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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


七不思議製作委員会

 それは一通のメールだった。
『管理人様
 このたび、わが町の新興住宅地に新設の小学校を設立することになりました。
 つきましては、七不思議の設立にご協力いただきたくお手紙をさせて頂きました。
 立地場所は新たに山を削って作った山間の町です。
 施設等はご要望により増設も考えたいと思っております。
                        ○×町教育委員会 田中一郎』
「はい?」
 瀬名雫はそのメールを呆然と眺めた。
 何を考えているのか。さらには何かの悪戯かとも思ったが‥‥。
「まあ、考えるだけなら‥‥いいかな?」

●きっかけ時間。
「どうかしたの?」
 呆然としている雫に声をかけたのは、榊船亜真知。社会勉強のため、ネットカフェに出入りしているらしい。けれど、その成果は?
「う〜、にゃ? うん、ちょっとね」
「ちょっと?」
「ま、いいか。これ見て」
 雫は画面を示した。
「‥‥ストーカー脅迫文?」
 成果はあるらしい、おそらく。
「あのねえ‥‥」
「冗談だってば。でも、なんで雫さんに?」
「それだけHPが有名になったってことかな」
 首を傾げる亜真知に、頭の後ろで指を組んだ雫が呟く。
「これも手伝ってくれるみんなのお陰♪」
「おっはよう! ‥‥何かあったの?」
 そこに元気な声がやって来た。海原みあおだ。
ネットカフェ内ではある。けれど、それでも誰も何も言わないのが少し不思議。あきらかに小学生が出入りするのもまた少し不思議か?
「あった‥‥のかなあ?」
「あった‥‥と思う?」
「みあおに聞かれても困るってば!」
 逆に聞き返されたみあおは、ぷうと頬を膨らませた。
「冗談、冗談。え〜っとね」
 雫はみあおに画面を示した。
「こういうメールが来たんだ」

「で、で、で? どうするの?」
 期待に目を輝かせるみあお。
「どうするって‥‥どうしようかなあって」
 咥えたストローをピコピコと雫。
「でも、やる気はあるんでしょ?」
 頼んだケーキを観察しながら亜真知。
 場所は歓談スペースに移っている。あのまま雑談に突入するのもありだが、一応の配慮というやつだった。
「うん。でもねえ‥‥」
「でも?」
 亜真知がフォークで先を促す。
「確かに考えるだけなら、とは思うけど‥‥教育委員会っていうのが。その、小難しいおじさんだったら困るなあって」
「いきなり、すけべえこます、とか?」
「み、みあおちゃん?」
 最年少者の棒読みな一言に雫は凍りついた。
「ど、どこでそんな言葉を‥‥」
 もっともな意見。
「でも大丈夫♪ みあおがやっつけるから♪」
 みあおはぐっとガッツポーズ。ただ口元にはクリームがついている。
「わたくしもいるしね」
 優雅にケーキを食べる亜真知。ただたまにフォークが脇にそれたり。
「‥‥そう言う問題じゃないと思う」
 傍で見ていてもわざとらしい大きなため息とともに顔を伏せる雫だったが、改めて顔を上げた時には笑顔だった。
「二人ともありがとね。じゃあ、OKのメールを送ってくる」

