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<東京怪談・PCゲームノベル>


河川敷の花火大会

■梅雨が明けた…
TVの天気予報で梅雨明け宣言がされた、7月の初旬。
このときから夏が始まったとも言っても良い。
様々な事件があったが、殆ど丸く収まり、心の春もあり、平和である。
燕も巣立ちして、そろそろ旅立つ時だ。
そして、夏初めの祭り…河川敷の花火大会が催されるのだ。

●奉丈遮那
ゆったりと、奉丈遮那は因幡恵美と縁側で時間を過ごす。テストも終わり、テスト休みでゆっくりしているのだ。嬉璃が見れば「真夏日ぢゃ…あついのう」と冷やかされるものだが、嬉璃はエルハンドの部屋で茶と芋羊羹を用意し将棋をしている。二人きりの時、遮那は緊張しているとしても、恵美が積極的だったりする。将来目に見えていそうだ。
「花火大会行きますか?」
恵美は回覧板に挟んでいた広告を見せた。
遮那は頬を赤らめながら、
「行きます、行きますっ。恵美さんと一緒に行けるなら‥あっと…」
と、二つ返事である。
「良かった」
と恵美は満面の笑みを見せ、遮那に寄り添うのだ。もう遮那には生きて天国に言った気分だ。


■当日
屋台のほうは花火が始まる前に河川敷に作られている。
川に架かる橋から見る人々もいれば、岸でゆっくりと眺める家族もいる訳で。
あやかし荘では相変わらず三下が場所取りで佇んでいた。
すでに、時音と歌姫が居るので、悲しいこともない。時音は跳躍で荷物を運び、歌姫はそれを丁寧に置くというわけだ。三下は茣蓙をひいて重しのように座っているだけである。
大きな移動は、剣客が「門」をあけてくれるそうだ。

待ち合わせ場所は、あやかし荘である。
一番に到着したのは、ゆゆだ。白地に鈴蘭の模様が入っている浴衣が、彼女の長い髪の美しさに負けていない。玄関先でばったりあったエルハンドは彼女の可愛さ、美しさについ見惚れてしまった。
「どうしたの?」
あまりにも珍しい表情のエルハンドを不思議そうに見るゆゆ。
「可愛いな…」
「ありがとう♪」
満面の笑みでゆゆは礼を言った。
撫子と従妹の亜真知がやって来た。撫子は涼しげな水色に少し川の流れのような模様の浴衣姿で亜真知は青地に可愛い向日葵の模様だ。流石天薙家、浴衣を着こなしている。撫子の荷物は弁当の重箱を包んでいる。恵美達も浴衣姿に着替えていた。祖母からの手ほどきを受けていたので、浴衣の着こなしは上手だ。遮那も落ち着いた感じの浴衣で登場する。
嬉璃も浴衣姿になっているが、あまり変わらない。

「皆さん揃いましたね」
恵美が確認をする。
エルハンドが時音と連絡をとり…空間移動用の「門」を開けた。
「かなり人も混むから、こうした方が良かろうと思ってね」
「花火にLet’s go〜♪」
ゆゆと亜真知が腕を上げて門をくぐっていった。それに続く参加者達。

すでに人は混み合っており、花火が始まる前に色々と屋台で楽しむ人々がいる。
「まだ小一時間はありますね」
撫子が時計を見る。
「場所はこの茣蓙で、一番見晴らしが良いと管理人さんが言ってましたし」
時音が言った。
「でえとの時間はたっぷりあるわけぢゃ」
と、にやけ笑いの嬉璃。それに頬を染めるカップル二組。
「では、「カップル」の為にしばらく自由行動だな」
エルハンドが微笑んだ。
「「カップル」を強調して言わないでください!」
と遮那と時音が顔を真っ赤にして突っ込んだ。
其れを、皆は微笑ましく笑う。恵美と歌姫を除いてだが。

