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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


人材発掘‥‥いや、多分。

●募集してみる
『もとむ人材。世界平和や征服を企むクライアントや被験体、並びに離常識な道具を作る人手を募集』
 その下には小首を傾げる小型犬の写真と天王谷特殊工学研究所の文字。

 物が溢れる部屋。そこでそんなページを眺めちた男がぼさぼさの頭を掻きながら、大きな、極めて大きな溜め息をついた。
「なんやねん、これ」
「広告だ」
 応じたのは大きな机でパイプのような塊をこね回していた女。短く整えられ黒髪が幼い顔立ちとあいまって七五三っぽい。
「現在、仕事も頭数もないからな。コネを使ってみた。所長の写真うつりだけが心配だったのだが」
 その声に反応したのか、男の側で転がっていた犬が顔を上げる。
「何故、超常系雑誌にコネがある‥‥いやいや、それ以前に俺らは表に出たらヤバイんと違うんか?」
「IO2か? ふっ、そのための募集でもある」
「さいで‥‥なら、ついでに精神力エンジンの巨大ロボットでも作るか? それともエーテル使用の強化服か?」
 そして男はまた大きな溜め息をつき、犬の頭を撫でた。
「それよりも所長を元に戻す道具を作ったれ」

●調べてみる
「施設や製作物を見たい、か。まあ、良かろう」
 榊船亜真知の申し出に研究所の女―井上―はごくあっさりと頷いた。
「二階ならば問題はあるまい。案内してやれ」
「お前がやれ」
「遭難して欲しいのか?」

「この階段、気をつけろよ。結構けつまずくからな」
 男―五色―はそう言うと、階段を上がっていく。
「うん」
 先ほど『敬語の必要はない』と言われた。それもあって、亜真知は素直に頷いて後に続くことにした。
 一階にある代表の部屋らしき応接室のすぐ脇にあるこの階段は、段差が大きい上、急勾配でけつまずくというのも納得できる。これが今日の亜真知の袴のように足回りに余裕のあるモノでなければ、きついなどではすまないだろう。
「しっかし、巫女さんがここに興味を持つとはねえ」
 それでも苦心している時、五色がふいに呟いた。
「別に、おかしくは、ない、でしょ」
 妙に段が多いように思いつつ亜真知。外観は三階建ての洋館に見えていたのだが。
「確かに。なあ、ほんまもんの巫女さんかどうかは知らんけどな」
「どういう意味!」
 からかわれている。亜真知は五色を睨んだ。
「ん〜? 別に深い意味はないっすよ」
 剣呑なものを感じたのか、振り返り肩を竦める五色。
「世の中、色々やし‥‥と、どうすっかなあ」
「わたくしのこと?」
「ハズレ。何をどういう風に見せるかってこと。やっぱしアレから見せてあっちに行って」
 虚空に描かれる描かれる地図。やはりそこまで広いとは思えないが、悪戯心で亜真知は呟いた。
「遭難する」
「うむ。そして行方不明で聞き込み調査、ってなんでやねん」
「でも、さっきそんな話してたし♪」
 『空間が歪んでいるかもしれないし』とはさすがに言わない。が、疑惑として持っておくことにはする。
「俺に媚びてどうする。あれは‥‥うむ。あいつは方位磁石と戦えるんや」
 家の中で? 一応、視線で抗議はしたものの、無駄だったり。

●動かしてみる
「なんなの、これ?」
 それを簡単に形容するなら、寺にある釣鐘だろう。ドームと言うには少々胴(?)の長いそれが天井付近から吊り下げられている。
「さあ?」
「さあって!」
「しゃあないやん。あいつが勢いだけで作ったようなもんで、俺にはさっぱり理解できん代物なんやし‥‥っと、やっぱしここにおったか」
 と、五色がその装置の柱の辺りにいた茶色い影を抱え上げた。
 犬だ。
「その子、広告の?」
 ここに来る時に参考にしたアトラスの広告ページを袂から出す。
 地図は描いてあったが、ここに辿り着くには苦労した。案内地図の宿命である縮尺の豪快さもあるが、何より近隣住宅まで徒歩五分。駅までならばさらにさらに。
「ああ、そうや。んで、これがここの所長」
「え、え〜っと、犬、なのに?」
 五色から犬を受け取る。日本犬っぽい顔立ちだ。、
「犬やけど所長で猫でハリモグラ。たまにスパナやったり、物干し竿やったりもする」
「犬、でしょ?」
 ますます困惑していく亜真知の思考。
「いや、だから犬で所長で‥‥って、寝るな寝るな」
「だって犬だもん。ここにこうやってだっこしてるのは犬」
「せやから、犬やないとは言うてへんろうが」
 五色はむくれる亜真知に装置を示した。
「今は犬やけど、それは元々ここの所長でな。これのせいでそうなったんや。確か‥‥『モノとはそれを知覚するモノの存在によって存在が確定される。つまりモノがモノを知覚するときに必要となる刺激を別存在の刺激に変更すれば元のモノの存在を変更することは可能である』やったかな」
 顔真似をしたらしく表情の消えた五色。それを呆れて見ているふりをしながら、亜真知は考えていた。
(変換させたってことは)
 自分の力と似たことをしているのかもしれない、そうとらえると何か自分のことを勘ぐられているような気にはなる。
「なら、この子を所長さんに戻せるんじゃないの?」
 できるだけ動揺を隠し、演技を心がける。
「それがな」
「戻すと不都合が起きる?」
 微笑んでみる。
「いんや。戻すことは試した。形は戻った」
「それでまた犬にした?」
「そこにメリットがあるか? 言うたやろ、存在を知覚するのは他の存在やって」
 五色がわしわしと頭を掻いた。
「あのアホ、所長の知識や記憶を知覚するのを忘れたんや。仕方ないから前に実験で使った犬の行動データを利用した」
 理解するのに時間がかかった。だから亜真知は黙っていた。
 五色も黙っていた。犬所長もおとなしかった。
 側の机の上にあるペンが落ちた。
「‥‥アホって?」
「だってやあ、所長今はこんなんやけど、結構美人やったんやで? スタイルもなかなかのもんやったし、性格もなあ‥‥」
 側の机の上のドライバーが落ちた。
「あっそ」
「せやから、俺は誓ったんや! いつの日にか人間の記憶を取り戻す機械を誰かに作らせるってなあ!」
 自分で作れ。咽喉元まで出かかった言葉を辛うじて飲み込む。
「んじゃあ、次の部屋に行こか」
「‥‥実演は?」
 上目使いを忘れず亜真知。ついでにちょっと目を潤ませてみる。内心では五色の変わり身の早さに呆れていたりもするが。
「実演か」
 わざとらしくアゴに手を当て、五色が考え込む。
「やっぱり色々見ておきたいなあって」
「ま、ええか。んで? それを何に変える?」
 五色が指差したのは当然、亜真知の抱える犬所長だった。
「‥‥さっき何か言ってなかったっけ?」
「それはこれ、これはあれ」
 どれ?