 返事にさらに返事。
『できれば同席の上、お話をお聞きしたい』
 かくして、一週間後に会合を開くことになった。

●準備の時間。(みあお)
「七不思議〜♪ 七不思議〜♪ 七の七倍、七不思議〜♪」
 自作の歌(?)を歌いながら、海原みあおはノートを開いた。
「どんなのがいいかなあ」
 夕食前の一時。まあ、ノートを開いて机に向かっていれば、勉強をしているようには見える‥‥なんてとこまでは考えないだろうけど。
「普通に考えるなら〜」
 一行目に七不思議と書き、その下に一と書く。
「段数が増える階段」
 かりかり。
「廊下の突き当たりの大鏡。体育館のバスケットボール。透明クラスメイト。美術室の肖像画‥‥あとは図書室の禁断の本に‥‥プールの‥‥」
 思いつくままに書き出す。お陰で楽に七つをオーバー。
「で、理科実験室も外せないし。だからって、談話室のネタだって」
 手が止まる。ぷうと頬を膨らませ、みあおは鼻の下に鉛筆をはさんだ。
「一杯ありすぎるよぉ」
 背もたれに一杯にもたれる。まあ、すべてが採用されるとは、みあお自身も考えてはいないけど。
(みんながびっくりするようなのがいいなあ)
 話を聞いた限り、学校は山の中にある。それを利用したいとは思う。
「むう〜」
 ふと、その山の方に興味が向いた。
「あ、そうだ!」
 勢いよく身を起こすと、一気にノートに書き込む。 
「これなら、みんなびっくりするよね♪」
 ダンジョン。 
 大まどうし。
 ひみつ兵き。
 うんうんと、みあおは頷いた。
「早く集まりの日にならないかなあ」
 そして、実際に造るときには手伝ってもいいかもしれない。
 と、そこで家族がみあおを呼ぶ声が聞こえた。
「は〜い♪」
 にっこりと笑って、みあおは机の前から立ち上がった。
 夕食の時間。今日はカレーだ。 

●委員会の時間。
 昼下がり。机の上にはお菓子の山。
「それでは、七不思議製作委員会を始めます」
 雫の宣言と共に拍手と歓声と紙ふぶきが起こる。もう一つ。
「ちょっと待て!」
「なに?」
 外野からの声に一同の白眼が飛んだ。
「いきなりやって来ていきなり『始めます』ってのはなんだ!」
 それでもめげずに、この部屋の主であり、多分、一応、おそらく一番の権力者でもある草間武彦は叫んだ。
「七不思議製作委員会だよ」
「そうじゃなくて‥‥」
 代表して答える雫に草間が頭を抱えた。
「なぜここでやるのかだ! よそでやれよそで!」
 ここは草間の探偵事務所。当然のことながら鋭意営業中だが、草間零は買出し中につき不在だったりする。
「だって場所ないし」
 亜真知はにっこりと微笑んだ。
「だって場所ないもん」
 みあおは唇を尖らせた。
「だって場所がないから」
 雫はひらひらと手を振った。
「一度、高名な怪奇探偵を見ておきたかったものですから」
 初老の男は握手を求め‥‥。
「誰だお前! 責任者か、この連中の元締めか!」
「ああ、これは失礼。私、田中一郎と申します。このたび、私どもの町に新設される学校の七不思議を雫さんに‥‥」
「教育委員会の人だよ♪」
 田中の言葉を遮りみあお。が、田中はゆっくりと首を振った。
「さらにその学校の初代校長内定者なのです」
 胸を張る田中。少女たちから、わざとらしい驚きの声が上がった。
「校長が、んなこと頼むな!」
「いやいや。怪奇探偵ならばお分かりいただけると思うのですが‥‥」
「俺は普通の探偵だ!」
「往生際が悪い」
 吠える草間にぼそりと亜真知。
「まったくです。それはともかく怪奇探偵ならばお分かりいただけると思うのですが、世の中には不思議が満ち溢れております」
「そうだね」
 うんうんと雫が頷いた。
「つまり、学生時分よりその不思議に慣れておけば、世間に出ても柔軟に対応できるのだ、というのが私の教育理念です」
「‥‥いや。なんか違うだろ、それ」
 疲れきった表情で草間がうめいた。
「もっとも、私の趣味でもありますが」
「帰れ!」
「却下します」
 ぴしゃりと雫が言い切った。すでに委員会は始まっていた。