そして花火が始まるまではそれぞれ自由行動となった。

●遮那くんと恵美さん
強調されてからかわれたモノの、こうやって好きな恵美二人っきりで屋台を回るのは夢心地である。
恵美は明るく、彼を引っ張って屋台を見回る。
一緒にリンゴ飴を食べ、金魚すくいなどしていた。
「二人っきりになれてよかった」
ふいに口にしてしまった遮那。くすりと笑う恵美。
「そうね、エルハンドさんや嬉璃ちゃんに感謝しなくちゃ」
「からかわれているような気がするのですけど…」
「きにしない、きにしない」
ニコリを微笑む恵美にドギマギする遮那。
「あ、あの恵美さん!付いてきて欲しいところがあるのです」
と、緊張して言った。
「何処ですか?」
そして、遮那は密かに調べていた場所に連れて行く。
皆が集まっている橋とは別の橋。ここは殆ど花火が見えない様な位置に架かっている。しかし、其れは錯覚なのだ。原因は不明だが…河川敷よりよく見えるのである。これを知っているのは…意外なことにエルハンドだった。ただ、秘密の場所なので他の者には知らせないという約束をとり教えて貰ったのである。
「ここは?」
恵美は不思議そうに言う。
「見てて下さい」
ニッコリと笑う遮那。
「時間ですね」
一発目の花火がまるで二人のためだけに打ち上げられたように美しかった。
「綺麗…」
恵美はいつも見ていた花火と違う美しさに感嘆した。
「ありがと、遮那君。私、知らなかったです…」
遮那は彼女の肩を抱き、しばらく魅入っていた。
「今度は…二人きりで…」
「いいですよ」
約束もOK。良い雰囲気になっていく。
「そろそろ戻りますか。皆が心配するし」
そして皆が待っている場所に、遅れて戻る二人だった。
剣客は遮那と恵美の笑みを見て、満足していた。
(教えた甲斐があった)
■花火
一発目の花火が夜空を照らした。
轟音なのに心地よい音、興奮する気分。
「すご〜い」
ゆゆと亜真知は感動し声をあげた。
撫子と恵美が作ったお弁当を食べながら、大人達は竹の銚子で冷酒を、未成年は冷やし飴で花火見物を楽しむ。
「花火が上がった時、たまや〜って言うのですよ」
恵美が二人に教えた。
エルハンドは酒を飲みながら花火を眺め、遮那と恵美が帰って来るのをまった。
5分ほどして彼らは帰ってきた。かなり良い雰囲気で戻ってきた。
「遅れて済みません」
「良いですよ、二人っきりは楽しかったですか?」
「え、あ、はい」
「若いもんわいいのう」
「青春というのはこうでなくてはな…」
「もう、からかわないでくださいよ」
話のネタにされるのも、恥ずかしいが、これはこれで悪くはないものだ。
頬を赤らめる二人の初々しさもまた、心を和ませるものだったりする。
もう一方、時音と歌姫にいたっては、花火の音で無く赤子をあやすので忙しそうだ。しかし、時音にかかれば、彼女はまた無垢な微笑みと変わった。時音も、歌姫も花火の美しさとこの平和な一時を楽しんでいる。赤子は興味津々で亜真知達を眺めている。花火にも興味を示しているのでどちらを取るか悩んでいるようにも見える。
気にはしていたわけではないが、場所取りでずっと座っていた三下が居ないのに気づく。
用事が終わったから帰るわけでもないのだが。
すると彼は、戻ってきた。
「足りないと思って飲み物買ってきました〜」
「おお、ありがとう」
なかなか気が利くようだ。しかし何か別の袋を持っている。
「それは何でしょうか?」
時音が聞いた。
「其れはまだ秘密です」
とあっさりかわす。

そして、皆で他愛のない会話をしながら、花火を眺めていた。
夏の始まりを告げる祭り。

■たけなわ
最後の花火が打ち上げられ、祭りは終わりを告げた。
しかし、これからが印象に残ることとなる。
ゆゆが、感謝を込めて、幻想的な花火の幻影を周りの者に見せたのだ。
「おお、今年はすごいな」
「たまや〜」
その喜ぶ姿を眺めるゆゆは満足した。術を使用したと分かった剣客が彼女の頭を撫で、こういった。
「ありがと」
と。
興奮さめやらぬなか、皆は帰り支度を始め、歩いてあやかし荘に戻ることにした。

一旦、あやかし荘に戻ると、
「じゃじゃーん♪」
三下が先ほどの袋から花火セットをとりだした。
「あー!」
「実は、場所取りの役目が終わった後、花火が始まるまで時音君と歌姫さんを二人っきりにしようと思ったので…コンビニまで買ってきたのです」
と、胸を張って彼が言った。
「柄にもないことすると…明日は雨ぢゃ」
「そんな言い方はないでしょう〜嬉璃さん」
「お主にしては、気の利いたことぢゃな。せめて雪にするか」
「悪化させてどうする、せいぜい台風にするべきだ」
「どっちもどっちですぅ〜」
剣客と嬉璃の言葉に半泣き状態にはなる三下。
恵美ははっと気が付いて、
「時間もありますし、スイカを食べながら、三下さんの買ってくださった花火をしましょう」
「さんせー!」
「最後は線香花火だよね!」
まだまだ、祭りは終わらない。
花火は終わったが、夏の祭りは始まったばかりなのだ。


End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 /鈴蘭の精】
【0506 / 奉丈・遮那 / 17 / 占い師】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1593 / 榊船・亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】


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■         ライター通信          ■
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『河川敷の花火大会』に参加して頂きありがとうございます。
もうすぐしたら7月ですね。スーパーではすでにスイカや花火セットが売られていますね。
私の地域は、丁度8月に花火大会があり、そのときは周りが渋滞です。駅前では浴衣姿の人々を見かけます。

皆さん夏ばてにはご注意下さい。

また機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