●聞いてみる
 その後、見せてもらった製作物は、どうにも『今』の科学とは違うように思われた。
 コマンドにより勝手に掃除を始めるホウキ(まず五色に襲いかかった)、熱源もないのに沸き返っている鍋(熱を吸収するのは不可能だった)。踊るトランク。どうやっても奏でられない竪琴や刀身は存在するが切るモノは透過する大太刀(どちらも力の干渉を受け付けなかった)などなど。

「ところで、今更なんだけど」
 ふんふんと鼻を摺り寄せてくる犬所長(しかしながら、ペンギンでありサッカーボールでありオットセイでもある)に応じながら、亜真知は用意していた質問をしてみることにした。
「ここの研究テーマってなんなのかな?」
「テーマ? テーマねえ‥‥」
 作り物の白い手の指を動かす五色が天井を見上げた。それでも指を動かしているのが、気にはなるようなならないような。
「ない」
「だよねえ」
 かくっと亜真知は肩を落とした。
 そんな気はしていた。あるいは『混沌』と言われるかのどちらかだろうと。
「無節操やからなあ。この前、テレビで見みた物体消失マジックをどうにかならんかと計算始めたくらいやし。不可視だけならともかく空間移動との合わせ術はかなり厳しいと思うんやけど」
 わにわにと五色。単体なら可能らしい。
「あえて考えるなら『作れないモノを作らないのは罪である』という世界にケンカを売るような状況になりかねず、常識人としては非常にしんどい話です」
「誰が常識人?」 
「俺」
 しっかり指を指させていたりする辺り芸が細かい。
「微妙なラインだよねえ♪」
 亜真知は犬所長に同意を求めた。犬所長も同じように小首を傾げる。
「ほら〜」
「はっはっはっ‥‥おぐっ」
 頭を撫でられた。お返しにすねげり。手ごたえは充分だったりする。

●一日の終わり
「所長を連れて行かれたか」
「カタってとこや。また来た時に返して貰う」
 亜真知がリクエストした『力場転換炉』は、製作に時間がかかると言ってある。
「にしても何に使う気なんやか」
 何処からともなく煙草の箱を出した五色が一本くわえて火をつけた。
「それ以前に赤字だ」
「ええんちゃうか? 相手は外から来た奴やし」
 天井を指差す。
「だから楽しそうだったのか?」
「まあな。なんせこんな機会でもないと会えんやん‥‥にしても、覗きはあんまええ趣味やないぞ?」
「その辺は師匠譲りだ。残念ながらな」
「さよか」

 『力場転換炉』だが、完成の報告が入ったのは、それから一週間ほどしてからだった。ただ、その第一回運転時に暴走。短時間ながら研究所の周囲に光の柱を形成し、周囲の空間がしばらく歪んだという。
 なお、犬所長が帰りたがらなかったとの話もあるが‥‥それはまた別の機会に。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1593  / 榊船 亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 どうも。平林です。このたびは、参加いただきありがとうございました。
 さて。
 今回はこちらの身勝手で完全個別(おお、文字面は凄そうだ)とさせていただきました。いただいた行動と設定を上手く消化できていれば良いのですが‥‥。

 榊船 様
 設定でふっとびました。すごいや、東京怪談‥‥。
 ここの研究所の科学(と呼んでいいものか?)は、『今』のものとは別モノです。いや、キワものです。 
 
 では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、またお会いできれば幸いです。