「では、まず皆様にこれを」
 田中が持ち込んだトランクから数枚の布を出した。
「なにこれ」
 亜真知はそれを広げ裏返したり覗き込んだり。どうやら覆面のようにすっぽりと頭部を覆う頭巾らしい。色はまだら紫。
「当然かぶるのです。そして発言者の匿名性を上げるのです」
「う〜、見えないよぉ」
 早速被ったらしいみあおがばたばたと手を振る。目の部分には穴が開いているが、みあおには頭巾が大きすぎたようだ。
「被らなきゃダメ?」
「当然です! この手の集会には必要不可欠な構成要素なのです!」
 拳を握り力説する田中を見つつ、その隣の雫が挙手し発言。
「今回の議会は特別な例。よって各人の自由とします」
「‥‥そう言う問題か?」
 縁に指をかけ、くるくると草間が頭巾を回す。造りがしっかりしている上、触感はビロードのようだが、さて。
「だいたい、こんなモノをどうやって手に入れたんだ? そんじょそこらのパーティグッズと言うわけでもないようだが」
「特注です」
 はっはっはっ、と軽ろやかな笑いで田中が答えた。
「それに我が町の教育委員会の予算は教育のためにあるのですから当然でしょう」
「つまり‥‥」
「経費ですが、何か?」
「それじゃ、みあおちゃん。発表して」
 微妙な沈黙に移行した大人二人は無視することにしたらしい。雫はみあおを促した。
「み、みゅう〜」
 が、まだもがいている。今度は前後逆になっていた。
「じゃあ、わたくしから」
 慌てて手を貸す雫を見つつ、おずおずと亜真知が切り出した。
「確か、山の中の学校だったよね? だから池があるんじゃないかなって」
「良くご存知ですね。ありますよ‥‥敷地にいきなり沸いて出た池が」
 いきなり帰ってきた田中がなぜか声を潜めた。
「しかも、その前夜に少女がその辺りにいたという証言がありましてな。もっとも酔っぱらいの言葉だったので誰も信じてはおりませんが‥‥しかし神の使いだったのではないかと私は思うのですよ」
「ふ、不思議なこともあるのね〜」
 ついと亜真知は視線を逸らした。
「加えて祠もあったのですが、きれいに手入れされておりまして‥‥やはりこれは、と。そこで現在町長に新しい伝承として認可させている最中です。認可の折には『御使いの町』として宣伝もできますし」
「へ〜え? ちょっと調べてみたいね。ね?」
 感嘆する雫は心からのものらしい。一同を見回すその顔には好奇心と書かれている。
「雨が溜まっただけじゃないのか? どうせ敷地は掘り返してるんだろ?」
「いやいや、草間さん。実はここ数週間、雨は降ってはいないのです」
「て、ことは‥‥」
 そこで草間は目を逸らしたままの亜真知に目を向けた。小さく苦笑。
「本当に神様ってことか」
「‥‥つ、つまりそれを利用すれば、竜神の住む池として使えるかなって♪」
 草間の苦笑の意味に気付いた亜真知は、まくしたてるように言葉をつむいだ。
「ほら、山奥の田舎とかにはよくある伝承だしね〜♪」
「先にいったように我が町にはありませんでしたが、話としては劇的ですな。『学校に竜神の加護がある』となれば、他の町との寄り合いで大きな顔ができそうです」
 できるのだろうか? 一同に奇妙な沈黙。
「‥‥で、では、まずこれは決まりかな? いいよね?」
 そう宣言した雫が机に置いてある紙に竜神の住む池と書いた。もっともその紙はそこにあったものだったりする。

