具を作る人手を募集』
 その下には小首を傾げる小型犬の写真と天王谷特殊工学研究所の文字。

 物が溢れる部屋。そこでそんなページを眺めちた男がぼさぼさの頭を掻きながら、大きな、極めて大きな溜め息をついた。
「なんやねん、これ」
「広告だ」
 応じたのは大きな机でパイプのような塊をこね回していた女。短く整えられ黒髪が幼い顔立ちとあいまって七五三っぽい。
「現在、仕事も頭数もないからな。コネを使ってみた。所長の写真うつりだけが心配だったのだが」
 その声に反応したのか、男の側で転がっていた犬が顔を上げる。
「何故、超常系雑誌にコネがある‥‥いやいや、それ以前に俺らは表に出たらヤバイんと違うんか?」
「IO2か? ふっ、そのための募集でもある」
「さいで‥‥なら、ついでに精神力エンジンの巨大ロボットでも作るか? それともエーテル使用の強化服か?」
 そして男はまた大きな溜め息をつき、犬の頭を撫でた。
「それよりも所長を元に戻す道具を作ったれ」

●とりあえず面接してみる
とりあえず‥‥という訳でもないだろうが、アルバイトと言えば面接だ。
「13歳か」
 手元の履歴書に目を落としたままの女―井上と名乗った―。
「ダメ、ですか?」
 つい心配になって海原みなもは、井上の顔をじっと見た。
「学校の許可が必要なら申請します」
 したからと言って通るかどうかは別問題なのだが。
「別に必要はない。勿論、あるに越したことは無いが、それほど大きな問題にはなるまい。ただ‥‥」
 そこで井上は背後のもう一人の研究所の人物―五色と言う名の男―に無表情なまま目を向けた。つられて、みなもも五色を見る。
「‥‥何故に二人して俺を見る?」
「気にするな。若干の懸念だ」
 井上はあっさりそう言うと、再び履歴書に目を落とした。
「何か自信があるものはあるか?」
「体力と丈夫さは人並みに自信があります」
 みなもは出来るだけはっきりとを心がけつつ、用意しておいた答えを答えた。
 研究所とは言え、体力勝負の部分はある。それは以前の経験からの教訓だった。
「体力か」
 と、井上がじっとみなもの瞳を見た。
 その視線に女同士とは言え、妙に気恥ずかしいものを感じるのはなぜだろうか。そして、視界の端の五色が虚空に裏平手をいれたのはなぜだろうか。
「まあ、良かろう」
 内心で首を傾げるみなもを他所に井上が一つ頷くと、五色に目配せを送った。
「‥‥あ、俺? いや、別に聞くことはないけど? 実際、人手が来ただけでもありがたいことやし、なによりこんな可愛い子が‥‥なんや、その目は?」
「やはりか」
 井上の呟きで部屋の温度は大きく下がったような気がした。

●働いてみる
 一言で研究所と言っても、その研究分野や創設理念により設備や仕事内容は大きく様変わりする。とは言え。
(でも、ここは本当に研究所なのでしょうか?)
 それがみなもの正直な感想だった。
 面接の後、『好きなときに来てくれればいい』と言われてから、今回で三回目。
 過去二回の帰り際に見る井上は何かを作ってはいるようだが、五色の方はのんびりと応接ソファで転がっているだけ。
 加えて自分の仕事は主に地下書庫の整理と本のチェックだ。それも高さ三メートルはある棚に収まった、何処の言語か分からない文字をリストと照らし合わせると言う体力と言うより精神力な仕事。
 これで契約上の時給が悪ければ‥‥などと考えたところで、地下への螺旋階段に腰掛けているみなもは大きく頭を振った。
(それでも、まあ、お仕事ですし)
 一応、今は休憩時間だった。もっとも休憩時間を自発的に取ることが出来るというのもなんだかなあとは思うが、それはそれで信頼あってのこと‥‥なのだろうか?
「どうなんでしょう?」
 と、呟いた時。
「何が?」 「ひっ!」
 さすがに周囲に注意を払っていなかった。それだけに驚いて振り向きざまに平手。そしてそれは、地形効果もあってもの凄い音をたてこめかみ辺りに命中。声の主らしきモノを倒し‥‥それは暗い暗い地下へと滑っていった。かろうじて避けたみなもを残して。

「すみません。すみません。すみません。すみません。すみません」
「いや、ええって。多分、俺のほうが悪いと言い切られるやろうし」
 懸命に頭を下げるみなもに五色がぱたぱたと右手を振った。大きな怪我はないようだ。
「でも‥‥」
「この程度やったら、ぜんぜん問題ないって‥‥にしても、ええ左持ってんなあ。これなら世界と戦えるぞ」
 仕事以上の疲れがどっと押し寄せてきた。
「えーっと‥‥まあ、それはさておき、どないしたんや?」
 色々なものをひっくるめて通じたらしい。わしわしと頭を掻く五色。
「いえ。別に‥‥」
「『ここは本当に研究所なんでしょうか』」
 気持ちの悪い裏声に、目を逸らしていたみなもは五色の顔を見た。
「まあ、普通そう思うと思っただけや。せやな、次いつ来れる?」
「次、ですか?」
 みなもはこの先数日の予定を思い返した。
「そ、次。そろろそろ何かせなあかんとは思ってたとこやし」
 にやり、五色が笑う。
「ここの実力を体験していただきましょう。ご希望は?」

●実験に付き合ってみる
「衣服は人類が己に足りないものを補完するために作り出したものだと認識している」
 カーテンがすべての窓をふさぎ、ぼんやりとした灯りしかない部屋。その部屋に入った途端、真ん中辺りにいた井上の口上が始まった。
「はあ」
 なら、反応はそんなものだろう。
 ここに来るようになって初めて足を踏み入れる三階。そこは居住空間だと聞いていたし、ベッドがあることからもそうなのだろうなとは理解できた。
(熊さんもいますしね)
 物が極端に少ない部屋なので、窓際の椅子に座る大きな熊のぬいぐるみだけが妙に浮いているように思う。
「では人類に足りないものは何か」
 つかつかとクローゼットの方に向かう井上。そこを開けると中の服を手当たり次第に床へと投げていく。
「ある者は翼だと言った。ある者は強靭な肉体だと言った。危険に対する備えだと言った者もいる。環境への適応能力だと言った者もいる。あるいは‥‥」
 みなもはそのほとんどを聞いていなかった。
 それよりも‥‥そう、それよりも床に散らかされていく衣類の方が気になったから。
(どういう基準なんでしょう?)
 ヒラヒラでフリフリな迷彩。銀のラメがきらきらと灯りを反射するエプロンドレス。ゴクラクチョウなイブニングドレスに振袖のようなチャイナドレス。浴衣っぽい物は何か赤黒いというかこうあんな感じの色。
「しかしながら、だ」
 まだ投げてくる。どんどん形が女の子としては『ちょっと‥‥』となっていく。
「それは多岐に渡り過ぎ、議論することさえも馬鹿らしい話だ」 
 果てはヒモ。ハンガーに絡まるヒモと言う以上ないくらいヒモ。
「さあ、選べ」
 選べるのでしょうか? 思わず聞きたくなるみなもだったり。

「サイズはどうだ?」
「ちょっと大きいようですが‥‥大丈夫です」
 結局、別のクローゼットを開けてもらった。井上は『こちらは主に男物だ』と言っていたように、セットとして保管されていた黒いタキシードの上下とシャツは上背のあるみなもでも余裕があった。
「大体、奴の把握通りか」
「それで、これを着るとどうなるのでしょう?」
 少し引っ掛かったが、今は実験中だと思い直す。今のところは何も異常はない。だが、だからと言って何もないわけではないはずだ。
「月夜に飛べるはずだった」
「え?」
 あいかわらずの鉄面皮であっさりと言い切られ、腕を回していたみなもは目を丸くした。
「飛ぶって‥‥空、ですよね?」
「空だ」
 またもやあっさり。
「すごく、ないですか?」
「能力としてはホウキに劣る」
 なぜホウキ? 尋ねるより早く、窓際の井上がさっとカーテンを開けた。
 着替えに少々手間取った、いや、着る物を選ぶのに少々手間取ったせいもあって、すでに外には夜闇が降りてきている。
 と、ふいにみなもは自分の身体に不安定な揺らぎを感じた。感覚的に一番近いと思ったのは海で水に身を任せたような、そんな感じ。
「どうだ?」
「それは、その‥‥」
 正直に言ったものかどうかで迷う。下手に答えて自分の本来の姿がばれるのは、そして干物にされるのは困る。まあ、漂うことに種族差があるとも思えないが。
「例えば、浮遊感」
「あ‥‥それは、あります?」
 思わず疑問型で答えつつ、促されるままジャンプしてみる。
 普段意識しているわけではないので明確には分からないが、それでも着地に間があったように思う。
「これはこの波長だったのか‥‥少し待て」
 井上が独り言と共に胸ポケットから出した手帳に何ごとかを手帳に書き留める。手持ち無沙汰になったみなもは、身体を動かしてみた。カーテンを開けた直後よりも軽さがある。
「ところで‥‥先ほど『だった』とおっしゃったのは」
「む? いや、単純な話だ」
 まだ何かを書きながら応じる井上。
「私では飛べなかった。如何に調整しようとも、な。他の、私と同じ立場の弟子たちは飛べたというのに」
 そこで表情が少し沈んだように見えたのは気のせいだろうか。
「そこが壁なのだろう。結局、私は奴らに追いつけない」
「え。あ‥‥その‥‥」
 みなもは言葉を探した。
 『すごい』。そう伝えるのは簡単だ。けれど、井上は単に『すごい』が欲しいのではない。だが、それでも伝えたいと思った。例えおせっかいでも伝えたいと。例え短い付き合いだとしても伝えたいと。
 だから、探した。
「よ〜ほい♪ 着替えはすんだかね♪ すんでなければ非常に嬉しいぞっと♪」
 が、それに辿り着くより先に、部屋の扉が開き、誰かが顔を覗かせ、井上が懐から短い筒を出し、筒が轟音を上げ、煙を噴き、誰かが廊下へと弾かれ、扉が閉まった。
「‥‥続けるとしよう。いや、その前に他のモノを試すか? ちなみにこれは対衝撃防御の効果を高めてあり‥‥」
「どういう実験をさせる気なんです?」
 どことなく微笑を感じさせる井上に、みなもも笑い返した。
 提示された外套を断りながら。

 翌日。新聞の小さな記事に未確認飛行物体の記述があった。目撃したのは夜間フライト中のジェット機のパイロット他数名で『黒い服の長髪の人影だった』と語った。
 それはともかく。海原みなもはそれなりにバイトを続け、そしてそれなりの額のバイト代を手に入れたという。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252/ 海原 みなも / 女 / 13 / 中学生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 どうも。平林です。このたびは、参加いただきありがとうございました。
 さて。
 今回はこちらの身勝手で完全個別(おお、文字面は凄そうだ)とさせていただきました。いただいた行動と設定を上手く消化できていれば良いのですが‥‥。

 海原 様
 それなりのバイト代ってどのくらいなのでしょうねえ‥‥なんて(オイ)。
 話上、短期バイトとしましたが、長期バイトの方がよかったでしょうか?
 
 では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、またお会いできれば幸いです。