「みあおはね、すっごいの考えたんだ!」
 ようやく頭巾がおさまったらしい。みあおが元気よく手を上げた。
「‥‥頭巾の意味があるのか?」
「えーっとね、えーっとね」
 草間のツッコミにもめげず(聞こえてないと言う方が正しいが)みあおは机の上にノートを置いた。
「うわ。こんなに考えたんだ」
 さっとそのノートを取った亜真知が、ぱらぱらとページをめくった。どのページにも、びっしりと一つの事象とその由来、現象が書きとめられている。
「ダメ! みあおが発表するの! ‥‥えーっと、ここ!」
 すかさずみあおが取り返すと、広げたあるページを一同に見せた。
「ダンジョン?」
「うん。地下十階からなる壮大なダンジョン。もちろん、最下層には‥‥」
「待て!」
 すかさず草間が叫んだ。
「いろいろ問題がありそうなので言っておく。まずどこぞの神社のお守りは却下な」
「え〜っ」
 考えていたらしい。みあおが不満の声を上げる。
「ほう、お詳しいようですな。やはりうさぎに?」
「泣かされた」
 うむうむと頷きあう田中と草間。何か通じるものが、あったようだ。
「じゃなくて、幽霊親衛隊とか、管理室とか、落とし穴とか、首が飛ぶとか、石の中とかは駄目だ。ヤバい。危険過ぎる」
「じゃあ、吸血鬼伯爵♪」
「ほうほう。その役はぜひ私がやりたいものですな。草間さん、なにやります?」
「おるらあああああっ!」

「なんの話?」 「さあ?」
 顔を見合わせる亜真知と雫。コンビニオリジナルの新発売スナック菓子は、そんなに悪くはない。

「‥‥と、ともかくだ」
 議論白熱の余波か、ぜいぜいと肩で息をする草間。
「どうせですので、先ほどの竜神様をこちらにもご登場願いましょうか」
 けろっとした顔で田中が人差し指を立てた。
「それはもういい! だいたい『学校の七不思議』という名目 だろうが‥‥いいから他のネタにしろ。な?」
「むううううううっ」
 そうやってしばらく唸っていたみあおだったが、気を取り直したらしい。
 別のページを開いた。
「じゃあ、これ! この山には実は大日本帝国の禁じられた秘密兵器があって‥‥」
「製造工場があったんですな。それで、その具体的な形状は?」
「だから学校の七不思議だと言ってるだろうがあああああっ!」
 会議は踊る、されど進まず。

●成果はあった?
「いやあ、本日は楽しかったです。本当に、本当にありがとう」
 一人一人の(もちろん草間も)の手を取りひとしきり振り回した後、田中は駅へと歩いていった。
「‥‥一段落だな」
 その背中を見送っていた草間がぽつりと呟いて、興信所に戻ろうとした。今ごろは帰って来た零がホウキを手に奮戦しているだろう。
「でもないよ」
「あん? もう委員会ごっこは終わっただろ?」
「まだまだ。一つ残ってるし」
 にんまりと雫が笑った。
「そうだね♪」 「あ、そっか」
 みあおも亜真知もにっこりと笑う。
「な? お前ら?」
「では、皆様‥‥」
「「「うちあげだあ!」」」
 少女たちの弾けるような笑い声が、夕暮れ時の空に響いた。

 後日。
 件の学校は無事に開校された。ただ、その初代校長は本人消息不明につき着任0日にして免職。しばらくは教頭が臨時にその責務を行ったそうだ。
 なお、噂ではあるが、その0日校長が深夜の学校で徘徊しているところが、多数の生徒により目撃。七不思議の一つとして、認知されているという。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名   / 性別 / 年齢  / 職業 】
  1415 / 海原みあお / 女  / 13  / 小学生
  1593 / 榊船亜真知 / 女  / 999 / 超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 どうも、平林です。このたびは参加いただきありがとうございました。
 七不思議‥‥実はほとんど縁のない学生だった私としては憧れだったりします。『白い十字架』の噂があった小学校の裏山も、今じゃ大きなマンションが建ってますし。

 海原 様
 試練場! ‥‥いや、その前に何を試練する場所なのかが問題でしょうけど。そう言えば、最初の試練場の一階の壁に随分と妖刀を埋めたなあ、なんて。 

 ではここいらで。いずれいずこかの空の下、またお会いできれば幸いです。